妖精の園

第130話 新たな目覚め

 む、前世の人間の時の記憶が本のごとく感じるって事は……転生したか……。


 最後の方は病で寝込んでた記憶があるし、それならこんなに体が軽い事はありえないもんな……あのまま死んじまったっぽいな。


 まぁまぁ長生き出来てやりたい事も色々やれたみたいだし、あれくらいの文明で人間種なら長生きな方なんじゃないかな?


 それでっと、なんか周囲が壁で覆われて真っ暗だけど、その壁がうっすら光ってるから〈夜目〉のおかげで結構見えるな。


 うむ……祝福能力は減ってなさそうだ、まずはパンツ、いや付近に荷物があるか確認かな。


 っと壁が光ってると思ってたけど、外の光をほんの少し透過している? すっごい薄い壁、あ、柔らかいな、弾力のある壁だ。


 というかめっちゃ狭い、俺が居るだけで一杯な、形が歪な箱に詰められている、そんな感じがする、何処かに箱詰め状態で出荷されちゃう? ってなイメージ。


 まぁまずは自分の確認から〈夜目〉だと色がよく判らんのだが、髪は肩くらいまでのサラサラのミドルヘア、体は華奢だな、筋肉が無いこの感じは……女性転生か? あ、下半身に男のシンボル無かったわ……。


 でも胸もペッタンこ……いや微妙に膨らんでいるか、体を色々触って確かめると大人って感じがしないかなぁ……?


 うー狭くて動きにくいし肌の色とかがよく判らん、それとシーツっぽいこの布が……イタッ! 布じゃない……引っ張ったら背中が痛かった……。


 あ……うわぁ……背中の方を意識したら布が動かせる様になったわ、これ、俺の羽っぽい。


 形が……ってか狭いな! 何処から出ればいいんだこれ……まさか閉じ込められエンド?


 うっそやろ!? えっと、ん? お尻の下に自分の羽を敷いてたけど、それをどかしてやると……なんだこれ紐が一杯……ううん……。


 自分の背中に蝶の様な羽を持ち……柔らかくて薄い壁に囲まれ……尻の下に紐というかこれって、床から植物が生えているっぽいか?


 俺はヒビというか筋の一杯入った天井部分に気付いたので体当たり気味で押し上げていく、そうすると窄まる様に重なっていた柔らかい壁がずれていき、白い光が射しこんで……。


「よいしょっ!」


 プハッー、外に出れた……そこは、物凄い大きな植物や花に囲まれた場所だった。


 自分が居たのはそのでかい花のつぼみの中だったみたいだ、周囲より低い場所だった様で周りが見えない。


 花の蕾から完全に体を外に出すと、自由になった背中の羽らしき物が自分の背後に広がるのが理解出来る、ああうん、羽の使い方が本能で判る、それに従い、ほんの少し魔力を羽に通すと俺の体は宙に浮いていく。


 この羽に魔力を通すと浮遊や空中移動の効果があるっぽいなぁ……。


 ちょこっと浮かんで見回すと……周囲はかなり広めな花畑だな、そして周りには空を飛ぶ妖精の姿が沢山いる……うんまぁ、チラっと自分の背後を見ると綺麗なサクラ色の蝶の羽がゆっくりと自分の意思で動かせるのが判る。


 今生は妖精かぁ……うーん、今までの人生社会でも見た事が無い種族だな、一応種族として連合に所属をしているらしいのだけど……会合とか一切出てこないっぽいし。


 だから生態とかもよく判ってない種族なんだよね。


 周囲を飛んで居る妖精たちが俺に気付く、羽の形は蝶だけでなくトンボの様だったり半透明だったり色々だ、でもみんな服? サリーとでも言うのか、なんか単色の布を巻きつけている感じの物を着ているな……ちなみに俺は未だに真っ裸だ。


 ちょっと自分が居た蕾の側の地面を見て見ると、馬鹿でかい大きな布地の……あれは最近よく落ちてるリュックと洋服やな、ただしアホみたいにでかい洋服は絨毯か? って感じだし荷物は軽トラックか何かですか? という感じ……。


 ああうん、俺の背丈が小さいんだろうなぁこれ……〈財布〉の中にあるパンツも履けないじゃんか……どうしよか……。


 いや……パンツを体に巻けばワンチャン服として見えない事も……ないな!


