第15話 接し方
とはいえ、相変わらずなのは伊桜も同じ。右手には既に購入予定の本ががっしり掴まれており、珍しくライトノベルを手にとっていた。ドグラ・マグラからは180度ジャンルが離れている。
厚みもそこそこあるようで、ぶっ続けで読むのが好きだという伊桜には丁度いいのかもしれない。
「夏休み入って1週間だけど、何もしてないのか?」
「逆にあると思う?」
「んー、意外とありそう」
「ないよ。多分友達いたとしても、1週間じゃ何もしない。予定が組み込まれてるなら別だけど」
「俺とのデートとか?」
「そうだね」
間を置かず、目の前の本棚に視線を向けて返事をする。伊桜辞典によるとこれはめんどくさい相手にする行動らしいので、めんどくさがり中というわけだ。
でもそこで嫌われてると思わない俺は気分を悪くしない。むしろ、微弱だがクーラーによって伊桜の甘い匂いと、髪が靡いてくる俺側は至福だった。
「じゃ、俺が誘わなかったら今頃読書の日々ってことか」
「誘ってもその日以外は読書の日々だよ。天方くんと毎日遊ぶわけでもあるまいし」
「それは俺と遊びたいってことか?」
「……ポジティブ解釈すぎない?遊びたくないとは言わないけど、毎日遊びたいわけでもないよ。ただ、暇を潰す手段が読書だけだから退屈ってだけ」
そう言いながら手に本を取ってはこれじゃないと、作品名を見て選んで戻してを繰り返す。今この時に買い溜めして、なるべく夏休みにここに来ないようにしたいのか、7冊は右手に重ねられ、腕と腹の間に挟まれていた。
「なるほどな。俺で言う、いつメンと遊ぶ=読書ってことだろ?俺は伊桜とは遊びたいとは思ってるからそこが違うとこだけど、それでも言いたいことは分かる」
俺を退屈しのぎにしたいってことだろう。聞こえ悪いが、別に悪意込めて言ってるわけでもないし、癪に障ることもない。
暇と思っても、結局毎日誰かと遊ぶことも面倒だ。そんなに遊びに種類はないし、高校生にもなると小学生のようなわんぱくさもなくなり外で遊ぶことには足が重くなる。
だから伊桜も気分転換で俺と遊ぶことにしているはずだ。俺と伊桜のような性格は、暇なときにすること――伊桜なら読書、俺なら伊桜と話すことや何気ない1日――が好きで、それを気持ちよく過ごすためのリフレッシュとして、誰かと遊ぶなんてあまり好まないことをする。
陽キャたちとは逆ということ。暇が嫌いで常に誰かと遊びたいと思う人たちは、遊ぶことを有意義にしたいから、リフレッシュとして暇な時間を作り、意味を持たせる。
やはり、どこまで行っても俺は陽キャにはなれないな。
「それならなんでいつメンと遊ぶの?やっぱり友達として出来た関係を崩したくないから?」
今度は俺の目をしっかりと見て、覗き込むように、見透かすようにメガネの奥から視線を飛ばす。キリッとした目はやはりキレイで好きだ。ツリ目ではないが、ぼーっとした無気力も似合って、不思議感を纏わせるとさらにその容姿が良く見える。
そんな伊桜に俺は一瞬聞かれていることを忘れていた。惹き込まれると抜け出せない。沼だ沼。それも抜け出し不可能な。
そんな沼に浸かりながらも俺は戻ってくる。
「……いや、好きだからだな。俺、1人は好きだけど、それはあいつらがいるからであって、常に1人ってのは寂しいだろうからそれは嫌だな。それに一緒にいて楽しいと思えるし、メリットが多すぎて大きいから一緒にいるんだ」
「そっか」
少しニコッとしたように見えた。髪も横顔が見えないような位置に来てるし、メガネも掛けてるからはっきりとは見えなかったが。
「ってかこんな話し似合わないからさせるなよ。伊桜にはもっとチャラ男として接したいんだが?」
「……それは知らないよ。なんでチャラ男なのか知らないけど勝手にして」
「伊桜にグイグイ話し寄ればいい面見れそうだからチャラ男なんだよ。勝手にするけど、文句言うなよ?」
「時と場合による」
時と場合を考えられない頭の悪さを持つ俺だが、これに関しては死守するだろう。伊桜の特別はばら撒きたくないし、本当に困るようなことはしたくない。
第一に俺が嫌だ。好意を抱いているから嫉妬してしまう、なんてことではなく、やっと見つけた似た性格の友達を失いたくないのだ。信頼は友情関係においては重要すぎる。それを簡単に裏切れば、友情なんてすぐに崩れ去るだろう。
だから俺はバラさない。
まぁ、今は好意なくても、どうせ好きになるだろうから今からでも独占したいとは思うけどなー。
「ってかそろそろ帰りなよ。みんな待ってるんじゃないの?」
「いや、花染と華頂が水着を買い終えたら、蓮に連絡してもらうよう言ってるから、連絡こない限り、俺は伊桜とのこっそりデートを続けるつもりだけど」
「デートって……しょうもないデートすぎない?」
「そうか?俺は好きだぞ。こうやって好きなことをしてる人に付き合うの」
「……でたよ」
「え?何が?」
「知らない。自分で考えろアホ」
「いきなりお怒りとは、そんなに不満の残ること言いましたっけ?」
全く自覚はない。でもそれか俺だ。若干気恥ずかしい雰囲気を醸し出したが、それを意味あるものと捉えられない俺は、ただ?を頭に足して立ち尽くすだけである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます