嵌った

第91話 新たな生き方

「今日も心が赴くままに暮らせる事を女神様に感謝をし祈りを捧げます」


 いつものごとく俺は神像に対して祈りを捧げる。


 そうして、その日、やっと光の玉が出て祝福を得る事が出来た……。



 ちょうど8歳になった頃だった。


 あ、こんにちは、また赤ん坊からの転生をしている俺です。


「まぁまぁニコラ、女神様からの祝福を得たのね、おめでとう」


「ありがとう御座いますシスター」


「体が大きくなったらそのうち祝福を頂けると言ってるのに、貴方は幼い頃から毎日祈りを捧げていたものねぇ……女神様もその真摯な祈りに答えてくれた様ですね、光も非常に強かったし数も多めで……あ、いいのよ? 何を得てどう使うかは自分で決めなさいね」


 その言葉にお礼を言って俺は礼拝用のテントから出ていく。


 うん、この渡り教会で一番偉い人であるライオン獣人であるシスターマーガレットが全て言ってくれたが、俺は小さな頃から毎日神像に祈りを捧げていた。


 理由としては簡単だ、いつ祝福を得るのかの検証だ。


 人世界でもこの獣人世界でも、ある程度大きくなったら祝福を得るとされている、だが、それは正確にはいつなのだと答える事の出来る人は記憶に無かった、なのでせっかくだからと試したのだ、まぁ結果は丁度8歳くらいだったんだが……獣人は人より子供の頃の成長が早いからかねぇ?


 俺の母親は身重の状態でこの渡り教会のキャラバンに拾われた、そこで出産をして……俺を残して亡くなってしまったそうだ。


 この渡り教会キャラバンはそういう人達が数多く追随している、この世知辛い獣人世界で神の名の元に祝福を振りまいて行動をするキャラバンは、世を生き辛い人にとって光り輝いて見えるのかもしれない。


 ま、現実はそんなに甘くないけどね。


 キャラバン付きの孤児院の様な集団へとたどり着いた俺はいつものごとく働き始める。


 例の如く真面目な教会ってのは貧乏だからね、しょうがないね……。


 薪用の丸太を割ってはツタで結んで馬車に積み上げていく、今生の猿獣人である俺は種族的に手先が器用な方だからこういう力仕事以外の事をしたいのだが、まぁ贅沢は言うまい、飯と寝る場所をくれるだけでもありがたい話だ。


 ちなみに自分の獣度は獣5の人5くらいで、前世よりちょこっと毛深い。


 カコーンカコーンと斧で丸太を割り、同い年の鳥獣人の女の子と一緒に薪を積み上げていく。


 この都市の外れには一月滞在したし、そろそろまた次の街へ移動する時期が来るだろう、それにまだ3月だし暖房用にも使える薪はいくらあってもいい。


 カコーンカコーン、仕事をしながら自分の中の能力を確認する、一つだけ大きい光だったのはこれかなぁ?


〈魔拳術〉


 うん、〈弓魔術〉と同じで上級能力とか呼ばれる物だな、拳で上手く戦う力を得て、その拳に魔力を籠める事で物凄い威力が出せるっぽい。


 それ以外がまず〈財布〉×2! うん、すっごい有難い! ありがとうございます、また能力が消えてしまうかもだが、いつか大人も使えるサイズのパンツを入れておきたい! 獣人世界のパンツは生地がゴワゴワしているので、それ一枚で〈財布〉は一杯だろなぁ、あと硬貨が一枚か二枚入るかな? 程度だ……まぁそれでも有難い。


 後が〈木工〉に〈細工〉だ、生産系なら飯が美味くなるやつが欲しかったが……まぁいいだろう。


 そして最後が≪獣化≫だ……ねぇちょっと待って? ≪獣化≫二個目だよ? ケモ度が上がるの? ケモナー大歓喜? 俺はケモナーじゃないからそこそこでいいのよ?


