第124話 ドラガーナ地方2
パシンッ!
叩きつけるかのごとく響き渡るその音は……。
「ふっ、本当にそこでいいんですか? カーラ様?」
そう言って俺は自軍の将棋の駒を動かして王手飛車取り的な位置取りをする。
「あ、あああ! ちょ! ちょっと待ってリオン!」
「もう3回目の『待った』は消費しちゃいましたー、なので頑張って下さいカーラ様」
「私はまだこのゲームを知って三日目なのよ? もう少し優しくしてくれてもいいじゃないの! リオンのケチンボ!」
「それを言ったら俺もこの玩具を羊獣人文官さんから受け取って三日目な訳ですが」
まぁおれには前世の知識があるから内容は前から知っているのだけど、それは内緒だ。
「ぬぬぬぬ……ね、ねぇリオン?」
カーラ様が甘い声を出しながら俺の横に移動をして俺が座っている丸太椅子の少しはみ出た部分に強引にその可愛らしいお尻を割り込ませて来る。
カーラ様は、丸太椅子からずり落ちてしまいそうなのを俺に横からベタっとくっ付く事で防いでいる。
「なんでしょうかカーラ様」
「もう一回、もう一回だけお願い、ねぇ~? もう一回だけ聞いてくれたら、今度肩揉みでもなんでもするから~、ねぇ~いいでしょう~? お・ね・が・い、リオン~」
カーラ様の、体をぴったりと付けて来る感じといい、俺の膝に手を乗せて来る事といい、耳元で甘い声でおねだりして来る所といい……キャバ嬢か何かですか? と問いたくなる俺が居る。
「これで負けると差し入れの干し果物争奪戦でビリに成ってしまうので、お断りします」
だが俺はカーラ様のお願いをきっちり断っていく!
なんというか……カーラ様のキャバ嬢テクニックはストレート過ぎて俺の琴線に響かないんだよな……。
もっとこう、恥じらいのある演技だったら俺の心がキュンキュンして了承しちゃったとは思うんだが。
まぁ先の俺の言葉の通りに獣人族から渡された食材の他にデザートとして果物の乾物、要はドライフルーツの差し入れがあったんだ、このドラガーナ地方の名物だと言ってさ。
それを俺達の中で分配するにしても、色々な種類の果物が交じり合って居るので公平に分ける事は難しい、なので大体の重さで六等分をして、将棋の対戦で順位を決めて優勝から順番に、六等分された中から欲しい物を選んでいくというルールにしたんだ。
前世の俺は果樹園にも力を入れていてさ、それらの果物を領地の外に売り出す為にジュースや酒にしたりドライフルーツにしたりと色々頑張ったっぽいんだよね、グッジョブ俺の前世、だ。
「リ~オ~ン~、甘味なんて滅多に食べる事が出来なかったんだから~、ね? ……ううううこうなったら最後の手段! えぃ!」
ムギュっとカーラ様が俺の腕に抱き着いて来る……たぶん胸を押し付けているのだと思うけど……歳相応のお胸様は素晴らしいのだが……それで負けてしまったら人としてどうかと思うんだ。
だって性別逆転して考えて見ると、男の〇ん〇を女性に押し付けて手加減して貰う様なもんだろう?
……頷いてくれる女性なんて居ない所か潰される危険性あるなぁそれ……自分でも訳の判らない想像をして下半身がヒュンッっと縮こまってしまった。
それなので。
「もう少し成長してからお願いしますカーラ様、次の手を打たないのならカーラ様の負けという事でいいですか?」
「むぅ! これでもリオンと初めて会った時より大きく! って待って待って、えっと今打つから! ぬぅぅ……じゃぁこっち!」
パチリッ、カーラ様の駒が打たれる音がする、ふむ、そう来るか……。
俺がしばし盤面を見ながら思考をしていると、すでに勝負が終わってドライフルーツを食べている配下達の野次馬の声が聞こえてくる。
「モグモグ美味いなこれ、てかあの二人って、あの将棋とかいうゲーム下手すぎるよな、モグモグ」
「ムグムグ里では甘い物なんて天然の木苺とかしか食べられなかったものね、これ本当に美味しいわぁ……私より下手な貴方がそれを言うの?」
「もぐもぐ、果樹園なんて作る余裕が里には無かったものな、後少しで俺が一位取れたんだが……」
「モッキュモッキュ、はぁ……やはり私の選んだこの塊が一番です、六つある中でバラエティと大きさが一番素晴らしく……またぜひ皆で勝負しましょう……次は優勝者の分を大目にしませんか?」
パチリッ、俺は自軍の駒を動かす。
くそ……好き勝手いいやがって、初心者相手だから手加減してやったんだっての、まぁカーラ様には世間の世知辛しさを知って貰う為に負けて……あれ? あ……やべ。
「ん? んんんん? あれ? ここをこうしてこうだとこうで……ねぇリオン……これって私の勝ちだよね?」
「……」
「……返事がない……んーまぁここにパチリッ」
く……見逃していた道筋気づきやがった、いやしかしまだ詰めを間違える可能性も。
パチリッ。
「リオンはそれしかないよね、で、こうやってパチリッっと」
むぐぐ……これはもう……カーラ様は完全に詰めに気付いているか……。
「参りましたカーラ様」
「え? 勝った? やったー勝ったぁぁぁ!」
喜ぶカーラ様は丸太椅子から立ち上がってピョンピョン飛び跳ねていて、それに合わせて茶色髪のポニーテールも一緒にピョンピョン跳ねている。
ふぅ……ばれない様に手加減するのも楽じゃねぇぜ……。
「隊長って対戦ゲーム弱いよな」
「実践の指揮官としては最高なんだけどね、弱い男はちょっと……」
「弱みがある方が人間味があるという物だ」
「あの隊長の、俺は手加減していた、といわんばかりの強がった表情が哀れを誘って……こう……私の胸がキュンッっとします……」
言いたい放題だなくそ……なんでリバーシも将棋も俺の前世が流行らせたのにいっつも負けちゃうんだろうな……いや、子供ら相手だと良い勝負なんだが……。
こう……ゲームに強くなる祝福とか無いだろうか……ってそれで勝ってもなんか詰まらない気がするか……。
「じゃぁ私はこっちの塊にするねリオン! 早速一つパクリッ、うっわ! おいしーい……モグモグ……隠れ里で食べる生の果物とは全然違う? 道中で食べた天然物も何故か大きかったし……」
あーそうだね、同じ種類の果物でも人間国の物より大きくて味が良かったりするよな、理由判らんし謎だけど。
モグモグと美味しそうにドライフルーツを食べるカーラ様は歳相応な笑顔を浮かべていて可愛らしいね、ティガーナ婆さんとの会談とかでちょっと無理をしてたからなぁ……。
「カーラ様、俺の分からも少しあげますよ、どうぞ」
そう言って俺の分のドライフルーツの乗った皿をカーラ様の方へ差し出す。
「いいの!? ありがと~リオン~、やっぱリオンは優しいね、後で肩揉んであげるからね! じゃぁこれとこれ貰っていい?」
カーラ様が俺の分の中の一番大きい奴とその次に大きいドライフルーツを選んで貰っていいか聞いて来たので頷きをもって返事をしてあげる。
ありがとーとそれらを笑顔で食べるカーラ様、たんと食べて成長するがいいさ、俺の腕を組んだ時にもう少し嬉しく思える様にな。
「カーラ様だけ贔屓するんすね隊長は……」
「仕方ないわよ隊長は若い女の子が好きだから……」
「……ふぅ……」
「きっと隊長は私達にもくれるはずです、ジー」
聞こえる様にそんな事を言ってくる配下の面々……そして……メイス使い女戦士の視線が俺に刺さる。
ああもう! いいよ! 判ったよ! 残りはお前らで分けろっての!
俺は無言で、残りのドライフルーツが乗った皿を奴らに差し出した。
シュバッっと素早い動きでそれを回収した投げナイフ使いの男と共に彼らの歓声が聞こえる……何故かそこにはカーラ様も参加しているが、まぁいいやケンカするなよ?
……。
どうやって分けるか相談をしているその集団からメイス使いの女性戦士が抜け出して俺の所に来た。
どした? もう無いぞ?
「ありがとうございます隊長、チュッ」
そう言ってメイス使いの女性は俺の頬に軽いキスをしてすぐ元の集団へと帰っていった。
その女性戦士の行為は、わいわいとドライフルーツの分け方の相談をしている他の奴らにはまったく気付かれる事が無かった。
……なんでまた急に?
そんなに果物が好きだったの?
よく理解出来ずに、首を傾げながら彼らの相談を見ているしか出来ない俺であった。
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