第131話 遊びのカリスマ

「もういいかーい!」


「「「「「「「まーだだよー!」」」」」」」


 妖精達が元気よく大声で唱和をしている。


 私はそれを少し離れた地点にある花の上に座って見ている。


 所謂『かくれんぼ』という遊びを私が教えたからなのか、最近の妖精達の流行りになっている様だ。


 彼ら彼女らの遊びってさぁ、追いかけっことか、美味しそうな木の実を探したりとか……それくらいだったんだよね。


 それでも十分楽しそうにしてたんだけども、こうやってちょこちょこ遊びの種類を増やしてあげている。


 ちなみに追いかける側を『鬼』とは言わない、だって連合にはそういう角のある鬼人族種族が居るのだもの……。


 私のこの言葉の自動翻訳がどうなっているのか良く判らないのだけど、もしかして角のある鬼人族の事を自動で示してしまうと可哀想なので……。


 今のところは『かくれんぼ』と呼び、参加者の役割を『探し役』と『隠れ役』と表現しているけど……そのうち『狼とウサギ』とか『衛兵と盗賊』とかそんな感じの遊びの名前になるんじゃねーかなぁ。


 妖精達の間だと動物の名前が有力かねぇ、『イタチとネズミ』とか?


 次は≪妖精魔法≫を使い植物から作った縄を操って縄跳び……羽が有って浮かんで居る妖精だと面白くないかもか。


 となると子供の頃の遊びってどんなのがあるっけか、携帯ゲームとかは無しな。


 んー……、一輪車とかフラフープ? ルールの細かいサッカーやバスケなんてスポーツは難しいよなぁ……ドッチボールとかも≪妖精魔法≫があるとちょっとなぁ。


 魔力量の差で勝敗が決まっちゃうのは……かといって将棋やリバーシは合わなそう……精神性が見た目より幼いからなぁ……。


 私の知識の中でも子供に協調性を教える為にルールのある遊びを奨励していたのが読める。


 ルールを守らないと遊びに入っていけないとなると、子供達は秩序を守るっていう事を勝手に学んでくれたんだよね、だるまさんが転んだとかお互いに信頼出来てないと遊びとして成り立たないからね。


 完全に動いちゃってそれを指摘されているのに、俺は動いてねーよ! みたいな事を言いだす子供は自然とコミュニティから外されちゃうからな、そうなりたくないと協調性というものを身につけさせるのにはこういう遊びを子供の頃にやらせるのはすごく良い……と思う。



 妖精に効くのかは知らんけど。


 あ、そうだ。


 シャボン玉作ろう。


 えーと女王様の所に行くか。


 そうして私は自身のピンク色の羽に魔力を籠めて守護樹へ向かってフヨフヨと飛んでいく。


 実は種族の固有能力だけだとそんなに速度は出せない、〈風魔法〉や、ずばりと〈飛行魔法〉なんかがあるとすっごい早くなるらしい。


 私が魔力を羽に大目に籠めれば……ママチャリの最高速くらいかなって程度。


 風圧を考えると十分それでもすごいんだけどねぇ……そういった物理的圧力を≪妖精魔法≫で消せるからさらに速くはなれる訳だけど。


 まぁ今は魔力の無駄遣いはしない。


 フヨフヨフヨ~っとのんびり飛んでいく。


 羽をパタパタ動かさないでも飛べるのでパタパタという表現には成らない。


「あら、どうしたの? 皆と遊ばないでいいの?」


 女王様はいつもの様に守護樹の洞の前に大きな花を咲かせてそこに座っていた。


 花を咲かせるのは妖精の得意技でもある。


 そして女王様の恰好は前の一枚布ではなく、私が作ったドレス姿で美少女が際立っている。


 私は最初に作った白地に緑糸で刺繍が施されたワンピースのままだ、服も体も綺麗にする能力が≪妖精魔法≫の中に色々含まれている、すっごい便利、細かい話はまた今度、今はシャボン玉が先だ。


