第126話 ドラガーナ地方4
あけましておめでとうございます。
人間族36歳なリオンです。
この亜人の世界でも年越しは大事な物で家族や親族を集めて過ごすらしいです。
「えーという訳で、まだまだ獣人国の王都からの返事が無いみたいですが、俺達のやる事は変わらない、という事で、皆には益々の――」
「長いよリオン! 皆今年もよろしく! かんぱーい」
「「「「乾杯!」」」」
く……カーラ様が新年最初の挨拶をしろって言うからやったのに……酷い……。
まぁいいや、お節食べようっと。
年明けの宴という事でいつもの屋外の食事場所で皆して食べている、獣人達からも色々な食材を分けて貰っており、酒もちょろっとくれた、勿論カーラ様だけはジュースだ。
もぐもぐ……うむ、さすが俺、中々の味だな。
「うっわぁ……なにこれ美味し! リオン、これって栗だよね? めっちゃ甘いんだけど……」
「それは栗きんとんですねカーラ様、ドラガーナ領では養蜂を成功させて蜂蜜が安めという事で作ってみました」
実はこの領では砂糖も甜菜糖を作っているはずなんだけどね、その情報は俺達にはまだ教えて貰えてないからね、仕方ないね、料理の甘み付けは蜂蜜でやる事にした。
「隊長、この肉まじで美味いっす……」
ああ、ローストビーフだな、お節にそんなもん入れるか? と言われそうだけど、時代時代で内容は変わっていく物だから、仕方ない。
「この黄色いフワフワしたのも美味しいわ、ほんのり甘くて……お菓子?」
それは伊達巻だね、まぁ、はんぺんの代わりにパンを使ってるからお菓子に近いっちゃ近いかもなあ……。
「野菜の煮物が美味い」
筑前煮もどきが好きとか渋いなお前……。
「この細く切ったお野菜をお酢であえた物はさっぱりしてて美味しいです隊長……私との子供が出来たらまた作って下さいね」
紅白なますね、まぁ材料があればいつでも……って誰と誰の子供が出来るって?
最近メイス使い女子戦士のアプローチが露骨になって来ている……配下同士の男女でカップルが出来るんじゃないかとか思っていたんだけどなぁ?
取り敢えず先の見通しがつくまでは手を出す気ないからな?
もぐもぐ……海の魚が手に入らないので川魚で照り焼きとか作ってみたけど……今一だなぁやっぱり、川魚は塩焼きとかが一番うめーわ。
エビも川で取れる小さめのやつだから、どうにもお節としては見た目が地味になってしまう。
いやまぁ、川エビ美味いんだけどね。
後はオモチの入って無い雑煮……何味で作ったかは言わないでおこう、論争が起こりそうだしな。
「りーーーおーーー」
俺達がお節をつまみつつ雑談をしていると木立の向こうからそんな声が聞こえてくる。
カーラ様や配下達は笑いながら俺に話し掛けて来た。
「あーまた来たねリオン、相手はよろしくー」
「ここんとこ毎日ですね隊長……」
「隊長が餌付けするから……」
「隊長の飯は美味いからな、仕方ない」
「子供の相手が上手いのは嬉しい事です、予行練習になりますね? 隊長」
あーうん……虎獣人で4歳の幼女なレティーナ様が最近毎日来る様になっていてな。
まぁ子供だしと好きにさせていて、俺達の飯時とかに来た時は一緒に食べたりしてたら、余計に来たがる様になってしまったみたいでなぁ。
まさかこの年明けの日にまで来るとは……っと、レティーナ様が座っている俺に駆け寄って飛び込んで来た、さすが虎獣人、幼女でも中々の跳躍力だ。
トスッっと幼女を受け止めてそのまま俺の膝の上に座らせる、子供用の高さの丸太椅子もあるのだけど、最近はこっちの方がお気に入りっぽくてさ……。
そしていつもの様にお付きの人達が後から追いついて……あれ? あの子は……。
レティーナ様付きの犬獣人女性と羊獣人男文官さんはまぁいつもの通りなんだが、もう一人若い男が居るね。
その面影は……あー、もしかして……。
俺達に近づいて来た文官さん達の挨拶の後にその若い山羊獣人の男が。
「妹が親族の集まりの挨拶が終わった瞬間飛び出していってさ、何処に行ったかは判るのだけど……今日は年始めで親族やらと過ごす日だからね、無理に連れ戻しても泣くだけなので、兄である僕が側に居ればまぁいいだろうって事で僕が一緒に来ました」
そう言って俺達に挨拶をする彼は……レティーナ様を妹呼びしているし、うん……俺の前世の孫……だと思う、俺が病気で亡くなった時に一歳だった子だと思うから、今15歳か?
