第68話 乙女のお茶会

 こんにちは、リリアン・ミルスター12歳に成りました。


 貴族学校に入ってから数か月、6月に入り、学校の生徒達も寮生活に慣れて活発な動きを見せ出す頃ですね。


 私は目の前に出されたカップを手に取りお茶を飲む、うわ、おいっし! 何この美味しさ……やばいわね、さすが上級貴族のメイドの給仕だわ。


 私やユリアが『リリー&ユリー』だとバレてからの女子の間だけで起きていた騒動は収まりました。


 なのでこうやって寮にある専用の部屋でお茶会に参加しているという訳だ。


「リリアン様いかがですか?」


「はい、とても美味しいです×××様、後ここは学校で私は後輩なので様付けはやめて頂けると嬉しいのですが……呼び捨てか、せめてさん付けでお願いします」


「そんな! あの『リリー&ユリー』に呼び捨てなどと! 出来る訳がありませんわ!」


 はぁ……住む女子寮が決まったのはいいけれど、有名人は辛いのう……。


「そうなのですか? 私はもう少し親しみを込めた呼び方でもいいと思うのですが……そうだ! 私の方から先輩呼びをしてもいいですか? それともお姉様呼びとかの方が?」


 ザワザワっ! 私がこの寮で一番高位な貴族のお嬢様にそう提案すると周りの席の人達に騒めきが起こる、ありゃ? さすがに馴れ馴れしかったかな?


「そ……それは……ゴクリッ……リリアン様がわたくしと『百合姉妹』の契約を結びたいという事でよろしいかしら?」


 ほえ? いやまって。


「それは『百合物語』に出て来る奴ですよね? あれは架空のお話ですよ?」


 いきなり何を言うのだこの高位貴族のお嬢様は。


「……リリアン様、あの素晴らしい書物を読んだ皆が、あの中で為されている各種の契約や行為を現実で取り込まないとお思いなのですか?」


 え? え? ……ええ? ……ええええ!?


「えっと……もしかしてすでに?」


「ええ、すでに何組もの『百合姉妹』が誕生していますし、『騎士物語』での騎士の誓いを真似する男子もおりますわね」


 ……やべぇ……私が調子に乗って色々アイデアを出した中二病な儀式やら契約やらがリアル世界を汚染し始めてるっぽい……やっちゃったかなこれは……。


「そうですか……」


「知らなかったという事は先ほどのは……『百合姉妹』へのお誘いでは無いのですね……」


 私と話していた高位貴族のお嬢様がショボンとして落ち込んでいる、周りの女子達がそれを慰めているが元に戻らない。


 ま、まぁ、本を真似したごっこ遊びみたいな物だろうしなぁ……うーん……女の子を悲しませたままなのは良くないよな?


 しょうがないなぁ。


「『×××お姉様、どうか私と百合姉妹の契約を結んで下さいませんか?』」


 本の中のセリフを言ってみる事にした、ちなみに『百合物語』には一応メイン姉妹は居るのだけど、たくさんのサブキャラが出て来て様々な百合姉妹関係がある、私のセリフはその中で後輩の方からお誘いをするパターンの物だ。


「リリアン様! ……いえ……『勿論よリリアン、私と貴方は魂で繋がるのね……』」


 キャーっ、とお茶会に参加している女子達から歓声の様なものがあがる、ダンスの時も思ったけど君らって本当に本の内容を使ったゴッコ遊びが好きだよねぇ……。


「さすが百合騎士ね、×××様が恋する乙女の顔になってしまったわ」

「そうね、私も百合の君に誘われてみたいわ……」

「うちの妹が社交デビューの時、パーティでリリアン様とダンスを踊ったらしいわよ、私もいつかお願いしたいわね」

「リリアン様の最初の『百合姉妹』はうちの寮がゲットね」



 ざわざわと会話が流れているのだが……『百合騎士』とか『百合の君』って私の事なんだろうか……そういや『百合の君』は社交ダンスパーティの時にちろっと聞いたような……。


