難破と黒い鎖
第14話 小麦畑と青い空
リザルト
〈水生成〉
〈魔力+7〉〈体力+1〉〈腕力+1〉〈俊敏+1〉
称号〈下町の聖女〉 効果 治癒魔法効果+1
◇◇◇
俺の中で自分の声と誰かの声が聞こえる。
『その設定だと君はこの記憶を封印されるのだが良いのかね?』
『構わない、ゲーマーの俺なら上手くやるさ、それに――』
『では契約は成った、君の生に幸あらんことを――』
……。
……。
悔しい! 苦しい! 何故こんな事を! 絶対に許さない! 裏切りには死を!
痛い! ふざけるな! どうして俺を! お前らもミチズレダ!
体が重い! 足が痛い! 手が痛い! 腹が減った! 何故俺がこんな目に!?
頑張ったわね、良く出来ました、貴方は私の誇りよ、ん? 永遠の20歳です。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな! なぜ? なぜ? なぜ? なぜだ!?
ごめん……ごめんよ、何も出来ず残してしまって……ごめん……。
「あああああああ!」
私は飛び起きる……ここは一体……私は……? 私とは誰だ?
「おいおっさん急に叫んでどうした」
「壊れてるじゃんか……やっぱ裸で落ちてたおっさんなんていらねーんじゃね?」
「でももう奴隷紋刻んじまったしなぁ……あれも触媒使うからタダじゃねーし」
「どうした」
その声に私は反応する……何処かで聞いた声だ……何処で?
「いや、このおっさんやっぱちょっと変なんでさぁ」
「ああん? おいおっさん起きたのなら……そうだなお前の名前は8番だ、8番は祝福で得た能力を持っているか?」
その聞いた事のある声で、私は自身の意思が捻じ曲げられ強制されるのを感じた。
自身の中に意識を向けると何かが浮かび上がってくる。
「〈水生成〉が……つかえる」
「お、何処でも飲み水が手に入るのはいいっすね団長」
「そうだな、そいつの世話はまかせた、8番はそいつらの命令を聞いておけ、俺は仕事に行ってくる」
そう言って離れていく鎧の男……何処かで聞いた声?
「はぁ……新進気鋭の『鉄鎖傭兵団』が、今じゃ指名手犯の鉄鎖盗賊団ってか、笑えねぇなぁ」
「おいやめとけ! 団長に聞かれたら殺されるぞ」
「チッ……村に行った連中全滅させて自分だけ逃げ帰ってくる様な奴が団長ね」
「……やめろっての……巻き添えを食いたくねぇ、文句あるなら直接言え」
「……判ったよ……さて、8番のおっさん、この壺に水を出せるだけ出してみろ」
私は言われた通りに〈水生成〉を使っていく。
「わわ! おっさん待った待った! ……溢れちまった……このおっさん魔力多いんだな」
「見かけによらんというか……これで新鮮な水を汲む必要がなくなって有難いな」
「だな」
私は言われるままに水を出し続けた、何日も何日も何日も何日も何日も……。
――
――
――
「おい8番、拠点を移動するぞついてこい」
私はいつもの様に何かを考える事はせずにそれに付いていく。
「おら5番もちゃんと付いて来い!」
「しかし消耗激しくて番号が全然増えねぇよな、こいつ何人目の5番だっけ?」
「さぁな覚えてねえよ、8番以外は使い捨ての戦闘用だし仕方ねぇだろ」
……。
――
「団長! 警備兵っぽい集団がこちらに来ます!」
「だから拠点移動の最中に荷馬車を襲うなんてやめようって言ったん――」
「うるさい黙れ」
……。
「……団長、あんまり味方を減らすとあいつらにあてる戦力が減りますぜ……」
「道の中央にその荷馬車を置いて騎馬の突進を使えなくしろ、弓持ちは左右の林から援護、奴隷共は荷馬車の左右に控えてろ、奴らが来たら突撃だ」
……。
……。
「その顔の特徴は……ゴードン! やっと見つけたわ!」
「おうおう俺も人気者だねぇ、弓で攻撃開始!」
「ねーさん!?」
「判ってる! ファイヤーボール!」
私の目の前で戦闘が始まり、火の玉が荷馬車に当たった。
弾け飛んだその荷物の中に子供の背丈程の木の像が見える……私はこれを知っている。
「おら奴隷共は敵に突っ込め! 死ぬ気で掴みかかって奴等の動きを封じろ!」
