第32話 五曲目 お誕生日の歌
ポロンッポロンッ。
小さなハープで演奏をしていく私。
メインのBGMは演奏家達が流しているのでそれに邪魔にならないように部屋の隅っこで彼らの演奏に合わせた旋律を流して居たりする。
今日は1306年2月、女王陛下の26歳の誕生日を祝うパーティだ、大広間にはダンスをするスペースが設けられ今まさに社交界デビューをした子から大人までが自由に踊っている、この国の上層部はまだまだ貴族に成りたてが多いので礼儀作法とかはカオスである。
だが皆パーティを楽しんでいるみたいで良い事だ。
「お前が御母上が指名したという道化か! 道化なら芸の一つも見せてみろ!」
私の前に飛び出てきた一人の子供、金髪で生意気そうな金の目をした子供だ……。
私を指名した母上か……ならこれが女王陛下の子供か……生意気な目つきだな! 誰に似たんだかまったく……。
私は子供を一切無視して演奏を続ける続ける。
「無視をするな! 僕はこの国の王子だぞ!? 衛兵こいつを捕らえろ!」
子供が喚くも衛兵達は誰一人動かない。
「な、何故言う事を聞かない……」
「私は道化ですから道化を処罰出来るのは女王陛下のみになりますし、命令出来るのも同じくです」
理由を教えつつも私は演奏をやめない。
「むぐぐ……ならば母上に言いつけてやる! 待って居ろ!」
生意気な目つきの王子様は会場内を走っていく……。
パーティ会場を走って移動するなよ馬鹿ちんが……誰に似たんだまったく……。
女王陛下には3人の子供が居る、そして結婚もしている。
まぁ、結婚相手は女王陛下がミラー王国の王女だった頃の侍女なんだけどね。
何を言っているのかと思うだろうが私も最初は養い親の村長に何度か聞き直したものだ、しかし間違っていない、侍女3人と結婚をしたのだ。
とはいっても妙な噂が流れる前に女王陛下は情報を紙芝居で流していて、元々〈平民の星〉と呼ばれたレオン卿の嫁だった正妻の王女と側室な侍女の3人はレオン卿が亡くなった後に侍女3人にレオン卿との子供が出来ている事を確認し、もう夫はいらないとばかりに女性陣で結婚をし、レオン卿との子供3人を4人の母親で育てる事にしたとの事だ。
愛されているねぇレオン卿……でもレオン卿は正式な結婚はまだしていなかったって私の知識は言ってるんだけどなぁ……こうやって情報は捏造されていくのか。
まぁそんな子供の一人がさっきのレオン王子7歳で、名前そのままなんだな……。
後の2人がプリシラ王女7歳とアリエノール王女7歳、この名前は元侍女だった方から一部取った名前だとか。
元侍女達は王配としてそれなりの地位に居て各地で仕事をしているらしいよ? まだ直接会って会話した事は無いんだよね……。
あ、遠くの女王陛下が居る場所で怒られて泣いているレオン王子が見える……何やってんだ……誰に似たんだあのやんちゃ王子は……。
……。
しばらく演奏をしたりメイドさんから薄めのワインを貰ったりしつつパーティを楽しんでいると。
女王陛下に手を繋がれたレオン王子と同じ年くらいの女の子が二人の合計四人で私の元にやってきた。
「ごめんなさいねララ、馬鹿息子が迷惑をかけたみたいで、ほらちゃんと自分で言いなさい」
女王陛下が手を繋いだレオン王子を促している。
「僕は悪くないが謝る……何か歌を聞かせてくれ」
その瞬間ゴチンッと頭をげんこつで殴られるレオン王子。
痛いのかしゃがみ込んでいるレオン王子を放っておいて。
「こんな人が一杯居る場所で王子に謝らせていいんですか?」
女王陛下にそう質問をしてみる。
「いいのよ、血なんてそう大した物では無いもの、民が王家に頭を下げるとして、そうしたいと民に思わせる事が大事なのだから、この先お馬鹿なままなら王位継承権を破棄させてどこぞの国境防衛部隊のいち兵士にでもさせるから」
わぉ……結構スパルタな教育方針だった様だ。
それを聞いたレオン王子が驚いているが残りの少女二人は驚いてないね。
教育した人間に差がありそうだな……なんか少しだけ闇を感じる。
「ほんっとにこの子は、この子達は皆私の子供なの、よろしくねララ」
女王陛下の紹介に王女2人は見事なカーテシーを披露してきた。
「よろしく王女に王子、では、吟遊詩人として自己紹介を兼ねつつ王子の願いを聞き入れまして一曲披露をば」
命令を聞くでは無く、願いを聞き入れるって所がポイントやね。
ポロンッポロンッ。
小さなハープを鳴らし私は歌っていく。
一人の平民の物語を。
レンジャーとして森で暮らし。
そこで出会った王女に近衛騎士として仕え。
領地を賜った王女を支えていく。
最後に近衛騎士が愛する王女の命と名誉を守る為に死地に向かった歌を。
ポロンッポロンッ。
まぁちょっとサービスで内容は事実を少し改変して民が好む様な感じにしてあるのだけれど……。
歌い終わった私が顔を上げると……ポロポロと女王陛下が涙を零していた、王子や王女は右往左往して母親を慰めようとして、女王陛下は大丈夫と言いつつも涙は止まっていない……ありゃ、情感を歌に籠め過ぎたかな?
「えっと大丈夫ですか女王陛下」
ハンカチの様な物をメイドから受け取った女王陛下はそれで目を隠している。
「ええ……ごめんなさいね、少し昔を思い出してしまって……ララ……貴方はすごい吟遊詩人だわ……まるで見て来たかのような……レンジャーの頃の話はコニーに聞いたのかしら……グスッ、ちょっと下がるわね、貴方達は自由にしてなさい」
女王陛下は目を隠しつつ会場を後にする。
「お前はすごいな……あの母上を泣かせるなんて」
「お母様泣いていたけど笑っていたわ」
「父様を思い出したのでしょうね」
残された王子王女がそう語ってくる。
「レオン卿の事を愛していたのですね女王陛下は」
私はそう呟く。
すると。
「いや、父上が母上達の事が好きで好きで大好きでたまらなかったそうだぞ」
「10歳のお母様に20歳のお父様が森の中の美しい滝の前で告白するとか……ちょっとね……」
「他の母様達が10歳の頃にお茶会で告白したのでしょう? 父様はちょっとあれよね……いえ実際に手を出したのがそれなりに歳を重ねた後だから純愛と言えるのかしら?」
ちょっと待て、なにかおかしい、私の中の知識と王子や王女の言っている話がずいぶん食い違っている……。
そうか、こうやって真実は歪められていくのかぁ……亡きレオン卿に幸あれ……。
……。
――
――
そうしてしばらく王宮で過ごしていると女王陛下に呼び出しを受けた。
ソファーの対面に座る女王陛下は真剣な眼差しだ。
「ララ、私達の歌は出来ましたか?」
ああ、その話か出来ましたともさ。
「ええ出来ましたよ、聞かせましょうか?」
「そうですね、それは後で頼むとして……ララに依頼をしたい事があるの」
「なんでしょうか?」
「私達の歌を前に聞かせてくれた彼らに聞かせてあげて欲しいの、そして……私が向こうの指導者に会いたがっていると伝えて欲しい」
前に聞かせたってアリアさん達レジスタンスの事だよね……。
「判りました、いいですよ」
「ずいぶん軽いのね……場合によってスパイ扱いされて酷い目にあうかもなのに……」
「そんな事をするような悪党であるのなら、前に一緒に居た時にすでにされているはずですよ、なにせ私は超絶美少女吟遊詩人ですからね」
私は笑みを浮かべてそう伝えていく。
「ふふ、そうね、美少女の貴方が無事に過ごせていたというだけでも信頼出来そうな相手よね、ではお願いするわね」
「畏まりました、しかしなんですね超絶美人さんに美少女と言われると馬鹿にされてるのでは思ってしまうんですが」
「何よ、貴方も可愛いじゃないの、それに……胸は私よりあるし……」
自分の胸を触りながら寂しそうにそう語る女王陛下だった。
「確かにそうですね」
私は真実なので素直にそれを受け取った。
「むぐっ……いいもん、レオンは私の胸が大大大好きだって言ってくれたもん」
そうやって事実を捻じ曲げていくのですね……。
「ソウデスネ」
「含みがあるわね……まぁいいわ、では私の歌を聞かせてくれる?」
「喜んで」
私は持っていたハープを構え音を響かせていく。
そして大きく息を吸い歌を……。
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