第100話 もといのおう

 ……どうなっちゃうんだろうか? なんて思っていた頃もありました。



 神歴1470年


 18歳になった俺は……。


 この地下にあるドワーフ王国の王様に成りました!



 何を言っているのか判らないだろうが、俺には判っている!


 切っ掛けは王女殿下他二人のドワーフ娘が積極的な行動を起こし始めた事により。


 数か月たち気が付いたら俺は彼女達のお婿さんになっていた。


 ドワーフ族と他種族との身長差を気にしなければ自分との身長との比率でこう……ちょっとふくよかな女子って思えちゃうくらいには絆されてしまったんだよね……。


 すごく性格の良い子達なのよ……酒豪系だけども。


 それでさ、王女殿下の婿になったのはまぁいいんだ、そんな嫁には兄もいるし王様も健在だからって思ってたし。


 でも何故か今生の俺は男共にすっごく軽く見られるんだ、教会で勉強やらを教えていた子供のうち、男の子達にも軽く見られていたし、酒造りで多くの職人に出会う機会があったけど、やけに下っ端に見られるなーとは思っていた。


 樽職人が俺との約束を破って新しい酒の情報を流したのも軽んじられているからだったと思う……。


 男に嫌われる呪いは薄まったっぽいけど、まだ何か残ってるんじゃないかなって思ったさ。


 それでだ、ドワーフの貴族や王族はみんなで押し付け合う仕事って言ったよね。


 つまり、酒が造れて〈醸造〉持ちで王女殿下と良い仲になった俺は王様に祭り上げるには最適な神輿だったって事だ。


 亜人種の文化に地球の王侯貴族の考えとかはまったく通用しないよね……ドワーフは血筋とか気にしないっぽいし。


 俺が作った取引材料のウイスキーも、王様に成る事を断るには役に立たなかった……むしろ余計に王として祭り上げられた、元々は三人娘の中の一人が俺の相手の予定だったが、王なら三人共嫁に出来るからって事らしい……。


 俺に王権を押し付けた前王様で義理の父は、喜々として鍛冶職人に成り、義理の兄上は陶芸職人になった……三人娘の王女以外の二人の嫁の父親である大臣達は苦笑いしながらも残ってくれてありがたかった……ありがとうお義父さん達……。


 嫁になった王女殿下達……もとい王妃達も、そんな男共の俺に対する態度に違和感を覚えつつも俺が王に成る事は止めなかった……彼女達は酒豪系だからね。


 もうね、この世界の結婚観ってやっぱちょっと日本のとは違うんだよ、結婚するべきと思った相手に多少の親近感を覚えたり馴染みやすそうな相手だと思ったら、迷わずに結婚しちゃえ! ってな感じになる……。


 恋愛結婚って観念が存在しないというか……ああいや……勿論好きになったから結婚をする場合が多いんだけど、恋人になって、相性を確かめて、デートを重ねて、っていう段階をすっ飛ばすんだよね、この世界の人達は。




 まぁそんなこんなで王様になったからと好き勝手に出来る訳でもなく、下っ端扱いは変わらないという……。


 そんな状況に、何かむかついた俺は、どうせ権力があるならと色々と新しい事に着手していった。


 まず度量衡、キロやグラムやセンチやら、日本で使ってた単位で統一してやった、グダグダ文句を言ってくる奴にはウイスキーを配らないと言ったらピタッっと文句が止まりやがった、勿論日本の内容がそのままなんて訳にはいかない、基準となる物なんて持ってないし、なんとなくこれくらいかなって感じで決めている。


 そして崩落したトンネルというか通路の復旧を急いだ、案の定魔物が居て、巨大なモグラの魔物だったが……兵士達と共に戦って、俺の〈魔拳術〉により拳が光って唸った、でも〈獣化〉は使えなかったね……獣人の固有スキルっぽい?


 物流は元に戻ったけど、塩の値上がりは元に戻らなかったので調べてみたら、近隣のというか獣人国で塩の生産が先細ってた、オーク帝国との長きに渡る戦闘のせいっぽい、前線に使えそうな祝福持ちを集結させるから、後方の生産地が貧弱になっていってるっぽかった……獣人国とオーク帝国との国境線が一番長いらしいし大変なんだろうね。


 なので俺はドワーフの国の王として、連合国である獣人国に今まで以上に支援をする事を公式に宣言をした。


 それまでの水魔法や錬金術等、祝福の能力に頼った塩の製造に加えて、流下式塩田法っぽい感じの事を魔石を使わない魔道具で再現をさせた、その結果、獣人の魔力さえあれば塩を作れるという状況になったので塩の増産が捗った。


 芸術性が無いからと魔道具を作るのにブツブツ文句を言っていたドワーフの職人には、『うるせぇ! ウイスキー配らねぇぞ!?』と言ってやったら素直に従ってくれた。


 獣人は人口が多いから、一人一人の魔力は低くても数で補える。


 なので魔石を使わない魔道具を数多く流通させるべくドワーフの職人をこき使った、頑張った人には俺が王族としての合間に作っている〈醸造〉スキルを念入りに使った熟成ウイスキーっぽい物をあげると言ったら、彼らは素直に従ってくれた。


