旅立ち
第141話 最初の一歩
「い、行くぞフィオ!」
「はいどうぞ~、ふぁぁ~ぁぁ」
私は欠伸をしつつ、一人の超絶美人エルフの肩の上に座りながらそう答えた。
「……なあフィオ、もう少し戦闘訓練とかをした方が良くないか?」
「もう森で魔物相手に何度も練習したでしょー」
繰り返される状況にちょっと飽きて来た私は、もう面倒臭くなって投げやりに答えている。
「そ、そうか? それなら……そうだ! フィオが心配しているナンパ? とやらを上手く躱すおままごと練習をだな……」
クリスが何か馬鹿な事を言い始めた。
相手をするのが面倒臭くなった私はクリスの着ている皮鎧の胸の隙間の内側に作られた私の避難場所へと潜り込む。
戦闘やらで外を飛ぶのが危ない状況や、私が隠れる必要がある場合にそなえて、クリスの胸の間に避難場所を作って貰ったのだ。
エルフの皮職人も私達の要望には驚いていたとクリスが言っていたけども、私の背中の羽を畳んでしまえばフィギュアを胸に挟むがごとくだし、それほど問題は無かった。
まぁクリスは巨乳では無いのでクッションは……ほどほど、という隠れ場所になった。
姿勢的には真っすぐ立つ感じになってしまうが、ここで寝る訓練はもう何度もしているから大丈夫だ。
そんな訳で。
「おやすみなさいクリス」
「わわ! 待て! 待ってくれフィオ! 急に一人にされたら怖いでは無いか! ふぃお!?」
ZZZzzz。
……。
……。
――
「ん~~んんんん、はぁぁぁぁ……ぁぁ、あふっ……」
寝起きの体をぐっと伸ばしてやると心地よい目覚めがやって来る、フニョっとした柔らかいお布団も良い感じだった。
狭い避難場所……クリスの乳の間からゴソゴソと顔だけ外に出すと……そこは……林の中だった。
「……起きたかフィオ」
何故か林の中の大き目の木の側で体育座りをしていたクリスが上から声を掛けて来る。
「おはよークリス……まだ街道に出て無い感じ?」
「う、うむ……」
クリスは私の問いかけにビクッっと体を揺らした。
「ねぇクリス……確かエルフの治める森から半日もあれば連合各国を繋ぐ主要な街道に出るはずだよね?」
「そうだなフィオ、外と商い等をしている者達の話を聞くには、それくらいのはずだ」
「日が昇る前から行動してもう夕方なんだけど? 私が寝てからどれくらい進んだ?」
「い、いや……やはり慎重にいかねばなるまい? フィオも外は危険が一杯だと言っていたではないか」
「ああうん、そうなんだけどねぇ……」
ちょっと色々脅し過ぎたかなぁ? 私はクリスの皮鎧の内側にある私の避難場所兼休憩所な胸の隙間から抜け出しながら考える。
「あ……フィオ、そこから出る時に私の乳を蹴っ飛ばす様に出るのはやめてくれ……」
「ああごめん、狭いし柔らかいから抜け出すのに勢いが居るんだよね……もう少し広ければ良かったんだけど」
「……それは暗に私の胸が小さいと言っているのか?」
「違う違う、クリスは普通くらいはあるから安心しなよ」
別にぺったんと言う訳でもあるまいし、気にする事ないのにね……。
まぁ何故かさ、外にたまーーにいる黒エルフや砂漠エルフなんて呼ばれる肌が褐色だったり黒かったりするエルフ達はお胸様がでっかいんだけどね……なんでだろうね?
私は羽を広げ空中に浮遊をしてクリスに向き合うと。
「それで今日はここで野営をするの?」
私は木々に遮られているが赤くなってきているお空を見上げながらクリスに問いかけてみる。
「ああいや、済まぬなフィオ……いざ外に行くとなると怖くなってしまってな……」
「大丈夫だよクリス、今回は練習って事でもいいしさ、のんびりいこうよ、時間は一杯あるんだし、今日はここで野営にしよ?」
そう言って体育座りをしているクリスの顔の側に近づきその頬に手をあてて慰めていく。
「ありがとうフィオ……」
「気にしないで、相棒は助け合う物だよクリス……さぁ野営の準備をしちゃおう!」
私はことさら元気よくそう宣言をする。
「そうだな……練習の時にやった木の枝シェルターでいいか?」
んー、まだまだ他の人は居ない場所だしいいか。
「そだね、テントは平野に出てからでいいかな、私は竈を作るからそっちはよろしく~」
「うむ、まかされた! ……木々を司る精霊達よ――」
クリスが〈精霊魔法〉を使うのを尻目に焚火兼竈を〈妖精魔法〉で作っていく、さすがに毎回システムキッチンみたいなのは作らない、あれはやりすぎた……。
……。
……。
ジュージューと音を鳴らしているフライパンを魔法で動かしつつタイミングを見計らう……今だ!