「あの皆さん、『百合騎士』とか『百合の君』って私の事ですか?」


 一応確認をしてみようと聞いてみると、周りの女子達が一斉に話し掛けてくる。


「何を言っているのリリアン、貴方は社交デビューを失敗しそうな女子を慈愛と礼節を持って助けた『百合騎士』ってすごく評判なのよ?」

「そうですリリアン様、×××様の言う通りで、『百合騎士』の素晴らしさに憧れる子はすごく多いんですからね? 勿論私も憧れてます」

「いつか私とも踊って下さいね『百合騎士』のリリアン様」

「今回×××様と『百合姉妹』になった事で『百合の君』の方もさらに広まるでしょうね、はぁ……リリアン様みたいな魂の片割れである妹が欲しいですわぁ……」

「ほんと×××様が羨ましいです」


 へぇ……『百合騎士』ってあの時泣きそうな女の子を騎士の礼法を使ってダンスに誘って助けたからつけられたのかな?


 ってまって……さっきやったセリフの応酬は……ゴッコ遊びだよね? え?


 もしかして本当の『百合姉妹』に? ……いやいやまさか……。


 私は×××様に視線を向ける。


 彼女は本当に嬉しそうな笑顔を私に披露してくれると、おもむろに口を開く。


「リリアンの荷物を私の部屋に移さないとね、人の手配はこちらでするので安心なさい」


 そう語り掛けてきた……周りの女子達はまたキャーッっと歓声をあげる……え?


 まぢ? 確かに『百合物語』では契約を結んだ二人は同室になる設定だったけど……。


 ……今更ゴッコ遊びでした何て言える雰囲気じゃないわよね……。


「あ、えっと明日からまた寮を移るのでいつになるかは……」


 そうなのだ、実は四つの女子寮の話合いで私はに在籍する事になった……部屋もそれぞれの寮にあり、生活用の荷物は高位貴族の方々がお金を出して揃えてくれたので一々移動させる必要がなかった。


 ただし制服だけは自分で注文する必要があったので、どうせならと寮ごとに微妙に制服の形を変えた、ただしリボンは皆同じ、実はこれも『百合物語』での設定に沿っている。


『百合物語』だと学年ごとにリボンの色が違うのだけどね、ここでは私だけなのでまだ一色だ、いつか学年が上がったら色を変えようと思って居る。


 制服は布地は同じだが全体の形と刺繡に使う糸の色で特色を出す感じ、せっかくなので『百合物語』に出てきた色も踏まえて赤白青黒の四色にしてみた、本では三つの色だったからそこに黒を加えてみた。


「そういえばそうだったわね……いえ……でも丁度良いわ『百合姉妹』の契約の儀式用に服を揃えておかないといけなかったし」


「服ですか? ×××様」


「お姉様を付け忘れているわよリリアン」


「あ、はい、服ですか? ×××お姉様」


「ええそうよリリアン、『百合物語』の様に色の違うリボンを交換しあい、学年と違う色のリボンを付けている事で周囲に『姉妹』が居る事をアピールする……素晴らしい契約方法だと思うのよ……」


 うっとりとした表情を見せて語る×××お姉様に周囲の女子がウンウンと頷いて肯定を示している……中二病っぽいかなぁと思って書かせた内容なのだけれど、予想以上に彼女らの心に刺さってしまっているみたいだ……。


