第138話 すれ違い
「このわからずや! クリスは旅に出ない方がいいかもね!」
「それはこちらのセリフだ! フイオは旅に出ない方が良い!」
私とクリスはお互いにそう叫ぶと。
「ツーンだっ!」
「ふんっ!」
お互いに顔を背け合った。
まったく話を聞かないクリスが悪いよね!
「……」
「……」
「何をしているのよ貴方達は……」
私達がそんな事をしていると、妖精の女王様が近くに飛んで来た。
「聞いてよ女王様、クリスったら聞き分けが無いんだってば!」
「妖精の女王よ、配下の躾をちゃんとした方がいいぞ」
女王様に向かって私とクリスが同時に話し掛ける、そうなるとお互いの視線がまた横目で合ってしまうので、すぐさま反対方向へと顔を向ける。
「プイッ」
「むむっ」
「ケンカしているの? その割にフィオルネはエルフさんの肩に座ったままの様だけど……」
え? それは、だって。
「ここは私の座る場所だし?」
「そこはフィオの居るべき場所だから仕方ないのだ」
「仲良しじゃないの……はぁ……それで? 一体何を言い争っていたの?」
私とクリスは女王様の質問を聞くと、お互いの視線を横目で合わせる。
「聞いてよ女王様、私がクリスにね、『クリスはすっごい美人だからお外ではフードか何かで顔を隠した方が面倒事も少なくなるよ』って言っても聞いてくれないんだ」
「折角外に行くのにそんなコソコソしてどうなるというのだ、私には〈精霊魔法〉や各種戦闘に使える能力もあるのだし、悪党相手等どうにでもなるだろう? そう思わんか妖精の女王よ」
そして私達の話を聞いた女王様は。
「エルフさんに戦う術が十分にあるのだし、ここはエルフさんの方が正しいかしらねぇ?」
ええ? そんな馬鹿な……。
「だって女王様、クリスの事ちゃんと見てよ! このサラサラで絹糸の様に細く、そして黄金のごとく輝く金髪、同じく金色で長い睫毛、さらにぱっちりとしつつも涼し気で、ついついじっと見てしまいたくなる碧眼、鼻も高くシュッっとした程よい形、そして血色のいい唇で男なら誰でもキスしたくなるような口元、こんな美人が出歩いていたら、男共が一歩ごとにナンパして来るに決まっているでしょう? それだといつになっても前に進めないじゃないか! 悪党が襲ってくるならぶちのめせばいいけど、ナンパみたいな声を掛けて来ただけだとそうもいかないんだってば!」
はぁはぁ……長文を早口で言ったのでちょっと疲れた。
「あ、あら……そう……そういう意味で言っていたのね……それならまぁフィオルネの言う事が正しいのかしら? エルフさん?」
よし! 女王様が私の方の意見に同調してくれた。
「まったくフィオは大げさなのだ、私などエルフの中ではまだまだ子供だし、それほど美人とも言えぬのに……それよりもだ! 危ないのはフィオの方だ! フワフワとした少しクセっ気のあるピンク色の髪、肩まで伸ばされたそれはフィオの元気の良さに非常に似合っている髪型だ、そして背中の蝶の様な羽は桃色が優しげでフィオの可愛らしさを惹きたてている、その宝石の様な目といい小さくて可愛らしい口といい、顔のパーツはあどけなさを感じて非常に愛らしい、フィオこそ私のポケットに隠れて移動をするべきだと思うのだがな、私が悪党なら可愛いフィオを攫うぞ? どう思う? 女王よ」
「またそれだ、私なんてそこらの妖精と変わらないでしょうに、クリスは大げさなんだから……さっきからこんな調子なんだよ、女王様はどっちの言い分が正しいと思う? ってあれ? 女王様何処いくの?」
妖精の女王様は私達の両方を順番に見ると、溜息を吐きながらいつもの定位置の大きな花の生えている方に飛んで帰って行った……。
あれ? 判定は?
