第144話 初めての冒険
ブーーーーーーーーーーン。
周囲にそんな耳障りな羽音が響く。
ここは街道から少し逸れた森の中、キラービーが良く湧くと言われている森だ。
そんな中をクリスと二人で歩いて……まぁ私はクリスの胸の間の避難場所に潜っているのだけど……移動をしている。
魔物相手は万一があるから、私は一番安全な場所に居てクリスを守るのだ。
とはいえクリスは〈精霊魔法〉による風の精霊やら水の精霊に守りを任せているので、私は索敵やら攻撃と防御の補助役という感じかなぁ……こういう森では力の強い自然精霊が使えるからクリスはめっちゃ強いねん。
建物の中とかでも使えない事は無いのだけど、ちょこっと威力が下がったりする。
そういう時は建物に入る前に精霊を顕現させてから連れていけばいい話だったりするんだけどもね。
まぁ、例の初めての依頼を遂行中だ。
私はクリスの胸の間から小さな声でクリスに合図を出す。
「いくよー」
クリスはコクリと頷いた、キラービー相手だと弓はあまり意味が無いので、今はレイピアを構えているクリスだ、まぁ武器の出番なんて来ないだろうけどね。
まずは私の〈妖精魔法〉で蜂の苦手な煙を出す草を束ねた物に火をつけてからポイッポイッポイッっとマジックハンド的な物で巣の側に複数個投げる。
大型バスくらいの大きさの巣だったりするので、この特殊な煙を出す草を一杯集めるのが大変だった。
そしてクリスが風の精霊に頼んで煙が巣を囲む様に、空気のシェルター的な物で塞いでしまう。
そうするとその中にいるキラービーは……ボトッボトッという音と共に地面に落ちていく。
それを大地の精霊が地面の中に飲み込んで行くという段取り。
ちなみにキラービーは肉食ではない、森の中の魔花の蜜を集めているらしい。
ただ敵対者には容赦をしないので結局危険な魔物である事には変わりはない
魔花ってのはそのままの意味で魔物の花で、蜜の匂いで獲物を集めてパックンチョってする植物なんだけど、キラービー相手だと蜜を掠め取られる事が多いとかなんとか……研究者じゃないので細かくは知らん。
……。
駆除が終わったみたいなので巣に近づく、もうあの不快な羽音は聞こえないし、気配が巣の中に少しあるかなぁという程度だ。
普通の狩りだと煙を巣に充満させる事なんて出来ないから大変らしいんだけどね、〈精霊魔法〉がすごすぎる。
まぁ〈風魔法〉とかでも出来なくはないだろうけど……細かい制御とかを精霊さんがやってくれる〈精霊魔法〉の方が向いているかもしれない。
「じゃ頂いていこうか」
「うむ、たしか巣を削るのだったな」
クリスが巣を削り、蜂蜜を溜めている部分まで到達すると、私が〈妖精魔法〉でクリスの出した陶器の瓶へと蜂蜜を流し込んでいく。
はたから見ると蜂蜜が紐の様に宙を飛んで陶器の瓶へと吸い込まれて行っている様にも見えるかもしれない。
様々な能力が使えるから本当に〈妖精魔法〉が便利すぎる……。
守護樹と共存する妖精を神様が優遇しているんじゃないかなーって最近は思う様になった。
しばし蜂蜜チューチュー流し込みタイムだ。
「む、これが女王か……これは倒しては駄目なのだよな?」
クリスが巣を切り開きながら一際大きな蜂を見つけて私に聞いて来る、苦手な煙を大量に吸い込んだせいかかなり弱っているのが判る。
初めて見たけどたぶん女王だと思う。
「まぁなるべくならって話だね」
保護されている訳じゃないけども、冒険者のマナーとして資金源を大事にする考えがある、人里に近い場合は巣ごと燃やしちゃうらしいけどね。
ちなみにキラービーの魔石はすっごい小さいので、私達は無視して捨てちゃう事にした。
……。
……。
――
蜂蜜を取り終わり、一旦宿屋に泊まってからの翌朝。
冒険者ギルドへ向かう私とクリス。
