第107話 繋ぐ想い
「僕が獣人国の王都にですか?」
「ああ、お嬢が坊主を移動させるべきだと言ってな」
「なんでまたそんな事に……」
ガラハドさんからの提案に俺はちょっと困惑をしている。
あ、こんにちは、もう寂しくは無い山羊獣人のサチ、14歳になります。
「やっと村も大きくなって計画がさらに進むところじゃないですか、ガラハドさん」
俺が崖上に彼らを案内してから丁度一年か、崖上の調査も終わり本当に魔物が居なく、しかも外部からの侵入も無さそうという事で。
崖上に村を作り食料を自給し、そして囮と崖上からの攻撃を使いつつ草原のトカゲ共を減らしていくという計画だった。
それは意外と上手くいき、崖上村の規模も大きくなりそろそろ本格的に崖下の草原を掌握していこうかという話だったんだが……。
「坊主も先日の巨大竜の話は聞いているよな?」
「えーと、今までと桁の違う大きさのトカゲが確認されたって話ですか?」
「ああ……今も崖下との連絡通路の繋がっている塔付近では厳戒態勢が敷かれている」
「それは聞きましたけど……そんなにやばい大きさだったんですか?」
俺は村での仕事を主にしているので現場を見ていないんだよね。
ちなみに俺の仕事は、お持て成し、だ、まぁ俺が勝手にそう名付けているだけで、兵士達の士気を保つ為に酒や娯楽は必要だからね、酒の飲める酒場みたいな所で働いている、そこで〈調理〉や〈歌唱術〉と〈演奏術〉を活用をして皆を楽しませる重要な役目だ。
獣人国だと普通こういうのは戦場商人の役目なんだけどね、場所が場所だから商人も好き勝手に来れないので、用意できる物は軍が用意しないといけない訳だ、それでもって俺の祝福能力は適任だと言う事でティガーナさん直属の兵という立ち位置で働く事になった。
つまり今の俺は獣人国の現地採用の臨時兵って所だね。
娼館だけは商会を特別に雇って経営しているので、そっちの仕事を俺がする事はありません。
ちなみに俺は絶対に娼館付近に近づくなとティガーナさんから、それはそれは怖い顔で厳命されています。
「ああ、高さが10メートルはゆうに超えているとの話だ」
前世であるドワーフの時に広めた度量衡が獣人国にまで広まっているようで何よりなんだが。
やばい数字が出て来たね、崖の高さの低い所まで後少しくらいの高さじゃん、しかも正確な数字が出ないという事は遠目に見たって事で……もっと大きいかもって事か、崖上に登って来られる可能性がある?
……それは確かに憂慮すべき……ああ、だから俺を避難させようとしたのか。
「なぜ急に王都とか言い出したかは理解しましたガラハドさん、ですが俺は逃げませんよ、逃げるのなら皆やティガーナさんと一緒にです、それか、防衛が無理というのならここを放棄しちゃいましょうよ」
逃げるが勝ちって言葉もあるしさ。
「そういう訳に行かんのだ坊主、お前も聞いただろ? お嬢の想いを」
ああうん……ここ『竜の巣』を解放する目的なんだけど、食料の大増産が目的なんだよね、水が豊富で平地が広がっていて、多少丘陵を平らにしたりする必要はあれど……場所的にすごく良いのは理解出来る、実は川を使えば交通の便も悪くないから食料輸送も楽だしな。
しかもここはオーク帝国との国境から程よく離れているし、それに。
「亡きドワーフ王の意思を継ぐ、ですか?」
「ああ、俺達獣人の友である〈
「……断られたんでしたっけ?」
「んや……俺は細かい部分までは知らんのだが、お嬢はレオン王のその英雄的行動に惚れていてな、結婚に乗り気だったみたいなんだが……オーク帝国との終わらない戦いで落ち着く事も出来ずにいつのまにか話が立ち消えたとかなんとか?」
俺は普通に断ったっていう前世の知識が読めるけど、獣人国的には、断られたとするよりも、出来なくなったとする方が良かったのかな?
