第93話 祝福を君に

 俺の目の前で光の玉が出現をし、それが獣人の子供へと吸い込まれていく。


 新たな祝福を得た子供が興奮しながら付き添いの両親に話し掛けている、〈剛力〉かぁ……魔力を消費して一定時間力が強くなるんだっけかな、前世で誰かに聞いた知識の中にあるやつだ、魔力が多くないと使い処が難しいって話だったな……。


 あの子の光の玉は一個だったので魔力は低そうだし、ちょっと不向きな祝福かなぁ……。


 俺は真剣な表情を変える事無く神像のあるテントから出ていく家族に頭を下げた。


 下げて居た頭を戻してテントの奥を見る、すると神像の側に居るシスターマーガレットが俺を見ながら頷いたので、テントの外に並んでいるだろう参拝者に声をかける。


「次のかたどうぞー」


 今日の俺はシスターマーガレットに頼まれて、祝福を受けたい人々をお迎えするお手伝いだ、いつもこういうのをやっているおばちゃんが具合が悪くなって寝込んでしまったそうなので、助っ人だね。


 そうして入って来た新たな獣人家族は、狼獣人の家族だった。


 8歳前後かなという黒い毛の狼獣人のたぶん男の子と、子供と同じ毛色のお父さんは……40代半ばくらいかなぁ?


 そして、真っ白な毛が綺麗な狼獣人のお母さんだ。


 三人はシスターマーガレットに近づいて何やらお話しをしている、女神様に感謝がどうたらって説法を軽くしてから祝福の儀をやるのが正式な物なんだとか。


 俺の前世の爺さん獣人の時はそんなのなかったけどね、まぁあそこは前線の教会だったからか。


 子供の方はソワソワしてまったく話を聞いて居ない事が判る、うんうん、その気持ちはすごい判る、はよやらせてくれって思うよね。


 そうして喜捨を頂いたシスターマーガレットが一歩下がって神像の前を開ける。


 子供はワクワクした表情で……入口の私からは表情は見えないが、彼の元気よく左右に振られている黒毛の尻尾で感情は判る、そんな子供が祈りの文句を捧げると。


 光が四つ出で彼の中に入って行った。


 おお! 獣人で光が四つは多いね!


 大体一つか二つだからなぁ、何をゲットしたんだろ、ちょっと耳を澄ませてみると……。


 へぇ〈水生成〉〈気配感知〉〈財布〉≪獣化≫だってさ。


 ほほぉ……母親の能力を受け継いでるんだねぇ君は……お父さんも魔力が多いのかもな、何にせよおめでとう、君の将来に幸あれだ。


 ご家族が仲良さげに会話をしつつテントを出ていくのを頭を下げて見送る俺だった。


 さて次の人をって、外で列整理をしていた女性がテントの外から顔だけ出して今ので最後だと伝えて戻っていった。


 お仕事終わりだね、俺はシスターマーガレットに近づいて挨拶をするべく……おや?


