第121話 移動1
「この先にオークの部隊を見つけたよ、オーク1 ゴブリン5で、どうするリオン? やり過ごすか回り道する?」
茶色髪のポニーテールをなびかせつつ、斥候として先行していたカーラ様が帰ってきて、偵察結果を教えてくれた。
「……遠回りしても別の部隊に当たるかもしれない、奇襲をしかけるぞ準備しろ」
俺が側に控えていた小隊メンバーに命令を出すと。
「「「「了解しました隊長」」」」
声を揃えて返事をしてキビキビと動く彼らの練度は高い。
若いけれども全員が祝福能力持ちという時点でヤベェ小隊だ。
「……私が一番偉いはずなのに……皆リオンに良く従っているわよね……」
「それは俺が長から直々にこの小隊の隊長に任命されたからです、納得いかないというのなら今からでも隠れ里に帰りますか? カーラ様?」
「別にそういう訳じゃなくて……リオンもよく言っているじゃないの『俺は外から来た人間だから』って、でもその割に皆よく命令を聞くなと思っただけで……」
そうかぁ? まぁ長によく言い聞かされているからじゃないかなぁ?
「隊長の飯は美味しいから!」
「隊長は体とか触ってこないし、夜にテントに来いとかもないし」
「理不尽な命令も無いな」
「ご飯が美味しいだけでも好感度爆上げです」
装備の確認をしていた四人の戦士が同時にカーラの疑問に答えている。
この小隊は六人編成で、俺とカーラ様と残りの四人の戦士の内訳は男二人に女二人なんだが……レジスタンス内の女性への扱いがちょっと不安になる理由があったな。
レジスタンスの女性戦士達に不満とか溜まってそうだ。
「カーラ様は隠れつつあの岩の上で周囲の索敵、他の者はオークの斥候部隊に遠距離攻撃で先制してから近接で突っ込むぞ」
「判ったわリオン」
「「「「了解」」」」
このあたりはもう木々もほとんど無い草原地帯だ、草原と言っても波打つ雑草が何処までも続くというよりは大小様々な岩がゴロゴロと転がっている場所に雑草が一杯生えているという感じ。
岩に隠れて移動出来るが、敵も発見し辛いという事で、周囲の索敵はマジ大事。
それじゃ、〈弓術〉や〈投擲〉持ちに合図を出してから俺と〈剣術〉持ちと〈槌術〉持ちで突っ込む事にするか。
俺は右手をパーにしてそっと顔のよこにあげると、それを敵方面に向けて倒す。
そうして無言で始まる遠距離攻撃の二射目を確認したら、俺達近接職も無言で突っ込む。
……。
……。
――
「大声を出される前に倒せたし何かが近付いて来る感じはなかったよ」
カーラ様からの報告を聞いてホッッとする俺。
他の戦士は大きな岩の側の土を掘っていて、倒したオーク共を埋葬している所だ。
雑な隠蔽だがしないよりましだ。
「ではこのまま、あの山に向けて進んでいく、索敵をしながら進むが出会い頭の接敵はありうる、それがオーク共なら殲滅、ケンタウロス等の亜人なら逃げるからな」
「隊長、下半身が馬の人間なんて本当に居るんですか?」
小隊配下の男戦士がそんな事を聞いて来る、ああそうか、こいつらは人間国でしか活動してないから……。
「下半身が魚のマーメイド族も、手が鳥の翼であるハーピー族も連合の一員だ、こちらから手を出すなよお前ら」
「話では聞きますけど本当にそんな存在が居るんでしょうか?」
女の戦士も疑問をぶつけてくる。
「人と違う面のオークやゴブリンが居るんだ、他に色々居てもおかしくないだろう?」
「「「「たしかに!」」」」
納得してくれたようで何より。
「まずはこの草原地帯を一刻も早く抜けたい、そしてあそこに見える険しい山々を西側に回り込んでいく……正直辛い行程になる、帰りたいなら帰っていいぞ」
「今更帰れる訳ないじゃないのリオン、私達は前に行くしかないの」
そんなカーラ様の発言に頷きを持って同意してくる戦士達。
「ならとっとと出発するか、カーラ様の魔力が回復次第また岩の上から周囲を確認して貰いますからね」
「了解」
岩の上は周囲が見やすい分、周囲からも見えちゃう訳で、〈隠密〉を使った状態で登るのが一番安全なんだよな、まともなとっかかりも無いでかい岩をひょいひょい登れちゃうカーラ様も異常なんだけどな……。
……。
……。
――
「つかれた……もうむり……」
「だらしのない……」
「……」
「水……」
「ほれ、飲め」
メイスを使う女性戦士にまだ水が残っていた俺の水筒を渡してあげる。
さすがに後少しだからと強行軍をし過ぎたか、でもあそこらの草原は遮蔽物が無いから数キロ先からでも発見されそうでなぁ……やっとこ山の近くの木々がある地点までたどりついた所だ。
スタッっと。
カーラ様が木の上から飛び降りて来る、茶色髪のポニーテールがそれに合わせるように跳ねていた。
「周囲に敵影無し、ただしあっちの方に鹿型の魔物が居たわ」
山の麓の方を移動した先を示すカーラ様、ふむ……今日は鹿肉が食えるか?
