第13話 買い出し
四季がはっきりと分かれる日本という国で、春夏秋冬どの季節が1番好きかと聞かれれば、どんな分かれ方をするだろうか。俺個人の話ならば圧倒的夏だが、それは地域によって違ったり、人の好みがあって分かれるだろう。
しかし、俺は俺であり、その他の何者でもない。故に別にそんなことを考えたって答えのないことなのだから意味はない。では何故そんなことをふと思ったか、それは隣に並ぶ陽キャたちが「夏には冬が恋しくなって、冬には夏が恋しくなるよな」「分かる分かる」とありきたりな話をしていたからだ。
季節にして夏のど真ん中を走り抜けようとする俺たちは、前々から約束をしていた買い出しとやらに出かけていた。まだ7月の下旬であり、ウキウキに駆られて早く夏を堪能したいと言い出した花染に付き合うことになったのだ。
誰1人として嫌だと拒否することも、予定も入れていなかったため、満場一致の参加となった。ここで参加しなければ、いざ遊ぶぞってなった際に何かとチクチク冗談で刺して来るだろうし、拒否権は無いようなものだ。
まぁ、まだ夏休み入ったばかりで、俺も伊桜との予定は入れるつもりはなかったから良かった。
それにしてもバカでかいモールに来たものだ。夏休み入ったばかりだからか、親子連れはもちろん、若い男女が集団で歩いていたりする。老若男女関係なく人口密度を引き上げまくっているこの人数。隣に並ぶ4人よりも何倍も暑苦しくうるさい。
家から出て30分程度のとこにあるモールだが、1人暮らしである俺には縁がなく、通ったことは今まで無かった。服も食材も近くの店で揃うものばかりだから、無駄足運ぶ必要もないしな。
すれ違う人の腕には様々な物が提げられており、8割は夏に使うためのグッズだった。特に家族連れはその量も種類も多く、これから海か山、どちらかへ行くのを楽しみにする子供の顔が見られた。
俺らもそんな家族連れと引けを取らないほど、高校生とは思えぬはしゃぎぶりでこのモールを疲れながらも気合で歩いている。
「次何買いに行く?」
ニコニコの花染は見るからに満足気。高校生として初めての夏休みを存分に楽しむつもりなのだろう。美少女が故にどんな姿も絵になるものだ。
ある程度、川沿いでキャンプしながら泳ぐという内容に合わせたグッズは買い揃えた。バーベキューセットは千秋家から持ち出すらしいので、その他各々使うためのものを買い揃えている。食材はその日か前日に買い揃えて持ってくるということなので今は頭から外している。
ちなみにテントを立てることはせず、近くで運営している宿を借りるつもりでいる。
「川での遊び道具も、暇つぶしになるような道具も買い揃えたから水着ぐらいじゃない?」
「なるほどなるほど、思えば私水着無かったかも」
「はい、なら行くよ」
「それなら俺ら男性陣は海パン揃ってるから、フードコートかそこらへんのベンチに腰掛けとくわ」
華頂に手を引かれて店へと連れて行かれる花染。中学までで泳いだことは1度であり、それも幼い頃だと言う花染は当たり前のように水着を持っていなかった。それぐらい普通に遊びそうな性格なんだが、もしかしたら高校デビューというやつかもしれない。いや、あれほど可愛くて性格もいい人が高校デビューなんてないな。
「そんなにかからないから、少しの間待っててね」
「「「はいよ」」」
3人同時に同じ返事。完璧だな。
そして俺らはここからフードコートへは時間がかかると判断し、たまたま空いていた近くの柔らかなベンチへ腰を降ろすことにした。
ガヤガヤしているが、13時過ぎの今、フードコートの方が絶対にガヤガヤしていると思うので間違いなくここで正解だ。心做しか人通りも少なく感じる。
だがそれだけで、クーラーの効いたこの場所から俺を動かすものは何もない。芸能人が食レポするわけでもないし、目を奪う美少女だっていない。興味を唆る品もないし、結局は物欲も何もない俺はこの涼しさに身を任せるだけだった。
買い出しに来ただけだしな……。
若干そういう展開も起きてくれないかと、暇故に思っていたが、実際起きても対応不可能だろうし無理なものは無理だろうから願うことはやめる。
「人多いなー、やっぱり女性って期間限定とか、そういうのに釣られるもんなんだな」
蓮が右斜め前にあるドリンクの店を見ながら、圧倒的女性比率の高さに驚く。その誰もが期間限定のマンゴー味やさくらんぼ味、梅味というドリンクを手にしているのだから、そう思うのは普通なのかもしれない。
梅って……ドリンクとして合うのか?
「どうだろうな。でも、女性は様々な種類に挑戦するって俺は聞くから、そういう心理的なのも相まって期間限定のを買うんだろ」
「かもなー」
振り回されたわけではないが、疲れた様子の蓮。女子に囲まれる日々を送る蓮には人混み耐性ついていると思ったが、意外とそうでもないらしい。
相変わらずのドリンク店の人混みに、俺も見続ければ疲れそうな気がしたので目を逸らす。そして見るのは逆の左側。そこには本当に同じモールかと疑うほど閑散とした場所が展開されていた。
理由としては、夏ではなくとも変える商品を揃えているというところだろうか。書店だったり、ケータイ・スマホショップなど、別にモールに来てまで買い物をするようなことは不要だ。
そんなとこをぼーっと見ている俺だが、ふと視界に見慣れない、いや、見慣れたからだろうか、1人の女子の姿が入ってきた。
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