「ほい、出来たよクリス」
フライパンの上の肉の塊を、二つに切り分けた丸パンに葉野菜と共に挟みながら、周囲に警戒用の精霊を設置していたクリスを呼ぶ。
エルフ謹製の白パンに挟んだのは、ひき肉の塊焼き……まあ、ハンバーガーだね、今日は作り置きのデミグラスソースで味付けをしている。
「おお、前にフィオが作ってくれたハンバーガーという奴だな、美味そうだ、さすがだフィオ」
「クリスはこれが好きみたいだからね~、一杯食べてね」
そう言って、大き目のハンバーガー三つをクリスに示してあげる。
「うむ、フィオも食べるのだろう?」
「勿論食べるよ、クリスが今手に取った奴から少し貰ってもいい?」
「うむ、では一緒に食べよう、頂くぞフィオ」
そう言ってハンバーガーにかぶりつくクリス、私はそのハンバーガーの反対側からやはりかぶりつく……といってもパンと肉を同時に食べられる口の大きさじゃないんだけどね。
まぁ同じ飯を同時にかぶりつくという、仲良しの儀式みたいなものだ。
かぶりついた肉だけを、モゴモゴと少し食べたら〈妖精魔法〉を使ってパンや肉を少し切り分け、空中に浮かせながら食べていく。
同じ釜の飯を食う、では無いが、同じ物を食べる事で仲間意識を養っている訳だ……。
ウソですごめんなさい、私の……いや、俺の心の漢部分が、見た目が超絶美女なエルフと同時に同じハンバーガーにパクつくとか尊くね? と囁いたからだ。
心は漢でも体が妖精で女性体だからな……なんていうか……こう……男の性的な物はあんまり湧いて来ないんだよね……まったく無い訳じゃないんだけどさ……。
「もぐもぐ……美味い! やはりこの、肉を細かくしたハンバーグという物はいいな! 毎日でも食べれてしまうぞフィオ!」
「もぐもぐ……もごもご……へーえ……じゃぁホワイトシチューやカルボナーラや味噌煮込みウドンはいらないと?」
「むぐっ! ゲホッゲホッ」
私の言葉を聞いたクリスが咳き込んでしまった。
「ケホッ……フィオは意地悪だな、全部美味しいに決まっているじゃないか……」
「ごめんごめん、これからもクリスの好きな物沢山作ってあげるから許して?」
唇を尖らせて少し拗ねているクリスに謝罪をしていく私だ、クリスはなぁ50歳なのに子供っぽくてつい揶揄ってしまいたくなる時があるんだよね。
「それなら許す、なぁフィオ……今度またナポリタンも作ってくれるか?」
「おっけ~、生パスタの麺は大量に作り置きしたものね、まぁ……クリスの〈空間倉庫〉のほとんどが食料で埋まっちゃったのはあれだけどね……」
「モグモグ……構わん! フィオの作るご飯の方が重要だ」
そういいながらクリスは三個目のハンバーガーに手を伸ばしている……あれ? いつのまに二個も食ったんだ……。
その食べる勢いが止まらなそうなクリスを見て、私は追加を作る事になりそうだと覚悟をし、自分の目の前に浮かべている切り分けたハンバーガーをさっさと食べてしまう事にした。
クリスからしたら小指の先程度の物だが、私にしたら特大ハンバーガーに食らいついていく。
モグモグ、うむ、さすが〈調理〉持ちで尚且つ様々なスキルが内包した〈妖精魔法〉ダブル持ちな私だ……たぶん〈調理〉スキル二個分くらいの腕前になっていると思う……。
やっぱチート種族だよなぁ妖精って、あ、やべ、クリスがもう食べ終わって私が食べている小さなハンバーガーですら羨ましそうに見ている。
すぐ食べ終えて追加作るからさ! 待ってて! ……見た目によらずに結構大食いなんだよねぇクリスってば……その栄養分が何処にいってるのかが謎なんだけど。
胸では無いし、スタイルはいいから無駄脂肪でもない……エルフは亜空間胃袋とかを持っている種族なのだろうか?
……エルフ種族そのものが魔力消費が激しい分を補っている説も考えたんだけど、検証しようが無いよな、実は今だにクリス以外のエルフに出会えてないし。
さて、お代わり作るから材料だして~。
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