 うん、本が一杯売れそうで最高だと思っておこう、私しーらない。



「という訳でリリアンの着ている制服と同じ物を大急ぎで作らせるので、それを仕立てたお店を教えてくれるかしら?」


「あ、はい×××お姉様、えーと、うちの家の出入りの仕立て屋で頼んだので個人なのですけれど……」


「ふむ……それならこちらで交渉をして型紙の権利を売って貰うわ、そしてついでにうちの寮全員に同じ型の制服と学年ごとのリボンを配りましょう、お金は私の家が出します」


 キャーッっとまたしても周囲の女子の喜びの歓声が湧き上がる。


 ええ? 貴族学校中等部女子の四分の一の制服の代金って……さすが高位貴族のお嬢様だね。


 そうそう、貴族学校は中等部と高等部で学校も寮も分かれている、日本で言う中学と高校だね、このお姉様は中学三年生になる訳だけど。


「リリアン、学年ごとのリボンの色は決まっているのかしら? 今貴方がしているのは黄色だけども」


「そうですね×××お姉様、特に決めてなかったんですけど黄色と緑と紫あたりにしますか?」


 制服に使う糸の色と同じだとまずいだろうしなぁ。


「紫は駄目よリリアン、至高の色だわ、私達貴族が王族の色を纏う事は許されない」


 そういえばそんな仕来たりもあったっけか……昔と染色技術が違うんだからもう解放すりゃいいのにね。


「そうでした、では紫の変わりは茶色あたりにしましょう」


「それがいいわね、では後で従者が仕立て屋の事を聞きにいくのでよろしくね、それと貴方の荷物はこちらで移しておくから安心なさいリリアン」


 勝手に荷物を移動されて安心しろとはこれいかに、なんちゃって。


 まぁ……私の自業自得だよね、まさか本気だとは思わなかったし……。


 まぁ、可愛い年上の女の子と相部屋になったと思えばいいよね。


「よろしくお願いします×××お姉様」


 私はそう言って頭を下げた。


 下げた頭を戻してお姉様を見ていると、彼女は頬を赤くして何かを言おうとしては止めてを繰り返している……どうした?


 しばらくすると何かを決意したのかお姉様は。


「リ、リリリリアン、い、い、『一緒に咲き乱れましょう……』……だめ恥ずかしい!」


 お姉様は両手で自分の顔を抑えてテーブルに伏せてしまった、手の隙間から見える顔や耳は真っ赤になっている。


 そして周囲の女性達からは、またも歓声があがり、彼女達の顔も赤く染まっている……。



 そのセリフって、『百合物語』に出て来る、サブキャラである高等部の『百合姉妹』のセリフだよね……まぁ一緒の部屋の一緒のベッドで寝ている二人が……まぁそういう事をする時のセリフだね……。


 あの本ではメインキャラは中等部なのでその手の描写はほんのちょこっとしか出してないんだけどな……周囲を見ると全員顔が真っ赤で理解をしているらしい、少年漫画のエッチなシーンをしっかり覚えている小学生といった所なのだろうか。


 『百合物語』のメインキャラである中等部の子達はキスまでしかさせてないんだけどなぁ……背伸びしたいしたいお年頃なんだろうか?


 というか、恥ずかしがって顔を上げられないなら言わなきゃいいのに……。


 しょうがないお姉様だこと。


「×××お姉様、それは私達には早いですわよ、まずはパジャマパーティからに致しましょう」


 作中のメインキャラがエッチィ事をする描写はないからね、キスだけの清い関係だからこそ百合心が燃え上がる物なのだよ、とかなんとか適当な事を言いながら、設定をユリアに伝えたっけか……。


 私の言葉を聞いてお姉様がゆっくり顔をあげる、まだ少し頬が赤いけど耳の色は収まって来ているかな。


「そ、そうねリリアン、私達は中等部だし早かったわね、『百合物語』でも最初はお友達も含めたパジャマパーティだったものね……貴方がまたこの女子寮に泊まる日が来たら皆さんと一緒にパジャマパーティをしましょうね」


「はい、×××お姉様、皆さんもその時はよろしくお願いしますね」



「よろしくお願いしますリリアン様、わたくし新しいパジャマを新調しますわ!」

「わたくしも! 本の挿絵にあった様な可愛らしいのが良いですね」

「うちの出入りの商人を早く呼ばないといけませんわね」

「楽しみですわね、誘って頂き感謝します×××様」


 ……。


 ……。



 ふぅ……なんとか丸く収まった感じだなぁ……。








 ……な訳ないよね! おかしいよねぇ!?



 ……はぁ……貴族学校では何もかも上手くいくって思ってたのになぁ……。




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