「そのレオン王が次に目指していたのが連合国の食料問題ですか」
確かに前世知識を読み込むと、現状維持ならどうにか成るが、オーク帝国とガチで戦争するには食料が足りてないと思っていたみたいなのは知識として読める。
「そうだな、お嬢はよ、レオン王が砦の奪還戦で亡くなった事に心を痛めてな、長かった髪を切って誓ったんだよ、自分が惚れていた亡きレオン王の意思を継いでみせるってな」
なるほど……結構重めの理由だった、ドワーフ王が考えていた食料生産地をここにしたいって話は聞いてたけども。
ん? ……あれ? ……え!? ティガーナさんって俺の前世のドワーフに惚れていたの? ……いやまじで?
「……結構歳の差とかある気がするんですけど、確か話に聞くレオン王が……」
「お嬢が14歳でレオン王が34歳の時に一度お会いしたらしいな」
「20歳差ですか、虎獣人なら14歳でも背が高そうですし、ドワーフ族との身長差もありますよね? 何よりティガーナさんって年下が好きだったのでは?」
「レオン王は我らが友であったから特別だったのと……ドワーフは今のサチと同じくらいの身長だしな……レオン王はドワーフであるのにも関わらず、酒も程々に控えて健康を意識していたが故に見た目の若さを保っていたとかなんとか聞くしな」
ああうん……ドワーフって人や獣人に比べると長命種じゃんか? それなのにやけに老け顔が多いなーと前世の俺は思ってたみたいで……その原因が酒じゃね? って思った俺の前世は、酒をあまり飲まずに確かめたら……お肌とか若々しいままに歳を食ったみたいだね。
ドワーフ嫁にそのお肌の秘訣を聞かれて答えたが、酒との天秤で三日三晩嫁達が唸って悩んでいたとかなんとか……その後に三日分飲む宴を開いて諦めたっぽいけど。
しかし俺の前世の意思を継ぐかぁ……嬉しいやら恥ずかしいやら、他にも前世の俺がやりたかった事……つまり各地に道を作ったりとか魔道具の研究とかをやってくれてる人とかがいるのかもねぇ?
自身の前世が為した歴史が、生きている人々の中に根付いていると思うと、ちょっと嬉しいね。
まぁ。
「ティガーナさんの小さい物好きは置いておきましょう、その巨大トカゲの対処に、まずは崖上にドワーフ謹製の防衛兵器を並べる事から始めましょうか?」
「いや、レオン王の系譜が治めるドワーフ王国の者達も、レオン王が残した政策のおかげで兵器や武器の増産をしてくれてはいるが、それでも前線分で手一杯で、さすがにここまで持って来る事は――」
「僕が作りますよ」
「……はぁ? いやいや、そんな冗談は酒場での漫談の時に……出来るのか? 坊主……いや……サチよ」
「ええ、思い出して下さい、初めてここに来た時に俺が作った丸太小屋を見て驚いたでしょう?」
「あ、ああ、あれは目ん玉が飛び出るくらいに驚いたな、ゴクリッ……本当にそんな物が作れるんだな?」
「はい、相手が恐竜……でかいトカゲというのなら、投石機より槍みたいな太い矢を飛ばすバリスタの方が良いですかね?」
「……お前は本当に……嘘をついては……いやでも本当に出来るとは……」
「ふふ、そのガラハドさんの嘘を見破る……〈看破〉とかですか? その能力も相手が本気で思い込んでいたら意味を為さないですもんね」
「サチ……お前は一体……」
「僕の名前はサチ、ティガーナの弟で、『竜の巣』攻略部隊の一員で仲間ですよ、ガラハド」
「……了解したサチ、材料と道具なんかは好きに使え、まずは一つ作ってみせろ、酒場の仕事はしばらく放棄していい、穴埋めはこちらでどうにかする」
「信じてくれてありがとうガラハドさん」
「仲間を信じられない兵士は長生き出来ないからな、でももし駄目だったら……罰としてお嬢のお婿さんにしちまうからな?」
「あはは、それは罰になってないじゃないですかガラハドさん……ティガーナさんの想い人だったレオン王の意思を、僕が繋いでみせますね」
そう言って立ち上がる俺。
ガラハドも俺に合わせて立ち上がり俺に向けて手を出して来る。
「頼んだぜ坊主」
「了解だよガラハドさん」
俺は獣人国の兵士達が仲間うちでやる特殊な握手をガラハドさんとするのであった。
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