第135話 金策の目途
ツンツンッ。
私の前で花畑に倒れ伏しているクリスの頬を突いてみるも反応が無い。
「反応が無い、死んでいるようだ」
「誰が死んでいるだ失礼な!」
ガバッっと起き上がったクリスが大声をあげる、クリスの荒い言葉遣いも珍しいな。
「だって遊びに来たと思ったら私の前で、これ見よがしに倒れるんだもの、力尽きたのかなって」
「……ある意味力尽きたとは言えるなフィオよ……」
「んん? 何かあったの? クリス」
「先日フィオの作ってくれた酒を持ち帰っただろ?」
ああ、あの守護樹の実を使った酒とか、花蜜酒とか、妖精に集めて貰った周囲の森で獲れる果実を使った酒とかだね。
「おーあれね、お外に売れたのかな?」
「……品質を確かめようとした長老の一人が倒れた」
「はぁ? お酒に弱い人が試し飲みでもしたの?」
「長老は〈品質鑑定〉の能力持ちだ、フィオは知っているか?」
あー前世の知識の中にあるな。
「確か物品の品質が本人にしか見えないオーラによって判断できるんだっけか?」
「うむ、それでな、あの実を酒にした物を鑑定したら、余りの輝きに長老がびっくりして倒れてしまったらしいのだ」
へぇ、あれってそんな価値があるんだ?
「へぇ~、は! と言う事は高く売れたって事だよね!? やったじゃんクリス!」
「長老がぶっ倒れる様な品を売れるはずが無かろう!!! ……エルフ内でもどう扱うかで怒号飛び交う話合いになっていてな……私はそれを持ち込んだ本人という事で何度も何度も同じ話を繰り返しするはめになって……聞く方は一度でも私には違う人間が聞きに来るので何回も何回も何回も何回も何回も同じ話を……すべて断れない筋からの要請であったので……大変だったのだ……」
あらら。
「大変だったねクリス」
私はそう言って花畑に女座りをしているクリスの頭の側までフヨフヨと飛んで行くと、頭をヨシヨシと撫でてあげる。
「うう、慰めてくれてありがとうフィオ……と言いたい所だが、元凶を作り出したのはフィオなのだがな……」
そんなの知らんがな。
私はジロっと私を見て来るクリスの視線から逃れるように空中を移動し、サラサラの金髪髪で触り心地の良い床……彼女の頭のてっぺんに座ると。
「そこらで取れる収穫物で酒を造っただけだもの、それに手ごたえ的に最高品質じゃないしね~」
「フィオの言うそこらが恐ろしいのは私だけか……というかあれで最高の品じゃないのか?」
そうなんだよねぇ……一時期は能力を使って酒を造ると、これは最高に美味い酒が出来たって大成功の手ごたえがかなりの確率であったんだけど……なぜか前世あたりからは……数十回に一回は大成功? ってくらいまで落ちちゃった感じ?
まぁ普通に美味い酒は造れるからいいんだけどね。
「それで結局守護樹の……んー金色のリンゴだから黄金酒って呼ぼうか、黄金酒はどうなったの?」
「それを話合う為にここに来たのだフィオよ」
「ほぇ?」
「つまりあれだけで終わりなのか、これからも生産されるかで話が違って来るのだ」
ああ、なるほど……。
「守護樹の機嫌次第かなぁ? 妖精相手になら無限でくれるだろうけど……んー、あ、結局何本渡したの?」
「……、一本だ」
「あは、クリスってば悪い子だねぇ、確か十本以上造って渡したはずなのに」
「あんな大騒ぎになった物をまだまだ有りますよと出せるものか! エルフの酒好き達や錬金術師達が血走った目で会議をしているんだぞ?」
「エルフはノンビリしてそうなのにね」
「エルフは外の者より執着心が薄いとは御婆様が言っていたが、その分自分の好きな事には拘るのがエルフだと、私はこの度の事でそれを思い知ったさ」
エルフにも酒好きがいるってか、そりゃよかった。
「造るのは構わないのだけどさ、私とクリスはそのうちお外に行くでしょう?」
「ああ、それは特に気にしなくていい、いつか帰って来た時にまた造られるのなら文句は言われんさ、彼らは何百年でも待つだろう」
ああうん……エルフってのはそういう種族かぁ……。
「じゃ黄金酒はたまに作るとして、花蜜酒とか他のお酒はどうだった?」
「……私は金が欲しいから酒を外に売りたいと言ったのだが……美味い酒はエルフの郷で消費するのでどうしても外には出したくないと言われたのだ……」
……ドワーフと共通の匂いがするな、同じ妖精種だからかね?
「あはは、まぁいいじゃない、お酒の対価に何か貰ってそれを外で売って来て貰うか……それとも貨幣その物を準備して貰いなよ、私とクリスの酒はお金としか交換しません! って宣言すればお金稼ぎも上手くいくでしょ」
「……な、なるほどー! そんな手があったな! さすがフィオだ」
クリスが感心した声をあげながらこちらを褒めて来る。
なんていうかクリスって天然というか……エルフ種族はみんなこうなのだろうか? この子が一人でお外に行ったら騙される未来しか見えないんですけど……。
「じゃまぁ花蜜酒を作る為にも……クリス」
「うむ、なんだフィオ」
「妖精達の遊び相手よろしく!」
「へ?」
いやぁ、だってさ、花蜜を集めるのは彼らな訳で、そして彼らには金属貨幣なんてなんの意味もないし、かといって白パンとかだけで払う訳にもいかず。
一番良いのが遊びに付き合ってあげて、そのお礼に花蜜を貰うのが一番コストもかからない行為だしな。
「みんなーー! クリスが花蜜をくれるなら好きなだけ遊んでくれるってよーー!!!」
私が大きな声で周囲の妖精にそう教えてあげると。
「ほんと!?」
「あそぼーあそぼー!」
「また追いかけっこしようよエルフさん!」
「わ~楽しみ~」
「僕はかくれんぼがいい~」
「私は『メデューサが振り返った』がいい!」
「私花蜜を一杯集めて来る!」
……。
……。
わいわいと叫びながら妖精達がどんどん集まって来る。
ちなみに『メデューサが振り返った』は所謂ダルマさんが転んだを異世界版ルールに改定した物だ。
「なぁフィオ、妖精達のテンションが高すぎてちょっと怖いのだが……」
「大丈夫だよクリス、たぶん……丸二日くらいで収まると思うから!」
妖精は楽しい事が好きだ、そして楽しさが極まると暴走する、そうなると中々止められないが……ま、クリスならたぶんなんとかなるだろう。
「
私は勿論逃げる為に離れようとしたらシュバッっとクリスに掴まれてしまった。
「離してクリス! 私はあのテンションには付き合えないんだってば!」
「逃がす訳ないだろうフィオ、死なば諸共だ」
「ちょ、私はか弱いから体力的に無理だってば!」
「ふふ、一緒に行く旅の資金を稼ぐ為なのだから、苦労も共にしないとな、皆! フィオも参加するぞ! 最初は何をするのだ?」
ギャー、クリスが私の名前を出して参加宣言をしてしまった……これは逃げられない奴だ……。
「最初は定番のおいかけっこだよねー」
「全妖精捕まえるまで終わらない奴だね」
「次がかくれんぼかなー?」
「全妖精見つけるまで終わらない奴だね」
「他には~――」
……。
……。
妖精達から次々と提案される遊びは私が広めた物もあるのだが……明確な終わりのない遊びを延々とやるからなぁこの子ら……。
妖精達に向けてニコニコ笑顔のクリスだが。
私を掴む両手の力は一切緩められる事は無かった……合掌。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます