第46話 反響の結果

 ムクリッ、上半身を起こす、くそ、魔力が1時間ほどで全回復する自分が憎い!


 1時間ごとに起きて醤油を作る作業も二日を過ぎた……〈醸造〉持ちの子供が体調を崩して寝ているのでノルマが酷い事になっている……。


 作業をしているうちに段々とむかついて来たので内政官達には材料を自ら運ばせている、下働きは絶対に使わせない!


 たぶん俺が一番魔力が高い訳だが……これで色々ばれちゃうよなぁ……。


 もう何かを考えながら〈醸造〉を使う事にも慣れてきた、そうして次から次へと醤油を作り、魔力を使い切ったら仮眠をするという繰り返し、勿論作成された醤油の火入れとかも内政官達にやらせている。


 絶対に下働きとかは使わせない、手を抜いたら俺は帰ると言ってある。


 だって聞いてくれよ、あいつら馬鹿なんだよ! どうみても生産量に見合ってない量を受注してるんだもん、外交下手か? 諸外国の大使達に醤油を褒められまくって鼻高々で相手の要求を受けてしまったらしい……馬鹿じゃね?


 まぁ……売れた値段を見せて貰ったから喜ぶのは判るけどよ……。


 おやすみ。


 ……。


 ……。



 ムクリッ、上半身を起こして用意された材料の元へ向かい醤油を作っていく、おうこらお前ら休んでるんじゃねーよ! さっさと材料運べ! お前らが貴族であろうと馬鹿である事は間違ってないからな、俺は絶対に敬ったりしねぇ!



 俺は1時間くらいで魔力が全回復するのにメイラード家の二人は全回復まで5時間くらいかかるらしいんだよな……このあたりの祝福や魔力の検証をした書物とかも大図書館で探してぇんだよな。


 メイラード家の二人には火入れの作業とか諸々も自分達でやらせている、それを他の人にまかせる事を覚えるのは良くないだろうからだ。


 醤油作りの中核になる家の人間が各種作業の熟練度が低いなんて許せないからな、決して、そう決して諸々を他の人に手伝わせたら数時間眠れちゃう事になる彼らに嫉妬をしている訳じゃない!


 俺が1時間ごとにがっつり醤油を作れるのを知って内政官共もメイラード家の二人も大喜び、だけどこれ終わったらもう手伝わないからね?


 おやすみ。


 ……。


 ……。


 ムクリッ、上半身を起こして醤油を作っていく、ついでに床で寝てた貴族な内政官を蹴っ飛ばして起こす。


 こいつらには同じ無茶をしないように徹底的に働かせる、お偉い貴族様? 知りません。



 ……。


 ……。



 ムクリッ、上半身を起こす俺。


「あ、リオンおはよう~、食堂からご飯貰って運んできたから食べてね」


 ヘレンが作業場の隅に置いた俺のベッド代わりのソファーの端っこに座っていた。


 まともに眠れていない俺にはヘレンの笑顔が眩しい、なぜかすごい美人に見えてしまうのはやっぱり寝不足のせいだろうか。


「なんだろう? リオンにすごく馬鹿にされているような気が?」


 気のせいだ。


 食堂から運んだというパンとスープを胃に流し込む。


 なんでパンが食べかけで半分になっていたのかとか気にしない。


「ご飯ありがとうヘレン、材料運びとかも手伝ってくれたんだろう? 奴らの十倍以上働いているって聞いているよ」


 一応国家事業で製造方法は秘密だからね、かかわる人間は最低限なんだ、下働きも〈奴隷術〉で縛られている人らだったしな、細っこい内政官に比べてヘレンはものすごい力持ちなので材料の半分以上を彼女が運んで居るらしい。


