第97話 やりたい事
「あーそれじゃぁ武器の供給がドワーフ族としての主な役目なんですね?」
「だな、ドワーフも戦えない事は無いが、後ろで武器を作って居た方が役に立つ」
ふーん、まぁ前世の記憶にあるオーク帝国の装備と獣人王国の前線部隊の装備の差を見ちゃうと、その気持ちは判る。
あ、こんにちは、レオンです、男ドワーフの17歳です。
今は仕事の合間の休憩時間に師匠から世界の情勢なんかを聞いていた所です。
「でもドワーフがエルフの使う矢の矢じりを提供しているんですね」
「あん? ああ、ドワーフとエルフの仲違いの話か」
「ですです、森を慈しむエルフと鉄を愛するドワーフは相性が悪い……なんて話を聞きますよね」
まぁ聞いたのは日本のフィクションのお話しの中でだけど。
「そういう地域もあるにはあるが、お互いの住む領域が重ならなければ争う理由なんてないだろ?」
「……そうなりますかね?」
「まぁ、仲直りした理由は燃料に魔力を使う魔導炉の開発が一番大きいんだけどな、ガハハ」
「ってあらま、やっぱり昔は争ってたんじゃないですか……ここの炉も魔力で動きますからあれですが、昔は木炭欲しさに木材を伐採しまくってケンカとかですか?」
「なんだよ記憶が無いって割りに知ってるじゃないか、ふーむよく判らん記憶喪失だな」
「ああまぁ、記憶がバラバラになった感じですかね……エルフへの矢じりと獣人族への武器で……供給は十分なんですか?」
「まったく足りてねぇな、ドワーフは拘るからよ、質より量って訳にいかねーのよ、ケンタウロス族だって矢じりは欲しいし、マーメイド達は槍が欲しい、他の色々な種族も皆ドワーフの武具が欲しい、そしてドワーフ族は鉄だけじゃなく皮も木材も扱えるからよ、弓も作るし防具も作る……正直な話まったく供給は足りてないな」
連合には色んな種族がいるんだな、俺が魔物だと思っていた種族まで……。
「あの師匠?」
「どうしたレオン」
「魔物とマーメイドとかの差ってのは何処にあるんでしょうか……」
こんな事を聞いていいのかとも思うが記憶喪失でしたって事で一つよろしくお願いします。
「そうだな……対話をする事が出来るなら人だし、そうじゃないなら魔物だな、ドワーフ族だって狂気に飲まれて他者を襲うなら魔物だ」
んん? つまり差は無いって事?
「魔物にある魔石は……」
「俺らにもあるぞ、ただ死んでから取り出した魔石の色が違うんだけどな、赤黒いのが魔物の魔石で、ピンク色なのが普通のだ、ただし人間種には魔石が無いとされているらしいな」
「では様々な種族が体の中に持つ魔石が、なんらかの因子で色が変わると……魔物に? 邪悪になる感じなのでしょうか?」
「俺はお偉い学者様じゃないから判らんが、魔石の色が変わるからそうなるのか、そうなると魔石の色が変わるのか……それは知らん」
「ではオーク帝国のオーク達はダンジョンに出て来る様な魔物とは違う、と?」
「一応昔はオーク共と会話は出来たらしいんだが……今はどうだろうな、倒したゴブリンやオーク兵から魔物の魔石が出て来るって話もあるし、教会のお偉いさんなんかが言うには神への信仰心が低下したオークが魔物に落ちたのではとか……正直よく判らん」
ふーむ、よく判らんな……。
そこらのおっちゃんならまぁ噂レベルの話しか知らないだろうし、情報収集なんてのは学者さんを見つけてサイコロを振ってするべきものだろう、ならば師匠でも判る話をするべきだな。
そうして師匠相手の情報収集と言う名のさぼりは続く……仕事場の様子を見にきた娘さんに怒られるまで。
で判った事、オーク帝国はまだ建国宣言から百年たってないくらいの勢力らしい、オークの国はもっと昔からあったけど、帝国を名乗って侵略戦争をしかける様になったのがって意味でね。
そんで人間の国が降伏したのは60年くらい前と言われている、わざわざいついつに降伏しましたなんて宣言はしないからだいたいそんな頃じゃね? という話だった。
意外と若い国なんだね、しかもオークやゴブリンからは魔物の魔石が出るか……うーん。
よくわかんね!
