第103話 勝気な目元

 こんにちは、たぶん山羊獣人で寂しいボッチのサチです、年齢は水を鏡代わりにして見てもちょっと良く判らないので未定。


 たぶん10代前半くらいだと思うけど。


 夜風を防ぐ拠点を作り、石斧や石ナイフを作り、木の枝鎧……当世具足風? まぁその言葉とは裏腹にまったく十分に備わって居ない防具が出来ました。


 兜は無し、いやだってさぁ……二本ある後ろに反って居る角が邪魔やねん、自分の角の位置とかが自分じゃ良く判らないんだよな。


 なので兜無しの戦国武将って感じになった……いや、出来の悪いコスプレかなぁ? まぁ無いよりましって感じの鎧だ。


 そういった装備を作り上げるのに数日、〈細工〉の祝福が良い仕事をしてくれているが、本職には到底及ばない物なのはしょうがない。


 祝福の中には〈武器職人〉や〈防具職人〉みたいな特化型の能力な物も存在するしな。


 ちょっと不思議なのが、自然一杯な世界なのに魔物と一度も出会ってないんだよね。


 獣すら鳥しか見かけないのがちょっと不思議というか謎くて怖い……。


 とはいえ強力な肉食獣の縄張りって感じでも無いんだよな……うーむ……。


 罠で捕まえた鳥の肉やら木の実やら食える草やらを持ちやっと周囲の探索に行ける訳だ。


 目指すは文明社会、それか岩塩を見つけるか、もしくは海へ向かいたい所、まずは滝があった地点から左右にいける所までいこうか、下に降りれる場所があるかもだし。



 前世知識でクランク博士さんが嘆いていた、食えるけどすっごい不味い草ともお別れしたいからな。


 ……。



 ……。



 ――



 うん、探索からそれなりの日数がたった……結論としてだ、ここから降りるには崖を降りるしかねぇ、もしくは背後にあった険しい山を登るしか無い事が判った。


 滝があった場所から左右にずーーーーーっと崖が続いていて、小川も幾本も各地に流れていて、さらに崖の途中から水がジャバジャバ流れているから崖下の境目に細長い池が崖に沿ってずーーーーーーっと繋がっていた。


 険しい山の上の方はずっと曇ってるからなぁ……海から来てる湿った風をあの山々が受けて雨が降り、それが地下に潜ったり複数の小川になって崖まで来てる感じ。


 大きい川が無いから草原地帯の草で小川が隠れていたみたい……あの時に森側じゃなくて丘陵側に行っても小川を見つけていた事だろう。



 崖を横目に移動をした終点はさらに高い崖というか山になっていてその麓を沿うように山側を探索したら……元の滝に戻って来た。


 ぐるっと回るだけで十日以上はかかったか? 東京23区くらいの広さの高台が山と崖に囲まれているって言えば判るだろうか。


 まぁ日本の前世記憶でも、そんな所わざわざ歩いた事ねーから、なんとなくそれくらいの広さというイメージでしか無いけど、自然あふれる場所を歩くのって地味に時間かかるからなぁ……もうちょい狭いかも?


 そして魔物とは一切出会う事も無く、普通の獣も鳥以外見つからなかった、居るのは何処にでもいるスライムくらいだったな。




 なので今は〈細工〉や〈木工〉能力を使い、崖を降りる為の縄梯子を作っている所で、滝がある崖の高さも色々だが低い所なら10数メートルなんだが、その下の池の深さがどれくらいか判らんし、また戻ってくるかもだから、池に飛び込むのはやめておきたい。


 崖途中からもあちこちで水が流れ出しているので、崖をクライミングで戻るのは手が滑って厳しいと思うんだよね。なのでしっかりとした縄梯子をこさえたい。


 設置しっぱなしだと水に濡れるから植物性の縄はそんなにもたないとは思うけどね。


 ……。



 ……。



 ――



 さて、縄梯子も出来た、保存食的な物も用意した、後は……崖の上から下側をもうちょい観察だな、前は先に進む事を優先したからじっくり眺めたりはしなかったからさ、色々と時間もかかるし拠点はちょいちょい増築している。



 そうして俺は崖の高さが20メートルを超える部分やらから先を見る、非常に広い草原には川がいくつも流れていて草も一杯で草食系の動物だか魔物だかも各地に見える。


 勿論肉食の魔物とかも居るのだろうけど……ここまで豊かな地に人が居ないってのはなんでかね? と思ったら、その理由が判った。


 やべー魔物が見えたんだよね……恐竜って知ってるだろ? なんとかラプトルとか、なんとかサウルスとか……ここにはそういう奴等に似てる魔物が居たんだ……。


 それで、俺は理解した、ここはだと。


 連合国の中だと獣人国の支配地とされているけども、実際はドラゴン系、つまりトカゲの親戚な肉食系魔物が群れを成して居る場所で、未だに攻略や開拓が成功していない場所があったはずだ。


 トカゲといえど大きさが数メートルから十数メートルまで居ると言えば、その危険さが判るだろうか。


 どうしよう、20メートル級のティラノサウルスさんが居たとして、俺の魔拳で勝てるかな?


