第150話 初めての。

「フィオ、何か感じるか?」

「んー……たぶん大丈夫」


 私は能力を使い周囲の気配を探りながら、クリスの問いかけにそう答えた。


 今は二人して斥候をしている所で、大きな岩の上から周囲を索敵している。


 クリスの〈精霊魔法〉で周囲を探りつつ、私も〈妖精魔法〉の中に含まれている様々な能力を使って索敵行動をしていく。


 ……。


 一通り探った私とクリスは来た道を戻って行った。


 ……。


 数キロ戻った先にはケンタウロス族の一団が休憩を取っており。

 私とクリスに気付いた彼らが手をあげて挨拶をしてくる。

 それに私とクリスが手を振り返して答えつつ、彼らの索敵の責任者なケンタウロスに報告をしていく。


「×××殿、この先にオーク帝国部隊の気配は無かった、小型の魔物が少しいるくらいだ」


「そうかご苦労様、では君らも休憩を取っていてくれ、他の斥候部隊が帰り次第行軍を再開させる事になるだろうからな」


「了解だ、では失礼する」


 クリスが報告や会話をしている時に、私は一切邪魔をせずに無言を貫いている。


 そうしてディート達の居る場所へと歩いていく途中で、クリスに話し掛ける。


「どうクリス? 集団行動に慣れて来た?」

「うむ……どうにも慣れないな……移動中だけとはいえ組織の一員に入るというのはこう……ムズムズするな、私はどうやら自由に動きたい性分らしい」


「様々なケンタウロスの士族の集まりで、それぞれで部隊を作っているこの集団だと、組織っていうほどの堅苦しさは少な目だと思うよ? これが獣人国の正規軍とかになると……クリスには息苦しく感じるかもね」

「……そうなのかフィオ? むー、獣人国までの移動にお邪魔するだけの話にしておいて良かったかもな……」


 そうかもね。


 私とクリスは今、ケンタウロス族の戦闘集団と一緒に獣人国へと向かっている。


 あの時の連合各国各部族に対する兵力募集の話は士族の長へと伝わり。

 すぐさま、草原のすべてのケンタウロスの士族の有力者を集めた会議が開かれた。

 私やクリスは長について行かなかったので、よく判らなかったのだが。


 族長について行ったディート曰く、集まった有力者とその同行者だけで数千人になったとかなんとか……。

 私らがお世話になっている士族の長が、従者として6人くらい連れていたので。

 ……同じ規模としても数百近い士族が集まったのか?


 その大規模な集会を見てみたかったけど、余所者だからなぁ私らは。


 そんな有力者同士の話合いが終わるまで三か月くらいかかっているが、まぁ十分間に合うだろう。


「あ、お帰り~斥候お疲れ様」


「ただいまディート」

「ただいまだ」


 私達はディート率いる、前からお世話になっている士族の戦闘集団20人程と行動を共にしている。

 今回の斥候も、この士族に割り振られた仕事のお手伝いという形だ。


「ほんと助かるよエルフさん、私達も草原なら数キロ先でも獲物を見つける事が出来るんだけどさぁ……こんなに岩やら木やら障害物があるとね……」


「そこは役割分担という事だろう、こういう場所は私の精霊が役に立つからな」


 ……この辺りって前世の私が何度も通った場所なんだよね。

 レジスタンスの非戦闘員の移住の為に、何度も何度も移動したっぽい。


 岩場が各所にある荒野って感じで、オーク帝国の小部隊がウロウロしているから面倒だったという知識が残っている。


 ここを超えてもっと東へいくと、また平野が広がった地域だからそこまでの辛抱だね。

 まぁ仮に見つかったとしても、ケンタウロス族二千を超える戦闘集団相手に、オーク帝国の小部隊がどうこう出来るとは思えないけどね。


 まぁ……このケンタウロスの戦闘集団の中で一番数が多いのは……羊なんだけどね!


