第23話 二本目

『はい皆さんこんにちは、美人騎士爵令嬢で実況兼司会者のコメットです、今日も晴天で競技会日和の一日になりそうです!』


 今日は例の競技会の日だ、何処の国立競技場だよってくらい……いやもっと広いかも? そんな競技会場に司会の声が響き渡る、魔道具使ってるんだってさ。


 自分で美人って言うなよ……今俺が居る場所からだと顔が見えないから美人かどうか判らんな。


 植物紙すらまだ見かけないのに妙な所は文明が進んでたりするんだよなぁ……発展の仕方が歪に感じちゃうのは祝福による能力のせいなんだろうか?


 そんな競技場には王都の民が押しかけている、数万人は軽く居るんだろうなこれ。


 王侯貴族と平民の席は別れていて、平民が競技場の観戦席全体の7割くらいのスペースを使ってギュウギュウに座っており、貴族達が残りのスペースをゆったりと使っている。



『神歴1290年5月、第60回になる春の王国競技会3日目は弓部門と成ります、皆さんはもう賭札はお買い求めになったでしょうか? まだ買ってないという方はまだ間に合うので急いで買いましょう』


 観客の平民席から歓声があがる、王国は民間の賭け場を作る事を法律で禁止しているので大がかりな賭け事は公式の賭け場でしか出来ないからな、個人間でやる少額の賭けくらいなら見逃されるんだけどね。


 そうして始まる弓部門、まぁ遠くの並んでいる的に当てていくやつだね。


 距離は30メートルくらいから200メートル以上までと色んな的が置いてあって5本の矢を使い好きな的を選んで点数を競うといった感じだ、的の大きさは30センチくらいなんで結構難しそう。


 的の距離が点数になっていて合計点で競うとか、あんまり日本みたいに細かいルールとか無いんだよね。


 それでもまぁ予選を突破してきた猛者達はだいたいが一番近い的は無視して真ん中あたりを確実に取っていってるね、ちなみに参加するのは誰でもおっけーなので冒険者とか猟師とか兵士とかごちゃまぜ。


 さて……出番か。


 係員に呼ばれた俺は自前の弓を装備して出ていく。


『弓部門最後の選手は……ななんと! 平民の一般兵から王女殿下の近衛騎士に上り詰めたという平民期待の星! レオン卿になります!』


「「「オオオオオオ!!!」」」


 平民席からの歓声がすごい、内情を知らんとそういう事になるのかねぇ……。


 競技位置にまで来た俺は笑顔で平民席に向けて手を振る。


「「「「「「キャァァァー------レオン様ー!!!!!」」」」」」


 女性陣の歓声が響く……今生の俺は金髪金目で顔はそこそこで背も高く、筋肉は細マッチョで最高の出来、そんな俺が近衛の派手な服を着ていると……まぁ王子様っぽい感じに成る訳で、どうやら平民にはモテるっぽいな。


 王宮だとほら……内情があれだからあんまり女性は近寄って来ないんだよね、今回の話も俺を辞めさせる為だってのも判ってるだろうからな……王宮に勤めている侍女さんとか可愛い子が多いのに残念な事だよまったく。


『わお……女性の歓声がすごいですね、確かにレオン卿は中々のイケメンですが……その知られざる実力を今回どれほど見せてくれるか非常に楽しみです! ん?』


 司会者さんの最後の一言が気になってそちらを見ると遠くの司会席に近衛が来て何かを彼女に渡しているのが見える……オレンジ髪で確かに美人な司会者だった。


『えっと……こたびの競技で優秀な成績を残さない場合レオン卿の騎士身分は剥奪されるそうです、実力偽装? いえさすがにこれは、あ……はい……レオン卿が実力を偽装して王女に取り入った疑惑をここで確認するそうです、皆さんゴキタイクダサイ』


 司会者さんは無理やり言わされてるんだろうな、セリフが棒過ぎて誰にでも判っちゃう、事前にワイロを渡すなりしとけよ近衛共、民たちのお前らを見る目が変わってるのが判らんのかよ……。


 そして何故か今まで一度もしなかった的の交換が行われた、沢山の矢が刺さって消耗したからだそうだが、過去の競技会でそんな事は一度も無かったって民たちの雑談がここまで聞こえて来るんですけどねぇ……。


『それではレオン卿、競技開始です』


 たびたびの無理やりな介入に司会者さんのテンションが下がっている。


 まぁいいや、俺は用意された矢をじっくりチェックしていく……ああうんひでぇなこれ……矢羽根に一枚逆に反っている物を付けさせるとか、職人達も可哀想に…‥俺はその一枚をむしった。


 軌道は安定しなくなるが、今日は風も穏やかだし……うん、戦場では落ちている矢の再利用とかもするだろうしって事で、場末部隊だとこれよりひでぇ矢で練習するとかって話は装備がいつも万全な近衛だと知らないんだろうなぁ。


 取り敢えず、100メートル程の的を狙っていく。


 俺が弓を引くと競技場が静まり返る、そして。


 シュッ、放たれた矢は放物線を描き的に当たって……刺さらなかった、あーうん、当たった時の音が金属じゃんあれ……競技場の平民席がざわついている、貴族席の方を見ると俺を指さして笑う奴や近衛らは満足そうな顔が多い、中には気の毒そうに見て来る人もいるけど。