 うちの将来の嫁は本当に頼りになるなぁ……。


「働いてこんなに感謝されるの初めてだから嬉しいんだ、リオンの為にも私頑張って運ぶからね!」


 寝不足の俺にはその笑顔がすごい眩しい、まるで太陽の様だ……。


「ヘレンは最高に可愛いな、さて仕事っと」


 醤油を作る作業を始める。



「え? リオン今なんて? ねぇ今なんて言った!? 私の事そんな風に言うの初めてじゃ? ねぇってばー-」


 ヘレンさん俺の肩を掴んで揺らさないで下さい、寝不足で辛いんです、仕事に戻ってくれ。


 グラグラと俺を揺らしてくるヘレンがうっとうしくなってきたので黙らせる事にした。


 作業を一旦切りの良い所で止めるとヘレンの方を見て。


「仕事を頑張るヘレンは最高に可愛くて気立ても良くて美人だ、こんな美人が嫁になるなんて俺は幸せだよ」


 そう言いながら頬にチュッっとキスをしてから仕事に戻った。


「ひぁ! ……チュッって……今私に可愛いって言いながらチュッってしたよね? ……私、仕事頑張るね!」


 ヘレンがすごい勢いで作業場から出て行った。


 おいこらそこの内政官、誰が女たらしだ、本当の事を言っただけだろ!? いいからお前もこっち見てないで働けよ。



 ……。


 ……。


 ――


 ――




 んぁぁぁ……よく寝たよなぁ20時間以上は眠れて今はスッキリだ、結局1時間ごとに起きて醤油を作る作業を4日程ぶっ通しでやる事になったよ。


 醤油の在庫も十分、諸外国の大使達にも約束通りの醤油を届ける事が出来たらしい、今はそれらの仕事が終わった事を毎度の会議の報告会で博士と一緒に聞いている所だ。


「という訳で今回の事は何とかなりそうだ……以上で報告を終わりますがリオン殿よろしいでしょうか?」


 何故か内政官での偉い人が報告が終わった後に俺にお伺いをたてて来る。


 なんだ?


「えっと、何故俺に聞くんです?」


 意味が判らないのでそう聞いてみるのだが、内政官さん達は戸惑って何も言わない。


 そんな時に横の博士が。


「いやリオン君さ、醤油の製造の時にものすごい勢いで彼らを蹴っ飛ばしたり怒鳴ったりして働かせてたよね? 最初の頃にリオン君を止めようとした兵士も軽々と制圧してたでしょ? みんな君の事怖がっちゃってるんだよ、僕も様子を見にいった時に君の豹変ぶりに驚いたからね?」


 んー? そんな事あったっけか?


「あーすいません、ちょっと良く覚えてないですね、寝不足でずっと働かせられたせいかちょっと気が立ってたのかもしれないです、ご迷惑おかけしました、次はもっと普通に働けるスケジュールでお願いしますね」


 俺は内政官さん達へと頭を下げる、ちょっと厳しめに対応したけど蹴ったり怒鳴ったりしたっけかなぁ? うーん途中から眠すぎてよく覚えてないんだよな。


「いや! もう二度と! そう、二度とリオン殿のお手を煩わせる事が無いようにしますので! お構いなく! 大図書館の件は殿下と共に話を進めてますのでもうしばしお待ち下さい」


 内政官の一番偉い人が何故か丁寧語で俺にそう言ってくる、周りの人らもコクコクと素早く頷いているね。


 ……お手伝いがいらないってんならいいんだけどね、後でヘレンにでも俺の様子がどうだったか聞くか。


「そうですか? それなあまぁそれでも……そういや対お馬鹿貴族の対策ってどうするんです?」


 会議を終えてそそくさと帰って行く内政官さん達を尻目に博士に質問をぶつける。


「ああうん、いま兄上に許可を貰っている所だから、今回の件もあるしたぶん大丈夫だと思うよ」


 兄上って王様じゃんか! ひぇー俺が頑張って醤油を作って国家の面目を守ったからご褒美に何かしてくれるって事か? 王様の許可証とかくれるのかな? もしそうならありがたいね。


 ……。


 ……。


 ――


 ――


「この子がエドワードだ、そういう事でよろしくねリオン君」


 博士が俺に一人の子供を紹介してくる、10歳の男の子だ……。


「いやクランク様、俺は平民ですよ? これは……」


「叔父上の頼みだから聞くが私の邪魔をするなよ」

 そう言って大図書館の閲覧席へと歩いていく男の子、その後ろには侍女が付いている。


 俺は残された博士と会話をする。


「確かに王子様と一緒に居れば馬鹿な貴族は来ないかもですが、別な意味で妬みの対象になりませんかこれ」


 大図書館での件をまかせておけと言った博士の答えがこれだ、エドワード第二王子が図書館を利用している時に近くに居れば良いという話らしい……勘弁してよまじで……。


「大丈夫だよ、あの子はちょっと特殊でね、王位継承権とかにこれっぽっちも興味が無くてずっと図書館に籠っているんだよ、おかげでうちは王太子を巡った兄弟同士の権力争いなんてのが無いから良かったよね、僕と兄さんが若かった頃は危なかったしね、勿論周りの貴族が勝手に画策しようとしていたという意味でね」


 いやそんな話をされても……なにそれすごい面白そうな話だな! 過去の話は今度聞こう。



 いつも図書館にいるなら有難い話か、俺は大図書館の入館と閲覧の許可書類を受け取りワクワクと中に入って行く、まずは何から調べようかなー。



 司書さんに書籍の分類の仕方なんかを聞いて、まずは祝福についての論文なり研究なりの本を探していく。


 ……。


 どさりと王子の側の席に本を運びそれらを確認していく。


 ふむふむ……



 んん?



