第12話 詮索はNOで

 ――完全に夏。そう言えるほど熱を全身に感じて登校した今日の学校も、クーラーに冷やされながら担任の解散の声とともに終わりを告げた。


 そう、今日は待ちに待った終業式。明日から、いや気分では今この瞬間から浮かれる夏休みのスタートだ。各々、いつメンで集まり何する?と言った話が、テスト終わりの倍の倍聞こえてくる。


 この学校実は長期休暇には優しく、課題が集中すれば1日半ほどで終わる量しかない。マジ感謝だ。


 そんなこともあり、クラスは一気に盛り上がる。蝉の共鳴のようだ。ミンミンミン。


 そんな中、俺たちも当然のように集まっては夏休みに浮かれている。俺と花染が向き合い、その周りを3人がランダムに囲む。これも決められた図だ。


 「やっぱり夏は海だよな」


 「川沿いでキャンプもあり」


 海となれば海水浴。それに加え浜辺で遊ぶことも考えられる。そうなればめちゃくちゃ注目されるだろうな。


 川沿いキャンプはなかなかいい案だと思う。華頂が提案した。やはり人気者はみんなの思うやりたいことをまとめて平均的な案を出してくれるみたいだ。


 「全部やっちゃえば?」


 花染はなんでも乗っかるタイプ。自分から案を出すことも多いが、自分より相手を優先する優しい女の子だ。時間は夏休み中いっぱいある。1日2日で終わるキャンプや海水浴なら何回でもやる、というのが花染らしい。


 「俺も全部やるでいいと思うぞ。どうせ朝昼晩暇なんだし、来年からは忙しくなるんだ、5人で集まる夏休みも最後かもしれないしな。存分に遊んどく方が絶対に後悔しない」


 蓮は俺を除く3人と比べて落ち着いた性格をしている。だから女子から1番人気なのだが、鈍感さ故に気付いていない。勿体ないと思うが、それもあって好意を抱かれるのだから長所に変えてることは凄いと思う。


 そんな蓮は遊ぶことには貪欲。メンバー全員好きなのも理由としてあるが、昔からヤンチャボーイだった蓮は日が暮れても俺を遊びに付き合わせていたほど外遊びが好きなのだ。


 クールに反して可愛いとこもあるやつだ。


 「やるって言ってもキャンプ用品とか、海水浴で使えるグッツとかあるのか?」


 口ではどんな約束でも出来る。しかし道具が無ければテントも張れないしバーベキューも出来ない。水着や日焼け止め、シートやパラソルがないと海水浴も楽しめない。


 そこを心配して俺は問う。


 「そこは後日買いに行けば問題ないだろ。まだ7月だ、8月に入っても休みは長いしな。それも、みんなで買い出し行けばちょっとは楽しいんじゃないか?」


 「……荷物持ちにされるだけだろ」


 「ちょっと、私を見て言わないでよ!ちゃんと自分の荷物は自分で持つし!」


 「なら良いけどな」


 花染と買い物に出かけたことは2度、どちらも両手に荷物を持つのは俺で花染の両手は空いていた。そんな過去を思い出したのだ。


 別に持ちたくないと言えなかったわけではなく、自然な流れで渡されたのでそのまま持ち続けた。あれが女子のやり方か、と学んだのを俺は忘れていない。


 「とりあえず海も山も制覇するってことで、日にちを合わせたら買い出しにでも行こうぜ」


 「うん、そうしよ」


 全員やる気ってか、今からでもワクワクウキウキしているのが伝わるほどオーラが漲っていた。常日頃から放つ美男美女の完璧オーラではなく、歳相応の子供らしいオーラ。


 女子にはそんな幼気さは似合っても、男子、それも170後半の身長を持つ2人にはどんな視点からでも似合わない。


 俺もワクワクしてはいことはないが、伊桜のことをチラッと考えるだけでそっちに誘導されるので違うワクワクがより強かった。


 俺ってもう伊桜のこと好きになったのか?!


 んなことは無いけどな。自分で分かるほど、好意は抱いていない。


 「俺はちょっとした予定あるから早めに連絡してくれると助かる」


 今年は伊桜とも遊ぶんだ。予定をずらすためには早めの連絡が必要になる。


 「ねぇ、やっぱり隼くんって彼女出来た?」


 華頂が怪しむ目を向けてくる。


 「出来てないって」


 「嘘だー、テスト期間から私たちの誰とも一緒に帰ってないでしょ?その間に他校の女の子と親しくなったんじゃないの?」


 「隼くん、そうなの?!」


 女子陣が急に騒がしくなる。恋愛話は女子にとって夏休みの予定より気になることらしい。


 「付き合ったらお前たちに言ってるし、そもそも好きって思った人は今までいないから。どうせ口で言っても変わらないだろうけど」


 「んー、怪しいな……今度天方が帰る後ろを付いていくか」


 「千秋がするなら通報するぞ。ストーカーならまだ花染か華頂の方がましだ」


 美少女であれ、恐怖を味わうのには変わりないから辞めてほしいとは思うけどな。ってか花染も華頂もストーカーしそうだから怖い。


 「予定を早めに教えてと頼んだだけでこんなに詮索されるのかよ……」


 「全部テスト終わりについた嘘のせいだから、自業自得だね」


 「最悪だ」


 調子に乗って変な嘘をつくのはもうこれっきりにしよう。こんなに話が通じなくなるほど女子は恋愛話に興味があるんだと、俺もしっかり頭にれておかないとな。


 こうして俺の1学期は後半急に新たな出来事が起こり、それによって振り回される夏休みの門を潜って迎えることで終わりを迎えた。

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