 てーか細かいルールが無いから当たっただけでもおっけーな気がするけど……どうせ屁理屈こねて刺さっていないと駄目とか言い出すんだろうね、ああ、また近衛が司会者さんの所に行っている、平民からも丸見えなんですけどねそこ。


 てか判ってるのかなぁあいつら……俺も参加者の一人って事は賭けの対象なんだよ? しかも平民の星なんて言われてるなら賭ける奴はそれなりに居るだろう、それをこんな八百長で……まいいや。


 俺はエメリン王女殿下が居る場所を見てみる、姫はハラハラとした表情で体の前に出て居る両手をグーの形にして俺を見ている、ハハ、無表情の人形王女なんてもう何処かにいっちまったな、俺はつい競技中だというのに笑ってしまった。


『惜しくも的に刺さりませんでしたレオン卿、次はどの的を狙うのでしょうか』

 司会者さんはもうテンションだだ下がりなのが聞いてて可哀想だ。


 俺は残りの四本の矢の問題部分を出来るだけ修正すると。


 競技場を確認する、的の向こうには一応土が盛ってあってその先の席には誰も座っていない、貴族共は俺の背後で平民は横だ、つまりあっちがどうなっても死人は出ないな。


 一番遠い的は200メートルを超えている場所に丁度4か所ある、そして今までの挑戦者の中には、その一番遠い的に狙いを絞って五本打って一本だけ当てた奴が一人いるだけだ。


 俺が弓に三本矢をつがえるとまた競技会場が静まり返る。


 俺は自身の能力に言葉によってその意思を伝えていく。


「矢にホーミング魔力を付与」


 矢に魔力が宿り、矢からヒラヒラと光が零れ落ちる、そして背後の貴族席から騒めきも聞こえる。


「矢に衝撃魔力を付与」


 三本の矢に二つ目の付与をして、そして。


 発射!


 俺が放った三本の矢は光の軌跡を残して的に向かって……。


 ドゴンッ!


 大きな音を響かせて的部分を吹き飛ばした、残るは的を支えていた棒のみだ。


「「「「「「「「「「うおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」」」」」」


 平民席から大歓声が沸き起こる、貴族席の騒めきを吹き飛ばしてしまったので後ろがどうなってるかなんて判らん。


『なんとレオン卿が三つの的に同時に当てました! あれは……魔力の付与!? レオン卿は上級弓術を持って居る事が判明しました! しかも三本同時!? 付与も二回やっていた様に見えましたし……え? レオン卿平民出身ですよね? 魔力多くないですか!?』


 司会者さんが司会をせずに素で会話をしてしまっている、でもさ、まだ俺の競技は終わってないんだよ。


 歓声が響き渡る中俺は最後の一本の矢を弓につがえる、狙うは一番遠い的、後ろの盛土のすぐ手前にあるやつだ。


「矢にホーミング魔力を付与」


 矢に魔力が宿り、矢からヒラヒラと光が零れ落ちる、その頃にやっと観客席が静かになっていく。


「矢に貫通魔力を付与」


 二つ目の性能を付与していく。


「矢に衝撃魔力を付与」


 三つ目の付与をしていく。


「矢に強化魔力を付与」


 四つ目の付与をしていく。


「矢に爆発魔力を付与」


 五つ目の付与をしてそして。


 発射!


 俺が放った矢は光の軌跡を残して一番遠くにある的に向かい……。


 ドゴゴゴゴォォォォンン!!!!!


 その的を貫通しつつ吹き飛ばし、さらに後ろの盛り土も吹き飛ばして貫通し、さらに競技場の誰もいない空席部分に着弾してそこを吹き飛ばした。


 うん、競技場の空席地帯になかなか良いクレーターが出来たね。



 競技場はシーンと静まり返っている、おろ? 拍手とか無いのか、そんな時に俺の後ろから小さな拍手が聞こえてきた、振り向いて王族席を見てみると、エメリン王女殿下が立ち上がって一生懸命拍手をしてくれていた。


 俺は王女殿下に向けて騎士がする礼をしてみせる、そうして王女殿下の拍手に釣られた様に平民席から大歓声と拍手が鳴り響く、貴族席は葬式みたいに静かだけどな。


 俺は王女に軽く手を振ってから平民席の方に体を向けて手を振っていく。


 俺が向いた方からは平民女性達の甲高い声が響き、そして男共の嫉妬の声も混じる、はっはっはお前らも同じ事をすればモテるぞ?


『……素晴らしい、素晴らしい一撃を見せてくれました! レオン卿の実力はもう疑うべくも無いでしょう! しかも今までの競技会の歴史でも類をみない成績に成るのは……はい? え? それは! ……』


 司会者さんの声が途中で途絶えた事で競技場にいる皆がその司会席に目を向けると近衛と大会の審判やらが司会者さんと揉めている、そして司会者さんは近衛に引っ張られて司会席から離されそこに審判の恰好をした男が座る、そして。


『ただいまのレオン卿の結果ですが的に矢が刺さっていないのですべて0点となり、結果、今回の優勝は390点を獲得した×××氏に成ります』



 あーあ、俺しーらね。

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