第71話 第2のライバル

 現在ネガティブな私に、天方はそれでも追撃してくる。何をしてもダメなんだと、体育祭後から考えすぎたせいで、どうもメンヘラヤンデレ寄りに思考が行ってしまう。そして気づかない天方にムッとする。


 誰がどう思っても私が悪いだけなのに、でも気づかない天方は話しかけてくれる。やはり友達として居てくれて嬉しい。


 「――そう思うならもっと構ってよ」


 本音を込めた。多分初めて本音で私からカマチョした気がする。成長というより、天方の優しさに甘えすぎてた結果、ここまで嫉妬するようになったのだろう。にしても、我ながら酷いくらいの嫉妬ぶりだ。


 そっと囁くように言うと、天方は少しの間固まった。冗談じゃないって伝わったのだろう。そう思わせるために言ったのだから、いい反応だ。


 「――今ハーレムでさ、忙しいんだよ」


 「――それでも構うから来たんでしょ」


 「――そうだけど今は状況が状況だからな……」


 分かってる。それでも優先してほしいと思う。無理なんだろうけど、私の隣に奇跡的に来たって希望が見えたから、それをものにしたい。少しでも仲良くなったと、みんなの前で見せつければ、学校でも話せるかもしれないのだから。


 まるで友達という初めての玩具に取り憑かれた子供のように思える。今まで友達という友達が居なかったから、幸せで楽しいのだと知ってから抜け出せなくなった。沼入りだ。


 でも、それ以外にも理由はある。今話しとかないと。


 「ねぇ、天方くん」


 ほら。天方と逆の隣に座るもう1人のライバルが話し出すんだから。


 「ん?どうした?」


 飲み物を飲み終えて首をクイッと私の方向へ向ける。けど、話し相手は私じゃない。


 「改めてだけど、綱引きの時ありがとね。怪我とかしなかった?」


 こうして、天方に触れれば、自然と顔から良さに引きずり込まれるんだ。人気の男子で、話しかけづらい寡黙な性格で周知されてる天方と、こうして触れ合う機会を得られた。ならば少なくとも好意を抱く道には既に乗ってる。


 「あぁー、あの時か。それなら、こうして青泉の心配に大丈夫だって答えれるくらい大丈夫」


 「それは良かった。一応佳奈にも伝えてもらったけど、私からも言わないとって思って」


 「律儀だな。青泉こそ、怪我はないのか?結構勢いよかったけど」


 「うん。天方くんが支えてくれたから」


 この女……頬を赤く染めちゃってさ。


 テレテレと、花染さんほどではないけど、学年でもトップの可愛さを誇る女の子らしく照れる姿は可愛い。私にはないものを持っている。天方が靡かないとしても、なんだか悔しい。


 聞こえるように歯ぎしりしてやろうかな。


 「姫奈、由奈が!」


 「はいはい。由奈は横取り大好きだからいいのー」


 「え?ちょっと、私が何?」


 いつメンから外れるけど、青泉さんは2人と仲がいい。【なななトリオ】と言われるほどで、学年でも人気が高い。寄りにも寄ってなんでそんな人たちに好かれるのか、ホントに止めてもらいたい。


 「聞かなくていいよー。佳奈のただの可愛い嫉妬だから」


 「ちょ、姫奈!」


 「えっ……そういうことなの?想像してることと合ってるのか知らないけど、そういうことなの?佳奈!」


 ついに突入してしまった。女子の中ではこれはオードブルよりも美味しいおかずだ。目の色が変わる青泉さん。身を乗り出すほどの興味津々ぶりだ。


 「――なんの話だと思う?」


 この鈍感天然たらしめ。


 なななトリオが会話してる隙を逃さない。天方も話したくて必死なのかと勝手に思えば、今の衝動は少し抑えられた。


 「――なんだろうね。私は陽キャ様の話は分からないから」


 「――拗ねてます?」


 「――全然。むしろお好み焼きを美味しく静かに食べれてラッキーって思ってる」


 「――圧が違うって言ってるけどな」


 隠し通せない。知ってるからもう拗ねてるオーラを全開にしている。天方に私の今の気持ちを分かってもらえれば、もしかしたら私を優先してくれると思ったから。


 こうなったら友達として天方を支配してやる。


 相変わらずギャーギャー仲良しの口論は続く。華頂さんは宥める役でも本気で止めることはせず、笑って心底楽しそうだった。


 「そうだ、伊桜。確か綱引き出てたよな?」


 「え?うん」


 いきなり通常の声量に戻すし、支配することを決めた後だったから何故か焦った。けど、演技の上手さには自信があるから、即それに対応した。私と話しても気にしないほど、2人はまだ言い合ってるので、これはチャンスでもあった。


 「中学も綱引きに?」


 どうでもいいことだと、多分天方の家なら言ってた。けど、そんなことでも今の私は十分だ。


 「そうだよ。走るのも得意じゃないし、力も弱いから、あんまり負担のない種目選んでるんだ」


 「なるほどな。分かるわ。俺も部活しないで家にいるだけだから、筋力とかもそんなないし。――全然嘘だろ」


 「天方くんは走るの得意だから良いじゃん。――余裕でムキムキだし走るの速いよ」


 「毎日走ってるからな。家で読書してる伊桜とは違う。――あっ、これ攻めすぎた?」


 私が陰キャだとして、今日初めて話した相手にいきなり「陰キャのお前とは違う」と言ってるようにとれる意味の言葉を言う。中々攻めすぎた性格の悪い人の言うようなことだ。多分調子に乗っていつものノリで言ったのだろう。アホはいつでもアホらしい。

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