第51話 幸せのお好み焼き

「リオンおかわり!」


「はいはいどうぞ~」


 俺は焼きあがったお好み焼きをヘレンの皿に直接置いてあげる。


 さてお好み焼きはフライパン3個を使って時差で焼きあがる様にしている、だいたい一枚焼くのに10分ちょいくらい? なので数分で一枚が出来る訳だ、おっとこのフライパンのは丁度良い焼き加減だな、俺はお好み焼きを新たな皿に移そ――


「リオンおかわり!」


「はいはいどうぞ~」


 俺は美味しそうに焼きあがったお好み焼きをヘレンの空いた皿に直接置いてあげる、うんうん、良い笑顔だなヘレン、可愛いぞ。


「ちょっと待てリオン、何故私達にその料理が回ってこないのだ!」

「そうだよリオン君、僕、お腹減ったんだけども……」

「そうですリオン様、次は私の番では?」


 ここはいつもの研究室だ、研究室なのに俺専用の台所魔道具が設置されているのでそこで調理をしている、そして何故か侍女のメアリーさんが皆と一緒に普通にテーブルについていて主や公爵より先に食わせろと言ってきている、毒見? すでにヘレンが食べているんですけど……メアリーさんの毒見って量が多いんだよなぁ……。


「仲間外れが寂しいと言ったヘレンを研究所の試食会に誘ってもいいかと聞いたら許可をくれたのは貴方達ですよ?」


 そう言って俺はさらに焼きあがったお好み焼きを……すでに空いていたヘレンの皿に直接置いてあげる、熱いから気をつけて食べるんだぞ? ついでに今回の試食はマヨネーズと中濃ソースの試食だから、ちゃんとかけて食べてな、うんうん、素直なヘレンは可愛いな、次焼くからまっててな。



「それは確かに許可したけれど……パーティやなんかではあれでも手加減していたのだねヘレン君は……」

「感心している場合ですか叔父上! このままではせっかくリオンが作り上げた新たな調味料が無くなってしまいますよ! リオンの嫁は遠慮なくたっぷりかけまくってて良い匂いだけさせるとか鬼畜リオンの嫁に相応しいとしか言い様が――」


「あれ? 今うちの可愛い嫁の悪口が聞こえてきたのは気のせいですか? はい焼きあがったよー、ヘレンが全部食べていいからな~どうぞ~」

「ありがとーリオン、愛してるよー、チュッ!」

 ヘレンが俺に投げキッスをしてきたので、俺も愛してるよー、と投げキッスを返しておくチュッ!


 俺は新たなお好み焼きを空いていたヘレンの皿に置いてあげる。


「ちょ! 僕は何も言ってないよ! 言ったのはエドワードだから! リオン君のお嫁さんは嬉しそうに食べて居る姿がチャーミングだよね? こんな可愛いお嫁さんと結婚出来てリオン君は幸せだなー羨ましいなー」


 ふむ……取り敢えず、焼きあがったお好み焼きを半分にしてヘレンの空いている皿に片方を置く。


 そしてもう半分を新しい皿に載せて、ソースとマヨを格子状に綺麗にかけてクランク博士の前に置く、ご賞味あれ。


 博士はガッツポーズをしてから早速とばかりに食べ始めた。


「リオン様の奥方は内政官の間でも働き物だと評判なのです、侍女には向いてなかっただけで優秀で、しかも好きな男性相手にはこんなにも可愛い方だったのですね、周りの男共が見る目がなくて良かったですね? リオン様」


 ふむ……新たに焼きあがったお好み焼きを半分にしてヘレンの空いている皿に置く、そしてもう片方を新たな皿に載せてソースとマヨをかけてメアリーさんの前に置く、この調味料達は自信作ですよ?


 メアリーさんは綺麗な礼を見せてくれつつ即座に食べ始める。


「なぜ私よりメアリーが先に! ……えーとえーと……リオンの嫁は有名だよな! 様々な機密案件で少数精鋭での荷物運びが捗ると内政官達も喜んでいたな! 男だったら出世も思いのままのオーガ嫁だと褒めていたぞ!」


 ふむ……俺は新たに焼きあがったお好み焼きを新たな皿に盛りつけてソースとマヨネーズを綺麗に格子状にかけ、さらにまだ作成した量が少なかったのでお披露目する気のなかった干し魚の削り節をパラパラっとかけて……愛する嫁であるヘレンの前に出してあげる、その皿はずっと使ってたしな、新しい綺麗な皿と交換だ。


「ありがとーリオン!」

 うんうん、うちの嫁は笑顔が可愛いなぁ、頬にソースついてるぞ、拭ってあげよう。


「なぜだー--!!!!」


 何処かの王子が叫んでいるが知らん、はいはい、まだまだ焼いていきますよー。


「馬鹿だねぇエドワードは……モグモグ……二つのソースが交じり合った部分がすごい美味しいね……これはまた内政官達が狂喜乱舞する様が見えるようだよ……お代わりいいかなリオン君?」


 博士の要求にヘレンと半分づつお好み焼きのお代わりを置いてあげる。


「エドワード様のそんな所が可愛いのですよ、モグモグ……ああ……わたくしここに来る様になって体重が少しだけ増えてしまったんです、リオン様には責任を取って頂きませんと、そんな訳で以前に作ったチョコクッキーを再度お願いします」


 それならメアリーさんはお代わりいらないの? と聞いたらお皿をグイッっと目の前に出されたので焼きあがったお好み焼きを一枚そのまま置いてあげた。


「ああしまった! 半分にして王子とメアリーさんの分で分けようと思った物をそのままメアリーさんのお皿に全部載せてしまった! 失敗シタナァ」


 と、軽いお芝居をしてから焼き作業に戻る俺。


「おおリオン、私も食べていいのだな!? なら新しい皿をくれ! メアリーそれの半分を私の皿に……、おいリオン? 皿をくれと言っているのだが……おい、無視をするな!」


 うるさいなぁ。


「申し訳ありませんエドワード王子、さきほど新しいお皿をヘレンに使ってしまってもう綺麗なお皿が無いんですよ、仕方ないのでメアリーさんに食べさせて貰って下さい」


 そう言い切ると俺はすぐ焼き作業に戻って王子を無視した。


「さすがですリオン様! さぁ王子、お皿が無いなら仕方ありません、私が食べさせてあげますねー」

「い、いやメアリーよ、お前の皿を私に貸してくれればだな」


「はい王子、あーんして下さ~い」

「いやだからメアリー」


「王子、あーんして~」

「皿をな…‥」


「はい王子、あーん」

「……」


「王子、あ~~ん」

「……ぱくっ……モグモグ……美味い……」


 片方だけが楽しいイチャイチャが始まったので、あの二人は放置する。


「それでヘレンにクランク博士、味はどうです? 売れそうですかね」


 浄化能力持ちが必須なマヨネーズだからちょいとお高くなりそうなんだけども、感想やいかに?


「最高だねリオン! おかわりいいかな?」

「浄化能力必須なんだよねぇ? ……教会が力を持ちそうで嫌だなぁ……」


「あ、それは大丈夫です、〈光魔法〉とか〈聖魔法〉のじゃなくても〈水魔法〉や〈火魔法〉のやつでもいけるのは確認してますから」


 教会が血眼になって集める人材は回復とか光や聖能力持ちだしな、浄化能力でいうと光や聖の方が強いんだが、そんなに強力なのはいらんから他の属性魔法のでもいけるんだよな。


「ああ、それなら安心だね、これは……売れるよ! ただし、まよねーず? の方は日持ちが悪いんだよね? レシピの販売だとあっという間に模造品が出回りそうだし……」


 そうなんだよなぁ……うーん。


「じゃまぁ中濃ソースは普通に流通させて、マヨネーズは王都だけで少量づつ販売にして付加価値をつけちゃいましょうか、レシピは厳重に秘密にして」


 そのうち冷蔵庫的な魔道具も普及させないとな……。


「リオンおかわりー」

 はいはいどうぞー。


「それがいいかもね、しかし美味しいねこのマヨネーズって奴は……これは、もしかしてカラアゲに付けても美味しいのでは?」


 博士がマヨラーの考えそうな事を言い始めた……。


 今はまだマヨラーには成らないでくれ……だってまだそんなにマヨネーズ作ってないんだもの。


「マヨネーズを量産するのに専用の魔道具が欲しいのですけど……」


「了解だよリオン君! 後で一緒に設計をしよう!」


 博士は本当に新しい何かを作るのが好きだよね、だけども、魔道具の設計図と試作品を作ると量産は他の人に丸投げして自分ではまったくやらなくなるんだけどね。


「リオンおかわりー」

 はいはいどうぞー。


 ふふ……ヘレンも一杯食べて満足していそうだな、このまま食欲が満たされれば夜もグッスリと寝てくれるだろう。


 これこそが俺の真の目的! つまり【ヘレンの食欲を満たして夜の休日ゲット大作戦】だ!


「リオンおかわりー」

 ふふふふふ、たんと食べるがいいさ、どーぞー。


「もぐもぐ……本当に本当ー-に美味しいよリオン! ……仲間外れにせずに私も誘ってくれてありがとうね……このお礼は今日の夜に一杯いー-っぱい返すからね! 楽しみにしててね? ってやだ私ったら皆さんが居る前で、あはは……リオンおかわりー」


 え……? いや……? は……? 聞き違……い? いやそんな……俺の作戦が……。


 俺はお好み焼きを焼くのも忘れて項垂れて床に四つん這いになるのであった……俺の……夜の……夜の休日が……。



「あーんもぐもぐ……なんでリオンは項垂れて床に伏せっているのだ? もぐもぐ、これは本当に美味いなメアリー」

「お口にソースがついてますよ王子、私が拭ってあげますねフキフキ……あれリオン様? 本当ですね、何があったんですか? クランク様」


「確か彼の故郷のことわざで……策士策に溺れる、だったかなぁ?」


 相変わらず博士の勘はすごいな……なんで俺の作戦が判るんだよ……。


「リオンおかわりまだー?」


 項垂れた俺の耳に博士や王子の言葉と共に、ヘレンのお代わりの催促が響くのであった……。



 いや項垂れている場合じゃねーや! 俺も食べて夜に向けて体力つけておかないと! さーて一杯焼くぞー!

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