 俺が途方に暮れて周囲を見ていると、同じ妖精である彼ら彼女らが俺の周囲に近づいて来て。


「新しい仲間だ!」

「ようこそ、お仲間さん」

「綺麗な羽だねお嬢さん」

「髪も桃色で可愛いわ!」

「君も一緒に遊ぼうよ」

「まずは女王様にお会いしなきゃ」

「そうだった! ほらこっちだよ新人ちゃん」

 ……。

 ……。

 ――


 わいわいキャイキャイと騒ぐ妖精達、あまりにもうるさいので多少のミュートをしたが、実際は数十人……匹? の妖精がわちゃわちゃと煩く囀りながら俺の周りを飛んでいる。


 俺は自分の肩くらいまである髪の毛を手に取ってその鮮やかな桃色を確かめながら、女王様に会いにとかなんとか言っていた妖精の後をついていく……真っ裸で!


 妖精とはいえ周りに飛んで居る他の妖精と同じくらいの背丈というのなら6頭身前後くらいの少女という事になる……人間だと10歳? 11歳? くらいに見えるのかな? 鏡が欲しい。


 ……。


 そこは花畑の中に一本だけ生えている大きな木、妖精の背丈が……落っこちていた服とか荷物からの対比で……15センチ前後だと思うので、だから大きく感じるのかもだが……ああいや、人間でも大きいと感じる大きさかもしれない。


 その大きな木の麓に女王様とやらは居た、大きさは俺と……妖精とは言え女性なら私にしとくか。


 私よりちょこっと身長が高いか? 七頭身くらいな気がする、周りの妖精が十代前半なら女王様は十代後半っぽく見える、その女王様とやらの羽は、あげは蝶みたいだった、勿論サリーっぽい単色布の服を巻きつけて着ている。


「女王様~新人を連れてきたー」

「羽の色が可愛いの!」

「私が最初に見つけたのよ?」

 ……。

 ……。

 ――


 妖精は本当に姦しいというか何というか……私はこの世界に馴染めるのだろうか。


「あら? まだ新しい妖精が生まれる時期では無いのだけれど……まぁいいわ」


 あれ? この姿でも生まれたって認識されるの? てことは今回は赤ちゃん転生なのか? 妖精の生態が判らんからなぁ……この姿でも新人と言われたって事は、妖精族は赤ん坊の姿では生まれないって事なのかねぇ? さっぱり判らん。


「おいでなさい」


 そう言って背後の木に向けて飛んでいく女王様の後に続いた……真っ裸で!


 へいへい女王様~、まずは新人に服用の布をいただけたりしませんか?


 そうして辿り着いたそこは大きな木の側面にある大きな洞の中で……そこにはそれはそれは大きな大仏が……間違えた、女神像? ……あ、これ神像か!


 神像の足元から見上げると首が痛そうな大きさだが、私は女王様とやらと一緒に宙に浮いているので問題は無い。


 女王様に唱えなさいと教えられた文句はいつものごとくの女神様に捧げる物であり。


「今日も心が赴くままに暮らせる事を女神様に感謝をし祈りを捧げます」


 私がそう祈りを捧げると、光の玉が四つ出て来て体に吸い込まれる。


 それを見ていた女王様が。


「四つね……妖精族にしては魔力は少な目っぽいけれども……大丈夫よ、女神様は私達妖精の祝福時は、ほぼ必ず特殊な魔法を授けてくれるはず、自分の中に芽生えた力を意識してみなさい」


 言われた通り自分の中に向き合うと……≪妖精魔法≫×2と〈木魔法〉と〈財布〉が増えた様だ。


 私はそれを素直に女王様に伝えた。


「え? ……≪妖精魔法≫は固有魔法でほぼ必ず習得出来るのだけど……二重に取れた? ……そんな事あるのかしら? ああええ、大丈夫よ問題ないわ、〈木魔法〉は妖精に相性の良い魔法だし〈財布〉は木の実とかを持っておけるから便利よ?」


 あー妖精サイズだと〈財布〉は便利かもなのか、人社会で〈木魔法〉は農業系の超当たり能力って言われているけど、魔力が少ないと儲けを出すのは難しいって話だったっけか?


