第79話 戦場の掟
ある程度の距離まで来た隊列をしっかり組んだゴブリンへと味方の攻撃が始まる。
木の櫓の上に居る弓兵が必死になって矢を撃って居る。
城塞都市の城壁……というにはしょぼい、岩を積み上げた壁の上から魔法なんかも飛んで来る。
ただしそれらは散発的で密度も圧力も無い……連携して戦う訓練とかしてなさそう。
そもそも遠距離戦力が少ない感じなんだよな、ほとんどが近接戦闘員で木柵の手前でゴブリンを見ているだけだ。
投石でいいからやれよと思う、まぁ手頃な石はすべて壁に使っているのかもしれないけど。
平地には石なんて見当たらないし、背後の山の連なりを石を取るのに崩してしまうと敵を防ぐ天然の壁が消えてしまうのだろう。
唯一低い山がこの城塞都市の背後の山だもんな。
っと、オーク部隊から何か叫び声が聞こえたらゴブリンの突撃が始まった。
ゴブリンって背が子供くらいだから遠距離攻撃が苦手なんだよな、狭い場所なら兎も角これくらいの距離があるとあいつらの小さくて張りの弱い弓だと飛距離が足らんのよ。
最初の見事な隊列はなんだったのかと思うほどの崩れた突撃だった。
俺や近くにいる爺さんは木柵の手前から近づいたゴブリンに向けて木槍を突き出す。
くそ、武器スキルが無いから上手く使えなくて厳しい、しかもあいつらの持って居る武器って俺らから見ると短剣と小さな手斧って感じだから奪っても小さすぎて使い辛そうだ。
ガンガンと木柵に攻撃が加えられる、やべぇやべぇ、櫓の弓兵は何してん……後方に居るオーク部隊からの遠距離攻撃を食らってまともに機能してねーじゃんか……。
なんだこれ、オーク帝国の方がまだましな動きをしてるじゃんか。
こりゃ駄目かなぁ、諦めかけたその時だった。
ワヲヲヲォー----ン!!!
ギャヲォォー---!!
キーキー!!!
前線の各地で獣の鳴き声の様な物が響き渡る。
目の前の木柵の向こうにゴブリンがいるがチラっと周囲を確認すると……。
ゴブリンに向けて突撃をしかける獣人達の姿があった。
ここで言う獣人というのはまさに獣であり、頭が獣そのもので皮膚が一切見えなく毛むくじゃら、俺にここは地獄だと言っていた獣人は……人の顔をしていた爺さんだったのに、今は漫画に出てくる狼男のような姿になって戦っていた。
……これが≪獣化≫か? これだけの獣人達がそれを為しているというのなら……この能力は忌避される物では無いのだろう。
でもよく見ると獣化したであろう獣人達は理性が低下をしている様に見える、目の前の敵だけしか見ていなく、味方の木柵を壊してしまっている者も居た。
知性が下がる副作用がある? だとするとこの捨て駒の様な陣形は≪獣化≫を前提とした戦術だった? ……いやでも俺の能力を聞かれたりはしなかったし、全ての獣人が変化している訳では無い、か。
ガツッ、俺の目の前の木柵の一部が壊れた音がする……これは迷っている場合じゃないな、≪獣化≫したっぽい奴等は爺さんのはずなのに動きが俊敏になっていた、ならば俺も。
俺は自分の中の≪獣化≫能力に、お前を使うという意思を籠めた。
……。
メリメリメリッ、自分の体が変化していくのが判る、感覚が鋭くなり力も湧いて来て、そして……倒せ! 目の前の敵を倒せ! 理性が……薄く……ってざっけんなくそ! 俺は俺だ! スキルの力は借りるがそれまでだ!
よしっ! 動く、そしてこの≪獣化≫は魔力を消費する事で継続時間が伸びるという事を理解した、やっべ急がないと。
俺は目の前の木柵を蹴り上がって飛び越え、ゴブリン達の集団の中に躍りかかる、木槍は持って来ていない。
俺には判る、この手が、この足が、爪が、牙が、全てが武器になるのが≪獣化≫なのだと、それならば俺が持っている、素手の戦闘能力を上げる〈格闘術〉と〈身体強化〉と相性がいいはずだ!
さぁ……蹂躙してやる!
……。
……。
――
――
こんにちは、まだ自分の名前を付けてない青黒毛の爺さんです。
ちょっと、やりすぎたかもしれません。
獣化による知能低下があるのは確定だね、自分自身、他の奴等よりは理性的に戦っていたと思うのだけど、戦いの興奮に踊らされて動いてた事は否めない。
気付いた時には敵のオークの正規部隊っぽい者達を殲滅し終わってた、テヘッ。
いやぁ……ゴブリンと戦ってたらさぁ、周りの≪獣化≫した爺達が元に戻っちゃうのを見たんだよ、たぶん魔力切れだね、そしてさ、オークの正規兵がそれを狙いすましたように狙って倒しに来てんだよね。
つまりだ……このゴブリン達は獣人達の≪獣化≫を促して、さらに魔力切れで元に戻させる為の捨て石で、オークの正規部隊で獣人の重要な戦力を減らす作戦だったみたいなのよ。
やべー、オーク帝国やべーよ、きっちり戦術を立てて戦いに来てる、それに対して獣人達はなんていうか、場当たり的な戦いをしてるよね、まぁ≪獣化≫が強いからなんとかなっているって所か。
今は敵のオーク部隊が俺によって全滅したので残ったゴブリン部隊が撤退をしていて、それを追いかける獣人なんかがちらほらいる程度で、戦は終わったようだ。
敵のオーク部隊を倒した位置で周囲を見回している俺に、正規兵っぽい狐獣人兵士が近付いて来る。
「すげぇな爺さん! ≪獣化≫の効果時間の長さといい戦闘力の高さといい、今回の戦功の一位になるんじゃね!?」
お、なんかいい感触だ、この狐獣人とは仲良くなれそうかな?
「なあ、このオーク達からの戦利品とか貰っていいか? 服とか武器とか」
オークはみんな普通に鎧の下に服を着てるんだ、まぁゴブリン達は武器や防具はそこそこ良い物だが服は腰蓑だけだったけどな。
「そうだな、基本的には全部こちらで回収するんだが、前線で戦って生き残った兵士は片手で持てるだけの物資を手に入れる権利がある」
「片手ってーのはどの程度の事を指すんだ? 一個って事か?」
「手だけで持てるならいくらでもいいんだよ、だが手の先以外が物資にくっついてたら駄目だ……物資が地面についても駄目だ」
「戦功一位とやらでもその程度かぁ……」
「いや、爺さんの戦功ならもっと……あー、そうだな片手分だけ許してやる、ごまかすなよ? ちゃんと見ているからな? あと所属のタグを見せろ、早くしろジジイ!」
あら……やっぱ会話をすると男には嫌われるんだな、しょうがねぇか、これは文化云々じゃないかもなぁ……俺が人間の感性を持っている事に獣の感で気づいているとかかなぁ? でもそれだと女性の反応が普通なのを説明出来ないか、謎だ。
まぁ城塞都市で渡された首に下げている木札を兵士に見せ、そして一番状態がよさそうな服と、鎧はサイズの問題があるので諦めて手甲ぽい物と鉄の槍を片手で持ってみせた。
狐獣人兵士は地面に唾を吐きながら特に何も言わずに去って行った、オッケーって事かねぇ。
最初の感じだと仲良くなれそうだったのにな……なんであんなに嫌われるんだろうな、まるで俺があいつらの恋人を寝取ったのごとくにさ……まいったね……。
まぁいいか、取り敢えず、服諸々ゲットだぜ!
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