第55話 王女との邂逅

「お初にお目に掛かりますパトリシア王女殿下」


 俺は目の前の金髪ロングの王女様へと挨拶をしていく。


 王宮の庭園でのお見合いなんだが、お見合いなのに嫁が同じテーブルに着いているという訳の判らない状況ではある。


「初めてじゃないのだけどね」


 そんな事をもうすぐ14歳の美少女王女殿下に言われてしまう……むん? ……あ!


「冬の麺祭の時に俺に勲章をくれた美少女!」


「そうだけど、美少女だと判っているのなら話し掛けたりすればいいのに……」


 王女は俺の美少女発言にもまったく動揺をしない、言われ慣れているのだろう。


「俺には愛する嫁がいますから」


 そう言って同じテーブルに着いているヘレンを手で示す。


 王女はそちらを見ると。


「おめでとうヘレン、もうすぐお母さんね……うちの可愛いヘレンを奪った男がどんな人物かと思って調べてみたら……とんだ金の卵でびっくりしたわ!」

「ありがとうございます、王女殿下も元気な様で安心しました」


 ヘレンが嬉しそうに挨拶をしていた、王宮でのヘレンの二つ名が酷かったから苛められていた可能性を考えていたけど……どうやらそんな事は無かったみたいだ。


 しかしまぁ。


「金の卵?」


 俺の呟きに対して王女殿下は。


「そうよ、貴方は良く判ってないみたいだけども、わが国を救った英雄とも言えるべき人物なのよ? あの数々の調味料等がなければうちの国は小麦や大豆や米をそのまま輸出するしか無かった、それはそれで力ではあるけども……それだと、たかが知れた値段にしかならないの」


 確かに小麦やらをそのまま売ってもそれほど儲からないよなぁ……まぁやり方によっては武器になるけど、ってまてまて。


「博士、あいや、クランク公爵様が頑張ったお陰かと思うのですが」


「ふふ……そんな事を本気で信じてるのは平民だけよ、王宮の中の聡い者は気づいているわ……何処から来たのかも判らず、知識が豊富で誰も聞いた事の無い様な調味料の使い方を知っていて数々の美味しい料理を生み出す……そしてそこらの兵士より遥かに強い男」


「はぇーリオンってそんな風に思われてるんですか~」


 王女は者は気づいていると言った……ヘレンは……可愛い嫁だからすべてまるっとおっけーだ!


「……ヘレンはお菓子でも食べてなさい、私のもあげるから」

「はーい、ではお菓子おかわりでー」


 ヘレンは王女の言葉に喜んで側に居た侍女におかわりを頼んでいる、まだ目の前のお菓子に手をつける前なのに……さすが俺の嫁だ! 遠慮なんて言葉は俺たち夫婦の辞書に載ってないからな、でも妊婦さんだから程々にな。


「加工品の輸出は作物をそのままを売るより利益が大きいわ、材料のが自国で補えるなら猶更ね……貴方は狙ってやったのでしょう?」


 いやまぁ……金を稼ぐならその方がいいでしょう? その売り上げで外国からは鉄やらを輸入すりゃいんだし……。


「ヘーソウダッタンデスカー」


 平原国家だからな、ダンジョンでちょろっと鉱物は出るけど、ある程度輸入しないときついんだよね、どうにかしないとじり貧だったんだよ、この国は。


「ふぅ……まだ信頼関係を築けてないからしょうがないわね……でも、王家として……そして一人の女として……逃がさないからね?」


 王女はニッコリと俺に向けて笑顔でそう宣言をしてきた。


 コワーイ、日本なら中学生くらいな、もうすぐ14歳な女の子なのに、すっごくコワーイ。


「はは……お手柔らかに……お願いシマス」


 これはもう逃げられないかなぁ……。


「そんなに警戒しないでよ、普通に恋愛感情もあるのだから……そんな態度をされると少し悲しいわ……」


「へ? だって冬の麺祭で初めて会っただけですよね? それに俺はイケメンでも無いですし一目惚れは有り得ませんよね?」


 今生の俺はフツメンだからなぁ……前世のレオン卿の時はそこそこイケてたっぽいんだが。


「私からヘレンを奪った奴がどんな人なのか調べさせたって言ったでしょ、その中の様々な事件や騒動を聞いてるうちにね……自由で楽しそうだなって思って……麺祭の時もヘレンと一緒にニコニコしながら屋台をやっているし、私も混ざりたいなーって、でもまぁ王女だからね……諦めていたんだけど……お父様が貴方の嫁を増やす話をしていたのでこれだ! って思って頑張って説得したのよ?」


 ああ……俺は爵位も低いし元平民だし結構自由にお馬鹿な事とか出来てたからなぁ、王女殿下から見ると自由で楽しそうに見えちゃう事もあるかも? ……恋に恋する時期にそういうのを見ちゃってって事か、勘違いからの恋もあるって感じかね?


 だがまぁ……一番大事なのは……。


「ヘレンはどう思う? 俺の嫁が増える事について」


 俺はヘレンに声をかける、これが一番大事だからね。


「もごっ! もぐもぐ……私は大賛成だよ、また王女殿下と一緒になれるのは嬉しいし……それに側室の方もほら、リオンって夜が強いじゃない? 私が今こんなで相手が出来ないから浮気というか娼館とか行かれるのは嫌だから……」


 待って! 俺が強いんじゃなくて君が最強なの! 俺は博士から貰った精力剤とかこっそり使ってるからね!? ……ヘレンの為に頑張った事が勘違いに繋がっている!?


「そうか……そうかぁ……そうか? ……そう、かぁ……」


 王女と側室を迎える事が決まっちゃったな……まぁ嫁同士が仲良くなれる感じの性格の合う人達をお見合いで探すかね……。


「ヘレンがそう言ってくれて嬉しいわ! また一緒にこっそり調理室でつまみ食いとか出来るわね!」

「はい王女殿下! でもリオンは美味しい物一杯作ってくれるから、最近はたまにしかつまみぐいはしないんですけどね、あはは」


 ……侍女に向いていないと言われていたヘレンだが、王女とは馬が合う感じだったのかもしれない、というか王女が王宮で何してんねん……。


 そしてヘレンには一杯食べさせているだろう? 未だにつまみ食いしてるの? 俺に気付かせないとか隠密行動の精度上がってるじゃんか……。


 ったく……うちの嫁はしょうがねーなぁ……今度つまみ食い用に何か準備しておくかね、妙な物食われても困るしな。


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