第127話 移動からの終着
「では行ってきますねカーラ様」
「気をつけてねリオン」
「お気をつけてリオン殿」
年も明けて一月程が経ち、やっとこ獣人国の王都からの返事が来て、情報の精査をしたいと獣人国の使者を何人かレジスタンスの隠れ里まで案内をする事になった。
そんでカーラ様他数人はドラガーナ領に残る……まぁ人質でもある。
完全装備で出かける俺を、見送る側になったカーラ様の横には……なぜか俺の前世の孫である山羊獣人のイケメンが居る。
気のせいか二人は手を繋いでいる……いや、気のせいでもなんでもなかったわ。
いやほら、最初はさレティーナ様と一緒にこの山羊獣人のイケメンが来ていたんだけど……カーラ様と良く話をしているうちに一人で来る様になってさ。
気付いたらカーラ様と二人っきりで会って木陰でキスをする仲になってやがった。
幼いレティーナ様がよく遊びに来る事によって、俺達と獣人族との交流が一気に進んだ感はあるよなぁ。
最初にカーラ様から山羊獣人イケメンとの事で相談を受けた時は、隠れ里の長の言葉を伝えておいたさ、場合によって人と獣人の架け橋になるなら配下をそのまま獣人国に定住させてもいいって言われてるってな。
配下と孫娘ではちょっと違う気もするが、俺は気にしなかった! 恋する二人を邪魔するのも野暮ってもんだ。
実際問題駄目なら獣人側が止めているはずだしな、監視とかあるはずだし、それでもイケメン山羊獣人が来れちゃうという事は、暗黙の了解が出ているのだろう。
領主の息子と旧人間国王族の血筋だし……縁談としても悪いもんじゃねぇやね。
でもまぁ、なんか見せつけられるのが悔しいのでちょっと釘を刺しておく。
「……隠れ里からまたこちらに来た時に孕んでいたとか止めて下さいね?」
俺の言葉を聞いた若い二人は顔を真っ赤にして。
「ちょっとリオン! 急に何言うのよ! 私とこの人とはまだそこまでは……ごにょごにょ」
「安心して下さいリオン殿、旧人間国の成人が16歳からなのは聞いておりますので、我慢しています」
カーラ様は山羊獣人の答えに恥ずかしがってバシバシと彼の背中を叩いている……が、ちょっと嬉しそうだね、長のひ孫が出来る日も近そうだ。
「お前らは好きにしていいからな」
そう言ってカーラ様と共にドラガーナ領に人質として残る三人の配下に声をかける。
「えへへ、すんません隊長」
〈剣術〉持ちの若い男戦士は……その近くにレティーナ様のお付きの犬獣人女性が居るし。
「あはは、ありがとうございます隊長」
〈弓術〉持ちの若い女性戦士は……羊獣人文官さんが寄り添っているし。
「……申し訳ない隊長」
〈投擲〉持ちの若い男戦士は……今ここにはいねーけどレティーナ様のお付きとして来ていた獣人メイドの一人と良い仲になっている。
なんなのお前ら、リア充なの? まったくどいつもこいつも……。
「隊長の事は私にまかせて」
俺と共に隠れ里に帰る唯一の配下で〈槌術〉持ちのメイス使い女戦士がそう言った。
お前も残っていいんだぜ? 一緒に来る? さいですか……。
「では行こうかリオン殿」
そう声をかけて来るのは隠密忍者部隊の猫獣人女性を筆頭にした四人の部隊だ。
猫獣人女性二人の梟獣人男性二人だ。
オーク帝国とケンタウロス族が小競り合いをしている草原地帯を超えるので、使者といえど戦闘力とか諸々が無いといけないという事でこの人選になった。
まぁ戦闘も出来るけど基本は隠密行動って感じかね。
向こうの方が多いのに、顔合わせをしから連携の訓練とかをしていたら、いつのまにか俺が指揮をとる事になっていた、なんでやねん……。
「ええ、行きましょうかミャーさん」
ミャーという名は隠密忍者部隊の隊長である猫獣人女性の名前だ。
そうして新たに6人パーティとなった俺は、ここまで来た道を引き返す事になった、今回は速さ重視で途中の飯は簡素な物にする予定。
……。
……。
んー、この西側の草原付近ではオーク達の部隊は相変わらずやる気のない数だな、主力は東の獣人国にって事なんだろうな。
「リオン殿、この先のオークを迂回するのは難しそうだ」
カーラ様の斥候の変わりとなってくれたのがミャーさんで、斥候としての腕はカーラ様より高かった。
でもまぁ総合的な戦闘力はカーラ様の方が上っぽい、あの子の能力は〈隠密〉や〈水生成〉じゃなくて〈忍術〉だったしな……最近こっそり教えてくれたんだ。
なんで異世界の能力にその概念があるのかは謎だが……。
「では前にやったのと同じ手順で処理していくぞ」
「了解隊長」
「了解だ」
「「「はいっ!」」」
どうにも獣人達の聞き分けが良すぎてな、俺から獣人の好きなフェロモンでも出ているんじゃとか思ってしまう事もある。
まぁ今は目の前のオークに集中するか、ではいくぞ!
……。
……。
――
「遠路はるばるご苦労であったリオン、そして使者殿、私がこの里の、そしてレジスタンスの長である」
前回の半分以下の時間で辿り着いた隠れ里、長との会談が始まっている。
今回はお土産にセクシー猫獣人神像フィギュアを何個か持って来ている。
今回は使い切らずに模造をして神像を増やす事に専念をして貰う、前回はちょっと焦って祝福を貰う事を急ぎ過ぎたって長も後悔していたしな。
使者と長の間で情報のすり合わせが行われている、上手く話が転がれがしばらくの間ミャーさん達忍者部隊がこの里を拠点にして人間国を少し調べる予定だ、まぁレジスタンスの言葉を全て信じちゃうのもあれだしな。
……。
……。
話も終わり、ミャーさん達は彼らを世話する為の家に案内をされるべく長の家から出て行った。
そして俺と長と配下のメイス使い女性戦士が残る。
「ふぅ……まさか孫娘と獣人国の領主の息子がな……何故止めなかった? リオンよ」
「長だって配下が獣人と結ばれるのは止めなくて良いと言ってたじゃないですか」
「それは配下の話であろうに、あの子は王族の血を繋ぐ役目があるのだ」
「獣人が
「そういう事ではない! あの子はまだ若いのだぞ! こう……勢いのままで突っ走って後で泣いたらどうするのだ! 可哀想だと思わんのか!」
血筋とかいう建前を速攻投げ捨てたな、ただの孫娘大好きな爺馬鹿かよ……。
「大丈夫ですよ、むこうの若旦那はちゃんと隠れ里の成人年齢まで待つと言ってましたし」
「ぬぬぬぬ……目の前にそやつがおったら私を倒すまでは許さんものを……」
戦闘系能力持ちが何を言ってるんだっての……ああでもあの若人は〈獣化〉とか色々持ってるっぽいから負けないか? ……てか俺の前世の子供とか魔力がすっげー多くなる事が多くてさ……そこらの血族がやべー強さになるんだよな……。
「大変ですなぁ長殿は」
獣人と配下の縁は尊重しろって命令もあったし俺は悪くないもん。
「……こやつめ……ふむ……ではリオン、里に帰って来たのだし、例の女子達のうち、まだ独身な者らと縁組みして貰おうか」
「……は? なんでそうなる?」
「嫌がらせ込みに決まっておろう」
「ざっけんなクソ爺、俺や相手の意思を無視すんなよ」
「相手もお主との縁組を望んでいるのだから問題なかろう? のう×××よ」
その名前は俺のナナメ後ろに座っている女性戦士の名前で……俺がちょろっと振り返ると彼女はコクコクと何度も頷いていた……。
「え? どういう?」
「あの時言っただろう? 自薦も含めて他にも何人も居ると、そこの×××も自薦をしておった一人よ、ここまで一緒に帰って来る程の仲だ、夫婦になるのに問題あるか?」
え? おれは女性戦士の顔をもう一度見る、彼女は頬を赤くしつつも俺の事をジッと見て来る……。
ぇぇ……てことはこの子は最初から?
「この任務の前に会った事あったっけ?」
ちょっと理解が出来ないのでそう聞いてみると。
「里のお祭りで一緒に働いていたのですが……隊長はお手伝いの娘達を一纏めに認識していましたから……」
里に受け入れて貰う為に頑張ってた超忙しい時か……今思い出すと居た様な居ない様な……申し訳ねぇなこりゃ……。
「ふふ、これは決まりじゃのう、まさかここまで想いを寄せた相手を無下に振るまいな?」
うぐぐ……。
獣人国に情報を伝えるって事は出来ちゃったから、俺の今生でやらないといけないと思う様な事とかはもう無いんだが……まぁこの子は俺の飯を美味そうに食ってくれるしなあ……ちょっとメイスで魔物を撲殺する時とか普段の言動使いに怖い所があるくらいか。
後は……。
「親子程の歳の差があるんだが……」
「私は構いません! カーラ様は隊長の事を父親の様に見ておられましたが、私はずっと男性として見ていました!」
ああうん、カーラ様はそんな感じだったよね、だから俺も父親っぽい感じで相手をしていたのだけど。
「……ああ……うん……じゃぁちょっと……試してみるか?」
「はい! 隊長! いえ……リオンさん!」
うん、なんつーか、夫婦になるハードルが低いのもこの世界のあるあるだよな……。
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