第136話 守護樹
「ほいっ! 良し乗ったぁ! ……倒れないな……いよっし!」
「あー今ちょこっとグラグラしてたのにぃ! 次私かぁ……そっと……そっと……」
「「「「がんばれ~」」」」
……。
……。
いつもの妖精の園である花畑、私とクリスの視線の先では、妖精達が自身の顔ほどの大きさの金属貨幣を使った塔の作成で遊んで居る。
要は順番に一枚づつ乗せて塔を作り倒れたら負けという奴だ、最初はみんなおっかびっくりと真っすぐ乗せて居たのだが、慣れてくるとわざとずらして乗せる妖精が出て来たので白熱したバトルとなっている様だ。
「あれだけあれば資金としては十分だねクリス」
私は妖精達の遊ぶ、金貨と銀貨と銅貨の入り混じった歪な形になりつつある塔を指さす、ちなみにすでに塔の高さは妖精二人分くらいになっている……君達器用すぎないか?
お金はそれ以外にも周りにざらざらっと置かれており、貨幣の小山をいくつも築いている。
「それなのだがなフィオよ」
「なーにー?」
「例の黄金酒を、私達が外に行く前にもう少し欲しいと上の者が言い出したのだ」
「クリスの〈空間庫〉に有る奴渡しちゃえば?」
「……それはとっくの昔に提供済みだ……こっそり持っているのが〈看破〉持ちにバレてしまったのでな……」
あらまぁ……まぁ元々渡す予定の物だったんだけど。
「なんでまたそんな話に? 何百年でも待つって言ってたじゃん」
「あー、このあいだ来た時に黄金酒を酒好きと錬金術師が血走った目で欲しがっている話はしたよな?」
んー……そうだったっけか?
「よく覚えてないけど……錬金術師で酒好きって事?」
「いやいや、黄金酒の材料である、ほら、世界樹の実は錬金術の素材としても優秀だろう?」
ん? んん?
「えーっと、この守護樹って世界樹って呼ばれているの?」
「私達エルフはそう呼んでいるな」
あらまぁ……この樹がねぇ……そういや魔物を退けるし、例えエルフでも許可のない奴は花園に入ってこれない領域を作りだす樹だものな……。
あ、クリスは私と契約を結んだパートナーという扱いなので出入り自由だ。
「クリス~世界樹ってもしかしてすっごく貴重な樹という事なのかな?」
「そうだなぁ……んーエルフの錬金術師や長老達が言うには世界に一本とかそういう物では無いらしいのだが、世界樹は自らが張っている結界内に居る為に素材を手に入れる事はすごく難しいとかで、そんな世界樹の実を使った、あの黄金酒があれば効果の高い魔法薬を作れるとかなんとか?」
ああ、良かった、この守護樹が枯れたら世界が終わるとかそういう類では無かったみたい。
後ちょっと気に成るのが。
「魔法薬?」
「フィオは知らんのか? 飲むと様々な効果が出る魔法の薬だ」
!!!!!!
「それって体力を回復したり! 魔力を回復したり! 怪我や欠損を治したり! 病気を治したり! 毒や麻痺なんかの状態異常を治したりする!?」
私はドキドキしながらクリスへと早口で質問をした。
「お、おお……急に早口でどうしたフィオ……えっとエルフの郷で普通に出回るのはちょっとした怪我を治したり多少の解毒作用があったりする物だな……黄金酒を素材にした薬だと〈回復魔法特〉並みの効果を出せるという話だったが、それがどうかしたのか?」
「ポーション来たぁぁぁぁぁぁ!!!!」
いやっふー、私は嬉しさの余り飛び上がってクリスの周りをグルグルと飛び回った。
魔法薬だ! 獣人社会とかで流通している漢方薬みたいのじゃなくて、ファンタジーな魔法薬があった! しかも〈回復魔法特〉並み!? それって欠損や病気も治せる奴じゃんか!
