第30話 三曲目 収穫祭の歌

 ポロンッポロンッ。


 小さなハープの音を響かせ、大きく息を吸った私は歌を紡いでいく。



 民を思う領主の歌を。


 民に思われる貴族の歌を。


 全てが崩れ落ちる破滅の歌を。


 大地に芽吹く新たな華の歌を。


 華の色に不安を覚える指導者の歌を。


 ポロンッポロンッ。


 私は静かに歌い終わると、そっと竹で編んだカゴを自分の前に出す……。


 ……しかし誰も硬貨を投げ入れてはくれなかった! ここの村民は渋ちんだな!


 私の歌を聞いて自身の境遇や想いに響き、泣いている人も居るのに……チップは出さないというのか……まだまだ実力不足という訳か……。


「素晴らしい歌になったなララよ」


 村の広場の真ん中で歌っていた私にアリア村長が近付きながら声を掛けてくる。


「ええ、どうでしたか? 貴方達の歌は」


「ああ……私達が吟遊詩人に歌わせようとしていた物はゴミクズだった事を理解した、そりゃ吟遊詩人達に軒並み断られる訳だ……」


 褒めてくれるならとアリアさん方向へとザルをずらす、気づいて? ここにチップ置き場がありますよー。


「ただな、収穫祭の始まりにはちょっと暗すぎだ、泣き出した者もいるだろう? 次は明るいのにしてくれ」

 苦笑いしたアリアさんは大銀貨を一枚ザルに入れてから去っていった。


 ……いいですか皆さん、銀貨です! 銀貨10枚分です! 大銅貨100枚分です! 銅貨1000枚分です! ひゃっほーう!


 すぐさまそれを〈財布〉に仕舞い込みながら。

「さすがアリアさんだ! 伊達に年を食ってないね!」


 ゾクッ! 寒気がした……。


 アリアさんの方を向くのが怖かったので、背中を向けながら。

「コホン、アリアさんは気遣いの出来るいい女だねー?」


 ……寒気が引いていった、危ない危ない口は災いの元って言うよね。


 ジャンジャンジャカジャーンジャカジャカジャーン。


 私はハープを掻き鳴らして陽気に歌っていく。


 豊作を祝う歌を。


 創造神に感謝を捧げる歌を。


 お祭りで盛り上がる恋の歌を。


 ジャラリラランランジャラリラーンッ。


 何曲か歌った後はまた賑わいを取り戻していた、そこかしこで乾杯の声が響く。


 そこまで美味しくないけど量は多いお酒は一杯作ったからね、たんと飲むといいさ、当たり酒は自分の分だけにしといた。


「よ、ようララ、吟遊詩人の仕事も終わったみたいだし休憩しないか? 酒でも飲もうぜ」

 フリックが私の所に声をかけてきた、その後ろにそっと付いてきている素朴な見た目の幼馴染に配慮してやれよお前は……。


「そうだね、ではじゃんじゃん飲もうか」


 私のテーブルに着かせた二人と雑談を交えながらジャンジャンとフリックに飲ませていく……。


 ……。


 ……。


 フリックはあまりお酒に強くなかった様で半分寝てしまっている、まだ3杯目だよ? 幼馴染ちゃんなんてもう5杯は飲んでてケロっとしてるのにお前という奴は……。


 そして私は幼馴染ちゃんにとある遠くの建物を指さしウインクをする。


 幼馴染ちゃんはその私の仕草と指さされた建物を見ると……真剣な表情でコックリと頷きフリックを抱えてその建物へと向かって行った。


 ちなみにこういった村での収穫祭だと小さな子供達は一次会が終わると村長宅とかに集められて雑魚寝になり、既婚の大人たちは広場で飲み食いを続け、力尽きればそのまま広場で寝る。


 妙齢のまだ結婚をしていない若者達は周囲にあるその日だけ空き家になる休憩所で休憩をする、まぁどこの村もこんな感じだ。


 私は素朴で性格も優しく酒の強い幼馴染ちゃんに向かって手でグッドマークを見せて見送る。


 彼女は足元がふらついているフリックを横から抱きかかえながら私にグッドマークを返してから空き家に二人で入っていった、健闘を祈る。



「すごい良い歌だった」

 レオーネさんがお酒の入った瓶とコップと料理をテーブルに置きつつ私に声を掛けてくる。


「ありがとうございます」

 私は素直に返事をしていく、が。


「レオーネさんも独身の男を捕まえにいかなくていいんですか? 早くしないと良いのは全部取られちゃいますよ?」


 盛り上がっている収穫祭だが、村長宅に放り込まれない程度の年齢で未婚な男女は数が少なくなってきている気がする。


「私はもう……だから……」

 レオーネさんはお酒をチビチビ飲みながら悲しそうに下を向く。


 いや貴方すごい若く見えるからね? 貴方に憧れてる男の子とか一杯いるからね? アリアさんと違ってまだいけると思うんだけどなぁ……ゾクッ! 寒気がした、今口に出して言ってないよね……気のせいかな……。


「大丈夫ですってばレオーネさんはすごい綺麗で性格も可愛い所もあるし……それにお肌の手入れに〈回復魔法微〉使ってるでしょう? まだピチピチです、いけますってば」


 私は途中の回復魔法の部分だけすっごい小さな声で伝えてレオーネさんを褒めていく。


 レオーネさんはびっくりした表情を見せて。

「……知っているの? 我が家秘伝の技……今じゃ私とお姉ちゃんしか、教会も大っぴらには言ってないのに」


 そうなんだよね、実は〈回復魔法微〉ってか回復魔法そのものにお肌をピチピチにする効果があるんだ、そりゃ治療をするんだしね、しかもシワなんかも減らす効果がある、ただしこれはばれると教会も他も大変な事になるので誰もが口を噤む内容なのだ、運よく知った女性も周りには絶対に言わない。



「ほらもっちり吸い付いてくる、レオーネさんは魔力も高いから使い放題だものね……」

 私はレオーネさんの頬をツンツンと触りながら、酒を一口飲みつつそう言ってあげる。


「それでももう30代の私に男性は近づかないのでは?」

 しかしまだ納得のいってないレオーネさん。


「チッチッチ、判ってないですねぇ、レオーネさんは男性に人気あるんですよ? あわよくば嫁に欲しいなんて思ってる人沢山いるんですから、ただ元聖女という恐れ多さが近寄り辛くなっているのかもしれませんね」


 村民達とはよく雑談をする私が言うのだから間違いはない、というか既婚者の男もレオーネさんが好きだったが嫁に食われたって人多いんだから……この村の女子って肉食多くね?



「私はただのレオーネ……ララ、貴方はまったく恐れ多い態度じゃないよね」

「そりゃレオーネさんはレオーネさんですから? 天然で実は食い意地が張っていてウソ泣きもする、何処にでもいる様な女性です」


 私がそう言ってあげるとレオーネさんはニッコリと笑顔を見せてきた、うーむこの笑顔だけで村民の数人は落ちるね。


「ララが男の子だったらよかったのに……」

 レオーネさんがドキリとする様な事を言ってくる。


「私はほら、ただの超絶美少女吟遊詩人ですからね、あー残念だ、男だったらなーレオーネさん放っておかないのに」

 私はお酒を飲みながらそう会話を続けていく、この料理の味付け塩とハーブだけかぁ……醤油提供したら……うーんそれは駄目かなぁ、つか私の醤油研究って家だけじゃなく村にも残してたはずなのに世間に出回ってないんだよなぁ……途絶えちゃったのかね。


 私が不満げにレオーネさんの持ってきた肉を食べて居ると。


「それなら私が男になってララを誘えばいいよね……いこララ」


 レオーネさんが私の手を掴んで引っ張り出す、私は慌ててハープを掴んで手に持つ。


「へ? 意味が? レオーネさん何処へ?」


「んー疲れたから寝るの、私達の家に帰ろ?」

 いやいや貴方の家は村長宅でしょ、てか顔色変わってないけど滅茶苦茶酔ってるんじゃね? この人。


 グイグイと引っ張られるレオーネさんに連れられて私が借りている家に到着すると、躊躇せずに中に入っていくレオーネさん、私がいつも寝ている寝所にポイッっと私を投げ込むと自分も部屋に入ってきて服を脱ぎだす。


 ちょいちょいちょーい、まさか庶民の噂の様に本当に女の子を食べちゃう子になってたって事は無いよね!?


 私が驚愕をしつつ貞操の危機を感じていると、レオーネさんは下着姿でガバっと私に抱き着いてきて。


 キャーたすけてー。


「パパ……スゥスゥ」


 眠り出すのであった、うん、この酔っ払いめが、レオーネさんを布団に寝かせ、放り出された服を丁寧に畳み、家の扉類をきっちり閉めてつっかえ棒を刺しておく、ほら私って美人だから寝るときはまじで気をつけないといけないの……いやほんとに……。


 そして私も寝間着になるとレオーネさんが寝ている布団の中に潜り込み彼女を抱きしめてあげながら寝る事にする……なんでこの人『パパ』って呟いたんかなぁ……。





 次の日の朝に目が覚めると顔を真っ赤にしたレオーネさんが私の腕の中から私を見上げていた、パニックになってないので、どうやら記憶は残るタイプの酔っ払いらしい、まだ朝も早かったので欠伸の出た私は、さらにレオーネさんを強く抱きしめながら二度寝をする事にした。


 役得役得。















 ◇◇◇


 ちょっとだけ補足


 レオーネは聖女として有名だった為に称号がついています


 その称号の効果の一つに〈直感+〉があるのです


 以上補足終わり


 ◇◇◇

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