第49話 勘の良い人は苦手だ

「矢にホーミング魔力を付与」


 弓を構え矢に魔力を付与していく俺。


「矢に貫通魔力を付与」


 二つの属性魔力を付与した矢は光輝き、そこから細かい光がハラハラと零れ落ちる。


 発射っ!


 俺が放った矢は狙いたがわず魔物の首を捕らえ、そこを貫通していく。


「おーすごいすごい」

 パチパチと俺の後ろで拍手をするクランク博士。


 気が散るから止めて欲しい……、残心と共に周囲の気配を探る。


「麓の村で待っててくれたらよかったのに、俺一人で狩れますよ?」


 周囲に魔物の気配を感じなかったので会話をしながら獲物の元へと二人で歩いていく。


「いやほら、リオン君がどんな風に狩るのかなーと思ってね、槍だとホワイトタイガーは危険だろう?」


 確かに俺よりでかい虎型の魔物にわざわざ近づいて倒したいとは思わないね、一応短槍は持ってきているけど今の所出番は無い。


「正直な話を言うと足手まといを連れて狩場に来たくは無いんですよね……」


「ひど! これでも僕は〈魔道〉持ちなんだよ?」


「知ってます、それで? 魔物相手でも人相手でもいいから実戦はした事あるんですか?」


「……もっぱら魔道具を作る時にしか使ってないね!」


 でしょうね。


「はぁ……まぁ解体しちゃいますね」


 完全に息絶えたホワイトタイガーなんて呼ばれる魔物の解体をしていく俺、あ、博士、そこの木にぶら下げるんで〈魔道〉でちょっと浮かせて下さい……おーすっごい楽だし便利ですねその能力。


「……なんだか馬鹿にされている気がする」


 気のせいですよ、ここまででかい魔物だと解体も大変なんですってば。


「ふんふんふーん、内蔵も使うんですっけか?」


「心臓だけお願い、後はいらないや」


 俺は言われた通りの素材をはぎ取ったり瓶に入れたりと忙しい。


 暇なクランク博士は近くの大きな石の上に座りながら。


「さっきの弓はすごかったよねー、まるで絵本に出てくる隣国の英雄レオンみたいだね」


 ふぉ! え? あの競技会はもう50年以上前の出来事だし隣の国の事だからどうせ知らんと思ってたんだが……。


「え、絵本ですか?」


「うんそう、隣国の前女王陛下が夫であるレオン殿を称える為に国内どころか周辺国にも配った絵本があるんだよ『英雄レオンは光り輝く百発百中の矢を放ち、民を守り王女を守り獅子奮迅の働きでスタンピードを退けたってね』僕もワクワクしながら読んだものだよ」


 何を配ってんだよあの王女! いや配った時は女王か。


「はーそんな本があるんですね、今度大図書館で探してみます、ただまぁ〈弓魔術〉なんてそれほど珍しくないのでは?」


「まぁそうなんだけど、英雄レオンは魔力の壁を破っていたらしいからねぇ」


 クランク博士の言う魔力の壁というのは魔力回復速度が劇的に上がる事だ、一定以上の魔力で回復にボーナスがかかるという予想を俺はしているんだが、その現象が魔力の壁と言われているんじゃないかと思って居る、貴族の中でもそれを超えているのは一割いるかどうかって所だ。


 俺もその魔力の壁を破っているのは醤油作りの修羅場の時にバレているからなぁ……。


「へーソウナンデスカー」


「ねぇリオン君、僕、このあいだ食べたチョコドーナッツってのがまた食べたいなー」


「いや……あれはチョコを用意するのがめっちゃ面倒で……」


 チョコの原料が薬としてしか出回ってないし状態が悪かったりするからな。


「そっかぁ……僕は悲しみのあまりにリオン君と英雄レオンがすっごい似ている事をポロッっと何処かで話してしまうかもなー」


「作ります! 頑張って一杯作りますから!」


 くそ! 普通こんな事に気付くか? 俺の前世も異世界の話しかしてないのによ……、侮れない人だよなまったく。


「ありがとうリオン君」

 ニッコリと笑顔でそう言って来るクランク博士だった。


 解体も終わり、予定通りの素材も手に入れたんだが。


「……もう、出し惜しみする事はないか……」


「ん? どしたのリオン君、そろそろ帰ろうよ」


「いえ、能力を十全に使ってみせても大丈夫そうなので、今日は野営をしつつ貴重な素材を集めます」


「え!? いやいや、帰って村長の家のお布団で寝ようよ! だって野営用のテントとか持ってきてないよね? どうやって寝るの……かな?」


「勿論地べたにですけど?」


 何を当たり前の事を聞くんだこの人は。


「いやぁ……さすがにそれは……ねぇ? ほら僕は王族だし」


「王族は僻地の狩りについてきたりしません、ちなみに俺は帰りませんから、博士は一人でここから村まで帰れますか?」


「ちょ! さっき脅したのは謝るからさ! 帰ろう? ……ねーリオン君? なんで無視して移動を始めてるのかな? もしもーし」


 この地方の夜には希少価値の高い魔物が出る話を聞いた、これは狩らねばなるまい。


「待って居ろシャドウオウル!」


「待って! それって簡単には見つからない魔物だよねぇ! 一日野営するだけだよね? ね? ちょっと、リオンくー--ん!」



 ……。



 ……。



 ――



 ――



「それで叔父上はやつれているのだな、容赦ないなリオン……」


 エドワード王子が研究室のテーブルに俺が並べている各種素材を珍しそうに見ながらそう言ってきた。


「いやぁ、あの森は素晴らしいですね、希少な魔物がわんさかいて、ついつい四日程滞在してしまいました」


「四日って……当初は日帰り予定だったのだろう? 食料とかはどうしたんだ?」


「そんなの現地調達に決まってますよ、塩は基本的に持っていきますからね、水は能力で出せますし、優秀な王族ポーターも居ましたので」


「……大変だったのだな叔父上……普段王城に居るような研究者をいきなり森の中で四日も自給自足で過ごさせるとか鬼畜だな、しかも荷物持ちに使うとか……」


 やつれた雰囲気をかもしだした博士が椅子にぐったりと座りながら。


「知っているかいエドワード、森ってね食料の宝庫だったんだよ、僕は食べられる植物を踏みつけながら歩いていたんだ……」


 博士には普通は不味いからあんま食わないような植物とか食わせたからなぁ……さすがにちょっとやりすぎたか。


「ほらほら博士、貴重な素材を好きに使っていいですから、まずは予定通りホワイトタイガーの氷属性魔石を使って例の奴作りましょ」


 俺のその言葉を聞いてガバッっと立ち上がるとテーブルに近づいてくる博士。


「あれ? リオン君ってばこんなに一杯素材集めていたの? いつのまに……」

 テーブル上の素材を見て目を輝かせる博士。


「三日目くらいで博士は死んだ目をしてましたもんね、何を収集しているのかを覚ええていられないくらい思考能力が落ちていたのかもですね」


「それに気付いていて四日目に突入しているお前が私は恐ろしいよ」

 エドワード王子が横から突っ込みを入れてくるが無視だ。


 素材を前にした博士は元気を取り戻し。

「この氷属性の魔石ならいけちゃうね! よーしそれでは新型冷風魔道具の作成をしていくよー!」

「おーー!」

「おー」


 博士の宣言に合いの手を入れる俺とエドワード王子。


 もうすぐ暑くなるからね、これは楽しみだ、中の物を魔道具で冷やす倉庫なんてのはもうあるからちょっとした応用で作れちゃうらしい、魔道具って高いし燃料魔石もいるしで自分がちょっと涼しくなる為とかに使う人はあんまり居なかったらしいんだけど、自分の魔力を籠める事で魔石を消費せずにしばらく稼働する物は作れませんか? と聞いたら博士がすっごく驚いていた。


 魔道具を作動させる燃料は魔石という固定観念に囚われていたらしい……。


 もしこれが上手くいったらだ、魔力が多めな貴族相手に色々売れる! 今までは魔石を消費する物が主流だったから、経費のかからない魔道具があったらそれを選ぶ人は確実にいるだろう。


 まぁ、魔力の低い平民相手には売れないだろうけども。



 醤油に続いて魔道具のアイデア代や売り上げがどっさり入って来る訳だな、台所関係の魔道具のアイデアも結構金になったからな。


 ふふり。



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