草食系
第102話 何処?
ん……次の転生か……。
目が覚めた俺は上半身を起こし周囲を確認する、ってか周囲の雑草らしきものが、上半身だけを起こした俺の目線より高く、びっしりと俺を囲む様に生えているために周りが見渡せない。
すぐさま立ち上がりたいが、落ち着け、魔物とかいるかもだしな、まずは周囲と自分を確認、お、また荷物が落ちている……これはいくらなんでもラッキーが過ぎる様な……。
転生の神様が物資をおまけでくれる様になったとか?
まぁありがたく服を着て……あ、また男か、しかも白い短い毛が肌から生えている部分があるから、獣人っぽい、体や腕や足の部分を見ると獣度3の人度7くらいに見える、顔を触って見ると人間の顔っぽい。
だがしかし、なんか頭の重心がおかしいというか重いというか……。
不思議に思った俺が頭を触ろうとすると、ゴツっとした何かが手にあたる……これは……角か?
顔の横には耳があるけど人間の耳より長くて毛も生えているな、たぶん獣人の耳だ。
うーん、角は頭の左右から二本生えていて、背後に反っているので……頭突きで突き刺す使い方は出来ないかも?
俺の中の前世で見た色々な種族の中でこの形に近いのは羊像人? いや……角が巻いてないから……山羊獣人が近いか? 毛もそんな感じだしな。
鏡が荷物にあれば一発で判るのになぁ……。
まぁ服を着よう……角が邪魔で上着を着るのが面倒だった。
肌の色艶を見るに、そこそこ若い気がするけど、背の高さとか自分じゃよく判んねぇんだよな。
荷物も確認、ドワーフの時と同じだ、ふーむ、やはりこれは誰かの忘れ物ではなくて、神様か何かが俺にくれた物って事で良いだろう。
遠慮なく貰えちゃうから有難い。
荷物も背負って、そっと周囲に生えている雑草の上に顔を出す、キョロキョロと周りを見渡すと……うへぇ……周囲が全て背の高い雑草の平原? が広がっている、なんだろここ。
ドワーフ王国の近くにこんな地形あったっけかなぁ? また少し遠くに飛んだかもしれん。
場所も当たり外れがあるからな、この転生ガチャは。
立ち上がると周囲の雑草は俺の腰よりも高くて胸に届くくらいあるのが判る。
さて、向こうに見える山にいくか、それともこっちの森っぽい方に行くか、はたまた視線を遮っている丘陵を登るか……今は遠くまで見える方を優先するか。
武器は落ちてなかったが俺には拳があるし、小高い丘に登ってみますかね。
……。
……。
くっ……ナタみたいな刃物が欲しい様な、あっても変わらない様な……背の高い雑草が生い茂っている場所を手でかき分けて進むのは無駄に体力を消耗する。
荷物に入っている皮の水筒から水を一口ゴクリっ。
〈水生成〉の能力が欲しい、毎度毎度人のいる場所に転生する訳じゃない事を考えると自然の中で生きていける能力が欲しいね、〈着火〉とか〈水生成〉とかは街に暮らしている人らには外れだけども、俺には当たりなのかもしれない。
よっこらしょーっと、小高い丘を登り切りその山頂から周囲を見て見る、最初に居た地点からは高さで十数メートルしか変わって無いくらいの高さだけど、結構遠くまで見え……。
あれ? やばくね? まったく人工物が見えないです……あ! そうだ水! 水の有りそうな場所を探さないと詰む!
俺は必死に周囲を睨む様に見回す、〈水生成〉がすっげー欲しい! やばいだろこの状況。
森は水場もありそうだが魔物も多い場合があるんだよな……となると遠くの山よりはこの丘陵地帯を奥に向かう方が? ぬー……判断に失敗したら死ぬ可能性があるなこれ。
身の安全を考えると木の上の寝床とかも欲しいが……。
決めた! 森には入らないけど、木材は欲しいから森と草原の縁を山とは反対方面に向かって進む!
荷物はドワーフの時もそうだったけど簡易的な旅人用の物っぽいんで、小さな鍋や火打石はあるんだ、保存食っぽい物とか塩とか、そして今は使えないが金もちょろっと入ってるし、着替えの下着や、雨や日除けに使うローブも入っている。
やっぱり問題は水なんだよな、さっき飲んだ皮の水筒の中身を考えると、もって二日って所か、歩けば汗をかくから、水を飲まないと倒れちゃうしな。
せっかく若そうな体に転生をしたのに、自分の顔すら確認する事も出来ずに野垂れ死にしそうな件について……。
やっぱりこの転生ガチャはクソだなぁ。
歩くっきゃねぇか……、ドワーフの時は洞窟の通路で前か後ろかの選択肢しか無かったから選ぶのは楽だったよな……。
……。
……
――
こんにちは、山羊獣人の……名前どうしようかなぁ……未だに言葉を話す知性体に会えて無いので名無しです。
何か決めておくか、えーと……寂しいボッチでサチとでもしておくか。
今生の転生はやばかったです、目が覚めてから湧き水を見つけるまで三日かかりました……。
森の側を歩いて川か何かを探していたけど歩けど歩けど何も無かった、仕方ないので危険を承知で森の中に入った三日目に植生の変化を感じてやっと水を見つけたんだ。
すっごい綺麗な池で良く見ると各所から水が湧き出しているのが判った、その水が池から溢れた分が小川となり流れ出していた。
人が飲める水なのかどうか、色々確かめるべきだったんだけど、その時はもう水分不足で辛かったからさ……。
水が湧いている部分に顔を突っ込んでそのままゴクゴク飲んじゃったよ……幸いというか獣人の特性なのか、お腹は壊さなかったけど……。
今は一応一回小鍋で沸かしてから飲んでいる。
そこを拠点にしてまずは飯を探そうと、周囲を探すと俺の前世でのレンジャーの知識で食える草とか木の実とかを見つけたんでなんとか生き延びた。
そして小川を下って人のいる世界を見つけたいと思ったんだけど……似た様な池と小川が各所に流れていたんだ、ここらは水が湧き出し易い土地だったみたい。
そして小川が合流して川になり……滝になって落ちていく場所まで行き、崖になっている部分の上から先を見ると、これまた草原が広がっていて……人工物は見えなかった。
滝の高さというか崖の高さが10メートル以上はあるんで降りるのは一旦諦めた。
崖に沿う様に川というか狭い池があって、そこから流れているのか、草原には幾筋もの小さな川が見える、遠くには木々が見えて先が見通せないがあの先に海があるんだろうか?
俺は手持ちの塩の残量を考えながら来た道を戻る。
そこで考えたんだよ、色々と歩き回るのはいいけども、まずは拠点作りじゃね? と。
綺麗な湧き水の確保が容易な最初の地点へと戻り、俺の祝福の能力である〈木工〉や〈細工〉を使って拠点を作る……為の道具から作り始める。
最初は石を割って斧や刃物代わりにする所からだろうか? 道具なんかをお店で買えちゃう文明ってのは本当に有難いよな、こんなん最初から作ってたらいくら時間あっても足りないんだよ!
でもやるしかねぇ、まずは石斧や石刃物、そして拠点というか寝る為の場所、それから防具かな、未だに魔物に出会ってないけど、出会ってからじゃ遅いからな、俺は〈魔拳術〉のおかげで武器がなくても戦えるが、防具は必須だ。
ドワーフの時は金属鎧でガチガチに固めて戦ってたからねぇ、それでも傷を負って……亡くなってしまった訳だし。
木の枝を植物のツルで繋いで作るしかないか、日本の戦国時代の武士の甲冑みたいな見た目が一番合理的かねぇ。
後は拳を守る小手だがバンテージ的な物でどうにか……草で使ったヒモを巻きつける感じで代用するか……。
さて、いっちょやったるか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます