第9話 テスト終わりの静寂

 こうしてこの瞬間から俺と伊桜の思い出作りは始まった。


 ――そう、これは俺たちのの物語だ。


 「ってことで、早速だけど俺に勉強を教えてはくれないでしょうか?」


 「……そのために友達になっただけ感が、めちゃくちゃするんだけど」


 「違うこともないけど、ちゃんと伊桜とは友達になりたいと思って言ったぞ」


 勉強に行き詰まった時に思い出したことなので嘘ではないが、本心で伊桜とは友達になりたいと思う。出会い方云々、伊桜が俺に好感を持っている云々なしに、単純に。


 「なら良いけど」


 「あざっす」


 友達とは相性的に良ければ親友にランクアップするが、伊桜となら簡単に親友になれそうな、そんな勘が働いていた。


 俺は今4人の男女と友達関係にあるが、親友なのは幼馴染の蓮だけで、俺の中身まで詳しく知る人は3人の中にいない。


 誰だってそうじゃないか?グループが作られても、その全員と相性が良く気兼ねなく接することが出来るって訳でもないだろ。


 嫌いではない。全然3人共に好きだが、少しのことで遠慮をしてしまう関係なのでお世辞にも親友とは言い難い。


 もちろん100%遠慮しないで発言する人は逆に友達としてどうかと思う。だから俺もそこは弁えている。その上での俺の親友の基準だ。


 テストまでは残り1週間ほど。赤点は回避出来るほどに叩き込まれはしているが、行けるなら更に成績アップを望みたいのでまだまだ教えてもらう。


 触れ合いそうなほど近いことにドキドキと心臓が反応する。本当の伊桜を知っているから、自動的にそのキレイな顔がニセ伊桜の顔に重ねられ、美少女に勉強を教えてもらっているんだ、という錯覚を起こしているのだ。


 本当の伊桜なので錯覚とは言えないかもしれないが、演じる伊桜9割、演じない伊桜1割の割合で知る俺はまだ、ニセ伊桜を本当の伊桜だと思い込んでいるらしい。


 俺の脳みそは急な対応は出来ないってことか……。


 自分の能力値にガッカリしながらもペンを走らせ、勉強を進めた。


 来世はもっと考えて自分のステータスを振り分けよう。


 ――テスト最終日、3限目までの時間割りに込められた3大最悪教科に嘆きながらも何とか最後まで書き終え、1学期のテストは全て終了。同時に1学期の俺を悩ませる全学校行事が終了したことを知らせた。


 「あぁー疲れたー」


 各々天を仰いだり、机に伏したり、脱力しながらカバンをロッカーに取りに行ったりと、現在の手応えを顕にしていた。その中で俺は良くやった、と自分を褒め、疲れを感じたのでため息を1つ。


 良くて、クラス45人中35くらいの順位に付けていれば良い。それほどこのクラスの秀才と渡り合ったと思えば成長を感じる。


 「お疲れ隼くん」


 「ああ、花染もな」


 グダーっと机に伏したタイプの俺に、今回も安定の学年1位を取るだろう隣の席に座る花染は気分良さそうに話し掛ける。


 クラス1位じゃなくて学年1位だ。美少女は何でもできる方程式は健在らしい。


 言ってもテストは中間や入試でしか図れてないが、どのテストであれ勉強においては学年1位をキープしている。


 「1学期の総合成績、中間テストの時より上がってるといいね」


 「多分上がってると思うけどな。そんなことより赤点回避出来たから夏休みが没収されないことの方が俺には大事だ」


 確信している。手応えはあった。


 これで補習行きなら伊桜にどんな顔して会えばいいか……。


 「そうだね、もう少しで終業式。あっという間の1学期だったよ」


 過去を振り返りながら、何があったのか思い返している様子。俺はそんなに残ることは無かったので、今の花染が羨ましかったりする。


 「隼くんは夏休み、何か予定とかあるの?」


 「海と山、どっちも使って彼女とデートする」


 「えっ!??」


 クラスでは全員が声を出していると言っても過言ではないほどうるさかった。それを静寂に変えるほどの声量で驚く花染。クラスメートの視線が集まる。次第に顔も赤く染まっていく。


 「あっ、あははは……」


 360度見渡し頭をペコペコしている。


 これは俺に一本だな。


 「しゅ、隼くんって彼女いたの?」


 声が響き過ぎたせいか、小声で言う花染の声が更に小さく聞こえる。


 しかし内容は予想的中。


 「逆にいると思うか?冗談で言っただけだ」


 「な、なんだ……隼くんならあり得るから信じたよ」


 「いやいや、あり得ないって」


 「隼くん最近放課後になるとすぐ帰るから、彼女でも出来たのかなって思ってたとこだし……」


 カバンを胸の前に置き、顎を載せモジモジし始める。美少女とはいえ、恋愛話になると恥ずかしがるというか、耐性が付いてないらしい。


 こんな1面を見れるのは友達の特権だろうな。


 「それは勉強のためだって言っただろ?それに花染にも華頂にも恋してないんだぞ。2人と関わって恋しない男が他の女子に恋することないだろ」


 一種の門だ。可愛いタイプの花染にクールタイプの華頂。見事に分かれた2人の容姿と性格は、どんな女子がタイプの男子でも惹いてしまう。


 2人に振られたら別の子を探すという最低行為だが、そうするしかないほどにNo1コンビはバケモノだ。


 「それは人それぞれだから分かんないじゃん。ってか隼くんも蓮くんも悠也くんも、3人とも私と姫奈を好きになる気配ないじゃん」


 「慣れたらそうなるんじゃないか?俺はあいつらの恋愛事情のこと知らないからなんとも言えないけどな」


 「顔が良い男子には私は好かれないのかも……」


 不満を零す。多分本音だろうな。


 顔が良くない男子には好かれるっていうのは、相当な数だとは思うんだけどな。


 まあ、好きじゃない人からの好意は必要ないから花染も華頂も大変だろう。

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