第147話 クイズ大会

「はい、三番さん正解!」


 私のその言葉を聞いて、三番の席に座っているマーメイドとマーマンのペアが手を取りあって喜んでいる。


「次の問題です、クリスお願い」


 私が呼びかけたクリスは、大きな植物紙に書かれた、このあたりの地図を解答者に見えるように掲げる。


「はい、この地図はこの近辺の物になります、では問題、ここのマーマンの拠点から一番近いこの村、この村の長の種族は何でしょうか?」


 なんだこのマーマンに有利な問題は、と思うかもだが


 今はマーメイドしか答える事の出来ない時間だ、なのでペアになったマーマンに答えを聞くしか無い訳で、マーメイドとマーマン達は周りに聞こえない様に耳打ちで会話をして答えを探って。


「はい二番のペアさん」


 手を上げた二番の席に座るマーメイドさんを指さす。


「えっと、トド型獣人」

「はい二番さん正解!」


 やったーと隣のマーマンと手を打ち合わせるマーメイドさん。


 うんうん、やっと少し心の距離が解れて来たかねぇ。


 ……。


 なんで私がこんな事をしているかというと。


 前世の私の仕出かした事が巡り巡ってマーマンの嫁不足を招いていた事が判明してしまった。

 なので罪悪感を覚えてしまった私は、マーマンの嫁不足問題に手を貸す事にしたのだ。


 まず最初にマーマンの長に決闘を申し入れて〈妖精魔法〉ダブルを使ってボッコボコにして、一時的なマーマン族のボスに成りました!


 まぁここに来ているマーマンの村長程度の話で、種族全体の長の事では無いけれど。


 こんな感じで力が強い者が正義的な亜人の考え方が、ある意味楽な時もある。


 私がマーマンの村長をボコった事でマーメイド達も少しは気が晴れた様で、私の提案を聞いてくれる様になった。


 それがこれ、お見合い大会の開催だ。

 まぁしばらく期間を開けてからの開催になっている。


 私とクリスは数週間かけて周辺の村々で聞き込み等をしていて、確かに過去に若者たちが移住した事によって人口が減っている事が確認された。


 だけども、獣人の出生率は高いので子供なんかは一杯居て、もうあと何十年かたったら元に戻るかなーという感じではあった。


 獣人って子供を一杯産む種族も多いからさ、食料生産のキャパの限界まではすぐ増えちゃうのよ。


 そして今は、あの戦闘に成りそうだった浜辺でマーメイドとマーマンのお見合いという名のクイズ大会を開いている所だ。


 マーマンの元長や一族からは嫁が獲得出来たら私達に報酬を払うという話は通してあって、真珠やらサンゴやら海の幸やらをゲットするべく、私とクリスは頑張っているのだ。


 まぁ私は過去の自分の前世のやらかしをどうにかしたかったってのが大半なのだけどね……。


 クリス的には冒険者として戦闘だけではない依頼を受けたのだと張り切っている。


 そうして集団お見合いをする訳だが、お互いに確執がある状態でそんなすぐに仲良くは難しいという事で、こんなペア参加のクイズ大会を開いてみた。


 マーマンもマーメイドも独身の子を集めて、強制的にペアを組ませて様々なゲームに参加させていく予定だ。

 相性が悪そうならペアは交代させていく。


 まずは問題の答えを知る為に、解答権のある側が答えを知るパートナー側に話を聞く状況を作り出している。


 しかも、他の人達に相談話が聞こえない様にするためには耳打ちをするしかないのだ……ふふ、仲の良い行動をする事で実際に仲が良くなるという寸法だ。


 集団お見合いなんかでよく使われる方法だね、心理的に相手を近く感じさせるって行動をゲームに組み込んだ形だ。


 そしてこのクイズ大会には勿論商品があって……やっぱりお酒が大人気なんだよなぁ……。


 事前にお見合いの最初に味見として少しだけ飲ませたら、やたら張り切って参加してくれる人達の多い事多い事……。


 本当にこの世界では酒の人気が高い。


 なんていうか娯楽が少ないからさ、お酒や……まぁエッチな事とかが彼らにとって娯楽になっている世界なんだよね。


 盤上遊戯なんかもあるけど、ずっと頭を使うのも大変だしね。


 さて、マーメイドとマーマンのペアも、なんだかんだで仲良く話をする様になっている、ではそろそろ問題の難易度を上げていこうか。


「次の問題、ここから東方面の森の中にアラクネ族の治める村があります、その村で私とクリスが受けた一番大変だった依頼は何でしょうか!」


 私の出した問題に対して解答者達が騒ぎ出し。


「ちょ! そんなの判る訳ないじゃないの妖精さん!」

「そうだそうだ! 俺もそう思うぞ!」


「さすがに判らないよねぇ?」

「アラクネの村は知っているけどなぁ?」


「これは想像する力を試されている?」

「かもなぁ……あんた判るか?」


 ワイワイキャイキャイ、私に文句を言う人や、ペアである相方と話をするマーメイドとマーマン……。


 ふふり、今君らは同じ思いを相手と共有している事に気付いているのかな?


 私の理不尽な問題に対する憤りでもいい、判らないという事をお互いに確認しあうのでもいい、そして一緒に推理をしていこうと話し合うのでもいい。


 ふふふふ、この難しい問題は、答えがどうのこうのというよりも、そこへ至る間に君達が近しくなるための物なのだ!


「なぁフィオ、さすがにそれは難しすぎないか?」


 ……案の定クリスは私の意図には気付かずに、そんな事を言って来るのだが。


「いいんだよクリス、ほら、みんなお互いに話し合って仲良くなってる」


 私が回答者席をクリスに示すと。


 一組目は。

「うーん……アラクネの村って何が特産だっけかマーマンさん」

「確か……糸? いや布か?」

「と言う事はやっぱりそれ関係の答え?」

「糸……布……新しい服のデザインを考える依頼とか?」

 特産からクイズの答えを予想し。


 二組目は。

「そういえば私達のしている乳隠しに使う布紐はアラクネ産だったかも」

「水に強い糸じゃないと駄目だもんな、君のその貝の乳隠しは他のマーメイドより可愛いかもな」

「え? そ、そう? ……あのね、この可愛い貝を探すのに30日はかけたんだ~大変だったんだよ?」

「うわ、そりゃ大変だな……なぁ、今度一緒に俺が可愛い貝を探してやろうか?」

「ええぇ!? それは恥ずかしいよ~、うーん、でもまぁ……一緒に海中散歩するくらいなら……いいよ?」

 途中からイチャイチャしだし。


 三組目は。

「糸や服を……あー判んない! お酒欲しいよー」

「特産とか関係ないかもな、じつは普通に魔物退治だったりして、俺もあの酒が欲しいわぁ」

「あれ美味しかったよねぇ?」

「だな! あんな美味い酒を味見だけで我慢させるとか極悪だよなー」

「わかるー」

 酒を飲みたいという話を始めた。


 ……なんかすでに一組以外は問題の解答を考えるよりもイチャコラタイムに突入している気がするが……悪い事では無いな、まぁ賞品の酒は手に入らないだろうけども。


 そして実は最後の組みのマーマンが正解なのだが……。


 三組とも不正解の後で正解を私が答えたら、回答者席から色々と物が飛んで来た。


 貝とか砂浜に歩いていたカニとかを投げるのはいいけど、隣のマーマンのウロコをむしって投げるのは可哀想だからやめてあげて? 彼ちょっと涙目だよ?



「あの時のイモムシの大軍は厄介だったなフィオ……」


 クリスが私の答えを聞いて遠い目をしている……。


 切ったり潰したりして倒すと体液が漏れ出て、それがすっごい臭い匂いの虫だったんだよね……なので一匹一匹捕まえて穴の中で燃やしたんだけど……燃やすとさらに酷い匂いに……うげげ、思い出すと目がシバシバする……。


 結局凍らせてから、スライムを集めたごみ穴に放り込むのが一番被害が少ないという事に気付いた。


「世の中は広いんだなと思ったよねクリス」

「だなあ……倒すだけで終わる魔物退治がどれだけ楽なのか……冒険者は大変だ……」


 アラクネ達も戦力で考えたらあのイモムシとか余裕で倒せるからね。

 ただ単に臭いのが嫌だから冒険者に依頼しただけだもんな。

 報酬で貰ったアラクネ特性の布を使ったクリスの服は、可愛いうえに実用的だから嬉しかったんだけどねぇ……。


 匂いを近づかせないように精霊に頼む事も出来なくはないんだけど。


 いかんせん相手の量が多すぎて魔力が……チートな〈精霊魔法〉と〈妖精魔法〉だけど、長時間ずっと広範囲に使用するのは厳しかったね。

 匂いの粒子を完全に遮断とかしようとすると魔力消費がえぐかった。



 ……。



 ……。



 ――



「「「「「「「「ありがとう御座いました」」」」」」」」


 そう言って私とクリスに御礼を言って来ているのは、新たに夫婦になったマーメイドとマーマンのカップル達だ。


 最終的に4組がゴールイン、他にも仲良くなって一緒に過ごしているカップルも居るので、もう少ししたらさらに夫婦が増えるだろう。


「戦いにならなくて良かったよ、ありがとうね妖精さんにエルフさん」


 マーメイドの長がそう言いながら手をこちらに出して礼を言って来る。


 最初に話をした時の彼女は、お見合いの効果に懐疑的だったからなぁ……。


 私とクリスは笑顔で彼女の出した手に握手で応えていく。

 まぁ私は二人が結んだ手の上に座るのだけど。


 そうして波打ち際での別れの挨拶をしていると、マーマンの元長が、いや長に戻った奴が。


「では元族長……お元気で……」


 なんて私に対して言って来るのだが。


 ……いちおう釘を刺しておくか。


「現マーマンの族長さん、また同じ様な一方的で傲慢な要求を他種族にしている噂を聞いたら……私は即戻って来てあんたをボコって一族から追放するからね? ニッコリ」


 私は妖精族のプリチー可愛い最高の笑顔をマーマンの現長に向けるのであった。


「ひっ! もももも勿論です元族長妖精殿! 我らマーマン族は紳士的で話の分かる種族です!」


 ならよし。


 さて。


「じゃ行こうかクリス、皆さんまたね~」

「そうだなフィオ、ではマーメイド族もマーマン族の皆も、またいつか!」



「さよーならー」

「またお酒持って遊びに来てね~」

「子供が生まれる頃に遊びに来てくれー」

「ばいばい妖精さん~」

「夫が欲しかったらいつでも来いエルフ殿」



 あん? 私は振り帰ってクリスの夫がどうのとか言っていた、アホな元……現マーマンの長をギロリッと睨む、お前にクリスはやらねぇよ!?



 そうして、現マーマン族の長の悲鳴を背中に聞きながら私とクリスは海辺を南下していく事にしたのだった。



「このまま南下していくんだねクリス?」

「うむ、大陸の南西にあるというケンタウロス族が支配する大草原に行ってみたいのでな」


「了解、マーメイド達の他の一族なんかの村々も海岸線にあるらしいし、お酒でも売りつけながらのんびりいこうか」

「ふふ、そうだなフィオ、急ぐ必要もあるまい」



 そうして今日も、私は定位置であるクリスの肩に乗り、次なる出会いを求めて旅をするのだ。




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