「まずは≪妖精魔法≫でそこの花を使って服を作り出してみなさい」


 女王様がにっこりと笑顔で洞の外に咲く花を指さしている、金髪碧眼ですっごい美人だよなぁこの女王様。


 女王様が指さしているのは白いチューリップみたいな花だね。


 あー確かに能力を意識すると≪妖精魔法≫で植物から洋服が作れる事が判る。


 女王様や他の妖精達の服が単色の一枚布みたいのを巻き付けている事から、イメージというか洋服の知識が大事なんだなこれ、こうなると女性転生の時の知識が使えるか……いや、デザインだけなら男の時の記憶でも良さげだな……。


 ではでは白い花弁と緑の葉っぱを使って魔力も一杯籠めてやろう、えいやー! っとな。


 ……。



 ……。



 ――


 うむ、これは中々可愛いのが出来たな……私の能力である〈細工〉も役にたったっぽい。


 白をメインとして緑の線の幾何学模様な刺繍が各所に施されたワンピースドレスの出来上がり~……下着のパンツもしっかりと作って履いたよ! だって周りの妖精達はノーなパンツの子が多いんだもの……。


「わーすっごい可愛い!」

「すごいすごーい!」

「……俺がまともな布服を花から作り出すのにも何日もかかったんだぜ……?」

「いいなーいいなーいいなー」

「ちょっとそのお洋服見せて~!」

「あ、私も~!」

「私も私も!」

「俺にも見せてくれ」

 ……。

 ……。

 ――


 一人の女の子妖精の一言から私の服を確認したい妖精が大挙して飛び込んで来て、私はしばらくの間、蜜蜂が分蜂する時になる団子状態みたいな……妖精団子とか呼ばれそうな状況に陥るのであった、窒息はしなかったけどすっごい暑かった。


 ……妖精達が無邪気過ぎて暴走すると止まらんのだ。


 ちなみに。


 その妖精団子の中には女王様もきっちり入っていた。


 そして何故だかしばらくの間、私が仲間の妖精達の新たなデザインの服を作る係に任じられるのであった、一枚布を巻きつけるサリーみたいな服も可愛いと思うんだけどな。


 まぁ妖精たちは新しい洋服のお礼として食べ物とか置いていくんだけど……結局一人じゃ食べきれないから皆で食べるという……貨幣経済なんて妖精世界には無いっぽいな。


 妖精族の皆と仲良くなるきっかけになったからいいんだけどね……。


 ついでに妖精族からノーパンも駆逐したし。



 そうそう、最近いつも落ちている定番の荷物は、女王様の許可を得て守護樹の洞の中に入れておいた。


 ≪妖精魔法≫の中に魔力で作るマジックハンド? もしくは念力? 的な物があって、明らかに自分より大きい物とかを掴んで運んだりする事が出来るのは便利だったね。


 魔力は対象の重さとかによってそれなりに消費する。


 守護樹ってーのは花畑の真ん中にある大きな木ね、妖精を魔物から守ってくれる効果があるらしい?


 魔物にとって嫌な臭いや気配でも垂れ流しているのだろうか? ……樹の守護者を自認している女王様に聞いても良く判らないと言われた……いいのかそれで……ま、妖精だしな。


〈木魔法〉や≪妖精魔法≫が使える私になら守護樹が育てられると聞いて種を何個か貰っておいた、金色の小さいリンゴみたいな果物が生るんだねぇ守護樹って、かなり美味しかった、というか妖精たちが普通に食ってる。


 小さいと言っても妖精から見たら大きい、人社会に流通するリンゴよりは小さめかなって意味だ。

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