第105話 枕の仕事

 おはようございます、山羊獣人で13歳の寂しいボッチ……では無くなったサチです。


 ムギュームニュムニュ。



 今日も今日とて良い天気っぽくて平和な事ですね。


 ムギュームニムニ。


 まぁ、本当に良い天気なのかどうかは、俺から見える部分は真っ暗なのでまだ判らんのですけど、雨音もしないのでそう思っておきます。


 ムギューフワフワ。


 そして俺は最近毎日食らって居るティガーナさんの圧殺攻撃を食らっている所です。


 ムギューモフモフ。


 動けません。


 動けないし風景も真っ暗なんですがどうしたものか……。


 そんな俺の耳にテントの入口から人の入って来る音が聞こえて来た。


「はぁ……またか、大丈夫か? 坊主」


 ガラハドさんの声が聞こえるので、唯一自由に動く右手を振ってみせる。


「無事で何より、ほらお嬢! 起きてくだせぇ! 抱き枕代わりにされている坊主が辛そうですぜ!」


 いえ、丁度俺の顔にティガーナさんの大きなお胸様が押し付けられているので、それほど辛くはありません。


「んんぅ……? おあよぉがらはど、サチ坊もおはよぉ~」


 そう挨拶をしてくるティガーナさんだけど、寝ぼけているのか、抱き枕を抱きしめ直してもう一度寝てしまった。


 ちなみに抱き枕というのは俺です。


 ムギューパフパフ。


 ここは天国だった?


「坊主も自力で抜けられるんだろう? 仕事を手伝わないと飯抜きにするぞ?」


 あ、それは嫌だ、ここのボスはティガーナさんなんだけど、実質的な仕切りはガラハドさんがやっているからね、彼が飯抜きと言ったら本当に飯抜きになってしまう。


 ティガーナさんの腕を押し上げてスルリと腕の中から逃げた俺はハンモックの中から抜け出すと。


「おはようございますガラハドさん」


「おう、お嬢は朝が弱いからほうっておけ、また朝飯の手伝いを頼んでいいか?」


「了解です」


 そう挨拶を交わしながら天幕を出ていく俺とガラハドさん、ティガーナさんは起きてこなかった。


「毎日毎日悪いな坊主」


「いいえ大丈夫です、と言いたいですが、それは何に対してのお言葉でしょうか?」


 俺は朝食の準備をしながら、それを近くで見ているガラハドさんに質問をしてく。


「飯の用意もだし、それにお嬢の枕になって居る事もだ」


「ご飯はまぁ、このあいだの祝福で〈調理〉を手に入れたからそれほど苦ではありませんし、枕になるのは……嫌じゃないですから」


 朝のスープを作りながらそう答えていく俺だ。


「あの時の坊主の祝福はすごかったな……」


「僕はむしろ、こんな森深い中で神像に出会えた事に驚きですけどね」


 この拠点というか砦にお邪魔してもう二週間くらいになるか。


 話の流れで祝福を貰いに獣人国の都市へ行きたい旨を言ったら、小さな神像を見せてくれた。


 それは胸の大きなセクシー巨乳美人熊獣人神像だった……。


 俺の記憶には無い作品なので、神像を模造した誰かのオリジナルだろう、素晴らしいね。


 さすがにキャストオフ機能は無かったけども。


 その流れで祝福を貰ったら……光の玉が一杯出てさぁ……あの時は拠点中央の広場でやったんだけど、その瞬間広場に居た人らの雑談が止まって静寂が訪れたんだよね。


 やー、まさかあんなに出るとは思わなかった。


 たしか前世は二個だったのになぁ……。


 今生は13個も出やがった……、正直びびったさ。


〈調理〉〈財布〉×5〈夜目〉〈着火〉×2〈歌唱術〉〈演奏術〉〈剛力〉≪獣化≫


 の13個だった。


 まぁ祝福を教えろと強要する事は良くないという教会の教えもあるのだが、ティガーナさんのワクワク顔に逆らえず、その時覚えた能力は全て教えるはめになってしまった。


 俺が嘘をついていない事はガラハドさんが判るはずなので皆信じていたね。


 そんな訳で何故か調理係として雇われている俺だ。


 この転生で一番欲しかった〈水生成〉が出ないのは……ガチャには物欲センサーが付きものって事だよな!


 〈財布〉はすっごい嬉しかった……パンツと薄いアンダーシャツが入れておけるくらいになったんだよ? 最高じゃね?


 とまぁ、なんだかんだで。


 情報を仕入れたら獣人国の都市部にでも行こうかと思ったんだけどさ。


 ティガーナさんが俺を保護するって言いだしてさ。


 俺が自分の名前の話を伝えた時とか、俺を抱きしめながら悲しんでくれたからなぁ……優しい人だなと思った、まぁそれはそれとして獣人国に行くつもりだと言ったんだけど、聞いてくれなくて、何故か俺の姉になると言い出した。


 肉食系虎獣人の弟が草食系山羊獣人だって? んなあほな……。


 どうしたものかとガラハドさんに相談したら……どうも俺はティガーナさんの好みにぴったり嵌るそうだった。


 年下で背が自分より小さくて可愛らしい男の子が好きっぽい、本人は自覚してないからってガラハドさんが言ってたけどね、そういや初めてあった時に僕って言った時のティガーナさんの反応がちょっとあれだったっけか。


 という訳で俺の仕事は調理人兼抱き枕な弟だ、うん、意味わかんねぇよね、まぁ俺はお胸様の感触が楽しめるからいいんだが、俺がもうちょい歳を食ったら好みから外れるのかねぇ。


 とまぁあれこれ考えているうちに、恐竜の煮込みスープの出来上がり!


 ……トカゲ肉と周囲の森で獲れる香草やらを使った煮込みだね、味付けは塩。


 この拠点って『竜の巣』を攻略解放する為の前線基地なんだってさ、なんでこんなやばい土地を解放したがっているかというと、その理由は――


「ふぁぁぁーーあ、おはよー皆、サチ坊も、良い匂いだねー」


 まだ眠そうなティガーナさんがこちらに歩いて来た所だった。


「お早う御座いますティガーナさん、丁度スープが出来た所ですよ、皆さんもどうぞー」


 待ってましたと言わんばかりに俺が作ったスープ鍋に群がる兵士達。


 そう、俺が冒険者だと思っていたこの人達は、獣人国の正規の軍人で、ガラハドさんが将校で、ティガーナさんが獣人国の姫だった……。


 いやさぁ、それを聞いてやっと思い出したんだけど、俺の前世のドワーフの時に獣人国の王の娘さんと結婚の話が出たんだが、まさしくその話に出てきた子だったんだよね…‥。


 あの時の王女の年齢が13? 14? とかで今は19歳だから、ちょっと判らなかった、マダラ色の髪の毛も昔はロングヘアだったはずだしさぁ……今はショートカットだし、そりゃ判らんさ。


 一回挨拶したくらいの子だったみたいだしな……勝気そうな目をしている女の子って記憶があるな、今のティガーナさんも最初に会った時はそんな感じの目だったけど。


「ハフハフッ、美味しいよーサチ坊、この香草の使い方が秀逸だね、さすが私のサチ坊だ」


 俺は貴方の物ではありません。


 ハグハグと美味しそうに恐竜の煮込みスープを食べている人と、記憶の中の少女のイメージが合わないんだよなぁ……。



 ……。



 ……。


「行ってらっしゃい皆さん、ティガーナさんとガラハドさんもお気をつけて」


 俺は完全装備をした彼らを拠点の出入り口付近でそう言って見送るのだった。


「今日もあいつらを狩って来るからね、楽しみにしててねサチ坊」

「坊主に恰好つけたいからって無茶は許しませんからね? お嬢?」


「ももも勿論そんな事しないよ? いつも通りに安全にいくってばガラハド」

「頼みますねお嬢、では行って来る、留守番組も気をつけてな! 坊主は上手い飯の用意を頼むな」


「はい行ってらっしゃーい」


 兵士たちの美味しいご飯をよろしくの掛け声にも答えつつ、俺は手を大きく降って彼らを見送っていく。


 俺が来る前は持ち回りの調理で……さばいた肉に塩を振って焼く、終わり!


 みたいな食事だったらしいからね。


「さて、それじゃぁすいませんがまたお願いしますね」


 留守番組の兵士に護衛を頼んで森の中で素材採集をする俺だった。


 攻略組が行く草原は見通しが良くて大きい二足葦歩行のトカゲが時には群れで一杯いるから危険らしいが、森の中は木々が密集して生えているので大きな魔物はおらず、居たとしても小さめの魔物なので兵士が5人も居れば大丈夫っぽい。


 ティガーナさんは俺が採集に行くのを反対してたんだけどね、ほら、俺が教えた能力だと戦える祝福能力が〈剛力〉と≪獣化≫だけに思えちゃうみたいで……力だけあっても技が無いとね……まぁ最終的にガラハドさんに説得されてたけどさ。


 これで≪獣化≫トリプルかぁ……≪獣化≫ってさ、その名の通り獣部分が強くなり、そして基礎的な身体能力を引き上げる代わりに知性というか理性が下がるものという認識をされている。


 俺は簡単に身体強化バフと精神デバフが同時にかかるって考えているけど。


 崖の上で試しで≪獣化≫をダブルで使った時は理性がぎりぎり保てるって感じになったのよな、シングルの時に比べてこう……目の前の敵をぶちのめせ的な思考が強くなっちゃってさ。


 つまり身体強化バフが倍に、そしてデバフも倍になっていると考えたんだよ。


 これで≪獣化≫トリプルだろう? 三倍のデバフは耐えられるかちょっと心配なんだよね、まぁシングルとダブルで使い分けられたからそっちのみを使えばいいんだけどさ。


 それにダブルだと魔力を倍消費するみたいでさ、作業途中で魔力が切れちゃったんだよね、トリプルなら三倍消費? それはきっついわ。


 燃費を考えるならシングル推奨だよね。


 こんな事を考えながら味付けに使う香草とか木の実とかを集めていく、兵士さん達はあんまりこういう知識が無いみたいで輸送で持って来てある乾燥野菜を入れたスープくらいしか野菜を取ってなかったみたいなんだよな。


 壊血病とかになりそうで怖いったらありゃしねぇ……。


 あ、ちなみに俺の恰好は例の木の枝防具です。


 こんなやばい狩場の最前線に送られる獣人ってさ、やっぱり戦闘が得意だったり力が強い奴だったりな種族が多いのよ、犬や狼や虎や熊や猪やらサイやら牛やら、後は斥候が得意な猫獣人が数人いるくらいか。


 俺みたいな山羊獣人は勿論居なくてさ、鼠獣人とかもそうだけど、種族的に小柄なもんだから、替えの洋服の時もそうだったけど、予備の防具とか大きすぎて装備出来なかったんだよね……。


〈革細工〉とか〈革職人〉とか〈革加工〉とか、そういう特化型な祝福が欲しい所だ。


 まぁこんな事を考えつつも香草はたっぷり集まった、果物的な物や木の実も一杯なので。


「十分収穫出来たので、そろそろ帰りましょう」


 俺が兵士の皆さんに声をかけると。


「「「「「了解しました!」」」」」


 そうやって返事が来るんだよね……俺がティガーナさんの弟扱いを受けているから?


 でも最初の頃は普通に坊主扱いされてたよねぇ? うーん……まぁ実害は無いからいいか? 俺は君らの指揮官とかじゃない只の居候なんだけどねぇ……。



 まいいや、帰って美味しいご飯で攻略組を出向かえてあげよう。


 この攻略の目的は俺も賛成出来る内容だったからね。







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