第132話 出会い
「……そして……その女の子がその箱を開け様とすると……」
「「「「「「「開けると……?」」」」」」」
「中から……声が聞こえて……」
「「「「「「「聞こえて……?」」」」」」」
「『おばぇもごぢらに……』……わっ!!!!!!」
「「「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」」」
俺の話を固唾を飲んで聞いていた妖精達が四方八方へと無茶苦茶に飛びながら逃げていく。
うーん、ちょっとやり過ぎたか?
「……何をしているのですか貴方は……」
あ、女王様だ、相変わらず7頭身の美少女だね?
「いやほら、楽しい遊びばかりを提供すると飽きるかなーと思いまして、ちょっと怪談話をね」
「……生まれたての妖精がその様な怖いお話を思いつく訳無いでしょう……貴方は特殊個体ね?」
私が座っていた花に女王様も着地をして真横に座って来た、重みで花がちょっと揺れた、女王様が重いのかな。
「特殊ですか?」
「ええ……貴方……前世の記憶があるのでしょう?」
わぉ、びっくりした、女王様がそれに気付くと言う事は、私みたいな転生者が他にも居るって事か!?
「そういう存在を特殊個体って言うのですか?」
「ええ……私達妖精はあちらとこちらの狭間に近い存在だと言われているの……何処か別の妖精郷か、それとも昔ここを出ていった妖精の生まれ変わりかしら? たまに前世の記憶を継いでいる個体が出るのよ……私の様に」
む……俺の転生とは少し違うっぽいな、残念、てか女王様は特殊個体って奴なのか、結構物知りだしな。
「郷を出る妖精も居るのですか? 女王様」
「ええ、好奇心旺盛な子は止めても出て行っちゃうわね……」
女王様は悲しみの表情を浮かべている、もしかして貴方も外に出た事がある? その記憶を持って生まれ変わったのだろうか?
生まれ変わると言う事は亡くなった訳で……あ、はい。
「お外に行ってみたいですねぇ」
「……そう……止めてもそういう子はいつか行ってしまうのでしょうね……、いいこと? 必ず仲間を見つけなさい、一人で冒険をしようなんて思っちゃ駄目よ?」
女王様の実体験からくる助言なのかもしれないな。
まぁ妖精なんて希少種がウロウロしていたらどうなるかなんて……悪党ってのは金になるなら人身売買も普通にやるからな……。
「仲間ですね、判りました女王様」
妖精で4人パーティでも組んでいこうかしらねぇ……針の剣を持ち、小枝を杖に、木の実を兜に、ってまるで御伽噺だな。
「それはそれとして……先程の怖いお話はやり過ぎです、ちょっとそこの花びらの上で正座をしなさい」
あ、やべ女王様おこだ、というか実は一緒に聞いていた女王様も実は怖かったのかもしれない。
ここは逃げよう。
「ああっ! 今日は知り合いの妖精と向こうの林で探検をする約束があったんだった!」
さいならー! 羽に魔力を籠めて、さらに≪妖精魔法≫ダブル発動、私は今自分に出来る最高速で飛んで逃げていくのであった、帰ってきたら怒られる? 知らん! 今が楽しくて安全ならいいや、ってのが妖精のポリシーらしいので私もそれに習う。
ビューンッと、ママチャリを競輪のプロスポーツ選手が本気で漕いだくらいの速度で飛んでいく。
「こら、戻ってきなさーーーい!!」
女王様が大きな声をあげているが、今は無視をして一旦花園から離脱だ!
……。
……。
――
ふぅ……しばらく時間を何処かで潰すかぁ。
フヨフヨ……魔力消費を考えて花園から離れた林の中をゆっくり飛んでいく。
女王様曰く、花園から多少離れても守護樹の効力はあるので大丈夫という話だが、一応魔物や獣には警戒をしていこう。
まぁでもたまにここらに来ても何かを見つける事なんて……無かったんだけどなぁ……。
私の視線の先に誰かが木にもたれ掛かって倒れているのが判った……えーっと、何かの罠の可能性を考えて距離を取って確認をする、周囲に人影無し、気配も無し。
実はさ≪妖精魔法≫って色々なスキルや魔法を……基本的な物より弱い効果になるけど使えちゃうって感じの効果なんだよね。
これやべーだろ、気配察知とかもそこには含まれるのだけど、私はほら、≪妖精魔法≫をダブル取得したからさぁ……たぶん普通の人が覚える〈気配察知〉と同等くらいで使えちゃうっぽい。
妖精って神に優遇されてるのかねぇ?
……いやでもシングル≪妖精魔法≫だと弱っち過ぎるか? ……むしろ絶滅しないようにという補助輪みたいな物かもしれないな。
まぁ話を戻して倒れている人にフヨフヨと飛んで近づいて行き、観察をする、草食動物くらいしか居ないはずの林で、木にもたれ掛かる様に倒れている一人の……あ。
「エルフ?」
その顔の横から伸びている先の尖った耳は特徴的だ、獣人では無いしドワーフっぽい背丈でも無い、む、私の呟きが聞こえたのかそのエルフっぽい人が顔を上げた。
うわぁ……すっごい綺麗……たぶん女性? 真っ白な肌にロングな金髪で、顔をあげた時にサラサラと髪の毛が流れていく様はCMとかに使えそう……。
いやぁ……今まで美人や美少女は色々見て来たけど、この人に対抗を出来るのはたぶん……前世の知識でいうあの女王様になった銀髪の子くらいかなぁ……。
「ようせい……か……すまない……が……君の……魔法で……解毒を……かけて……くれない……か?」
あー、なんらかの毒を食らっていたのか、倒れているのに周囲に血とかが流れていないっぽいから罠の可能性を考えちゃったんだよね、なるほどなるほど。
んー≪妖精魔法≫の中に回復系の物はあるから解毒は出来るのだが……まぁ森エルフの盗賊ってあんまり……というか一度も聞いた事無いから大丈夫かな?
