第92話 神像……神像?

「ニコ! 材料の準備はしてあるな!?」


「はい親方! 言われた寸法通りに準備しておきました!」


 俺の返事を聞いたキャラバンの大工集団のトップである狸獣人の親方は、俺が下準備をした木材のチェックをしている。


 あ、こんにちわ、猿獣人のニコラ、11歳です。


 キャラバンに付いて回り神像を作ると決めてから三年、未だに一体も彫れてません。


 まずはキャラバンの一員として周りに認めて貰わないといけないからね、こうやって下働きとして働く毎日です。


 ……。


「……ふむ……問題ないな、そういやニコは神像を彫りたくてキャラバンに残ったって話だったな?」


「その通りです親方!」


 親方への返事は元気よく。


「ふむ……道具は使っても構わん、まずは端材で何か作ってみろ、出来を見てやる」


「ありがとうございます!」


 いやっふぅ! やっと第一歩だな、なに作ろうっかなぁ。


 親方は俺が下準備をした木材を持って歩いて行った、荷馬車の幌を支える軸が折れちゃったらしいんだよね。


「ニコ、やっと親方に認められたみたいだな、おめっとさん」


「ありがとう兄さん!」


 側にいた大工仲間の声掛けに兄さんと返しているが、別に兄妹になった訳じゃない、大工の男で先輩方は皆兄さん呼びをしているのだ、決して名前を覚えるのが面倒だからではない。


 そして今生なんだが、男に嫌われる事は無いっぽい? ただし女の子として見られる事も無いみたいで、お前は絶対に嫁にするのは有り得ないとか良く言われる、ただし、女性としての人気は皆無だけど人としては理不尽に嫌われたりしないので……なんかもうよく判んないよね。


 呪いか何かが薄まったのかね?


 まぁそれならそれでと僕っ子ならぬ俺っ子として男みたいな洋服を着て過ごしている。


 猿獣人特有の茶色い髪も短くしているし、胸もペッタンコだし、もしかしたら俺の事を男だと思っている人もいるかもね、ま、どうでもいい。


 さーて何を作ろうかなぁ……神像について色々聞いたんだけども、まず大きさだ、大きい方が神力が一杯籠められると言われている、実際に神像は一定期間使っていると壊れてしまうらしいのだけど、小さいと早めに壊れてしまうので、そこそこ大き目な物を作るのが一般的だと言われている。


 教会の本部とやらには最初の一体と呼ばれる神像があるらしい、真っ白い岩で出来た人の背丈よりも大きくて美しい像だと伝わっているが、実際の姿を覚えている獣人はもう居ないのではとシスターが言っていた……大理石か何かかねぇ?


 その最初の一体はエルフの国にあるらしいよ? すっごい行ってみたい! けどエルフは連合国に参加しているが閉鎖的らしくて……簡単にはエルフの国に入国出来ないんだってさ、ちぇー。


 さて、そしてこのキャラバンにある神像だ、これは木製で大きさが熊獣人の成人男性くらい、例えがよく判んないよね、私もよく判らん。


 2メートル以上とか思っておいて。


 もしかしてこの世界が小人の世界なのかもだし、あれなんだが、犬獣人男性の大人の平均背丈を170半ば前後と考えた場合の数値だからね。


 そも獣人世界だと、長さとかの基準が自分の指を広げた幅とか、手を広げた長さで言って来るので説明し辛い。


 さっきの親方に言われた寸法もそんな感じなので毎回苦労するんだよ……俺にすっごい権力があればなぁ、前世みたいに度量衡をセンチとかキロとかグラムに設定して統一してやるのにさ……。



 それでキャラバンにある神像が2メートルちょいでマリア像に獣人の耳をつけてふくよかで優し気なオバチャンにした感じと言えば良いだろうか?


 こういう世界だと太っているのは豊かな証らしいんだけど……美少女フィギュアとかを知っている俺にはどうにも受け入れられない。


 俺が女神だったらこんな神像は嫌だよ……。


 今まで神像を作る機会は無かったんだけども、日々の生活の中で思ったんだ、この世界に神像が増えないのって、女神様が造形を嫌がっている可能性ない?


 散々作られても神力とやらを籠めてくれないのは……ケチってだけじゃないと思うんだよね……だってオバチャン女神像に見えるんだよ俺には。


 いやさ、女神って存在の見た目なんて知らんのだけど、どうせなら可愛かったり美人だったりするほうが嬉しいはずだよねぇ?


 ほら、新しい女神像を作る時って今ある物を真似するでしょう?


 最初の一体と呼ばれる神像から真似をされて製造されていくうちに少しづつ変化をしていったんじゃないかなぁとか思ってしまう。


 それでもたまーに神力を籠められる神像が出て来るのは、そうしないとこの世界の神像が減り過ぎちゃうからって事はないかなぁ?


 最近はこの思いに囚われてさ、なればどんな神像を作れば? という事をよく考えている。



「どうしたニコ、さっきからずっと目を瞑って考え事なんかして、せっかく時間が空いてるんだし、親方に言われた作品は作らんのか?」


 側にいた大工仲間の兄さんがそう話しかけてくる。


 確かにそうだな、考えるより動いた方が良い時もあるか。


 よっし!


「んじゃ兄さん、ここにある端材貰いますね、道具も借ります」


「おう、がんばれよニコ」


「頑張りまーす!」


 元気よく答えて木材を切り出した時にでた端材を貰う。


 そうだな、まずは……練習で手の平サイズのでも作ろう。


 おばちゃんより可愛い方がやる気でるしね!


 とにかく木像を作る練習からだ!


 ふんふんふ~ん、〈木工〉や〈細工〉の祝福のおかげで頭に描いた物を作るにはどうすればいいのか、何となく判るのがすごいよね。


 ……。



 ……。



 ――



「なんだこりゃ……ニコ、お前は女神様に捧げる神像を作りたいって聞いてたんだがよ……」


「勿論最終的な目標はそれですよ親方! でもほら、いきなりはあれなので練習です! 練習! それよりどうですか? 手のひらサイズの美少女猫獣人フィギュ……木像は」


「ああうん……なんでこんなポーズを取っているのかは謎だが……良い出来だな……ニコ……次は狸獣人で試してみろ」


 親方が俺の作った木製フィギュアを確認しながらそんな事を言って来る。


 ……親方って狸獣人だけど……わざわざ作る種族を指定してくるのは気に入ったんだろうか?


「獣度はどうしますか?」


「7:3でやってみろ、ほれ、これは返す、その出来なら市で売って小遣い稼ぎにしていいぞ」


「ういっす! 了解しました親方! では失礼します!」


 市場で売って良いってのは親方からの完全な合格サインだ、やったね!


 そしてケモ度が狸が7で人が3かぁ……あれ? 親方のケモ度と一致する気がするのは……たぶん気のせいだね!



 よっしゃ、まずは! ……兄さんに頼まれてた木材の下処理をこなそーっと。


 私はまだこの大工集団の中の下っ端だからね、親方が認めてくれたって言っても、こういう社会で好き勝手には出来ない。


 えっと木釘が40本だっけか、ちゃちゃっとやっちゃいますかねぇ。



 ……。



 ……。



 ――



「もう一声頼むよ坊主」


「駄目ですー、技術の安売りはするなって親方に言われてるんです、あんまりしつこいと元値に戻しますよ? 銀貨5枚になり――」


「おわたた、判った! 判ったよ坊主! じゃぁ割り引いて貰った銀貨4枚と大銅貨6枚な、ほれ、これでいいよな?」


「毎度ありー、おまけでこっちの木製のカトラリーから好きなのを二つ差し上げまーす」


「お、いいのか? じゃぁこの木製スプーンを二つ貰っていくよ、ありがとな坊主」


「ありがとうございましたー、またお越しをー」


 受け取ったお金はささっと革袋に仕舞っていく。


 こんにちは、猿獣人のニコラ12歳です。


 渡り教会であるキャラバンは何日かに一度、逗留している場所で市を開く事がある、まぁ運営資金稼ぎや同道している人らの小遣い稼ぎも兼ねてね。


 今回はそこそこ裕福な都市の側に逗留しているので金払いの良い客が多い。


 市に出しているお店の半分はキャラバンの関係者なので警備もばっちりだ、都市の人間にも露店を出す権利を渡すのでそっちのエリアには近寄らないでおく、若い猿獣人の娘っ子のやっている露店とか、舐められて売り上げを狙われたら嫌だし。


 私は仲間に囲まれた露店で安心安全な商売をしていくのだ。


 ごくまれに訪れる渡り教会主催の露店市って事でお客さんはそこそこ多い。


「ニコラちゃん、今木製ふぃぎゅーあ売れてたよね? すっごいじゃない!」


 キャラバンの孤児院から知り合いだった鳥獣人の女の子が隣の露店から声をかけてきた、彼女も祝福を得てもこのキャラバンに残った口だ、今は羽細工を色々と売っている……。


 羽ペンとか羽毛枕とかだね。


「木製フィギュアは安い奴でも銀貨5枚するからね、中々売れないんだよねー」


 木製フィギュアの値段は最安でも銀貨5枚、正直それでも安いくらいの手間暇はかかっている。


「さっきのお客さん狐獣人美少女ふぃぎゅーあに目を細めて喜んでたよね、あれ一つ作るのにどれくらいかかるの?」


「あれは簡単な方だし……仕事の合間や寝る前の時間を使って……十日かなぁ?」


「意外と早いのねぇ……あ、いらっしゃーい」


 隣の露店にお客が来たので会話は途切れた。


 これでも俺は〈木工〉と〈細工〉の祝福両方がフィギュア造りに作用するから早めなんだよね、しかも猿獣人は種族的に器用と言われているし、さらに転生を繰り返していると腕力や器用さなんかも上がっているみたいだし。


 とはいえまぁ、今は木製カトラリーの方が売れるのは確かなんだよ。


「いらっしゃーい、そのカトラリーはどれも一つ銅貨5枚だよー」


 うちの露店の前に来た主婦っぽい人にそう伝えてあげた。


 さて、まだ午前中だし、頑張って売りますか!












 ◇◇◇


 後書き


 ちょっと作中の説明を


 木製のスプーンやフォークが一つ銅貨5枚というのは高く思えるかもしれませんが、値下げ交渉をされる前提の値付けだと思って下さい。

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