その女王様の行動にびっくりした私とクリスはケンカしていた事も忘れて。
「どうしたんだろうね女王様は」
「うむ、体の調子でも悪いのかもな、フィオも気をつけろよ?」
「私は大丈夫だよ、妖精は守護樹の実を食べてるから病気になり難いって女王様も言っていたし」
「そうか、それなら安心だ……ん? では女王はどうして急にげんなりした表情で去っていったのだ?」
「んー……私達のケンカに巻き込まれたくなくて逃げちゃったのかも?」
「なるほど、それは悪い事をしてしまったな」
「だねぇ、クリスが強情だから」
「フィオが聞き分けが無いからな」
「む?」
「ぬ?」
「いやだからねクリス、クリス程綺麗な人は居ないんだってば!」
「フィオの方こそ、自分が最高に可愛らしいという事を理解していないのだ!」
むー……これは説得に時間かかりそうだなぁ……。
……。
……。
――
「よっこいしょ、はい、次はクリスの番だよー」
「むむ……少し待ってくれ、今考えている……」
私とクリスの、相手が美人か可愛いと認めるまで終わりません合戦、に勝負がつく事は無く、仕方ないので今はゲームで勝った方の言い分が正しいという勝負をしている。
将棋よりもチェスに似ている盤上遊戯で駒が使い回せない、ただし使われる駒は自分で様々な種類の中から選ぶ事が出来るし、予備兵力という概念もある、細かいルールは色々あるのだがまぁ……自分でデッキを組むカードバトルを将棋盤より目の多い盤の上でやるような物かなぁ? ついでにサイコロを振る運の要素もある。
説明が難しいが、この異世界で昔から遊ばれていた、大きい将棋盤の上でやるSLGゲームやらカードバトルをやっていると思ってくれ。
この大陸の上流階級に居た頃は噂として聞いた事があったが、クリスの〈空間倉庫〉に遊戯一式が当然のごとく入って居るあたり、エルフ種族は、この昔からの盤上遊戯が好きっぽいね。
私はSLGのゲームやカードバトルもやった事があるので取っつき易かったけど、ルールが結構複雑で獣人族や庶民階級にはまったく流行らなかったっぽい感じなのよね……庶民にはほとんど知られてなかったしな……。
だからこそ私の前世が流行らせた将棋やリバーシみたいなルールの簡単なゲームが庶民に流行っちゃったんだよね。
「よしここだ!」
む、クリスが騎兵の駒を大胆に進めて来たなぁ……あれは囮? いやでも対応はしないと、将軍の駒が地味に効いてて嫌な位置だ、これはまずいかも? となると、強引にでも王手を掛けて終わらせる術は……詰み筋は無さそうだけど……クリスが応手を間違えたらさっきの騎兵が死に駒には成りそうだね。
よし。
「んじゃ王手」
「むむ、強引に来たなフィオ、だがしかし私は逃げる」
「だろうね、でもこれで王手」
「ぬぬ、むー……あ、いや将軍駒をこちらに回せば、ふっ、無駄な王手だったなフィオよ」
「はい、じゃ騎兵駒にアタック、サイコロをコロコロっとな……はいこちらの勝ちで騎兵駒君バイバイ」
「ぬぁ! そうか将軍を動かしたから、いやしかし強引な王手でフィオの陣も崩れている……」
まぁそうだね、実は私は詰む一歩手前だ、だがしかし盤外戦術というのをクリスは知っているだろうか? 例えばだ。
「ほれほれクリス、そっちの持ち時間である砂時計が落ち切っちゃうぞー」
お互いの持ち時間を測っている二つの砂時計は私の前世のドワーフ王が広めた物だ、時間の単位を決めちゃうのに便利って事で普及させたんだけど、こんなエルフの郷にまで広まっているってのは嬉しいね。
元々の時計というか時間の概念が一日を12分割するものだったから24時間制にするのは楽だったんだけどね。
自分の手を打つたびに自分の砂時計は横にされ、そして相手の砂時計を立てているのだが、まぁそんな細かい話はいいか。
「むむ、時間がないのか……ええいここだ!」
お……焦ったクリスが駒を置いたその場所は……ふふふふふふふ。
「じゃ私はここだね」
私が駒を動かすとクリスの顔色が青くなった。
「あ、いや、フィオよ待ってくれないか」
「ええ? それはずるくない?」
「さきほどフィオの待ったも聞いたではないか」
「……それもそうか、じゃぁ二手戻す?」
「うむ、感謝だフィオよ」
……。
……。
そうしてお互いに待ったを認め合う私とクリスの盤上遊戯での勝負は決着がつく事は無かった、なぜなら途中に妖精達の遊んでアタックが入っちゃったからね。
美人vs可愛い勝負の結果?
ああうん、まぁしょうがないから、お互いがそれを認め合うという引き分けにしといたよ、まったく……クリスの方がすっごい美人だって言うのに……仕方のないエルフッ娘だよね?
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