 今見えているのは体長3メートルくらいの二足歩行で走るトカゲっぽい奴で、鹿っぽい獣だか魔物だかを追っている所だね、今見えている一匹なら余裕で勝てそうだけど……群れで動く種とかだと怖いなぁ。


 ちなみにその3メートルってのは俺の身長を150~160センチくらいと見て言っている、たぶん12,3歳くらいの体だと思っているから。


 さて、崖下に肉食っぽい魔物が見えた訳だが……。


 かといってここに居てもジリ貧なんだ……塩がそろそろ無くなるからね……最悪獲物の生肉を食うという手も無い訳じゃないけど……さすがにそれは最後の手段かなと。


 まぁ明日は崖の一番低い地点に縄梯子を取り付けて下に行ってみるかぁ。


 ……。



 ……。



 ――



 そんな訳で崖下にやってきました。


 池は泳いで渡り、今は対岸に辿りついた所です、ただこのまま草原を突っ切るのは危険だろう、なので崖上からはよく見えなかった右手側の森の中を行こうかなーっと思って、崖下の池に沿ってそちらに向かっている所だ。


 森の中は不意打ちが怖いが逃げやすいってのもあるし、結構植生が濃いっぽいので食える物も沢山ありそう。


 そんな森に後少しという地点に近づいた頃に、草原側から一匹の恐竜……二足歩行のトカゲが俺をロックオンしたのか真っすぐ俺に向けて駆けて来る、大きさは4メートル強って所か。


 俺は荷物を背中から降ろして戦闘準備をする、一匹相手なら丁度良い……。



 ダブル≪獣化≫のには程よい相手だ、崖上の木が相手じゃ物足りなかった所だしな。


 そんじゃ、いくかぁ! 獣――


 ヒュゥン! そんな空を切る音が響く。


 そして……。


 ギャォォォンと、トカゲが喚き始める……ああうん、体に槍が刺さったらそりゃ痛いよなぁ……そしてトドメとばかりに矢や投げ槍が再度二足歩行のトカゲを襲う。


 ズブズブと獲物が刺さっていき倒れてもまだ暴れるトカゲだが……走り寄っていった獣人が脳天に槍をぶち込んだら大人しくなった。


 ナムナム、俺が≪獣化≫を使う事なく戦闘が終わってしまった。


 そうして森の中から武装をした獣人がワラワラと出て来る、彼らの装備の揃って居なさからすると、冒険者か?


「大丈夫かい坊や?」


 森の方から出て来る冒険者を見ていた俺の背後から、そう声をかけて来たのは……革製の防具で身を包んでいる黒と茶色と白のマダラな髪の毛の色が特徴な虎獣人の女性だった。


 さっきトカゲに近接でトドメを刺したのもこの女性だね、マダラ色の髪の毛がショートカットで勝気な目元も凛々しくて顔つきは男に見えなくも……いや、やっぱどう見ても女性だな、皮鎧の胸部分も膨らんでるし。


 俺と同じで頭に何も装備してないのは、獣人は頭の上に耳とか角があるから兜をしない人も多いからな……。


 そうして俺の事を坊やと呼ぶその女性の背は俺よりも高く、俺が150としたら180センチは超えてそうに見える、歳の頃は二十歳はたち前後かなぁ?、そんな彼女が俺を坊や呼ばわりするのだから、俺の歳はやっぱり十代前半くらいに見えるのだろう。



 俺は虎獣人の女性に対して。


「助けて頂いた様でありがとうございます、僕はサチと名乗っています」


 頭を下げてお礼を言った、なんとなく、そう、なんとなくなんだが……10代前半の坊やなら『僕』を使うのが良いと思ったんだ。


「あ、ああ……私はティガーナ、見ての通りの虎獣人だ」


「お嬢、草原にいつまでも居るのはやばい、解体を終わらせて早く森の拠点に引こう」


 森から出て来た様々な種類の獣人の中でシベリアンハスキーに似た犬獣人っぽい男の人が俺の目の前の女性に声をかけてきた。


「そうだね、では手早く片付けちゃおう、サチ坊も一緒に私達の拠点に来な、話はそこでしよう、ここらはあいつらの縄張りで危ないしね」


 そう言ってトカゲを指さす虎獣人のティガーナさん、まぁ情報を手に入れるのには丁度良いか。


「判りましたティガーナさん、ではお邪魔させて頂きます」


 俺はそう言って頭を下げるのだった。

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