「女王様、シャボン……こう泡が一杯できる植物知りませんか?」

「泡? そうねぇ……確か向こうの――」


 ……。



 ……。



 女王様に聞いた植物の実、地面に落ちて乾いて居る物を採取してきて……。


 乾いた実を剥いてあげると黒い種が出て来る、確か皮を水につければ泡が出るとか……えっと。


 ≪妖精魔法≫で大きな葉っぱで作った器に水を出す、様々な初期魔法が使えるから便利なんだけども、規模が妖精基準なんで……人間とかから見たら便利とは思わないかもね。


〈水魔法〉や〈水生成〉も持っているけど今使う規模の物では無い。


 皮を入れてモミモミっと……なんかもう大きさ的に手で服の洗濯物をしている気分だ、種なんてボールとして使えるくらいの大きさがあるし……妖精基準でね。


 おーう、泡が一杯出て来た、さてあとは花蜜を少し入れて液体に少し粘り気を出してっと。


「ねーねー何してるのー?」

「泡の実?」

「わー泡泡だね」

「この子のやる事だし、新しい遊びに使うんじゃ?」

「これを? どうやって?」

 ……。

 ……。


 まだ実験段階だったから女王様の近くで彼らに見つからない様にやっていたのに、あっという間にばれてしまった……、そうしてかくれんぼを辞めてこちらに集まって来る妖精達。


 まだ上手くいくかは……まぁ試してみればいいか、液体は出来たから、これを小さな花の器にシャボン液をちょこっと入れてあげて、それを片手で持って。


 もう片方の手で植物の茎を魔法で加工したストローとして使って……そのまま覗き込んでいた妖精達の頭上へと飛び上がる……フヨフヨとゆっくりね。


 そうして、ストローを使ってシャボン液をフーーーーーーーーッ!!!!!


 結構肺活量がいるなぁこれ……≪妖精魔法≫で風を操ってやっちゃう事にした。


「わー! 何か出たー!」

「キラキラ綺麗……」

「わーわーすっごいすっごい!」

「なにそれ! なにそれー!」

「わー綺麗……わわ! 触ったら弾けた!」

「あははパチパチいってる」

 ……。

 ……。



 騒ぐ妖精達の頭上からどんどんシャボン玉を落としていく私、へいへいへーい、全部潰せる物なら潰してみろってんだ。


 ≪妖精魔法≫で軽い上昇気流も作りシャボン玉を落ちていくだけじゃなく、散らして浮上させたり不規則な動き方をさせる。


 それを見た妖精たちは歓声をあげて追いかけたり触ろうとしたりする。


 ……その中には女王様も混じって居た、あ、うん、私らより成長しているように見えるけど彼女も妖精だしな、本質はそうだよね。


 そして触って壊すよりもシャボン玉が飛んで居るのを見るのが好きそうな妖精達にシャボン玉の作り方を教えていく。


 わいわいキャーキャーと作られては弾けるシャボン玉、その表面が虹色に輝いているのも不思議なのだろうね、自分達が虹を作り出せる事に興奮をする妖精も居た。


 そうして私は、新たなにシャボン玉遊びという文化を妖精達に伝えるのであった。


 ふふり、遊びのカリスマと呼ばれる日も近そうだ。




 ……遊んでばかり居ないで何処かに行かないのかと思うだろう?


 いやさぁ……妖精って弱いんだよね。


 ああいや、言葉の使い方が難しいな……弱いとは言い切れないけど。


 んーと……自身が小さいから相手が大きいと辛いというか?


 女王様に聞くと人間種は大きいって言ってたし、やっぱり私の体が小さくなっちゃったみたいで、例えば〈魔拳術〉とか使っても大きな獣に効くかっていうと……まぁ肌に小さな穴はあけられるかもだが、致命傷は難しい、そうして反撃を食らえば人間が大型トラックにぶっとばされる様な物だろ?


 まぁ倒せなくは無いんだけど……前世の記憶にあるティラノサウルスみたいな相手がそこら中に居る様な状況って言えば判るかなぁ?


 体格差って重要なのよまじで、まぁ〈妖精魔法〉ダブルも有るし頑張ればそこらの魔物も悪党な人間だって倒せない事はないだろうけど、ミスったら一撃食らって死んじゃいそうな世界に一人で飛び出すのは怖いよ。


 タイマンなら魔力に物を言わせて勝てるとは思うんだけどね。


 誰か保護者的な人が居てくれたらなぁ……。







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