第133話 妖精達の友誼

「フィオ!」


 私がいつもの様に妖精達と遊んでいると花園に進入して来る人影が私の名前を呼んだ。


 というか私のフィオという愛称を呼ぶ相手なんて一人しかおらず。


「クリス! いらっしゃ~い!」


 私は妖精同士の遊びを抜けてクリスの元へと飛んで行く。


 なんで守護樹に守られているはずの妖精の花園にクリスが入って来られるのかというと、そもそもエルフは妖精と近しい存在であり守護樹に許されやすい事もあるが、私との契約のせいだと女王様に教えて貰った。


 妖精の花園とエルフの郷がある場所は同じ森という事でそこそこ近いっぽい。


 でもこのクリスの社交性を見るに、前世の知識でのエルフは閉鎖的でっていう話はなんだったんだろうとも思ってしまう。


 ストンッっとクリスの左肩に着地してそこに座る私。


「今日は白パンをお土産に持って来たぞ! 一緒に食べようフィオ」


 クリスはそう言ってから白パンを取り出した。


 そう、このクリスさんってば〈財布〉の上位互換な能力である〈空間倉庫〉を持っているのだ……。


 めっっっっっっっっちゃ羨ましい!!!


 なんでも魔力の多いエルフ種族にはよく賜る祝福なのだとか……いいなーいいなー。


 最初にクリスがそれを使った時は、そうやってクリスの周りをグルグル回りながらイイナー攻撃をして困らせたっけか……。


 いつかエルフに転生したらその能力貰えちゃうんじゃね? ワクテカ。


「ふわふわ白パン美味しそうだねー、それじゃぁ女王様の所に行って花蜜貰おうよクリス」


 そう言ってクリスの肩の上で足をブラブラさせながらクリス号を発進させる。


「うむ、やはり妖精の集める花蜜が一番美味しいからな」


 クリスが守護樹に向かって歩いてくれるので、その肩に座っている私は楽ちんだ、ちなみに少し距離を置いた周りに妖精がうろちょろするもクリスに纏わりついたりはしない……。


 人懐っこい妖精がそんな動きをするのは何故か?


 それはクリスに名前を付けて貰った私が、妖精として契約状態にあるからだと女王様が教えてくれた。


 魔法的な何かではなく種族的なルールというか仕来たりの様な物で、クリスへの優先権は私ことフィオルネにあるかららしい、確かにそう言われると、妖精の本能的な物がそうあるべきだと納得をさせてくるから不思議だ……。


 勿論クリスが新たな妖精に名前をつけたら変わる話なんだけども……名前を大事にするエルフであるクリスティアルは、妖精達に可愛くお願いされても簡単には名前を付けてあげる事はしない。


 まぁそこまで厳しい掟とかそういうのじゃ無いんだけどね。


 今だって女王様に挨拶をして花蜜を使う事を許可されたクリスが。


「では皆で食べよう! 欲しい物は受け取りに来るがいい!」


 そう言えば、一時的な許可を出されたとみなした妖精達がクリスの姿が見えなくなるくらいに纏わりついて来たからね。


 ワイワイキャーキャー妖精達が姦しすぎて何を言って居るのかよく判らない。


 そんなクリス団子の出来上がりだ、肩に乗っていた私の視線は勿論妖精で埋まっている。


 なので、強引にそこを抜け出し空中に飛びあがって少し距離を取ると。


「欲しい子達はちゃんと順番に並べーー!!!!」


 こうやって私が妖精達に秩序を叩き込むのが最近の流れだ。


 てか女王様まで一緒になってクリスに抱き着きにいくなっての……。


 確かにクリスは優しいし美人なんだけど、イケメンの雰囲気を醸し出していて……エルフ姫騎士って感じで魅力的な人ではある。


 クリスがナイフを使い指先程に細かく切った白パンを私が列を作った妖精に渡していく。


 ちなみに列を作らない妖精には、クリスが持って来るお土産を絶対に渡さないので、最近は私が号令を出せばちゃんと並んでくれるようになった……まぁ列の途中でケンカ……というか、おしくらまんじゅうとかは普通に起こるけどまぁそれくらいは放置。


 ……。



 ……。



 ――


 モグモグ、ふわふわの白パンに花蜜をかけた物は美味かった!