山羊獣人だから少し華奢だけども立派な若人になったもんだねぇ。
前世の俺に似てイケメンだな! ……ごめんうそ、前世の俺よりイケメンだわ。
「りおーこれたべたい」
カーラ様と、俺の前世の孫が挨拶を交わしているが、やはり俺の前世の孫であるレティーナ様にご飯の要求をされてしまった。
まぁ俺からの挨拶は後でいいか、この領の領主の息子と元王族の挨拶に割り込む事もねぇな。
そうして俺は栗きんとんをレティーナ様に出す……前に、側付きの犬獣人女性が一口パクリッ。
この最初の一口は、毒見をしてますよっていう建前でしかねぇけどな、そもそも俺達が普通に食ってる物なんだしよ。
その二十歳くらいの犬獣人女性はコクリッと頷いて、毒は入って無いですと示し、仕事をしていますアピールをしているが、背後でパタパタと勢い良く左右に振られている尻尾が甘い物好きだという事をこれでもかと知らしめている。
レティーナ様にも栗きんとんをスプーンですくって食べさせてあげる。
「もぐもぐおいちー、これりおがつくったの?」
「ええレティーナ様、それは私が作りました」
「すごいの、おかーり」
はいはい、と、何故か俺がスプーンですくってレティーナ様に食べさせている……ちょっと甘えて来過ぎな気もするんだけど、やらないと悲しそうなウルウル目で見て来るからな……。
泣く子には敵わんて、躾は俺以外の人にやって貰おう。
「あぐ、おいしー」
そりゃ良かった……そし羊獣人文官さんや犬獣人女性も普通に俺達のテーブルに着いて食べ始める……毒見というよりもうガチ食いなんだよなぁ……。
そんな彼らの姿を見て配下達がポソリッ。
「付き人も飯を食いに来てるよなこれ……」
「隊長の腕は恐ろしいわねぇ」
「俺達の分が確保されているなら良し」
「これだけの腕があれば商売でも食べていけそうです……私は女将としての訓練もしておくべきですか? 隊長?」
まぁ美味い飯を一緒に食って仲良くなれるならそれでいいさ、一人の言葉はスルーする。
そんな中カーラ様も山羊獣人の若人を飯に誘っているみたいだ、友好関係が築かれる事は悪い事じゃねぇやな。
「りおーつぎはあれー」
「伊達巻ですね、了解しましたレティーナ様」
そうして。
……。
「ごちそうさま~、りお~おすもーやろ?」
「ええいいですよ、今度は負けないですよレティーナ様」
俺の前世がドワーフの中に流行らせた相撲なんだが、獣人も怪我をしにくい力勝負という事で子供から大人まで遊ぶスポーツになっている。
まぁさすがに子供相手には手加減して負けてあげるけどね。
神歴1538年 の年始めの日に、人間と獣人のグループは一緒に飯を食ったり、獣人国で最近定番になったスゴロクやカルタを皆で遊んだり、または相撲で勝負をしたりと交流を深めていくのであった。
……。
……。
――
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