第56話 大図書館

 静寂に包まれている部屋、その中でペラッペラッと静かに紙が擦れる音だけが響いている。


 魔道具のみの明りの下で一人の少女が一冊の本のページを捲って読んでいる。


 ここはトロアナ王国の王宮にある大図書館、近隣諸国でも有数の蔵書数を誇っている場所だ。


 少女が読んでいる本の内容を見てみよう。


 ◇◇◇


 私はここに一人の英雄とも、そして一人の大馬鹿者とも言うべき人物を記する事にする。


 彼の存在が正式に認められているのは神歴1338年1月の事だ、彼は真っ裸で街を歩き回るという軽犯罪を起こし書類奴隷とされたらしい、名前はリオン。


 そしてリオンは開拓奴隷として働かされた、リオンの働きを知る当時の役人が言うには彼は人の3倍以上の速さで開拓を進め、さらに魔物が現れると即座にそれを討伐したとある、まだ15歳のリオンだが、その運動能力の才能はすでに突出していたと思われる。


 その開拓地でリオンは生涯の主人、もしくは友とも言うべき人と出会った、それがトロアナ王国の公爵であるクランク公爵だ、その当時はまだ王弟であって公爵では無かった……王国の国力が弱く王に権力を集中するべく結婚もせず研究者として兄を助けるという素晴らしい叔父上だ。


 クランク叔父上が開拓地の調査に赴いた時に、リオンを見出した事はこのトロアナ王国に取って非常に喜ばしい出来事であった、クランク叔父上グッジョブだ。


 そしてクランク叔父上が在籍していた研究所の下働きになったリオンはその才能を即座に表す。


 何を? それはトロアナ王国の国民なら誰もが知る事だろう、そう、醤油を世に出したのだ。


 始めはクランク叔父上が過去の本の知識から作り上げたという話だったのだが……叔父上が死ぬ前に全て暴露をした為にリオンの所業が全て明らかになった、お陰で叔父上の葬儀の時にリオンが泣きながら、約束を破った事を殴ってやるから生き返れとアホな事を言っていたっけか……。


 つまりリオンは今日のトロアナ王国を支える様々な、醤油は元より各種調味料、そして魔道具の数々やガラスや鏡や陶芸やら何やら色々と叔父上の下働きでは無く、共同で開発をしたらしい。


 リオンはそれらを使い様々な美味しい料理を世に出した、おかげでトロアナ王国は美食の国等と呼ばれ観光客が数多く訪れると共に調味料の外国への売り上げが上がり続ける事に。


 生活に便利な魔道具も数多く売れ、中でも燃料魔石のいらない新型の魔道具は世界に衝撃を与えたと言っても良い、魔力の多い者しか使いこなせないが、そもそも高い魔道具を買うのは貴族達なのだから……そりゃもう儲かりまくった。


 当時弱体化した国を如何にかしようと開拓宣言を出していたトロアナ王国は、あのままでは国力を落とし続けて周辺国家から侵略を受けていたかもしれない、それがリオンのおかげで外貨を稼ぎ国として力を得たおかげで……何故か当時よりも広い領土を持つ国になっている、それもリオンがやった事だ……だがその話は一旦置いておこう。


 食の伝道師と呼ばれたリオン、毎年冬に王都で行われる麺料理大会で25連覇というアホな記録を打ち出したりしている、あいつは優勝した時のレシピを周りに伝えてまかせ、次の年にはまた新たなレシピで優勝をするという事を繰り返していた。


 そして数々の事件をも起こしている、一番古い記録が、『王宮うな丼事件』だ、他に有名なのが『王宮ラーメン事件』『焼きそば裁判』『すき焼き刃傷沙汰』『唐揚げ事件』『チョコドーナッツ事件』『バニラアイス大騒動』『カステラ3本事件』『キャラメル大行列事件』『寿司ネタ決闘事件』等か……。


 多すぎて正直全てを書いていたらそれだけで一冊の本が出来てしまう……それらのリオンが原因の事件や騒動は別の作者がまとめた本があるのでそちらを読むのがいいだろう。



 食の伝道師の呼び名に相応しく、飯に関係した事件が多いが……他の二つ名もリオンは持っていた、それが……『ハレーム王』や『夜の伝道師』や『一家族軍隊』や『一騎当千』とかになる。


 まず『ハーレム王』だが彼の最終的な嫁は正妻なトロアナ王国王女のパトリシアと男爵令嬢ヘレンが筆頭で、それ以下の側室が8人、さらに愛人が30人を超えていた、王国の法律で嫁に出来る人数が王様でも10人前後までなので愛人となっているが、実質は40人以上の嫁が居たわけだ。


 あいつ途中から開き直ってたからな、俺の嫁も増やせばとか度々言いやがって! リオンのおかげで俺には嫁が5人も居るんだよ! しかも全員が私より年上ってどういう事なのだ!?


 っとしまった、落ち着いて書かないとな……。


 そんな訳でリオンには嫁も子供も一杯居たのだが……あいつの魔力の異常さは最初から貴族達に知られていたのだが……子供達がみんなやばかった、半分以上の子供が魔力の壁を超えていて、しかも数々の有用な能力を祝福で得たんだ。


 ヘレンとの子がその中でもやばかった……〈身体強化〉と戦闘系能力を持って尚且つ魔力の壁を破っている……そんな子供がヘレンとの間に5人も居るんだ……。


 これらをもって『一家族軍隊』の二つ名になる、『夜の伝道師』の方はわざわざ書かなくてもいいだろ?


 そして先程の国土が数倍になった話だ……。


 神歴1365年6月の事だ、国力を増していく我が国を恐れたのか数々の研究結果を発表していた叔父上に暗殺者が放たれた……そして……。


 叔父上は遺言でリオンの優秀さを暴露した、だがそんな事は周りはもう知っていたし、リオンの素晴らしさに変わりは無いからどうでも良い事だと叔父上の死を皆で悲しんでいたんだが、俺達はリオンの才能をまだ理解してなかったんだ……。


 リオンはその当時、自国の調味料を宣伝をする部署のトップも兼任していたんだが……実はそこは国の暗部と情報収集を兼ねた部隊の表の顔だと後で教えて貰った。


 豊富な予算を背景にそういった情報網をいつのまにか諸外国まで広めていたんだよリオンは、平和な時だったからこそ、そういう物が必要だと言っていたな……。


 そして叔父上の死に静かに怒っていたリオンはそれを為した相手を特定したらしい。


 相手は国のトップ、つまり隣国の王が命じた物だった、リオンがしばらく出張だと言っていない間にその国の主要な人物は、その国の国王主催のシカ狩りで王共々流れ矢によって次々と亡くなったそうだ……狩り中の事故により亡くなるとは本当に本当に痛ましい事だな。


 そうして主要な貴族が消えた事で内乱の起きた隣国の残された幼い王族が我が国に助けを求めに来たので……国ごと全てを併合した、そうなるとさらに他の隣国達が我が国を恐れ……共同で宣戦布告をしてくる、そうなった時に自分の子供達を引き連れて戦場で無双をしたのがリオンだ……。


 美味しいご飯を皆に食べさせてニコニコと笑顔で民達の幸せを願う、そんなリオンしか知らなかった私だが……戦場でのあいつが内心で泣きながら非情になっていた事くらいは判る、徹底的に戦場で相手を叩く事で余計な犠牲が出ない様にしたのだろう……。


 『一騎当千』との二つ名だが決して一人で戦った訳ではなく、味方を十全に使い、かつ自身の能力を有効に使う、一人では軍隊に勝てない事をリオンは知っているのだろう。


 その二つ名はリオンという一人の存在が個の戦闘力で無く、軍隊として千の兵隊を増やす事に相当するという意味で名付けられた物だ。


 リオンの子供達は、ヘレンの実家である武門の名家、バニスター家の者達と共に戦場を駆け抜けた、その圧倒的な強さが知れ渡ると戦争を仕掛けてくる国も無くなった……そう……文字通り国の名前と共に消えて無くなったのだ……そうして。


 トロアナ王国の国土は膨れ上がった。


 そうしていくつかの国との戦争があり、最後に宣戦布告をしてきた隣国のミレオン王国を併合してやっと戦争の連鎖が終わった、その時私は40代でリオンは50代だった、十数年も戦争を繰り返していた事になる……。


 戦後のリオンの働きがまたすごくて、旧ミレオン王国の領土から活版印刷と植物紙の製造技術を得ると様々な国の知識を一旦大図書館へと集積し、そして有用な知識や情報を印刷により惜しみなく各地に配った。


 特に、元隣国の『下町の聖女レオーネ』と呼ばれた女性が子供達への教えとして語っていた話を元にした道徳の本は大量に印刷して配った、物語として面白いからと読んだ平民が道徳を知る……リオンは戦いよりこういった事をやっているのが似合っている……。


 そしてあいつは新たに増えた領土の各地を巡り盗賊を狩り、土地を復興させ……そして死んだ……。


 だから大馬鹿なんだ……過去に占領した土地の民に恨まれているのが判っていて救いに行くのだから……残された家族をどうするんだ……大馬鹿者が! お前は英雄等では無い大馬鹿者だ!



 神歴1380年4月、リオンは旧ミレオン王国の領土であった場所で子供を使った暗殺者の手にかかり死んだ……。


 この本は、そんなリオン・ブレッドという英雄であり大馬鹿者であり、そして私の友であった者の話だ、彼の事が気になったなら他にも様々な本が出て居るので読んであげてくれ……。



 神歴1382年 トロアナ王国国王、エドワード一世がここに記す。

 


◇◇◇


……。


……。



パタンっ、少女は本を閉じて溜息をついた。












 リザルト

〈財布〉×7〈水生成〉〈光生成〉〈精神耐性〉〈槍術〉〈格闘術〉×2

〈演奏術〉〈弓魔術〉〈夜目〉〈歌唱術〉〈遠目〉〈醸造〉〈調理〉

〈魔力+15〉〈体力+3〉〈腕力+4〉〈脚力+3〉〈器用+3〉〈精神+4〉


 称号〈下町の聖女〉 効果 治癒魔法効果+1

 称号〈酒場の歌姫〉 効果 歌唱+1

 称号〈平民の星〉 効果 指揮下民兵士気+1 平民好感度+1

 称号〈不羈の吟遊詩人〉 効果 歌唱+1 演奏+1 カリスマ+1

 称号〈食の伝道師〉 効果 調理+1 カリスマ+1

 称号〈ハーレム王〉 効果 精力+1 性技+1 異性友好度+1

 称号〈夜の伝道師〉 効果 精力+1 性技+1

 称号〈一騎当千〉 効果 敵に恐怖+1 敵に混乱+1 味方に鼓舞+1

 悪名〈血海を作る者〉 効果 味方に恐怖+1 敵に恐怖+3




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