乙女の嗜み
第67話 貴族学校
「リリアン、使われていない旧舞踊室にゴーストが出るんだってよ! 見に行こうぜ!」
「ばっかリリアンは俺達とグランドゴルフで遊ぶんだよ! なぁなぁ今日は障害物多めで行こうぜ!」
「リリアンは俺達とリバーシをするんだよな? お前らはあんまり困らせるなよ、リリアン早くいこうぜ?」
「なんだよ! お前らこそ俺達とリリアンの邪魔すんじゃねーよ!」
「それはこっちのセリフだ! お前らこそどっかいけよ!」
「君達こそ――」
――
――
ガバッと目を覚ます私……知っている天井だ。
……。
こんにちは、リリアン・ミルスターもうすぐ12歳です。
……すごく嫌な夢を見て寝覚めが最悪です。
ゆっくりとベッドの上で上半身を起こします。
「リリアン様お目覚めですか? 今お着換えの準備を致しますね」
ユリアの優しい声を聞いてやっと目が覚めてきました。
ここは貴族学校にある教職者専用の寮の客室で、そこに私とユリアの二人でお世話になっています。
寝室とリビングの二部屋で、住むべき部屋というよりは宿泊施設といった感じ。
「はいリリアン様こちらに立って腕をあげて下さい」
ユリアの声に従いベットの横に立ち腕をあげるとワンピースタイプのパジャマを脱がせてくれるユリア。
その後も渡される下着等を交換して着替えていく私、大昔は恥ずかしかったけど最近では世話をされる事に慣れてきた、お母様や家の使用人から貴族のメイドとしての教えをしっかり受けているユリアは私の世話を事細かにしてくるのよね……。
一人で勝手に着替えると悲しそうにするのだもの……仕方ないよね?
たまに私の脱いだ服に顔を埋めているような気がしないでも無いのだけれど、気にしない事にしている。
「顔色が少し悪いですねリリアン様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よユリア、少し夢見が悪かっただけなの」
「リビングのソファーでお待ち下さい、今暖かいお茶をお淹れしますから」
そう言って私から離れて部屋から出て行くユリア。
ここはキッチンが無いから一旦部屋を出てお湯を貰ってこないといけなく、ユリアにちょっと悪いなぁと思いつつもお茶はありがたいので止める事はしない。
私は貴族学校の指定された布地で作られた制服を着た。
学校で画一的な制服を貴族連中に着させるのは難しいと考えた前世の私は、制服やらに使われる素材をある程度規定する事で統一感をそこそこ出す事で妥協をした様なのだ。
そりゃぁね、いかに人より目立つかなんて事を考える貴族子女達が同じ服で我慢出来る訳がない、私は日本の記憶から仕立て屋にブレザーの学生服っぽい服を作らせた。
胸元の大き目のリボンがポイントだ、鏡を見てもすごく可愛い美少女中学生といった感じで、とても似合っていると自負している、初めてこの姿の私を見た家族やユリアも可愛いと褒めてくれたしね。
ちなみにこれは『百合物語』に出てくるキャラが着ている制服のイメージに近い、挿絵もこんな感じで描いて貰ったし。
ガチャッと部屋の扉が開く音がしてユリアが入って来る。
「只今帰りましたリリアン様、もう少々お待ち下さい」
ユリアがお茶を淹れてくれるのを見つつ周囲を見回す、客間ではあっても質素な部屋だ。
……なんで私は未だにここに居るんだろうねぇ……。
はぁ……溜息を吐いてしまう私、目の前のテーブルにお茶を出してくれながらユリアが心配そうに聞いて来る。
「リリアン様お疲れですか? 私が教職員にガツンッと言ってやりましょうか?」
「やめておきなさいユリア、職員には貴族が多いしね……」
「でもリリアン様だけ女子寮に入れないなんておかしいですよ!」
「仕方ないじゃないのユリア……だって、私と貴方の事がバレちゃったんだから」
そう、ユリアが憤っているのも理解は出来るのだ。
貴族学校で生徒が必ず入る寮へと私だけが入れてないのだから……。
何でか?
