第7話 仲を深めよう
確かに自分でも思うことはある。悪知恵というか、普通の人が考えないことを屁理屈として思い付くことが何度もある。
ここで言わなければいけないのは、俺は決してサイコパス診断でわざと人と違う回答をして「俺ってサイコパスかも」なんて言ったりする痛い思春期男子ではないということ。
学校で教わる内容と引き換えに、屁理屈を考えることに長けた脳みそを生まれたときに貰ったのだろう。残念とは思わない。ただ、俺らしいなとは思う。
「だから俺は伊桜の邪魔はしない。代わりに背中を眺めさせてもらったり、顔を拝ませてもらうかもしれないが、それは許してくれ」
「普通に嫌だよ。それに、自分で言ってて変に思わないの?」
「あー、少し思うが、魅力ある女性を男子高校生が見ない訳ないだろ」
ここでは魅力より秘密というのが正解か?
本物の伊桜の顔は、誰が見ても満場一致で美少女と答えるレベル。もちろんそれだけで魅力があるとも言えるが、それ以上に伊桜には、演じる理由という秘密を抱えている。
だからそれが俺を惹く理由だ。
「男子高校生じゃないから分からない。魅力云々の一般的なことも知らないから有無もないよ」
「なら許してくれよ。気配とか感じるタイプでもないだろ?俺がいつ見てるか分からないならいいじゃないか」
「顔も見に来るなら絶対に気付く。そんなに私の警戒心は低くないし」
「じゃ、後ろから眺めるだけにする」
「それならまだ許せる。ってか私が見るなって言える立場でもないからね」
「あざっす」
妥協は全くしてない。ホントは後ろから眺めることだけで十分だったので、敢えて顔も拝むということでそっちを拒否らせ、本命の許しを貰えた。
こういうとこ策士か?
後ろから伊桜を眺めても何か俺に大きな変化を齎すことはないが、それでも俺には十分だった。理由は1つ、姿勢の整った後ろ姿に落ち着きを感じるからだ。
静かな図書室で黙読を続けるニセ伊桜。
この存在が勉強に集中するための後押しとなっている。美少女としての素顔をしているからなのか、はたまた空間的な相性が良いのか、それはどちらも頷けないが集中するには眺めるだけで良かった。
会話が途切れて早15分。お互い完全に集中モードに入っている。俺も教科書やプリントをペラペラ捲る度に、覚える内容として蛍光ペンで引かれた黒文字をノートにまとめる。
単純作業に見えるがしっかり記憶している。容量が良いタイプらしく、昔から教えられたことは忘れない俺だった。
まぁ……嘘だ。それは運動だけで、実際学力については書き写す4割程度しか記憶していない。それなら赤点回避コースなのだが、それもギリギリのため毎回クラス内成績で低迷している。
このクラス頭良すぎな。
チラッと背中を見ても動いた様子のない姿勢に相変わらずの尊敬を持つ。勉強してる俺も自然と猫背になって行くのに、伊桜はそんなことないらしく羨ましく思う。
姿勢に関しては全部自分のせいなんだがな。
再びノートに目を向けるとすぐ伊桜は脳内から消えた。集中するのは早いようだ。このままの流れで記憶するのも早くなってもらいたいものだな。
「天方くん」
そんな俺に一声掛けたのは伊桜。何か悩みを作らされたような、そんな困り顔をしていた。そう見えるのは俺自身が今勉強に困っているからなのかもしれないが、確かに眉は下がり声色も低かった。
「何?」
手を止め伊桜と目を合わせる。やはりキレイな顔をしている。スベスベで余計な脂肪が付いてないのは分かるが、それでもプニプニしそうな頬に触りたい欲を漲らせるが堪える。
「やっぱり視線を感じるから見るの禁止」
「えー、まだ2回3回しか見てないんだけど」
「2回も3回も見たなら満足して。明日から学校に来なくなる訳じゃないんだから後日に繰り越して」
「それは、今我慢すれば明日からもここに来て見ていいってこと?」
「どうせ来るつもりでしょ?」
「まぁな」
人は男女関係なく自分に向けられる視線に敏感な人が居るらしいが、特に美男美女なら鋭いだろうな。常日頃から視線を集めることで鍛えられるし。
伊桜はホンモノでもニセモノでも美少女と陰キャとして視線を向けられるだろうから、どの道を歩いても慣れによって敏感になるのだろう。
「気になるなら、俺の隣に来れば背中には感じないし集中も出来るんじゃないか?」
「……それはそれで集中出来ないよ。それに人が来る可能性もあるしね」
「俺と場所を交代するか、ここで勉強をするのを辞めるかの2択ってことか」
「言ったらそうだね」
「んー、じゃ場所交代にするわ」
「分かった。我儘聞いてくれてありがとう」
自分の席に戻らうとする伊桜を俺は意図せず止める。
「次からは」
「次から……?」
言葉足らずだと思い、補足を後入れしたらどういうこと?と聞き返す伊桜。俺も日本語はまたまだ上手く使いこなせないようだ。
「今日は俺も勉強終わるし、伊桜もそろそろ良い時間帯だから読書止めるだろ?」
「いや、止めないけど」
「ダメだ。今日は読書止めて、せっかくだからなにか話そう。伊桜のことを知るのも友達として普通のことだしな」
「えぇー……」
心底嫌そう。好きなことをしてる途中に誰かに無理矢理止められるなんて初めてだろう。が、本を読むより勉強をするより俺は、伊桜と仲を深めることが大切だった。
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