第10話 好きになるのは確定かも
「俺らが何だって?お2人さん」
「ん?おお、千秋」
千秋の低い大人びた声に振り向くと、いつもの3人が仲良さそうに華頂を真ん中にして立っていた。
こうして見ると華頂は2人を手懐けてる女王様に見えなくもない。キリッとした顔立ちだから、女子からも人気がある。面白くてカッコいい女子は例外なく人気が高いようで。
「花染が叫ぶから何の話かと思ってきたんだが。俺らの話がちょこっと聞こえてな」
「そうそう、隼くんに彼女いるって聞いて叫んだんだ」
「「「はぁぁ?!!」」」
花染よりもうるさいのは単に人数が増えたから。もうこれは咆哮だ。再びクラスメートの視線を集める。花染は叫ぶことを知っていたかのように耳を塞いでいた。そこまでするなら叫ばせなくても良かったものを。
「隼くんマジで彼女いるの?!」
身を乗り出して華頂が問う。
「……そんなノリノリで聞かれたら言いにくいんだが――普通に嘘だぞ」
「こうやって私も騙されたんだよー」
「なんだ、そうだったんだ」
「確かに、天方に彼女は想像も出来ないな」
千秋の言葉は良くも悪くも刺さる。
誤解は解けたことで5人で集まって会話が始まる。この時間が好きなのだが、今は勝手に伊桜をチラチラ見ることにより少し意識が削がれる。
「それで、3人は何しに?花染の声の原因を突き止めるためだけに来たわけでもないだろ」
「言わなくても分かるだろ。この時期だぞ?夏休み何するかを話すため以外ない」
「……それもそうか」
高校1年というのは夏休みを存分に楽しめる最後の年だ。2年になれば補習が入り、追い込みが始まる。3年はもう受験への道を歩き始めてるので遊ぶことすら不可能になる。
だからこの1年生の夏休みを満喫するために、誰もが全力なのだ。
「俺はしたいこととか特別ないから合わせる」
森だろうが海だろうが、体を動かすことには何も違いはない。運動面においては優秀だからこそ、苦手な人に合わせれるので俺は意見は言わない。そもそも夏だからやりたいこととかはない。
しかし、ここで1番気になるのは伊桜との約束だ。思い出を作るなら絶対に夏休みは必要。なら、4人と遊ぶ日と、伊桜と遊ぶ日をズラシすかない。
過去1番のハードスケジュールになりそうだ。
「私も特にないかな」
「珍しいな。華頂ならテンション爆アゲで海とか言いそうなのに」
「テンションは爆アゲだけど、場所で遊ぶことが変わるだけでみんなと楽しむことには変わりないじゃん」
「まぁな」
男子の陽キャの頂点が千秋なら、女子は華頂。花染よりも落ち着いてる雰囲気はあるものの、それは見た目だけで蓋を開ければ天真爛漫な性格をした美少女だ。
そんな華頂がいつも通りじゃないことが少し不思議だった。
「それなら――」
「はーい、席に付け。ホームルームして帰るぞー」
花染の発言を途中で遮り、担任が教卓まで来る。
「後で話すか」
「そうだね」
結局は会話は無理矢理止めることになり、それぞれが自分の席に戻って行く。中途半端なのは嫌いだが仕方ない。どうせ後で話せるし、家に帰ってもスマートフォンがある。困ることはないだろう。
――ホームルームを終え、向かうは自宅ではなく図書室。
もう図書室が第2の家のように、チャイムが鳴れば向かっていた。テスト終わりだろうと向かうその衝動に耐えられない俺はなんだかアホらしかった。
話の途中だったが、ホームルームが終わると千秋が先生に呼び出されたため、後日話し合うことになり各々部活へと向かった。なので俺はまた1人。だから図書室で1人を回避している。
いるかいないか、そんな2択で考えごとはせず、絶対にいると確信を持って図書室に来た。ホームルーム終わるとすぐにいなくなったんだ、俺より先にこの場にいるはずだ。
そして着いた図書室前からは伊桜は見えなかった。が。
「完全に私のことストーカーしてるね。もう好きになったの?」
「……好きじゃねーよ。
後ろから気配を消して話しかけられても俺は驚かない。知っていたから。
「はいはい、好きになりたければ勝手にどうぞ。入るなら先行って」
「了解です」
俺の冗談に素っ気なく返し、入ることを催促する。何度見てもこの性格は好きだ。
まだな。そう言った理由は1つ。俺はきっと伊桜と関わり続ければ伊桜のことが好きになるはずだからだ。キレイな顔を見た瞬間からそれは思っていた。花染や華頂と出会った時よりも遥かに超えた一瞬の胸の鼓動がそう言っている。
案内も何もなしに、教科書類も持たずに進み続ける。これが初めての図書室への意味無し訪問だ。
「テスト終わって、私にも好意がない。ならなんの為に?」
「友達に会いに来るのに理由いらないだろ?」
「そういうテンプレがいらない。どうせ天方くんのことだから夏休みのことについてでしょ?」
「分かってるくせに聞くなんていじわるな性格してるな」
「分かってるって知ってるくせにここに来るのもいい性格してる」
「だろ」
これが俺たちだ。伊桜はどう思ってるかは知らないが、俺はこの空気感ってか、内容のないどうでもいいやり取りが好きだ。それを伊桜とすることが更に良く感じている。だから自然と続けてしまうのだ。
これが相性というものなら、きっと俺たちはこの先お互いをダメにし合う存在になるだろう。しかし、それもありなんだよな。
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