まず貴族学校の女子寮の仕組みから説明をしなくてはいけないだろう。
この学校には女子寮が四つある、生徒はそれぞれ個室が与えられて、その部屋の大きさは貴族の格により変わり、従者の上限もそれによって変わって来る。
私なら男爵家だから従者は二名までおっけーなんだけど、まぁユリアが来てくれるならいいかと一人だけにしている。
ユリアはロバートと婚約したんだし私について来ないでもいいのよって言ったんだけどね……どうしても一緒に来るって言うので許可を出した。
ロバートにはちょっと悪い事をしたと思って居る、あいつは私が学校に行ったらユリアと一緒に暮らせると思ってたっぽいんだよな……私が学校の休日で実家に帰る時はお前の所にユリアを行かせるから許して頂戴な。
まぁそんな訳でユリアが私から離れる気になった時の為に実家で新しいメイドの教育をお願いしているんだけど、ユリアは一生私の側付きを辞める気が無いっぽいんだよねぇ……。
まぁユリアの話は今はいいか。
それで女子寮が四つもあるのは仲の悪い貴族を同じ寮にしない為もある、まず高位貴族の仲の良し悪しでばらけさせて、その後に高位貴族と派閥関係のある人間を割り振り、最後に空いている枠に中立の貴族を適当に放り込むのが基本らしい。
そして私の家はお父様が私の前世に見いだされれた事から、ブレッド家と関係があるのだけど寄子では無いのよね……私の前世は能力の高い平民を積極的に採用していたからそれで成り上がった貴族の数が膨大になってしまうので寄り親にはならなかったんだよね、巨大な軍事派閥を形成出来ちゃう可能性があって、それは場合によって王家より大きな力に成りかねないからね。
なのでうちの男爵家は中立的軍事派閥というカテゴリーに入る、まぁ元平民の貴族でなんとなく固まってるってだけのゆるーい奴だ。
ただまぁ親の関係性で行ったらバニスター伯爵家とも繋がりがあるので、その子女がいる場合にそこの女子寮に入るのが慣例といえば慣例なんだけど……。
私とユリアが『リリー&ユリー』だという情報がついに洩れてしまったのよねぇ……そういう情報をいち早く仕入れるのは高位貴族で、そんな彼女達による私の身柄の取り合い、というか何処の女子寮に住むかで壮絶な女の戦いが始まってしまったんだってさ。
どの高位貴族達も引く事が無くて、王家が仲裁に出て来る程の話になってしまったらしいよ? つっても女子だけの話なので男連中には一切この話は出回ってない……なんという情報隠蔽能力……女子ってコワイヨネー。
そんな訳で王家からの仲裁を受けた彼女らの話合いが終わるまではと、暫定的に私は教職員寮に住んで、そこから貴族学校へと通っているって訳。
そんな中で周りの女子、特にお姉様方のアプローチで胃が痛いのにさぁ、同級生の男共はちょっと挨拶したり遊戯の相手をしたら友達面してやたら遊びに誘ってきたりするのよね……。
それがさっき見た悪夢……というかほとんどが本当にあった出来事を再度夢に見たって訳だけども。
もうね……あいつら小学生男子かよ! ってくらいお馬鹿なの! 本当に馬鹿で、そしてなんでそんな馬鹿な男子共とすぐ友達みたいになれちゃうのかが理解出来ない。
ちょっと波風立てない様に普通に挨拶をしたり、誘われたから何度か遊びに付き合っただけだよ?
「男の子が好む遊びに、心底本気で付き合える女子はリリアンお嬢様くらいですから」
ユリアが私の対面のソファーに座りながらそう言って来た、すでに自分の分のお茶も入れて飲んでいる。
私の心の声に返事をしただと!? って。
……また私は考えている事を口に出していたのだろうか? 気をつけないとな。
それよりも。
「でもユリア、遊びは本気でやって楽しまないと意味ないじゃない?」
「……そこですよリリアン様、普通の女子はリバーシやグランドゴルフを本気でやったりしないんですよ、一緒に心底楽し気に遊んでくれる同年代の美少女が居たら……そりゃ男の子達も集まりますよリリアン様」
……。
私はユリアの言葉を聞いて、前世の日本の男の子だった頃の記憶を思い出してみた。
小学高学年で男子の中で流行っているカードゲームやらサッカーやらに付き合ってくれる美少女同級生、しかもその子は心底それを楽しんで笑顔を見せたりする……。
あ、これ人気でる奴だ……やっちゃったかぁ……。
おかしいなぁ……ちょっと前では貴族学校では何の問題もなく上手く行くって思ってたのに、蓋を開けてみたら入学して二週間でこんな状況かぁ……。
「……でもこの状況は本のネタになりそうよね? メモっておいてよユリア」
「リリアン様って転んでもたたでは起きないですよね、さすがです」
ユリアに褒められちゃった、ふふ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます