第14話 かくれんぼ

 どこで見たっけ?なんて曖昧なことではなく、確実にそうだと断定していた。何故ここで見つけるのか、やはり運命なのかと1人、心の中でテンションを上げていた。


 だが、少しして我に戻る。話しかけに行くか、否か。今はタイミング良く何もしていない状態であり、増しては目で捉えた彼女も1人で来ていた様子。もはやこれはチャンスだろう。


 そう思うと俺は既に決断していたのを、今決断したかのように行くことを決めた。


 「蓮、千秋、俺ちょっと暇つぶしに行ってくるから、2人が帰ってきたら連絡してくれ」


 「いいが、暇つぶし?」


 「買いたいものを思い出したんだよ。それに人混みを避けるために少しな」


 親指で書店を指差し行き先を教える。


 運がいいことか、読書は嫌いではない俺であり、蓮と千秋からはどちらかといえば本好きと知られているので、書庫に向かった彼女を追いかけるのにはいい理由になる。


 「そうか、ならお前も早く帰ってこいよ」


 「ああ」


 疑いの目も、付いてくると言うこともなく、俺はバレないと安心して書店へ向かった。近づけば近づくほど涼しくなるし、ワクワクしてしまう。このモールで今日1番テンションが高いかもしれない。


 そうして、50mほどの距離を体感10秒で歩き終えると、そこには見たことないほど広く高い、ジャンルは豊富であると瞬時に理解するほどの書店が視界に飛び込んできた。


 「でかくね?」


 思わず溢してしまうほどデカイ。まじでデカイ。うん、デカイ。


 ジャンルの張り紙が無ければ迷うこと確実であり、まさに迷宮のようだ。本好きならここで1週間は過ごせるだろうな。俺は無理だが。


 「あっ、そうだ」


 呆気に取られていたが、実は理由があって来ていたのだった。それが1分前入った伊桜怜という隠れクールビューティーと話すためにだ。


 そんなに遠くまで離れて無いだろうから、まずは近くから覗いていく。ジャンルが書かれていても、伊桜には無関係。ドグラ・マグラを読むような人が、ラノベだったり、文学だったり固定されたジャンルだけを読むとは思えない。故にこの書店内全てが範囲内というわけだ。


 こうなるならジャンルをさっさと聞いておけば良かったと後悔する。かくれんぼをしてる気分だが、楽しい気持ちにはなれない。僅かな時間で話しに来たのに、それを無駄にするなんて、それならあそこで3人黙ってゆっくりしてた方が良かったと思うだろう。


 なるべく早く見つけて、連絡が来てから適当な本を買って帰らなければならない。ここまでしてまで話したいとは、俺も興味を唆られまくってるらしい。


 走らないように、周りの人の気を引かないように、それでも急いで探す。やはり珍しいものには人は引かれるな。先程の期間限定ではないが、心理的なのもは同じだろう。


 「まだ見つけられないって、かくれんぼ上手かよ」


 開始2分、止まることなく探すがオーラすら見つけられない。避けてるわけでもないだろうに、これも運命なのか?


 なんて思ってあたりをキョロキョロしていると、やはり運命だろう。たまたま角を曲がった伊桜は本を抱えて、本棚に視線を向けていた。


 はぁぁ、やっと見つけたぞ。


 その瞬間に伊桜に近づいていく。若干疲れているが、伊桜と話せば飛んでいくだろうと思うので気にしない。これが伊桜パワーだ。


 本棚を見る伊桜はすぐ隣に俺が来たことにも気づいてない様子。本がそれだけ好きで、好きなことになら集中出来るタイプなのだろう。キラキラとした目は初めて見る。


 「これは……前読んだっけ……」


 「んー、読んでないんじゃないか?」


 「ん?!」


 めちゃくちゃ小声で独り言を溢す伊桜に、勝手に返事をする。すると声は出さないが、体をビクつかせて体ごと俺の方を向いた。


 しかしまぁ、独り言を言うのも可愛いし、横顔がクールなのは反則である。よくもこんな容姿を隠そうとするものだ。それなりの理由はあるのだろうが。


 「な、なんでここに天方くんが?」


 少しずれたメガネを掛け直し、相変わらずどこでも陰キャとして振る舞うその姿は、俺からしたら似合っていても似合わないように思う。


 前髪もメガネに掛かるか掛らないかの際どいとこ。それでも、ファッションには気を使ってるようで、ネイルや少しの化粧、ハイウエストのショートパンツとロングシャツを羽織る姿は、陰キャとしてのマイナスを相殺し、さらにプラスにしているようだ。


 もはやメガネは芸能人の変装と同じ意味を成してるな。


 「いつメンと買い出しに来てるんだ。伊桜こそ、なんでここに?」


 「私はここの常連さんみたいなものだから。ここって何でも本が揃ってるでしょ?だからよく通うの」


 「なるほどな。伊桜らしいわ」


 元の声が大きくない俺は普通に話していても、伊桜は周囲を気にしているようで小声なのを変えない。可愛いのでそのままでいいが、話しづらそうなのは気になる。


 「それにしてもいきなり驚かさないでよ。迷惑になるし、注目されるのは嫌いなの」


 「それはごめん。伊桜見てから好奇心が凄くてさ。以後気をつけます」


 「……相変わらずだね」


 私のことになるとすぐ行動するのやめてよね、なんて目で見てくる。睨んでいるのではないので優しさがあるが、やりすぎには注意だ。


 そろそろ自覚してきたようで、俺があまりにも興味を持った視線をぶつけると、気配に気づいてパッと向いてきそうだ。

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