 んー?



 ゴミかな?



 基本的にさぁ、羊皮紙の本なんて知識層が書く訳で、お貴族とか教会の人間が多いみたいなんだよね、それで能力の話になるとね……。


 貴族は選ばれた人種だから強いのだ、とか。


 教会関係の本はもっと酷くて、信仰心が強く教会に奉仕する人間ほど優れた能力を得る、とか。


 いやね、能力の検証とか統計をとったりした研究書を読みたかったんだけどな、こんな自意識過剰な本読まされてもなぁ。


 てかこんなゴミを複写して各国に売って儲けてたの?


 俺がムムムーンと過去のこの国の政策に疑問を持っていると。


「うるさいな、何を唸っているのだ」

 王子様が読んでいた本から顔をあげて俺に話し掛けてきた、図書館で煩くしたら駄目だよね、ごめんなさい。


 俺はカクカクシカジカと説明をする。


「そんな本を売る訳ないだろ、動植物の研究やら、大陸にある様々な国家の歴史や様々な文化風習を纏めた物、それと魔物の研究物なんかが人気あったらしいぞ、後は昔居た国をまたぐ大商人が書いたといわれる貿易で儲かるルートの本とかも売れまくったそうだな、後追いで真似しても意味ないだろうにな」


 俺にそう説明をくれると王子様はまた本に目線を落として口を閉ざした。


 意外と優しいねこの子。


 俺は能力の本は諦めて王子様が言っていた過去に諸外国に売ったであろう本を司書さんに聞いて集めてくる、売れたって事はそれが常識として世間に流れている可能性高いからね。



 ふむふむ……。



 んん?



 んー?



 むーん、ゴミかな?



 駄目だこれ……歴史は本によって内容が違うし……風習も本当かどうか怪しいのが混じっているし……。


 動植物の研究や魔物の奴は俺の過去の知識で得た物を超える情報が無かった……古い本だからね、もう世間に出回った情報しかないのかもしれない、昔なら価値があったのかもだけどね……。


 商人のはまぁまぁ色々な都市の特産とか乗ってたけど……これも情報が古そう……。


 日本の図書館の様な物を期待した俺が馬鹿だった、これはあれだ、個人の記録や日記が多い場所だ、検証とか実験とかも結果ありきでやっている感じで役にたたねぇのが多そう、博士が借りてきていた書物がだいぶマシだったのはちゃんと選んでいるからだったんだね……。


 はぁ……。



「今度は溜息か……なんだと言うのだお前は」


 あ、やべ王子様怒っちゃったかな?


 一応説明をしてみると。


「ふむ……情報をそのまま信用しないのか、さすがに叔父上が使う平民なだけはあるか……おい!」


 王子様が側にいた侍女を呼び何か伝えている。


 侍女さんは何処かへ行き何冊かの本を抱えて戻り、俺の前に積んでいく、なんぞ?


「ある程度ましな事が書いてある本を侍女に選ばせた、次からは司書にな本を紹介してくれと頼め」


 それだけ言って王子様はまた書物に目を落とす。


 俺は王子と侍女さんに頭を下げてから本を確認していく……。



 ほほーう。



 へー。



 なるほど?



 ふむふむ。



 ははーん?



 これは中々……。



 一冊目からかなりまともな感じで書かれていたので流し読みを止めてじっくり読んでしまった、残りの本はまた今度にしよう、タイトルだけ覚えておこうっと。


「戻りますね、大変参考になる本を選んでいただき、ありがとうございました」


 返事の無い王子様だったが、俺はきっちりと頭を下げて本を司書さんに戻してから帰る事にする。



 いやぁ……まさか選ばれた本の中に貴族流閨の作法が書かれている物があるとは!


 大変勉強になりました!


 けどあの侍女さんは俺をなんだと思って居るのだろうか? ありがた面白く読ませて貰ったけどさ!


 まさか貴族の若い男の子達が未亡人相手に練習をするとはなぁ……貴族ってすごいな。


 ヘレンもそういう勉強してるんだろか? ……脳筋バニスター家だとなさげ?







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