「モグモグ、花蜜そのままを飲むよりこうした方が美味しいかもね、ありがとうクリス」


「モグモグ、花蜜が美味しすぎるから何にでも合うのだよな、どういたしましてだフィオ」


 二人してモグモグと食べながら会話をしていく、お土産の白パンを貰った妖精達は優先権のある私やクリスが許可を出さない限り邪魔を出来ない……ので、周囲で遊び始める。


 まぁ私との会話をそれなりに堪能し終わったら、皆と遊んであげるのがクリスの良い所だからなぁ……それを待っているのだろう。


 しかし魔法で成長促進させた花々から魔法で採取していった蜜が美味しいのは判るんだけども、ここまで美味しいのはたぶん、守護樹の花の蜜が混じっているからだろうなぁ。


 いつも食べている金色の小さいリンゴみたいのをクリスにあげようとしたら、すっごいびっくりして、いいのか? と二十回くらい繰り返して聞いてきたから……たぶんすごい素材なんだと思う。


 妖精達は毎日食べているんだけどね……。


 ……。


 ……。


「へー成人の儀? エルフにはそんなのがあるんだねぇ」


「うむ、エルフは50を境に大人としての自覚を持たねばならぬのだ」


 へ、へぇ……さすが長命種のエルフだな、獣人族でも寿命が短い種族なら亡くなってる年齢でやっと成人か。


「クリスもそれを受けるの?」


「いや、もうすでに終わっていてな、これからは好きに生きて良いと言われたのだが……」


 あらま、というかクリスって未成年だったの? 普通に20歳くらいの超美人さんって見えちゃうんだけどねぇ……そうかぁ50歳かぁ……。


「何か悩んでいるなら聞くよ? 私はクリスの家族だからね!」


 私はクリスティアルの肩から空中に飛び上がると彼女の顔の前で浮遊して目線を合わせてジッとクリスの目を見てあげる。


「ふふ……ありがとうフィオ……フィオは家族から聞いていた妖精とは少し違う様だ、こんなに頼りになる妖精もいるのだな……」


 ああ……えーと、普通の妖精は楽しければいいや的な部分があるのは否定しない、まぁ私は前世の記憶知識が一杯あるからねぇ……。


 クリスは私をそっと両腕で包み込む様に掴むと、体育座りをした自分の膝頭に私を乗せる。


 まぁクリスは森を行動するのに長ズボンを履いているし簡易的な皮の防具も着ているので、皮の膝あての上に座る感じだね。


「それで、どうしたのクリス?」


 まぁなんとなく判っている事をクリスに聞いていく、もう何度も何度も会っているし、会話も何十時間としている間柄だからね、なんとなく言いたい事は判っているのだ。


「ああ、えっとな……私は国の外に興味があるんだ」


「うん」


「家族も親族も皆が森の中で暮らす事に何も疑問に思って居ないのだ、それ自体は否定はしない……だが、外との繋がりを保つ為の商人や外交官の同胞から外の話を何度も何度も聞いていくうちにな……」


「うん」


「憧れてしまったのだ」


「うん」


「勿論、同胞が言うにはすごく危険な部分もあるというのは判るのだが……」


「うん」


「それでも自分の目で見てみたいと……そう思ってしまったのだ……」


「うん」


「私は成人をした……なれば自分の意思で森の外に行っても良いのだ」


「うん」


「だから……だからだなフィオ……私は……」


「私は?」


「私はフィオと……その……」


 クリスは言葉の途中で自分の両太ももの間に顔を埋めるがごとく顔を伏せてしまった。


 私からはサラサラ金髪の頭頂部しか見えなくなってしまう。


 うーん……50歳といえど世間知らずの子供みたいな……いや、エルフというのは時間をかけてそうやって大人になっていく種族なのだろう、つまり今のクリスは、他種族でいう成人したての子供から大人になる瞬間と言う訳だ。


「ねぇクリス」


「ん」


 どうしたらいいか判らず言葉も少なくなってしまっているな、いつもは姫騎士っぽい頼りになる感じなのに……可愛いね。


「私は女王様に言った事があるんだ」


「ん?」


「『外に行きたい』って」


 私がそう言った瞬間ガバッっとクリスの顔がふとももから飛び出して元の位置に戻り、私の事を唖然とした顔で見て来るクリス。


「そして女王様にはこう言われたんだ『仲間を見つけなさい、一人で冒険をしちゃ駄目よ?』ってさ」


「それって……フィオ?」


「うん、だからねクリスティアル」


「フィオルネ……」


「私と一緒に森の外を探検しに行きませんか?」


「……」


「あれ? 返事がないな?」


「……私が誘う筈だったんだ……」


「早い物勝ちだよクリス」


「むぅ……」


「それで返事はいかがですか? クリスティアルさん?」


「行くに決まっているだろう! ……よろしく頼むフィオルネ……」


「じゃぁ外でもよろしくクリス!」


「……ああ! よろしくだフィオ!」


 私とクリスはそう言って握手……クリスの人差し指の先を私が両手で握る握手をするのだった。


 ……。



 ……。



 そしてこのままの流れで旅の計画やらの話が出来たら良かったんだけども……。


 しびれを切らした妖精達がクリスに遊びの直談判をし始め、クリスも心の中の迷いが晴れたせいかそれに対して盛大にオッケーを出してしまい。


 いつものごとくの妖精達との遊びが始まるのであった……。


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