前に来た時は時間が合ってなかったのか他の冒険者は居なかったんだけど、朝一番で来るとそこそこの冒険者が受付で依頼を探すべく話をしている。
「そこそこ冒険者がいるんだねぇ」
「そうだなフィオ……だが、英雄と呼ばれて居そうな手練れは居なそうだ……」
そりゃ、こんな田舎街の冒険者ギルドにそんなの中々居ないでしょうに、でも鬼人族は戦闘能力も高めだし、そこそこ強そうな人はぼちぼち居るなぁ、まぁ私がクリスを含めてかけている隠密を突破出来てない時点でたかが知れてるけどね。
彼らには私達がどうでもいい存在に思えているのだろうねぇ、完全に消える物では無いはず……そんなのは上級能力の奴だよね……〈忍術〉とかさ。
しばらく冒険者達が減るのをクリスと待つ事にした、クリスは冒険者と受付嬢のやりとりなんかをワクワクしながら見ているけども。
私からすると、なんですでに決まっている報酬を値上げしようとするのか……意味が判らん人もいる、勿論受付嬢に突っぱねられていたけど……。
依頼の内容が違っていたとかだったら判るんだけどなぁ。
っと空いてきたし、カードを作った鬼人族の受付嬢さんが空いてるね、クリスを促してそこへ向かった。
隠密を弱めにして声をかける。
「こんにちは~依頼終わったよ」
「依頼の品の確認をお願いしたい」
「おはようございます、ああ昨日の、えーと、では蜂蜜ですよね、今書類を出すので品物をお出し下さい、大量にありますか?」
そう言われたクリスは持ち込んでいた大きな陶器の瓶をどどんと三本程テーブルに置いた、ほら、〈空間倉庫〉を見せびらかす訳にいかないからね、宿屋からずっと運んで来たのよね。
「ポーター無しだとこれくらいになりますか……いえ、コホンッ、では確認するのでお待ち下さい」
鬼人族な受付嬢さんはひと瓶ひと瓶丁寧に確認をしていく。
一つの瓶で二升分以上入る瓶だから、重いはずなんだけども、さすが鬼人族だ、軽々と持ち上げていた。
……。
……。
――
「はい、ではこちら、蜂蜜の確認が終わりました、報酬はこれくらいになりますね」
鬼人族の受付嬢さんがそう言って示した金額は、こんな物かという値段だった。
話を聞くと普通は大人数で行って、巣を全部解体する勢いで大きな樽を数十個単位で蜂蜜を採取するのだという。
成程ねぇ……私達も普通ならばポーターなんかを一杯雇ってから行くべきだったのか……。
いつもの様に肩に座った私とクリスはお互いを見て視線を合わせると……。
「失敗だね……」
「のようだな……」
いつもクリスに言っている情報収集を私が怠った結果だね、受付嬢さんに普通の狩りはどうするのかを一言聞けば済む話だったのに。
「ふ……ふふっ」
「ククッ……」
余りのアホな失敗具合にお互いに笑い合ってしまった、こんな失敗ですら、後々の良い思い出になるのだろう。
「クリス、初めての報酬を使って酒場にご飯でも食べに行こうか?」
「そうだなフィオ、それもまた冒険者の習わしだろう」
だねぇ、でもまぁ今度は間違いたくないので。
「美人な受付嬢さん、私達が行っても大丈夫そうなお店を教えてくれる?」
「そうですねぇ、美人に絡んで来る馬鹿共が居なそうなお店となると……×××の酒場や×××屋とかでしょうか?」
鬼人族の美人な受付嬢さんはちゃんと私の要望を汲んで教えてくれた、やるなぁこの人。
「ありがとう、どっちにするクリス?」
「そうだな……ご飯の美味しい方がいいか? 受付嬢殿、どちらの店が美味しいだろうか?」
そうして私とクリスは受付嬢さんを相手に、この街のご飯の美味しい店情報を仕入れながら初めての冒険を終わらせたのであった。
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