「カーラ様、皆の水筒に〈水生成〉で水の補給をお願いします」
「おっけー」
そう返事をしたカーラ様はまだ地面に倒れ込んでいる戦士の面々の荷物を探って水筒を取り出すと、水を作りだして補給していく、便利なお人だ……。
……。
……。
――
パチパチと音を鳴らしている焚火の周りに枝を加工した串に刺さった肉が炙られている。
パチンッ!
手を伸ばしてきたカーラ様の手を叩いて落とす。
「あの隊長……まだっすか?」
「匂いだけとか拷問よ」
「絶対に美味い奴だ」
「久しぶりのお肉の塊……」
まぁ待て、俺の中の〈調理〉さんが言っているんだよ、あと一分くらいで最高に美味い状態に成ると、パチンッ! 伸びて来たカーラ様の手を叩き落としていく。
「いたっ……うう、リオン~」
「あともう少しですから……ああ、これならいけますからどうぞ、カーラ様」
カーラ様と四人の戦士達にちゃんと下味をつけたタレ串を渡していく。
そう、この任務を受けるにあたって、飯が塩味だけになるのは嫌だったので、醤油と味噌を製造したのだ。
味噌玉や、芋がら縄にしてそれらを持ってきている。
他にも塩分の濃い目な合わせ醤油なんかもあり、それを肉に塗って焼くだけで……。
「モグモグ美味しいわリオン! むぐむぐさすが〈調理〉持ちね!」
「うっま、もぐもぐ、うっま! もぐもぐ」
「もきゅもきゅ、さすが隊長ですモグモグ」
「モグモグモグモグ」
「はむはむ……この任務に志願して正解だったモグモグ」
あのメイス使いの女性戦士は飯の味を期待して志願したのかよ……。
「言っておくがこんなのは最初のうちだけだからな、そのうち塩味だけになる」
持っていける量には限りがあるしな……ここに来るまでで、すでに一週間以上かかってるし……強行軍でこれだからなぁ、ここから先は山に森にと……うーん早ければ後二週間って所かねぇ? 詳しい道が判ってる訳じゃないのが辛いな、地形的に先に進めない場所とかに当たらない事を祈ろう。
さて俺も食うか、モグモグ、ふむ……熟成させた肉も美味いが、この部位は新鮮なうちでも美味いよな。
さて……残りの三十キロ以上ある肉はどうしようかしら……。
やっぱ多少時間をかけてでも保存用に処理をした方が……それとも先に進む事を優先するか……悩ましいな、相談しよう。
「なぁ皆、残りの肉なんだが、保存食として処理をするのに時間をかけるか、それとも先に進む事を優先するか決めたいのだが」
「……リオン、進む事を優先した場合お肉はどうなるの?」
カーラの質問が他の四人の戦士の聞きたい事と一致したのか、他の奴らは何も言わずに俺を見ている……まぁ肉串は食いながらだけども。
「そうだなぁ、まぁ干すか燻すしかねぇんだが、先に進むなら半分くらいは捨てる事になるかなぁ?」
「食べ物を無駄にするのは良くないわ、そのいぶす? って奴をやりましょう! いいわね皆も」
「「「「賛成ですカーラ様!」」」」
お、おう。
先に進めば新たな獲物を見つける事も出来ると思うんだが……今それを言うのは野暮な気がしたのでやめておいた。
なら、これから燻製用の装置をそこらの素材で作るか、まぁ簡単な道具は持ってきているから、〈木工〉や〈細工〉の出番だな。
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