そんな事を調べるのは俺の仕事じゃなかったわ。
俺に出来る事、それは……鍛冶で実績を出して、木工により女神像を作る事をまたやりたい。
それはなんでかというと。
ドワーフの神像はドワーフっぽい見た目で……愛嬌はあるけどセクシーかと聞かれると首を傾げる感じの出来だったからだ!
師匠曰く、最高の木工師達が女神像を作るも神力付与の儀で爆散しまくるので、最近は女神像を作る予算が削られているとかなんとか……セクシーに作れば一発なのになぁ……。
でもどうしようか、ドワーフを素体にしたセクシー女神像の設計図がまったく頭に浮かばないんだけど……ロリっ子ドワーフならすぐ思い浮かぶが、セクシー巨乳好きの女神が喜ぶとは思えない。
まぁあれだ、そろそろ師匠に〈木工〉や〈細工〉も持ってる事を話して協力をして貰うべきか。
……。
……。
――
「気ーつけてなぁレオン」
「レオン君、苛められたらうちに戻ってきていいんだからね?」
「ういーっす、師匠も娘ちゃんもお元気でーまたいつの日かー」
「なんつーか適当だよなぁお前は……」
「最後までレオン君に名前で呼ばれなかった……」
俺はそんな師匠と娘ちゃんに手を振りつつ新たな職場へと向かう。
師匠に相談したら偉い人にすぐ話をつけてくれた、実は影響力の高い人だったんだろうか? いつも娘ちゃんに怒られているイメージしか無いんだけどな……。
そして新しい職場は……そう、女神像制作部門だ!
……というか俺が立候補するまで専属が誰一人いなかった部門だ!
まじかよ……今までは他の仕事をしている木工の職人が持ち回りで作っていたらしい、作ってもほぼ爆散をする仕事を専属でやりたいって人は居なかったんだってさ。
それでもさすがにドワーフの職人って事で出来る女神像は素晴らしい物だったと偉い人は言ってたんだけど……ドワーフの女性への美的感覚でいう出来の良さだからなぁ……話半分に聞いておいたさ。
案内された作業場所はドワーフ王国にある教会の裏手にある小さな場所だ、道具も最小限で、木材もまったく無かった。
しかも今年の予算はもう無いって言われちゃった。
……はぁ? まだ8月だよ? あと4か月俺は何をしたら?
という訳で。
「今日からこの教会の学校で臨時教師をやるレオンだよ! 皆よろしくね?」
何故か教会のお手伝いを命じられて、教会でやっている寺子屋的なもしくは学童保育的な場所の教師の一員にされてしまった……木工仕事はいずこ……。
まぁ実績も無い若造が簡単に異動出来た時点でそうだよね、下っ端の窓際配属が基本だよね!
……。
……。
「レオンここ判んない」
「はいはい、この計算はここがね、って呼び捨てにしないでね? 年上の教師だからさん付けとか先生とか呼ぼうよ?」
「レオーン、書き終わったよー」
「おーご苦労さん、えーと……ここ間違ってるね、文字の形を真似するだけじゃなくて読みながら書こうね、そして俺は年上のお兄さん教師だからね? 呼び捨てはやめようね?」
「レオーおしっこ~」
「うわわわわ早く言え! 今運ぶから! 我慢! 我慢するんだぞー! そして呼び捨てはだめだぞー! わわ! 漏らすなー!」
「レオン、片付けを頼む」
「いえっさー今やります、そして呼び捨ては……年上の助祭様だからオッケーでした、すんませんすぐやります!」
おっかしいなぁ……、ある程度鍛冶で実績を出してから木工をやらせて貰い、このドワーフ世界にも神像を増やす計画だったんだが。
なんで俺はちびっこが漏らした床の後始末をしているのだろう……。
生きるって事は大変なんだなぁ……。
誰もがやりたい事をやれる、そんな世界はありえないというのを理解したよ。
それが例え転生者でもな……はぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます