第33話 六曲目 寿ぎの歌

 ポロンッポロンッ。


 小さなハープを爪弾き、音楽のみを流していく私、音は小さめに抑えている。


 なぜなら?


 今私の見えている先でレジスタンスのアリア村長とエメリン・ド・ミレオン女王陛下が話し合いをしているからである。



 季節は秋、レジスタンスが拠点としている村の収穫祭の真っ最中……のはずなのだが会談のせいですごい静かだ。


 村広場の真ん中に設置された会談用の場所にはアリアと女王陛下のみが居て、その周囲にはレジスタンスがぐるっと囲んでいる、ちなみに王国側の兵士は一人も居なく女王陛下ただ一人だ、馬車や護衛の兵は村の外で待機している。


 まぁ一応儀礼用にも見える片手剣を女王陛下は装備してるけどな。


 お互いがある程度武装をしたままの会談な訳だが、戦闘になったら7:3で女王陛下が勝つだろうなーと思っている、だってレジスタンス達は飛び道具を準備してないんだもの、剣や槍で十分と思っているのかもね。


 ……甘いなぁ……てか女王陛下の強さの話ってあんまり噂でも聞かないよね、たぶん洩らさない様にしているだとは思うけど。


 エメリン女王陛下は〈弓魔術〉〈槍術〉〈格闘術〉を持ってたレオン卿より強いんだぜ?


 女王陛下が祝福で得た能力が〈回復魔法〉〈剣聖術〉〈奴隷術〉〈鼓舞〉〈財布〉〈身体強化〉の六つ。


 財布以外はどれもやべーんだが、特に〈剣聖術〉がやばい、これは特級とよばれる能力になる、レオン卿が持っている〈槍術〉が戦闘系能力と呼ばれ、〈弓魔術〉が上級戦闘系能力、そして〈剣聖術〉は特級とか呼ばれる……まぁ人間が勝手にカテゴリー分けしただけなんだが。


 過去に剣聖とか拳聖とか槍聖とか呼ばれた様なすごい武功を上げた人は大抵似た様な能力を持っていたっぽい。


 しかも〈身体強化〉で体力や腕力が全体的に押し上げられ〈回復魔法〉で自身を癒せる、そして魔力も貴族として高め、もうね一対一ならレオン卿だと勝てなかった知識が残っている、さすがに飛び道具有りとか乱戦になる戦場とかだと万が一があるけど……ここのレジスタンスは甘いからなぁ……汚い手とか使わなかったらまじで勝てないぞ。


 ポロンッポロンッ。


 小さく音を響かせて会談の様子を見てみる、まずはお互いの主張や知識のすり合わせをしている様だ、エメリン女王陛下の過去を知りアリアは愕然とし、そして自分の起こした侵略の余波によりアリアの家族や仲間が亡くなっている事に女王陛下の表情が曇る。


 穏健派貴族には侵略の手を伸ばさず王都を落としてから降伏勧告したみたいだしな、まぁその時には伯爵領はほぼ滅んでいたみたいだけど……どさくさで自身が王になろうとした馬鹿や気に食わない隣領を攻め滅ぼしてから降伏しようとした馬鹿とか王国軍の一部がそのまま盗賊になってしまう馬鹿達が居たみたいなんだよな。


 やるせない話だねぇ……どちらも謝る事はせずただお互いの事情を理解をして話を進めている……大人だね、二人共素晴らしい大人だ。


 フリックあたりの馬鹿は暴発すんじゃね? と思って彼を探してみると……周囲を囲っている人混みの中に見つけた……けどもその表情の中に怒りは無く悲しみだけがある……。


 君も大人になったねフリック……その隣に居る赤ん坊を抱いた幼馴染のおかげかもな。


 ……ブフッ! やばい笑いが吹き出しそうになってしまった。


 数か月前、私が話をつける為にこの村に来た時にはフリックと幼馴染は結婚をしていて幼馴染ちゃんのお腹は大きかったんだよね、生まれたのは一月ちょい前くらい? 


 逆算すると……幼馴染ちゃん頑張ったね、と彼女を褒めてあげたら素朴な顔に満面の笑みを浮かべていたっけか、うんうんすごく可愛い笑顔だった、夫婦の仲も良いみたいだし本当に良かった。


 おっと会談での話はほぼ付いた様だ……これでこの王国から元ミラー王国の残滓がほぼ消える事になったね……寂しい様な平和になる事が嬉しい様な、そんな複雑な表情をレジスタンスの面々が浮かべている。


 さてそろそろ収穫祭の祭を盛り上げ……あれ? なんか中央でアリアとエメリン女王陛下が揉めている?