 カコーン、最後の薪が切り終わった、飯まで暇なので鳥獣人の女の子と、そこらの木に巻き付いている雑草のツルを使ったかごを作る……こういうのは使い捨てで何にでも使えるからね、雑談をしながら一杯作っていく。


 そうそう、赤ん坊からの転生だとさぁ、本能で泣いちゃうから声を放たない事は無理なのよ、それでまた男共に嫌われるかなと思ったんだけど……ちょっと様子が違うんだよね。


 実は俺の今生は女の子なんだけど爺ちゃんやおっさん獣人の頃よりは多少ましって感じになっている、具体的には。


「ニコラちゃんってすごいよね、薪も素早く割れるしこんな籠も上手に作れるし、良いお嫁さんになれそう……なんだけど……男の子達にモテないのはなんでだろ?」


 鳥獣人の女の子が一緒に籠を作りながらそんな事を言って来た。


 籠はさぁ、何度も転生していると農家やらの時に結構作らされるのよね、細工系の祝福能力がないから綺麗には作れないんだけど、自家用なら十分な物を作れるって訳。


 薪割りが上手いのは、身体能力が高いからで子供なのに重たい斧とか普通に使えるからかな、そして鳥獣人の女の子が言う通りにさっぱり男にモテない、どうにも俺は嫁にするとか考えられないらしい……いやいいけどね、元々誰かの嫁になるつもりは無いから丁度いいっちゃいいんだけど。


 不自然なくらいに男にモテ無いんだよねぇ……これはたぶん呪いが完全に解けてる訳じゃないのかな? 理由が判らないからモヤっとする。


 後は、ずっと前の前世の記憶だと女性の時は自分の事を私と言っていたんだけど、今生は何でか俺っ娘になれと魂が叫んでいる気がする……なんでだろねー?



 ……。



 ……。



 ――



 渡り教会が次の都市に向けて移動をする事が決まった、そして孤児達に付いて来るかの選択肢が与えられる、住みやすそうな都市ならばそこに残るもよしってね、キャラバン付きの孤児院では基本的に個人資産とか持てないから、特に祝福を得た子供は移動先の都市で仕事を見つけたりが基本なんだよね。


 そんな訳で今はライオン獣人であるシスターマーガレットと話をしている。


「ニコラはこのまま付いてくるのね?」


「はい、シスター」


「そう思うに至った気持ちを教えてくれるかしら? 貴方はすでに祝福を得ているわ、都市で働いた方がご飯も多いと思うわよ?」


 まぁそうだね、このキャラバンはすっげー貧乏だし飯も少ない……。


 このシスターがすっごい良い人で、生活に困っている人をキャラバンに雇ったりするからさ、その人柄を慕った人も集まってて、キャラバンの規模は大人だけで百人以上になってるんだよね。


 俺の母親と、残された赤ん坊の俺を助けてくれたシスターには感謝してるんだ、なればこそ、恩返しがしたいんだが、それをそのまま言ってもこのシスターは聞き入れないだろう。


 なので……。


「俺は〈木工〉と〈細工〉の祝福を得ました」


「まぁまぁ素晴らしいわねニコラ、その祝福なら何処でも雇って貰えるわよ」


「いえ、俺はこれを使って……神像を作りたいと思っています」


「……ニコラ、それが険しい道なのは判っているのかしら?」


「はい、女神様が気に入る物は滅多にないと聞いています」


「ええそうよ……女神様に認められなければ、お金にも成らないし食べていけないのよ?」


「だからこそ、このまま付いていかせて下さい、俺はいつか女神様に気に入られる神像を作ってみせます」


「……」

「……」


「……判りました、渡り教会の長である私、マーガレットは、ニコラを孤児としてでは無く、一人の大人としてキャラバンに参加をする事を認めます」


「ありがとうございますシスターマーガレット……神像を彫る道具とか借りられますか?」


「まったくこの子は……ニコラにはキャラバン付きの大工達の下で働いて貰います、普段は彼らと共に〈木工〉を生かして働く事! 彼らに認められたら道具も借りられるでしょう……数年の下働きは覚悟しなさいね?」


「がんばりまーす!」


 俺の元気のいい返事に溜息で返すシスターだった、ちゃんと仕事はするからさ、安心してよシスター。


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