まぁ駄目なら私の見る目が無かったと言う事で。
私はそのエルフのサラサラ髪な頭の上に降り立つ、肌に触れながら使う方がいいからさ、それ以外は皮鎧着てるし長袖だしで触れる部分が手くらい? 手はほら……掴まれるのが嫌だから……一応警戒をして頭上に居座る事にした。
さて≪妖精魔法≫ダブルで回復系の解毒を、魔力増し増しで! てりゃぁー!!!
……。
……。
――
「助かったよ妖精殿」
そうやってエルフさんは地面に女性座りをしながら、彼女の頭上に未だに居座る私へとお礼を言って来る。
「どういたしまして……エルフさん?」
「ああ、私の名前は……って頭から降りて貰っていいかな? 会話がし辛いのだが……」
「私の事を捕まえようとしたりしない?」
一応そうやって頭上から聞いてみた、ほら≪妖精魔法≫があれば嘘を見破る〈看破〉に近い効果の能力も使えちゃうからね……それをダブルで強化した状態で使えるのはまじでチートだわ。
「我が父祖の名に掛けて恩人に危害を加える様な事はしないと誓おう!」
ふむ、大丈夫っぽいな。
フヨフヨと頭上から浮かび上がりエルフさんの顔の前で浮かんだままになる、うわー苦しい表情じゃない顔はまじでやばい美人さんだ。
「こんにちは、エルフさん」
そうやって空中にフヨフヨと浮かびながら、自分のワンピースのスカートの裾をちょこんと掴みカーテシーをしつつ挨拶をする私だ。
「ああ、こんにちは妖精殿、私の名はクリスティアル・フィオレア・オルネラ・アントネッラ・クララ~~」
「待って待って! 長い長い長い!」
私は呪文の様な物を唱えだしたエルフさんを慌てて止める。
「どうした妖精殿」
「もしかしてエルフさんの部族では先祖の名前が連なっていく感じ?」
「うむ、過去からの系譜が判るし、血筋に誇りを持てるという最高の名前だろう?」
コテッっという音が聞こえそうな感じに首を傾げて聞いてくる美人エルフさん。
本気でそう思ってやがる……、てか〈看破〉系ってバッシブじゃなくて魔力消費型のアクティブスキルなのな……魔力勿体ないしもう止めておくか。
「すごく素敵な名前だけど、呼ぶには長いかな……、一番新しい部分だけ教えてくれる?」
「ふむ、それならばクリスティアルだ」
「おっけークリス、よろしくね」
私はまだ長い名前をそう短く切って、空中に浮かびつつ片手を腰にあてて、もう一方の手をピースにして挨拶をするのだった。
「愛称は家族くらいにしか呼ばせぬのだが……命の恩人なら構わんか、それで貴方の名は何と言うのだ?」
名前? ……おお! そういや妖精の郷では名前とか聞かれないし必要無かったから考えて無かったわ。
呼ばれる時も『ピンクの羽が綺麗な貴方』みたいな呼ばれ方だし、一般的な妖精には名前が無さげか?
「んー名前は無いから好きに……いえ、クリスが私の名前をつけてよ」
「わ……私がか? そんな大事な物を私に……いいだろう! では……私の母の名前と御婆様の名前を合わせて……フィオルネというのはどうだ?」
エルフは名前を大事にする種族なのかな? それともクリスの部族だけかもしれないけど……ダークエルフ……じゃなかった褐色肌エルフとかは獣人社会でもたまーーーに見かけたけど、そんな名前がどうのとかそういう噂とかは聞いた事ないよなぁ。
「フィオルネか……いい名前だね、ありがとうクリス、私の名前はフィオルネだよ、フィオって呼んで!」
「うむ、お互いに愛称で呼び合い、そして私の母と御婆様の名を与えた訳だし、私とフィオは家族の様なものだ!」
へ? あれ? エルフってそういうお堅い感じなの?
「ふーん、じゃぁ私とクリスは結婚したの?」
せっかくだし少し揶揄っておこう、私の今生はイタズラの好きな妖精だしな。
「……へ? ……は? い、いや! 待て待てフィオ! 確かに親しい間柄に成ったのだが、それは違うぞ!? いいか、結婚というのはだな、男性と女性がだな――」
どうにも生真面目っぽい美人金髪金目エルフのクリスは、私に結婚や性別の話を懇切丁寧に教えてくれるのだった……。
う、うん……イタズラだったって言えない雰囲気だな。
へ、へぇそうなんだ? 男の股間にはそんな機能があるんだねー、へーーーシラナカッタなー。
超絶美人エルフにされる保健体育の授業だ。
うん、クリスは揶揄っちゃ駄目なタイプの人間……エルフかもしれない。
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