 そして武器だ、明らかに供給量が足りて居ない、なので今までの作業時間の半分くらいを使って質より量の武器の製造を命令した、これにはさすがに反対意見も多かったが……俺が最初に鍛冶を習った師匠が率先して手伝ってくれた……ありがたいと、30年物の熟成ウイスキーの味に近いと思われる物を渡してみたら……いつのまにか他のドワーフも手伝ってくれる様になった。


〈醸造〉スキルまじ便利。


 そうして獣人達との商売を拡大させると、中には質の悪い商人も現れるので……有力商人であるトトカ商会にうちと取引をする商会を纏めさせた。


 尻の柔らかそうな名前の商会だが、商会が設立してから50年以上の実績を誇り、今は二代目が会頭として頑張っているらしい、俺が国王だからとわざわざ挨拶しに来たのは、フサフサとした茶色の尻尾が目立つ中年男なイケオジ犬獣人だった。


 そして獣人国家からは俺達ドワーフ王国へと、支援のお返しにと……『セクシー爆乳美人狐耳神像』が送られて来た。


 くぅ……俺が作らないでもドワーフ王国の神像不足が解決してしまった、しかもドワーフの木工師達が作る『セクシー爆乳美人狐耳神像』の複製品も神力付与の儀を通過しているようだ。


 ドワーフの国からドワーフ美人な神像が駆逐される日も近いかもしれない。


 いやでもね女神様、こう……見慣れるとドワーフ女性も結構可愛いと思わないか? こうふくよかというかガッシリというか……筋肉質な相撲取りみたいでさ……可愛いよね? 今度暇な時にドワーフ美人女神像を作って奉納してみよう。


 そうやって何年も王様としての仕事をしていると、いつのまにかドワーフの男共、いや、他種族の男共にも軽んじられる事が無くなっていた……呪いが消えた?


 最初の頃の外交とかまじで辛かったんだけどなぁ……外交官が男だとね……ああ、思い出すのも嫌だな忘れよう。


 そしてさらに俺が着手した事、それは……オーク帝国を弱体化出来ないか? という事だ。


 なので隠密行動が得意な種族に様々な便利魔道具を作って与えて、オーク帝国の軍の動きを事前に察知して貰う事に注力した。


 やっぱ隠密行動には猫獣人とかふくろう鳥人とかが適性があって、俺の趣味もあってか忍者っぽい見た目の集団になって前線で活躍をしているっぽい、獣人国の住民だからなぁ……何人か引き抜けないかと思ったけど、やっぱ文化の違うドワーフ王国には中々来てくれないよね、残念。


 うーん、後は連合各国を繋ぐ道をきっちり整備したりとか、食料の大幅増産とか、果ては航空戦力の開発なんかもしたかったんだけど……ちょっと今のドワーフ王国の人口だとマンパワーが足りないかなって思った。


 なので基礎的で大事な事を出来る限りきっちりやって周辺国家を含めて国力を上げる事に注力をしたね。


 獣人国の王様なんて俺のその仕事ぶりに感極まって自分の娘を寄越すとか言いだしたので拒否るのに気を使ったよ……虎獣人とドワーフでは無理でしょうに……ねぇ?


 嫁はいらんが交換留学で魔道具の作り方は教えるぞと、それ系の祝福を持っていて才能のある獣人を受け入れる事にした、向こうの王様も苦労してたんだろうね、すっごい喜んでた、娘との結婚の事も諦めてくれて良かった良かった。


 獣人国はずっとオーク帝国との小競り合いだものな、しかも万年武器不足で≪獣化≫頼りの戦術みたいだし、王様も色々辛かったんだろうね。


 年寄りの獣人の≪獣化≫が、ある程度制御できるのは、何度も使って熟練度が上がっているからじゃないのか? って話も獣人国に伝えて貰ったね、あの国には頑張って貰わないといけないしな。



 そんな事を十数年やっていたら、いつの間にか周りから〈もといの王〉と呼ばれている事に気付いた。


 ナニソレー?


 嫁の王妃達が言うには、最初は〈下っ端王〉とか呼ばれていたらしいが、いつのまにか〈基の王〉に変わっていて、意味はドワーフ国や周辺国家にとっての土台となっている王様、って事らしい。


 へー……でもさぁ、自分が困るから国として基礎を固めるのって普通じゃない?


 教育しかり、様々な制度しかり、道の整備や、基礎研究やら何やら……国の基盤は固めさせるよね? え? そういう考えって無いの?


 ……嫁が言うには、ここまで徹底的にそういう事をやった王はあんまり居ないんだってさ。


 じゃもうちょい頑張るかぁ……ん? ドワーフ国への通路の入口に近い獣人国家の前線の砦がオーク帝国に落とされた!? それまずいじゃんか、くっそ、これから戦争における兵士の訓練や戦術の事を考えようと思っていたのに。


 今あそこを取られるのはまずい……近隣国に援軍要請! 俺も出るぞ!

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