 私はそこに近づいて行き。

「どうしたんですか二人共、もう話はついてアリアさん達がミレオン王国に仕えて女王陛下を側で監視していくという事になったんですよね?」


「そんな事はどうでもいいんだララ! この女は私のレオンパパより近衛騎士のレオン卿の方が良い男だとぬかしたんだ! 絶対に許さない、どう考えても私のパパの方が良い男だったに決まってるじゃないか!」

「そんな事はどうでもいいのよララ! この人は私の夫であるレオンより自分の父親のレオンの方が良い男だったって言い張るの! そんな訳なくない!? 名前が同じだからって絶対に私の夫の方がカッコイイし優しいし面白いし素敵だったんだから!」


「なにお! 素敵なのは私のレオンパパよ!」

「なによ! 素敵なのは絶対に私の夫のレオンです!」


 ……子供か? さっきまの会談での大人っぷりは何処いった。


 よし、無視しよう。


「どうでもいいよそんな事、さーて皆! 会談も良い方向に終わったし収穫祭を始めよう、ここに居るお馬鹿二人は放置していいよー!」


 私は周りに居る元レジスタンスの村民に大声で声を掛けるとアリアとエメリンの間のテーブルに乗り上げる様に座って陽気な歌を歌うのであった。


「「どうでも良いってどういう事よララ!」」


 一応主従の関係になったせいか仲良しだね君達、まぁ無視して歌うんだけどね。


 私の歌に釣られたのか村民たちがワイワイと騒ぎ始める、村の外に居た兵も武装解除をして入ってきた、村民の誰かが呼んだみたいだな、村民もすでに武器は外して何処ぞに仕舞ったみたいだった。


「ララ! パパはねすごい優しかったの、いつもいつも私の頭を撫でで褒めてくれて、そして頭も良かったのよ? 読み書き計算はパパに教わったんだもの、それにね――」

「ララ、レオンはね私をずっと守ってくれた優しい人なの、本当ならいつでも逃げる事が出来たはずなのに王宮でも我慢してずっと私の側に居てくれたの……まぁレオンが私に惚れていたからなんだけどね、キャッ! もうレオンったらもっと早く告白してくればいいのに! それでね――」



 テーブルに座りながら演奏をし陽気な歌を歌う私の左右から頭がお花畑になった二人が延々とレオンの良い所シリーズとかを話し掛けて来る。


 もうレオンという単語が多すぎてどっちのレオンだか判らなくなってるし、私の知識に無いような事も話している……そうか、こうやって事実は捏造されていくんだなぁ……。


 幸せな思い出は美化されやすいという事か……。


 私はそっとハープを掻き鳴らす音量を一段上げた。



 いや……レオンはそんな超人スーパーイケメンじゃないから……、ほんと知識としてだけでよかった、これが自分の記憶として実感出来る状態だったら恥ずか死ぬ所だったよ。


 ……。



 ……。



 ――



 ――




 ポロンッポロンッ、酒場で小さなハープの音を響かせ今日も私は歌を歌う。



 災禍によって荒廃した地の歌を。


 一人の英傑が災禍を鎮めた戦いの歌を。


 荒廃した大地に咲いた一輪の華の歌を。


 慈愛の雨により花畑へと変わっていく大地の歌を


 私は高らかにそれを歌い上げる。


 識者は気づくのだろう、この歌がこの国、ミレオン王国の歌だと。


 中には涙を流している人も居る、数年前に最後の穏健派レジスタンスが女王陛下に下った話はまだ記憶に新しい、女王陛下の使う〈奴隷術〉による奴隷もミラー王国の貴族をほぼ全て駆逐した事により徐々に減らされる事も宣言された。


 民は理解している、こののちは平和で豊かな時代がやってくるのだと。



 そうして私は王国中の民に、この歌を届けて回っている最中だ、それが終わったら別の国に渡ろうとも思って居る。


 ポロンッ……。


 私がミレオン王国の歌を歌い終わると、酒場の客やウエイトレスから万雷の拍手を浴び、チャリンチャリンと目の前のザルで硬貨がぶつかる気持ちのいい音が響く。


 やはり平和を感じた民のお財布の紐は緩くなるのだろう……ふふり。


 あ、ウエイトレスさん美味しいワインを一杯下さい、お代はザルから持ってってね……ふふ、もう最安値の定食を頼む日々では無いのだよ!



「なぁ美人な吟遊詩人さん、すごい良い歌だったよ……だけどちょっと暗い歌でもあるからさ次はもっと明るい奴にしてくれよ」

 そう言って商人っぽいおっちゃんが大銅貨をザルに投げ入れてきた。



「畏まりました、ではこの超絶美人吟遊詩人のララが皆様に幸せをお裾分けしましょう」


 私の声に応える様に酒場に居るお客やウレイトレスから拍手が鳴り響く。


 そして私は新たに作った曲を披露していく。


 それは。


 焼き尽くしと呼ばれた一人の魔法戦士の女性がこの国の騎士団長に見初められて結婚をする歌。



 そして元聖女と呼ばれた女性がこの国の大臣とラブラブなバカップルになる歌。



 どちらも恋の歌だ、この国の未来が明るいと思わせる良い歌が出来たと思う。



 ではでは。


 ポロンッポロンッ。



 お代は聞いてのお帰りで。











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