 ケンタウロス族の進軍って輜重代わりに羊を連れ歩くんだって、これには私もクリスもびっくりしたよ。

 お野菜なんかを積んだ荷馬車もあるんだけど、なんと連れて来た羊の数が一万を超えている……。


 これを移動しながら潰して食べつつ、余ったら獣人国に売りつけるそうで、なんとも人族の軍隊の頃にはなかった文化だなぁと思ったさ。


 移動しながら魔物や動物も狩るので、羊だけ食って居る訳では無いんだけどね。



 ……。



 ……。



 ――



「じゃちょっと行って来るね~、全員私に続け!」


 ディートが士族の戦闘員を全員連れて敵に向けて突貫……はせずに横を抜ける様に突撃をする。

 彼らは走りながら弓を打てるので、周囲を移動しつつ遠距離からの攻撃をするのが常だ。


 ディート以外にも、いくつもの部隊が同じ様にオーク帝国の軍団を攻撃している。


 荒野を抜けて平野に至ったケンタウロスの戦闘集団なのだが、オーク帝国の一部隊を発見した。

 とはいえ遠距離から相手を確認出来、そして自らが十分に動ける余地のある平地だと、ケンタウロス族に負けは無い。


「うわぁ……四方八方から矢で撃たれまくってるね……オーク帝国も大隊規模は居たのに一方的にボコってる……」

「……なぁフィオ」


 遠くで行われているケンタウロス族の一方的な攻撃を眺めていると、クリスが声をかけてきた。


「どしたのクリス、一応何かあった時の為に、いつでも精霊で援護を出来る様にしておいてね?」

「それはもう精霊に頼んでおいたから大丈夫なのだが……」


「さすがクリス、それじゃぁこの戦況で気になる事があるとか? あ、もしかして伏兵が何処かにいるとか?」


 相手が殆どゴブリンしか居ないのは罠だったとか? それはまずいな、私も索敵に出た方が?


「いや、そういうのも居ない事は風の精霊に確認済みなんだが……」


 あらま、クリスはここ最近の割り振られた仕事のせいか、索敵行動が身についてるね。


「それならどしたの?」

「うむ……大隊規模というのは、どれくらいを指すのだ?」


 ありゃ、私はクリスの肩の上でコテンっと体を倒してしまった……そういやそういう話をした事が無かったっけか。


「えっとね、私が言っているのは獣人国の軍隊を基本とした話で、獣人国の基本編成で小隊が20人、小隊が5個集まって中隊に、さらに中隊が5個集まって大隊に、という基本があるんだ、まぁ……種族差とかあって上手く機能はしてなかったりするんだけどね……」


「となると……500人規模の敵という表現だったのか」


「んー人数だけの意味で言っていた訳では無いのだけど、まぁそんな感じでいいよ」


 ほぼゴブリンの部隊なんだけど、オークの指揮官が混じっているからさ。

 規律のある軍隊行動をゴブリンがするには、オークの指揮官が必要っぽいんだよね。

 なのでちゃんと軍隊として動ける部隊で、尚且つ一定数以上居たから大隊って表現を……まぁ、こんな話はどうでもいいか。


 っと。


「最終段階に入ったみたいだね、槍持ちの重装ケンタウロス部隊が突撃を開始しているし」

「いつみてもあの者らはごついな……あんな鉄の塊があの速度のまま集団で突っ込んで来たら私でも相手をするが大変かもしれん」


 ケンタウロスにも近接戦闘役はいるのだけど、その中に重装騎兵っぽい集団もいてさぁ、ドワーフが作った金属の全身鎧を身に纏い槍を持って突っ込んで行くんだよね……。


 千キロ以上の重さな塊がそこそこの速度で突っ込んで来るから、あれが敵に居たら怖いだろうなぁ。


 あーあー、重装騎兵にオークの指揮官がぶっとばされた……。


 そして敵集団が逃げ散ろうとしているけど、周囲にいるケンタウロス達にトドメを刺されているね……。


「終わったね……500を超える敵に完勝かぁ……ケンタウロス族は野戦に強いねぇ」

「移動速度が桁違いだからな、本気で走られると私でも追いつくのはきついだろう」


 クリスも魔法やら身体強化やらで相当早く走れるのだけど……平地のケンタウロスと比べちゃうとね……。


 まぁケンタウロスは平地の野戦には強いけど……拠点防衛とかには使いにくいんだけどね。


「さて、お仕事の時間だよクリス」

「む? もう戦闘は終わったのではないか?」


「何言ってるのさ、戦闘の後の鹵獲品回収に、そして死体の埋葬処理とか、色々やる事はあるんだよ、むしろ後始末の方が時間がかかるんだからね?」

「……そういう物なのか?」


「そういう物なの、まぁ今回の私達は直接戦ってないし、戦利品の分配とかほとんど無いだろうけどねー」

「ふーむ、ゴブリンの装備など貰っても嬉しくないのだがな……」


「味方の鍛冶屋とか商人に売るんだよ、使って居る金属には価値があるからさ」

「なるほど、倒して素材を得る、か……森での狩猟と同じだな」


 ……なんだかなぁ……クリスは戦場にいるってのに呑気なんだからまったく、今度戦場の怖さを教えておかないと駄目だなこりゃ……。




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