下の王国

第96話 地下暮らし

「ココンと打ってカンコロリ~いつまでたっても終わらない~カンコンカンコンカンコンな~」


 歌を歌いながら熱せられた金属にハンマーを振るう俺。


「お前の歌はどうにかならんのかレオンよ」


 側に居る師匠に怒られてしまった。


「歌いながらハンマーを振るうと集中力が継続するんですよ」


「鉄と向き合えば集中なんぞ自然と出来るだろうに、ったくお前は記憶喪失でドワーフの心まで無くしちまったみたいだな」


「かもしれません」


 ごめんなさい師匠、俺にはドワーフの心とやらは判りません。


 こんにちは、今生でまたレオンを名乗っています。


 ドワーフの17歳……くらいに見えるらしいので17歳の男ドワーフです。



 毎度のごとく転生をした俺ですが、目が覚めたらそこは……洞窟でした。


 日の射さない洞窟で真っ暗なのに何故か見えるという、ドワーフ族の体が持って居る固有技能みたいな物がありました、暗視? 的な?


 モノクロ映画みたいに白黒で見えるんですよね、意味が解らなくてパニックになりかけたよ……。


 また爺さんで目が悪い状態の転生なのかってさ……でも周りを見ると壁に囲まれているし、光源が無いのがドワーフの本能で分かるという不思議さ。


 そして落ち着いてから自分の体を見ると手足が短くて体格が横に大きい、耳は犬獣人とかのケモ耳じゃなくて頭の横にあり、ちょこっと尖っている……。


 妖精の子供かドワーフかって思ったね。


 そんで周囲には服とバックパック的な物が置いてあった、キョロキョロと周りを見回すも誰も居ないので、ありがたく頂いた。


 荷物には金や食料やら皮の水筒やら鍋やら火打石やら着替えやら何やらで、旅行者の簡易な荷物って感じ、武器は無し。


 まぁ俺には拳があるから良し、とそれを背負って洞窟を彷徨って……てな感じだった。



 あの洞窟が地下にあるドワーフ王国へ行く通路の一つなのが判ったのが半日後。


 ドワーフ王国の衛視に旅の途中に記憶を失ったみたいだと話し掛けたら、色々と世話をしてくれた。


 仲間意識が強いんだなーと思ったね、そんで教会で祝福を貰い、体がドワーフのせいか〈魔鍛冶〉をゲットしたんで今の師匠の所に転がり込む事が出来た。


 まぁ師匠と呼んでいるが鍛冶の腕は低いのか知らんが、民生品の制作で食っているというドワーフの間だとちょっと小馬鹿にされる立ち位置らしい。


 フォークやナイフやスプーンが無いと飯を食うのも大変なのにな、そしてお鍋や包丁が無かったらどうやって料理するねんって俺は思う訳だが。


 今回の祝福は二個とやけに少なかった……この光る玉の数の増減はどうして変わるのか意味不明なんだよなぁ……。


 まぁ〈魔鍛冶〉と〈醸造〉を手に入れた。


 ドワーフだから酒を作れと? これは酒無双が始まる! なんて思ったが、前世での修羅場の知識を読むとちょっと〈醸造〉を持っているのを教えるのは怖いので周囲には内緒にしておいた。


 それにドワーフ王国では物資を好き勝手に買えないっぽいんだよ、地下王国だと物資の管理が結構厳しくてね……。


 生産系の腕が良ければそれだけ優遇されるという世界、うちの師匠は……はい。


 という訳で、魔法を使った鍛冶が出来る上級能力なんですけど、外から来た人間っぽいという事で下っ端扱いですわ、まぁ鍛冶の素人なんだしそれはいい。


「お父さん、ご飯出来たよー、レオン君も早く食べちゃって」


「おう、食べに戻るぞレオン」


「了解っす師匠」


 師匠の娘さんの声がけにスプーンの製造をやめて飯を頂きに行く。


 師匠の娘さんは勿論ドワーフなんだけど……。


 ほら、日本の作品で女性ドワーフとか色々な表現がされるじゃん? ロリっ子だったりヒゲが生えていたり、はたまた何故か女性ドワーフだけ人間の女の子っぽかったりと。


 そんでこの士族のドワーフ達なんだけど、ずんぐりむっくりな体型で横幅がある感じ。


 ヒゲは男でも人による、まぁある程度歳のいった男は大抵生やすみたい、おれは転生した時はヒゲが無かったので歳をとったらどうしようかなって感じで。


 ドワーフ女性はヒゲ無し、ただまぁこう太っているというか比率的に横に広いので……こう……うん……愛嬌は有ると思う。


 という感じ!


 食堂についた俺と師匠と娘さんは飯を食う、食材はほぼ配給制というか住民台帳で管理されていて基本の分量までは割符を貰えるのでお安く買えて、それ以上の何かが欲しい場合、お高めの値段設定なんだってさ。


 ドワーフ達は余ったお金のほとんどを自己満足の為の製品づくりの材料費か、それか酒につぎ込むのだとか。


 今日のご飯は麦粥と干し肉と麦酒。


 飲み物が基本酒なんだぜ……未だにちょっと慣れないんだよね。


 味はまぁまぁ、んーちょっと塩が足らないかな?


「もぐもぐもぐ」


「なんか塩が足らないな……」

「もう! しょうがないでしょお父さん! 塩が値上げされたんだから、いつもの値段で買える量が減っちゃったの! もっと欲しいならもっと稼いで下さい!」


 ちなみに俺は味に関して何も言わない、事情は知ってたし言っても怒られるのが判ってたから。


 師匠は判ってて言うんだからな……娘とのコミュニケーションの一部なのかもしれん。


 そうそう、師匠の嫁さんはもう亡くなっているらしいね、なので家の家事は娘さんがやってくれている、ちなみにその娘さんは14歳だったかな?


 俺は、ある程度鍛冶を習ったら一人立ちしたいので、娘さんとはあまり仲良くしない様にしている。


 外から来て記憶が無く身寄りがないからと……この師匠の元に俺が送られて、そこに俺と歳の合う娘さんが居る……なんかもう手遅れなのかもだけど、どうなんだろ。


 遠回し的なお見合いも兼ねているような気がしてどうにも……。


「御馳走様です、では俺は仕事に戻りますね」


「レオン君お代わりは?」


「大丈夫です、仕事のノルマをクリアしておきたいのでいってきます」


 娘さんに頭をさげてご馳走様と言いつつ仕事場に戻る、その背中越しに師匠と娘さんの会話が少し聞こえた。



「あいつ真面目だよな……ドワーフにしたら底辺の下っ端仕事なのによ……」


「お父さんがそれを言わないでよ! ……お母さんが死んでからやる気をなくして評価が低い仕事しかしなくなったんじゃない……前みたいに――」


 親子の会話は廊下を曲がった時点で聞こえなくなった。



 さて、スプーン30にフォークが30、頑張って作りますかねー。








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