第120話 隠れ里3

「「「「「~~~♪ ~~~♪」」」」」


 小さめの音で楽器を弾きならす拙い音と共に、押さえた音量で神を賛美する歌を子供達が歌って居る。


 ここは隠れ里の天然地下洞窟内にある教会だ、教会と言っても神像は無い、祝福が貰えなくても人々には神という存在が必要らしい、それは何処の前世でもそうだった……。


 この歌が始まる前に教会の司祭役の人が、神の名の元に我らが生きて暮らせているのだと語り始め、そして神の教えを守りましょうねと話が終わった……何処の教会もだいたいがそんな感じだ。


 その教えは地域や時代によって変わっていくのだから、まぁ実際に神の言った言葉ではなく、教会や為政者が決めている内容なのかもしれないが。



 閉会の歌も終わったので俺も楽器から手を放す、ギターの様なハープの様な楽器だった。


 俺の周りではそんな演奏係の大人達が複数人いる、隣には横笛を拭いていたカーラ様も居て。


「リオンの演奏って下手っぴよねぇ……」

「ほっといて下さい、急に手伝えと言われてもこんなもんですよ」


 〈演奏術〉とかが残っていればな……なんで俺の能力は消えたり残ったりするんだろうな……。


「リオンおじちゃん、あそぼー」

「またお話を聞かせてー」

「かくれんぼしよーよー」

「縄跳びがいいー」

「おままごとするの……」

「俺達と剣士ごっこしようぜー」

 ……。

 ……。



 歌が終わると祝日の礼拝が終わるので子供達が俺に突撃して来る。


 その勢いはカーラ様も驚く物で。


「リオンは子供達に人気あるわよね……」

「長に許可を得て語り聞かせとかしてますから」


 身柄を確保されている俺だが、タダメシ食って仕事をしない訳にもいかず。


 〈調理〉スキルを使った様々なお手伝いとか、子供相手のお話しを語り聞かせる役目なんてのを長から任命されている。


 勿論語り聞かせるお話は事前に長に許可を得れた物だけにしている。


 リオンーリオンーと纏わりついて来る子供達の様子は……相手が人間の子供という事もあってか、前世知識の中の下町のシスターの頃に似ているだろうか? ドワーフの時は、なんでか子供達に軽く見られていたしな。


 まぁ言えるのはだ、街だろうが地下だろうが隠れ里だろうが……獣人だろうが人間だろうが、子供らに変わりは無いって事だな。


 どんな状況でも人は生きていくのだと、そういう事を感慨深く――


「ってこら! 俺の体を登ろうとするな! うがー! 毎度毎度元気良すぎなんだよお前らは!」


 ガキがいる場所で考え事なんて出来るはずも無し!


 てことで。


「この後恒例のお話し会をするぞー、それが終わったら昼飯時まで遊びにつきあってやる」


 クイックイッっと俺の服を引っ張る幼女は、さっきおままごとをしたいと言っていた子だな。


「ああ、じゃぁ×××は遊びの時間におままごとだな?」

「えへー」


 俺の服を引っ張っていた幼女が満面の笑みを見せて来る、ちなみに歯が生えそろってないのを本人は少し気にしているので突っ込んじゃ駄目だ。


「ずりーよ×××! 俺達もリオンと遊びてーっての!」

「男子はほっておいて女子でおままごとでもいいよねー」

「なーリオンー剣士ごっこもしよーぜー」

「縄跳びもしたかったけど、リオンと夫婦になるおままごともいいかも……」

 ……。

 ……。


「なんでこんなに人気あるのよリオン……」


 カーラ様が呆れた様に呟いた。


 知らん、俺が知りたいわ。


 ……でもあえて言うのなら……。


「ふっ、俺からあふれ出るカリスマに子供達が気付いているのかと」


「はいはい、さー子供達! リオンのお話しが聞きたかったら良い子にするのよー」


「「「「はーい、判りましたカーラさま~」」」」


 ……格好つけてポーズまでとった俺のセリフは、カーラ様と子供達から見事にスルーされた……ちょっと寂しい……。


 いいもん、今日のお話しはちょっと怖い奴にしてやるもん!


 神歴1537年 9月 まだ暑さも残り木々も緑一杯である。


 ここに来て半年そこそこ、馴染み過ぎかなぁと思ってしまう。


 そろそろ長も認めてくれねーかなぁ……離れがたくなりそうだ。


 ……。



 ……。



 ――



 ある日、他より少しだけ大きな家である長の家で、俺と長の二人っきりでの話をする事になった。


「嫁ですか?」


「ああ、お前さんもこの里に馴染んできたし、世話してやろうと思ってな、どうだ? ×××とか×××とか、お前さんの事を気になって居るのはちょいちょい居るんだが」


 それって未亡人とその娘の親子じゃんか……勧めるにしてもそのチョイスはどうなんだよ……彼女達の家には男手が無いからってんで色々力仕事を手伝った記憶はあるけどさ……。


「長殿、俺は獣人国に行きたいと前からお伝えしています」


「そうなんだがよ……貴重な祝福の能力持ちで性格も悪くねぇ、子供らにも人気だし、大人共にも大人気だ、手放す手はねぇだろう?」


「その大人の人気は飯が美味いって話ですよね? 俺個人の話では無いでしょうに」


 里の中で会合がある時の炊き出しはちょいちょい手伝っているからな……。


「祝福の能力を含めてお前さんの人気だろう、そして何故そこまで獣人国に拘る?」


 そりゃぁ……うーん、まいいか、言ってしまおう。


「……今のままでは人間国は変わらないからですよ」


「そりゃ俺達の力不足を批判してんのか?」


 そろそろ70代かって長から殺気が漂う、この人も戦闘系能力持ちだよな。


「今のレジスタンスだけではどうにもならんでしょうに、人間国をひっくり返してもオーク帝国が出張ってきたら終わりです」


「チッ……そうだとしてもそれで獣人国に逃げるのかよ、この腰抜けが……」


 ああ、なんで行きたいかって話はまだしてなかったっけか。


「人間国とオーク帝国の情報を獣人国に流したいんですよ俺は」


「ん? お前さんそれは……」


「この両国の情報があれば獣人国、いや、連合国はどうすると思いますか?」


「そりゃぁお前……いや……出来るのか? 俺達人間は裏切り者だと思われているはずだぞ?」


「連合を裏切った人間国の王族が会いに行く訳でもあるまいし、国から逃げ出した個人まで憎しみですぐ殺すって事にはならんでしょうよ」


「……裏切ったのは王族じゃねぇよ……まぁそれは置いておくか……、お前さんが命を賭けてまでそれをするよりはここで暮らしてもいいんじゃねぇか?」


 うーん、理由かぁ、それなりの理由……。


「そうですねぇ……物語のハッピーエンド、もしくは平和な日常回が見たいからって言って、理解してくれますか?」


「はあ? お前さん何を……ああん? つまり争いの無い平和にしたいと?」


「オーク帝国が滅びたとしても、いつか連合国の内部で争いは始まるでしょう、でもまぁそれはいいんです争いは人の世の常ですから、俺はただ、あの神は……邪神はやべぇという事を認識してしまったってだけです、正直あの神を奉じて居ないオーク帝国や人間国なら……そこまで必死になってどうこうはしないかもですね」


「そうか……確かにあの神に……邪神に絡めとられた奴らはおかしくなるしな」


 ……。


 長と俺の間にしばしの沈黙が流れる。


「いいだろう、里から出る許可を出してもいい、それに旅用の物資も融通してやる」


「……大盤振る舞いされると逆に怖いんですが……」


「はっ! お前さんも判っているんだろう?」


「……使者になれと?」


「ああ、俺達の先祖が何者だったか、なんとなく気付いているのだよな?」


「……120年以上前、人間国が連合国に入って居た時代の……王侯貴族ですか?」


「クククっ、まぁそれほど厳重に隠している訳でも無いが、半年かそこらで気付くか……」


「その件をお断りする事は?」


「断るなら×××と×××と×××と×××と×××と他自薦数名と結婚をして貰い、里の中で一生を終えて貰う」


 増えてる! さっきより三人プラスαで増えてるから! 確かにレジスタンスという活動のせいで男は任務中に死にやすいけれども……名前が出たのって未亡人ばっかりじゃんかそれ!


 ……って、そういや俺の年齢設定が彼女達より上なんだった、今俺は36歳っていう事になってるんだから……しょうがないのかな?


 それと名前の出なかった自薦の数名もすごい気に成る、誰と誰よ?


 んーでも使者はまぁ相手に伝える内容次第ではいいとして、旅用の物資を貰えるのは嬉しいよなぁ、それなら。


「判りました、相手に伝える内容次第ですが、使者である俺が処されない様な内容であればお受けします」


 長に頭を下げながらそう伝えた、無いとは思うけど獣人国にケンカを売りにいけとかだと俺の命がナイナイしちゃうからね。


「よし、それなら――」

「私も行くからねお爺ちゃん!」


 うわっ、俺と長のすぐ側にカーラ様が急に現れた、相変わらず、すごい能力だな。


 てーかさ……〈隠密〉ってこんなにすごかったっけか?


「カーラシア! お前はまた盗み聞ぎなぞしおって! これは非常に大事な役目だ、お前の様に上に立つ者の自覚を持たん奴にはまかせられん!」

「私だって判っているよお爺ちゃん! このままだと私達は終わるって事も!」


 おっとカーラ様の叫びに長がびっくりしている、まぁ決定打の無いレジスタンス活動なんて、そのうち裏切りか、内部崩壊か、それとも人口の先細りか、まぁ終わるだろうね、今すぐって話では無いだろうけど。


 そこから始まる親子、じゃない爺と孫ケンカは聞くに堪えない物だったので、俺は長の家からお暇した。


 さて、帰ってご飯作ろうっと……どうせそのうち家から飛び出してくる娘っ子が居るだろうから二人前な。



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