私は嬉しさの余りにクリスの顔にへばりつくとキスの嵐を見舞う。
「フィ……フィオ? どうしたのだ、ちょっ! 急に飛び出したと思ったら私の顔にしがみついて……って頬にキスをするな! こら! そういうのは夫婦になる男女がだな、って聞け! もう! ……なんなのだ一体……」
……。
……。
――
「あはは、ごめんごめんクリス、ちょっと嬉しさの余りに興奮しちゃってさ」
ちょっとはしゃぎ過ぎた私の行動にクリスは怒り、頬をプックリ膨らませて口を聞いてくれなくなった。
「ごめんってばクリス~、魔法薬が見つかった事に嬉しくなっちゃってね、ね~許してよ~」
クリスの肩に乗ってその真っ白な首の肌に触りながら謝るも、彼女は私とは反対方向に顔をプイッと向けて返事をしてくれない、かといって私を肩から叩き落としたりはしないのがクリスの優しい所だ。
「……反省してるか?」
「うん、キスは恋人同士がする事だったよね、ごめんごめん、もうしないから」
「親愛のキスはオデコにするものであって、頬へのキスは恋人か自分の子供にする物なのだ……」
「ん? あーうん、えっと……やるなら頬じゃなくオデコにしろって怒ってたの?」
「当たり前だろう! まぁ……エルフの作法と妖精のそれは違うのかもだけど……」
親愛のデコチューはいいんだね、つまりそれくらいは私に心を許しているって事か……なんだかちょっと心がくすぐったいね。
「……判ったよクリス、じゃぁ親愛のキスで仲直りだ」
そう言って私はクリスの肩から顔の前へと浮遊をすると、オデコにチュッっとキスをした。
「うむ、では私も……フィオは小さすぎて難しいな……チュッ」
キスというよりも頭から齧られそうなキスをクリスから受けて仲直りをした私達だった。
……。
……。
「それでフィオはなんであんなに喜んでいたのだ?」
「あのねクリス、外には魔法薬なんて出回ってないの」
「は? いや魔法薬なんてあり触れた……ええ……そうなのか?」
噂では聞いた事があるんだけど、ドワーフの国王でも詳しく知る事が出来なかったのは……何処かで情報封鎖されている?
エルフが外と交流をしているのなら物が多少は出回りそうだし……いやでも、ちょっと傷が治せる程度の薬なら〈回復魔法微〉でいいじゃんってなっちゃうかもか。
私がイメージするくらいの効果のある魔法薬は、作る為の素材が貴重だから今までは外に出て来なかったという話なのかもしれない。
「〈回復魔法〉の使い手って少ないからさ、病を治せたりする薬はものすっっっごく需要がある、逆に有り過ぎておいそれと外に出せないけども、エルフの秘薬という事にして交渉の材料には出来そう」
「ふむ、確かに黄金酒が無いと作れない魔法薬は貴重かもだが……」
そう言ってクリスは上を見上げる、そこにはもうすぐ10月らしいのに葉っぱも花も元気一杯に咲き乱れる守護樹の姿があった、勿論金色のリンゴみたいな実も一杯生っている。
うん……素材一杯だね……。
「黄金酒じゃなくても、クリスがそのまま守護樹の実を持っていったら駄目なの?」
「世界樹には意思があるとされている、極まれに世界樹に許された場合を除き、実や花や葉っぱを妖精以外が手にすると枯れてしまい、錬金術的に何の意味も無さない物と成るそうだ」
「んー、でもこないだはクリスも実を潰すお手伝いしてくれたよね?」
「それは恐らく私とフィオが名を交わした仲である事と、あくまでお手伝いだったからという事で許されたのでは無いかと思うのだが……」
「普通にクリスは実をつまみ食いしてたのにねぇ? 不思議な話もあったもんだね」
「あれはフィオが私の口に実の欠片を放り込んで来たのではないか!」
「そうだけど、美味しく無かった?」
「……美味しかった」
クリスの素直な感想にふふっと笑いの零れてしまった私は。
「では、実験をしないとね」
「実験?」
「本当に枯れるのか、クリスは持つことが出来ないのか、諸々をね」
「……貴重な素材を実験で枯らすかもしれないのは緊張するのだが……」
「外では貴重でも、ここでは私達が毎日食べるご飯だよ、クリス」
「……そういえばフィオが前にそんな事を言っていたな……」
……。
……。
――
そうして色々と実験をした私とクリス。
世界樹の素材をそのままクリスの〈空間倉庫〉に入れると枯れてしまう事が判った。
クリスが妖精の花園の結界内で実や花を持っても大丈夫だったが、それを持ったまま妖精の花園を出て行こうとすると枯れてしまった。
ではと、実をその場で食べてみたら、普通に食べる事が出来、その美味しさにクリスがすっごい喜んでいた。
つまり妖精がなんらかの加工をした物なら外に持っていけるという事か……てことで黄金酒や花蜜酒を造りつつも、守護樹の葉っぱや花でお茶を作ったりしてみる実験も始める事にした。
私とクリスがお外に行ける日はいつになるのやら……。
そういや守護樹の周囲に枯れ枝とかは一切落ちてないんだよねぇ……燻製用のチップとかにしたいのにさ、守護樹にお願いしたら枝とかくれるかなぁ?
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