第94話 天職
ピキピキッ。
木像にひびが入っていく音が聞こえる……またか……はぁ……。
バキュ、大きな音がして私が奉納した女神像が縦に真っ二つになって割れた。
一緒に見守っていた人達から溜息が漏れる。
「駄目でしたねシスターマーガレット」
「落ち込まないでねニコラ、壊れ方が優しいからあと一息よ」
「そうだな、普通なら木っ端みじんに成るからな」
「でもこれで二度目ですよシスター」
慰めてくれたシスターマーガレットと親方だが、例のまともな女神像を作ってみてくれとの依頼からはや一年。
もうこれで二回目の失敗になる……大きいから作るのに時間もかかるし、端材という訳にいかないから材料費もかかる……。
「何がいけないんでしょうね」
一応確かめるという目的で作った一つ目は、今ある神像を模した物を作って爆散した。
二つ目は、ならばと今ある神像を痩せさせて結構美人の聖猫耳マリア像を作ってみたら今の通りだ……。
「壊れ方は優しくはなっているのよねぇ……うーん私には判らないけれど、親方さんはどうかしら?」
「出来は全部良いんですよ、二つ目なんてそれこそ売りに出せば金貨単位で売れたとは思うんですが……わっかんねぇなぁ……まぁ判ったら昔からこんなに苦労はしてねーんですがね」
親方の言う通りだな、女神が何を求めているかを理解出来たのなら、こんな神像不足の世の中には成ってないと思う。
取り敢えず一度解散になった。
……。
……。
――
俺は露天市で売り物になる木工細工を作りながら思考をしている。
親方が買ってくれたセクシー美少女狸獣人木像フィギュア第四弾と壊れた女神像の違いか……。
まず既存の神像と比べて痩せているよな? でも痩せさせただけでは駄目だった。
後は若いよね、それならと、おばちゃん顔から美人にしたけど……まだ駄目だった。
まさかキャストオフさせろと……?
いやいやそんなまさか……。
もしかして猫獣人と狸獣人の差って事は無いと思うが……そもそもケモ耳っているのか?
でも人間タイプの像を作るのは危険だよね、今は間接的に人間の国と敵対しているからなぁ……。
後はセクシー度か……神様の像にセクシーさっているか? 聖猫耳マリア像っぽい奴は、なんとなく俺も清楚とか清貧を感じさせる雰囲気にしちゃったんだけれども。
いやぁ……でもなぁ……順番に可能性を潰していくと次はそこになっちゃうんだよな……。
仕方ないよな……やってみるか……。
思い立ったが吉日、という事で親方に木材を貰い、作り始めた俺。
目指す木像は、『セクシー美人女神像狐耳ver』だ!
もう胸もこれでもかってくらいに盛ってやる事にした、顔もちょっと清楚系から派手な美人という感じにする!
猿獣人ニコラ16歳! やってやりますよー!
……。
……。
――
パァァァァ、という音を付けたくなる様な光景だった。
俺が奉納した『セクシー巨乳美人女神像狐耳ver』が光り輝いている。
「上手く行きましたねシスターマーガレット!」
「そう……ね……これを……女神像として祀って……いいのかしら? ……」
神像の出来にシスターはちょっと困惑しているみたいだ。
「女神様が認めたのなら良いんじゃねーか? この大きさなら数十年以上は軽く持つだろう」
親方も投げやりになっている……俺の背よりちょい高めな神像だが結構もつみたいだね。
ちなみに『セクシー巨乳美人女神像狐耳ver』だが、豊満な胸を両腕で脇から押さえる事で胸を強調させるポーズを取っている、所謂グラビアポーズという奴だ!
女神様は『清楚なペッタンコ聖猫耳マリア像』ではなく、グラビアモデルちっくな『セクシー巨乳美人女神像狐耳ver』の方がお好みだったみたいだ。
ちなみに作るのに半年かかっている、普通の仕事もやってるからね、そこはしょうがない。
おでこに手をあてて溜息を吐いていたシスターマーガレットが、俺の方を向き表情を真剣な物にしてから。
「ニコラ、貴方に女神像を作る事を正式な依頼として出します、良いですよね親方さん?」
「ああ、ニコ、お前はもう大工の仕事をしなくていい、女神像を作る事だけやれ」
あらま、集中してやっていいならもっと早く作れるね。
「了解しましたシスターに親方、俺はもっともっと色っぽい女神像を作ってみせますからね!」
決意を表すかのように片腕を天高く掲げてみせる俺。
「いえその……これと同じで……むしろもう少し大人しめでもいいですからニコラ、ちょっと、聞いているのですか!? 親方さんもウンウン頷かないで下さい! 私の信仰の危機なのですから! ちょっとニコラ!?」
俺はシスターを無視して天井に向けて手を伸ばし、やり遂げてみせると女神様に誓うのであった。
……。
……。
――
その後の話だ、私はひたすらに女神像を作った、それこそ人生を捧げる勢いで作って作って作って作りまくった。
そしてそのほとんどすべてに神力が宿り……神像へと至った。
世の中に急に神像が出回って大騒ぎになったが、俺の名は一切表に出さなかった、面倒ごとはシスターと親方に丸投げし、ただひたすらに女神像を彫り続ける、そんな人生を送った。
なんでこんなに頑張っているかって?
そりゃさ、この転生が続くのなら、祝福が欲しいだろう? だったら獣人国に行き渡るくらい神像を配るしかねぇよなぁ!?
信仰でもなんでも無い、自分の利益の為にやってるんだよ俺は、いつかの未来の為に頑張ってた訳だ……ごめん半分ウソ、なんか途中からすっげー楽しくなってきちゃったから半分趣味でやってますハイ、ヒャッハー。
モデルポーズも色々研究してさあ、こう手の平を頭の後ろに付けて肘を開いて顔はちょっと横を向くポーズとかも作った。
とある都市の領主貴族獣人はあまりの出来の良さに、即座に都市に設置する教会用予算を出してくれたっけか、ついでに俺のフィギュアシリーズも買い占める勢いで買ってくれた。
ちなみに内緒で新しいポーズにしたことを、後でシスターマーガレットに怒られた。
そして今までの神像が全て立っているポーズだったが……俺は座っている神像も作り出した! これは画期的だったね!
女の子座りをして片手を床につけて目線は足先に向けるセクシー猫獣人神像とかはまじで出来が良かった。
都市に教会を建ててくれるならそれを渡しますよという話を複数の領主の前でやったら……誰がその神像を貰うかで決闘に発展しちゃったりした逸品だ! さす俺!
そしてシスターマーガレットに後で結構怒られた。
調子に乗った俺はこう四つん這いになってお尻を突き出している、セクシー鳥獣人女神像も作った!
さすが前世日本に居た頃にグラビアモデルが巻頭を飾る漫画雑誌を毎週買っていた俺だよね! もう色んなポーズが頭に浮かんで来る。
まぁなんでかシスターマーガレットにめっちゃ怒られたけど!
でも、そんな鳥獣人女神像も問題無く神力が付与されて神像になりました! さす俺!
なんか最近シスターマーガレットが老けて来た気がする、大丈夫だろうか? やはり歳には勝てないのだろう……すごく心配だ……。
俺を怒る時はめっちゃ元気なんだけどな?
そして村々へと配る為に合間合間に作ったセクシー美少女フィギュアシリーズも神像にして配ってしまう事にした! その数およそ数千個!
シスターマーガレットが眩暈をおこして倒れた、すごく心配だ、病気だろうか?
この神像を作り出す仕事はすごい俺に合っている、妄想……コホンっ想像力が無限に湧いて来る。
日本の記憶の中にある様々なセクシーキャラを獣人化して女神像に落とし込んでいくのがすごく楽しい。
そして今までの実績を持って獣人国の王都からの依頼でやった仕事は本当に楽しかった……。
王都であるという事で魔物であるエルダートレントの巨木を彫って作り上げた女神像。
その大きさは5メートル以上の物で。
ポーズは初心に戻って、両腕で胸を強調させて前かがみに成るポーズにした! 勿論胸は超でかく!
一度モデルポーズを重視するあまりに胸を小さくしたら神力付与の儀でぶっ壊されたからね……。
王都の大仕事が終わったらシスターマーガレットがしばらく寝込んでしまった……もう寿命なのだろうか?
俺はこれからもシスターへの恩返しと趣味も兼ねて女神像を一杯作ってばらまいていこうと思う。
さぁ次は……女性ケンタウロス族な女神像とかどうだろう?
リザルト
〈財布〉×2〈魔拳術〉〈木工〉〈細工〉≪獣化≫×2
〈魔力+20〉〈体力+6〉〈腕力+7〉〈脚力+6〉〈器用+6〉〈精神+5〉
悪名〈百合の性騎士〉効果 精力+1 性技+1 男性好感度-1
称号〈無名の像形師〉効果 神気獲得+ カリスマ+1
◇◇◇
後書きと補足
主人公は鈍感という訳では無いので、シスターマーガレットが怒る理由にも気づいています。
ですがそれを判っていてもシスターに忖度してしまうと、自分の好きな女神像が彫れないのであえて気付いてないフリをしています
作中のシスターが寝込む描写も、大げさに言っている、ある意味ネタ的な物で……
『またこんなにエッチな像を作って! こらニコラ待ちなさーい! 女神様を何だと思っているの貴方は~!』
『神力付与はされたんだから女神様も認めてくれてるし、いいじゃないですか~』
とニコラとシスターは元気よくいつもキャラバンで追いかけっこをしていると思って下さい。
ちなみにニコラは女神様を……派手系好き見栄っ張り女神と思っています。
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