 シスターが何か困惑している。


「どうしました? シスターマーガレット」


「ああ、ニコラ、いえね……今出ていったお方からの喜捨が……ほらこれ」


 シスターがあの狼獣人家族が置いていった革袋の中身を見せてくれた。


 わーお。


「金貨二枚とかすごいですね……」


「でしょう? びっくりしてしまったわ」


 普通のご家庭だと多くても大銅貨数枚だもんね、そりゃシスターもびっくりするだろうさ。


「それだけお金持ちの商売人って事でしょう、ラッキーでしたねシスター」


「ニコラ! こういのはお気持ちだから多くても少なくても有難いのは同じなのよ?」


「はーい、ごめんなさーい」


「まったくもう……あら? 貴方なんであの方々が商売人だと思ったの? 地主や貴族かもでしょう?」


 おっと……。


「えーと、なんとなく商売人っぽいかなって思って……あはは、間違ってましたか?」


「いえ、この街でも有数の商会の責任者らしいわね、えっとトトカ商会二号店だったかしら……?」


 尻が柔らかそうな名前の商会だよね。


 ここは俺の前世の知識にない街だからね、商会も大きくなって支店も作っているのだろう。


「幸せそうなご家族でしたね、シスターマーガレット」


「……ニコラ、貴方は何も言わないのですね」


「あのお母さんの耳が両方とも根元から切られていた事ですか? 家族みんなが笑顔で居るなら些細な事ですよシスター」


「そう……そうね、私の回復魔法がもっと強ければと思ってしまったけど……彼らは家族そろって笑っていたものね……ニコラは本当に良い子に育ったわねぇ……」


 シスターマーガレットはそう言って俺の頭を撫でて来た。


「あの……もう俺は14歳と半年過ぎてるし、あんまり子供扱いしないで欲しいなぁ……」


「私から見たらいつまでも子供みたいな物よ、それと自分を俺と言うのは止めなさいといつも言って居るでしょうニコラ!」


「いやぁ、職人集団の中に居るには俺って言った方が違和感が無いというか……あはは……失礼しますっシスター!」


 俺はシスターに礼をするとスタコラと逃げ出した。


「あ、こら待ちなさいニコラ! もう!」


 背中に聞こえるシスターマーガレットの憤る言葉を置いてけぼりにしてテントの外に逃げ出す俺であった。


 助っ人のお手伝いも終わったし、帰って親方に仕事でも貰おうっと。



 ……。



 ……。



 ――



 ――


「まだ早いと思うんですよ親方、それにシスターまで」


 あ、こんにちは、猿獣人のニコラ15歳に成ります。


 今日は親方とシスターマーガレットに呼び出されて神像のある荷馬車に呼び出されました。


 ちなみに今は次の都市へとキャラバンが向かっている最中の街道沿いで、野営をするべく停止中な状況です、みんな忙しく野営の準備をしている中でなぜか神像が仕舞われた荷馬車へと呼び出されました。


 狭い荷馬車に親方とシスターと私のみだ。


 ちなみに何が早いかっていうと、俺が作った女神像を神像の前に捧げる事だ、それが女神様に認められれば神力を付与され、駄目だと像が自然と壊れる……。


 俺にはまだまだ練習が必要だと思うんだよねぇ。


「そういう訳に行かなくなったんだよニコ」


 親方がそう言って懐から出したのは……俺が作ったセクシー美少女狸獣人木像フィギュアシリーズ第四弾で今回は銀貨8枚で親方が買ってくれた物だ。


 最初の第一弾に比べると格段に進化していると思うんだよね。


「で、それがどうしたんです?」


 第四弾からキャストオフ機能を付けたのが不味かっただろうか?


「ニコラ落ち着いて聞きなさい、親方さんが持つふぃ……ふぃぎゅーうらぁ? ふぃ、ふぃぎゅ……木像に、女神様のお力が宿りました」


 最近ちょっとお年を召して来たライオン獣人であるシスターマーガレットが『フィギュア』を上手く発音出来ないの可愛いな、って待って!?


「え? 女神像の神力付与の儀に俺のフィギュアを出しちゃったんですか!?」


 さすがに美少女フィギュアは練習用だよ? 女神像作成の時はもう少し真面目に取り掛かるつもりで……ええええ……女神様? あんた何やってんの?


「ああ、最近は益々ニコの腕も上がってるからな、破壊される加減を見ようと思ったんだが……」


 そういや腕の良い職人が作った女神像は神力が付与されずに破壊される時でも手加減されるという話は聞いた、逆に腕が悪い奴が作った女神像は木っ端微塵になるとかなんとか……。


「つまり親方は……」


「ニコラの腕がどの程度女神様に認められるかを確かめたいと言われてね、私も気に成ったからやってみたのだけど……」


「俺が彫ったフィギュアに女神様の神力が宿ってしまったと?」


「そういう事だニコ、すでにこのふぃぎゅーあで祝福を賜る事が出来るのも確認済みだ」


 わーお……。


「いつか神像を作ってみせると頑張って居た俺の決意はどうしたら……」


「胸を張れニコ! と言いたいが……服が脱がせる事の出来る木像が神像というのはちょっとな……」


「その脱げる機構や自分を俺と言うニコラに成ってしまった責任を親方達に問うのは後にして、ニコラ……普通の女神像を一回作ってみてくれないかしら?」


 俺の男っぽいエッチさとかなんやらが大工の兄さん方の責任にされそうだ、いや違うんですよシスター、どうにも女として見られないから、これ幸いと男ムーブを喜々としてやっているだけでね……どうしよう親方や兄さん方を庇うべきか庇わざるべきか……。



 ……よし、放置しよう。



 と言う事で私の答えは。


「判りました、やってみますねシスターマーガレット」


 となり、女神像を作る事は確定した。














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