新たな大地
第77話 新たな転生
ぅ、体が重い……目を覚ました俺が見た風景は林だった。
……また森の中に放置か……。
自分の手を見てみるとシワが多く、肌に張りも無くシミも有る……また年寄り転生かよ……。
そのまま俺は自分の下半身を見てみる。
シワシワパオーンッ。
……爺さん転生か。
しかし何か様子が違うような……あれ? なんでこんなに俺は毛深いんだ? 手の指は人の物だが甲とか腕の表側とか足の前側とか所々がすげぇ毛深い、まるでこれは……俺は自分の髪の毛を確かめようと頭に手を伸ばすと……モフっとした何かが。
「ふぁっ!」
そして俺の口からよく判らん声が出た。
え?
恐る恐るもう一度モフっとした何かを……おおう……ぞわぞわする……。
もしかして……いや、もしかしないでも……ケモ耳じゃなかろうか?
周囲を見回すも人も人工物も何も見当たらない。
自身の能力を感じて見る、うん、前の能力は引き継いで……いたっ!
頭が痛い、一つ前の前世の事を認識しようとすると頭痛がする……俺は無理に思い出そうとする事をやめた、うっすらと判るのは貴族の女子に赤ん坊転生をして、そして最後に百合ハーレムを築いたって事だ!
……何してんねん俺……。
イタタッ、詳しく知ろうとすると頭痛が……もしかして……この転生は無限に続かない? そろそろ残機が無くなりかけて記憶がおかしくなっている?
それなら俺が……恐らく獣人になっているのも説明がつく、転生ガチャがおかしくなっている可能性があるからだ。
人の耳があるべき場所に何もない……な。
しかも、自信の感情の高ぶりによってお尻のあたりがペチペチいうと思ったら。
尻尾らしきものが動いていた、尻尾の毛も体の一部に生えている毛も髪の毛も、青黒い毛に見える。
ペタペタと顔を自分の手で触る分には……凹凸からして人の顔の様に思える、顔毛も生えてないし。
つまり人成分の強い獣人になってしまった可能性が高い。
そして俺は立ちあがり〈財布〉からパンツを出した。
ふぅ……良く思い出せないが前世の俺もパンツの重要性は理解していたようだ、グッジョブ俺。
前々世前の事はしっかり思い出せるのでやはり記憶を読み辛いのは前世のリリアンの記憶だけだな。
このパンツを〈財布〉に入れたリリアンの子供の頃はある程度思い出せるのだが……恐らく貴族学校へ行く前後あたりからの物がよく読み込めない感じだ、イタタッ無理に読もうとすると頭痛がする。
しかし困った、この男子でも女子でも大丈夫なボクサーパンツなのだが……尻尾用の穴が無い。
こう、無理に
ローライズパンツに成ってしまう……しわくちゃな爺さん獣人のローライズパンツ一枚の半裸姿に需要はあるだろうか?
……無いな!
という事で、仕方ないので前後逆にはく事にした、つまりは男が立ちションをする時に物を出す部分を尻に持ってきた形だ、そしてそこから尻尾を出す!
……尻尾の位置が結構高いのでパンツのすわりが悪い。
俺は今まで200年近い転生の記憶があるが、恐らく初めて『パンツのすわりが悪い』なんて言葉を使ったかもしれない。
さて、なんとか人の……獣人としての最低限の尊厳を保てる恰好になれた事だし、次はこの重い体だな……。
肌のシワの感じといいシミが一杯ある事といい、人なら70歳以上はいってるんじゃねーかなぁ? 獣人の寿命とか老い方を知らんのであれだが。
まぁよし、まずは自身に対しておもいっきり〈回復魔法特〉を使った、何度も何度もだ。
おかげでお肌は少し若返った気がする、シミも綺麗さっぱり無くなった、シワだけはある程度残ったが……腕や体の見た目が10や20は若返ったのではないかと思う。
顔は鏡が無いから判らん。
周囲は林か……いや、これは手入れをされている林か?
俺の中のレンジャーの知識が言っている、この林は自然のままでは無いと、それなら人が……あれ? この世界って獣人って居るのか?
今まで見た事ねぇから、人しか居ない世界なんだと思っていたんだが……魔物でいうならダンジョンにはゴブリンやオークはいるが……外には獣や虫系がほとんどだったし……うーむ。
よくわかんね! 判んない事を考えたって仕方ない、成るように成るだろ。
一応〈財布〉にはお金が有る程度入ってるから大丈夫だとは思うしな。
一応ケモ耳と尻尾を何かで隠すべきか――
ガサリッ、そう音がして下草を踏みしめながら出て来たのは、茶色の髪の毛にピョコンッとしたケモ耳が可愛い小さな女の子だった、たぶん獣人?
