第78話 ヤンデレの始まり
中学から合わせると、これまで帰ったのは10は余裕で超える。同級生で喋ったことない人でも、その時の俺は恐怖が勝ってたから、自然と体が動いて寄っていた。その結果仲良くなったりもした。残念ながら今はその人たちとは違う学校だが。
「その過去から、今の優しさも作られたのかもね」
「多分な。そうじゃないと今頃好き勝手暴れるやんちゃ坊主なのは変わらなかっただろうし」
「やんちゃだったの?」
「結構そうだったって、自分では思うけどな」
「へぇ、やんちゃな隼くんも見てみたいよ」
「過去に戻れば見れる。これから先は落ち着いた俺しか見れないだろうし」
高校生になってから、少し落ち着いた。中学生までは、友達と騒ぎ合って、まだ子供のように思うがまま自由に楽しんでいたが、そんなこともすることはなくなった。考え方っていうか、時間を有効に使おうと、大人になり始めた頃が今なんだと思う。
「でも今が1番って思うかな?出会った時からこの隼くんだし、多分そうだよね」
「俺もこの自分が好きだな。騒ぐのは苦手になったし」
人とのコミュニケーションが億劫になってから、疎遠になり、いつの間にか関わることが苦手になっていた。それに気づいたのが高校に入ってすぐ。いつメンと仲良くなって、蓮を除く3人と関わると、流されるように相性が良くてこの性格になった。
居心地が良いと、こうなるんだと初めて思った時だったな。
「もう家着くね」
「花染の家、学校から近いもんな。ゆっっっくり歩いても着くのはすぐだ」
歩いて10分のとこ。俺の家とは少し離れていて、俺の家を基準にすると伊桜の家より遠い。帰り道が伊桜と同じなので、いつかこうして伊桜とも帰れる日が来るのかもしれない。
「あーあ、もう少し話してたかったけど仕方ないか」
「時間は有限だし、1人の時間も大切だからな。ゆっくりお風呂に浸かって疲れを取り除いてくれ」
「はーい。1人で大丈夫?さっきの話聞いてたら不安になるけど」
「高校生になってから抵抗はそんなにない。俺を誘拐するほど魅力もないからな。安心して見送ってくれ。それじゃ」
「気をつけて。またね」
両手を小さく振る姿は、暗くても後ろに立つ街灯に照らされて可愛らしく映る。それに背を向けて、少し早足で帰るとする。そのタイミングで、ピコンとスマホにメッセージが届いた。花染かと取り出して見ると。
『構う約束は?今日じゃなくて今度何かで構ってくれるから、今日は帰りも構わなかったの?』
「……ヤンデレか?」
通知の左上に【伊桜】の文字。疎くてもヤンデレは知ってる。それを疑うほど、文字からでも圧が伝わってきた。まさか俺たちが別れた瞬間を見ていたわけでもないだろうし、タイミングが良すぎた。
『仕方ないだろ。そんな余裕ないし、今日は偶然だった。だから構わないのは俺のせいじゃない』
もし伊桜もあの時「私も親が――」なんて言えば帰れた。華頂が封じたから何も出来なかったようだが、それもまた運命というわけだ。どうも2人のタイミングは良くても、3人以上の時はタイミングが悪いように神様に仕向けられてるらしい。
『なら、次構ってくれるってこと?』
めちゃくちゃ早い。俺が送って2秒で返ってきた。スマホから目を逸らして電源を切ることも出来ないほどに。
『次って、俺たちはタイミング合わないと無理だろ。約束しても、学校ではそう簡単に会えないし』
『そんなのは知ってる。私が言いたいのは次の学校行事の時だよ。天方がいつメンといる時に、私に構う。それを見せつける必要があるから。だから学校行事の時に構うのかって聞いてるの』
さぁ、やってみよう。これを俺のメッセージが届いてからたったの5秒で打ち込めるだろうか。俺は無理だ。絶対に無理だ。『それを見せつける』から始めても無理だ。それを伊桜はやっている。間違いなくフリック入力のバケモノである。
両指もげるわ。
「いやいや……え?やっぱり何かしてるよな。でも、首絞められる時はそんな拗ねてなかったし…………うん。分からん」
思い当たる節はない。制裁を下されるなら受け入れるつもりでいるが、その前に教えてもらいたいものだ。
にしても、次の学校行事。やはりそこに注目するのも無理はない。すぐそこに控えた――林間学校である。
『林間学校は、構えたら構う。絶対は言えない』
『ダメだよ。絶対じゃないと。私は今日、我慢して天方のいつメンに付き合った。だから是が非でも私の願いを叶えるのが普通では?』
送信する前に文字見てるとしか思えない。日本選手権があってほしいものだ。
『分かった。構うけど、どうしても無理な時はビンタ受けるから、それくらいで許してくれ』
『ダメ。無理にならないように、最初から計画を立てるんだよ』
『厳しいな。いつもと違う伊桜と戦ってる気がする』
打ち上げが結構癪に障ったらしい。我儘を言うことはないタイプだったのに、いきなりこうして言われると、やはり伊桜にもやりたいことがあるのだと、嬉しくなったり。
『いいから。もし、林間学校で構ってくれないなら、その時は罰ゲーム』
『え?俺が立てるの?』
『いいや、計画を立てるっていっても、方法は1つだよ。同じ班に、私をどうにか引き込んで』
どうやら、俺の高校最初の林間学校は多忙なようだ。
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