あっれぇ、この世界って獣人が普通にいるのか? 前世だとそんな話は聞いた事ねーんだけどなぁ……。
10歳にも満たないと思われる女の子はびっくりとした表情を見せると、ささっと木の後ろに逃げてこちらを覗いて来る、そして俺と目が合うとサッと木の後ろに隠れた。
ちなみに恰好はボロボロのワンピース服だった、人世界なら捨てられてるよねその服、って感じの……。
俺は女の子を怖がらせない様に下草が生えている所にあぐらをしっかり組んで座った、すぐに立ち上がれる姿勢じゃないですよと示すためだ、そうして女の子に声をかける。
「こんにちはお嬢ちゃん、私は迷子になってしまったようでね、このあたりに人が住んでいる場所はあるかな?」
女の子は木の向こうから頭の上の可愛い耳だけこちらに見せながら。
「知らない人とお話ししたらいけないの! お母さんに怒られるの!」
おおう、きっちり物の言える良い子だね。
「それなら誰か大人に声を掛けて来てくれないかな? 私はしばらくここを動かないからさ」
女の子は木の影からぴょこっと顔を覗かせて俺を見ると、歩いて来た方向へと駆けていった。
まぁ最悪誰も来なかったら向こうに向けて移動しよう……あんな小さな子の足で行ける範囲ならそう遠くはあるまい……。
とりあえず体感で3、4時間は待つか……しばらく動かないと約束したしな。
俺はそのまま座りながら、耳の性能や尻尾を自分の意思で動かせるかなどを確かめながら時間を潰す。
……。
……。
遠くから複数人の歩く音が聞こえる。
どれくらいの距離なんだろうなこれ、と思って待ってみると、近くに来るまでそれなりの時間がかかったし、人間の倍以上は耳がよくなっているかも?
そうして俺の前に現れたのは三人ほどのたぶん男の獣人で、ぼろっちぃ服を着て素足で歩き、一人だけ腰に剣……ナタか? 武器を装備している。
ケモ耳はあれども顔は人間っぽい、そして腕の表側は獣の様に毛深いので、俺とほぼ同じような感じだ、俺と同種族だとありがたいんだけどね……。
「あん? 本当に犬獣人だな、だけど見た事ねぇ奴だな」
「ジジイでパンイチかよ、なんだこいつ」
「おい爺さん、あんた何者で、ここらに何の用があって来たんだ?」
さて、毎回の事だが説明に苦労をするんだよなこれ。
……。
……。
――
彼らには記憶も荷物を全て無くしてしまった流離い人という事で何とか納得して貰った、獣人の常識なんて知らんのからな。
ちなみにその説明中に何故だか機嫌の悪くなった若者達に何発か殴られた……獣人は血の気が多いのだろうか?
〈格闘術〉持ちなので見た目は痛そうだが実際は痛くない受け方をして対応をしておいた。
そして今は獣人の村に連れてこられて村長とやらに会って居る。
えっと住まわせてくれるのかな?
中年男性である村長、いや若者には族長って呼ばれていたっけか、族長さんも話をするうちに何故か不機嫌になっていく……うーん俺の見た目がおかしい? それとも記憶喪失の年老いた獣人とかいらねーって事なんだろうか?
何なら何処か他へ行くのでと俺は言ったのだが……。
若者が族長に遠征の頭数にすればとかなんとか言いだしたら族長も頷いていた。
遠征ってなによ……すごい嫌な感じがするが、まずは情報を集めたい。
そのまま俺は村の端っこの空き地で過ごす許可を出された。
だけどもこの場所って……家ですらねぇのよ、だたの雑草が生えている空き地だ……犬小屋よりひでぇ……。
族長に頼まれたのか飯……蒸かした芋の欠片? を持ってきた中年のおばさ……お姉さんと話が出来た。
その結果、俺の年齢は70過ぎくらいに見えるらしい、水の入ったお椀を見ると……人間の見た目でいう年齢換算で合っているみたいだ、〈回復魔法特〉である程度若返らせてこれかよ……元々は80とかもっと上だったのか? めっちゃ外れ転生じゃん。
そして記憶喪失な事を大層可哀想がられた、男連中と違ってお姉さんは優しいのかもしれない。
俺の種族は彼らと同じ犬獣人だと思われる事、ただし毛の色が違うので他の部族であろうこと、等々色々教えてくれた、ありがたやー。
あと、神様へ祈る教会はあるかと聞いたら、さすがに無いと言われた、祝福のことを遠回しに聞いてみると、ちゃんとその文化はあるみたいで安心した、なら村の人間の祝福はどうしてるの? って所でお姉さんを呼ぶ族長の不機嫌な声が聞こえてきて会話が中断された……。
俺は一応祈ったよ「今日も生を得る事が出来る事を創造神に感謝をし祈りを捧げます」ってね、まぁ何も起こらなかったんだけどな……。
やっぱ神像が無いと駄目なのかねぇ……。
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