その命令により私の意思は捻じ曲げられるが……黙れとは言われなかった私の口が一つの祝詞を漏らす。
「今日も生を得る事が出来る事を創造神に感謝をし祈りを捧げます」
木の像を見ていたら勝手に出てきた言葉だ……言い慣れているのだろう。
光る玉がいくつも舞い、それが私の中に入る。
燃え出した荷馬車の影だったせいか、気づいた者は居なかった様だ。
私の体は奴隷紋により、命令を実行するべく何者か判らない相手に突撃をしようとしてしまっている……。
俺は自身の中に問いかける、俺は何者だ? 8番? いや、俺の名はレオンだ。
俺は自身の中に渦巻く感情を横に置き、勝手に動き出しそうな体に精神力で必死に抗う。
街道の中心にあった荷馬車が吹き飛び、前から来ている兵隊と思しき統一された装備の者達と、俺が奴隷として従っていた盗賊団……いや元傭兵団の『鉄鎖傭兵団』が戦っている。
湧き上がる怒りを抑え、命令を実行しようとする奴隷紋に抗いつつ、兵隊達の中心に居る戦士を見る。
その戦士の恰好をしている小麦色の髪をしている彼女は、側に居る青い髪の男が指さす方へファイヤーボールをを放っていた。
街道の両脇に居たであろう盗賊の弓部隊は、そのファイヤーボールにて吹き飛ばされているのだろう。
その魔法戦士と青い髪の男は、乱戦になっている戦場を迂回してゴードンへと迫り、お互いが数歩で届く位置で対峙している。
「チッ、おい8番手前なにしてんだ、お前も奴等に死ぬ気で突っ込んで倒せ」
「奴隷を使う最低な奴め……リック!」
「判ってる姉さん、同情して手加減して俺達が死んだら意味がない……亡骸はちゃんと盗賊とは別に埋葬するから勘弁な」
はは……教えがいいのだろう。
彼らは戦場の習いをすでに知っている様だ。
ゴードンの命令に従おうとする体が落ちていた槍を拾い、剣で切り結んでいる彼らへと近づいていく。
そして……俺と彼女らの間にゴードンが来た時に、必死に抗っていた体を解き放つ。
俺の鋭い突きがゴードンの先に居る彼女らに向けて放たれるが、壁になったゴードンの足に阻まれて刺さってしまう。
たまたま鎧の無い隙間に刃が入り込んだ様だ。
「てめぇ8番何しやがる!」
ゴードンが振るった剣が俺を切り裂く……やはり鍛えてない爺さんの体では上手く動けないな……。
地上に倒れ込んだ俺、よし……これで体はもう勝手に動かないだろう。
そして俺は、まだ自分の意思で自由に動かす事の出来る口を開く。
「ゴードンの能力は〈奴隷術〉〈暗殺術〉〈隠密〉だ! 立派な鎧を着て剣を持つ事で自分を剣士に見せかけ、最後には隠密で姿を消し死角から倒しにくる卑怯者だ! 気をつけろ戦士殿!」
黙れと命令されて無くて良かった……。
俺のその声を聞いたゴードンは。
「てめぇ8番! クソッ!」
ゴードンは〈隠密〉を使い姿を消した。
だが俺の助言のおかげかは判らないが、青髪の男が冷静に誰も居ない地点を指さし、そこに女性がファイヤーボールを放つ。
ドガンッと炎が爆発した地点からゴードンが弾き出され、街道脇の木にぶつかる。
そして。
「ファイヤーボール、ファイヤーボール、ファイヤーボール」
青髪の男に止められるまで、連続でゴードンに向かって火の玉を打ち続けていた……。
街道に鳴り響く爆発音、あれじゃあゴードンの首の確認とかできねーんじゃねーかなぁ……。
俺はゴードンの最後と、すでに他の戦闘も終わっているのを見届けると、仰向けに寝転ぶ。
……ああ……綺麗な青空だ……。
ザッザッっと足音をさせ、俺に近づいてくる魔法戦士の女性と青髪の男。
それを確認すると、俺に残っている奴隷紋の命令が近くにある槍を掴もうとしてしまう……。
ああ、よかった、青髪の男の子が槍を遠くに蹴飛ばしてくれた様だ。
「……この傷では助からないわね……慈悲は要りますか?」
「助言あんがとなオジサン……応急処置で街までもつ傷には見えないんだ……残念だけど……」
俺を覗き込んでくる二人をしっかりと見る……ああ……。
「いや……最後までこの空を見ていた、いんだ……かま……わ、ないかな……?」
「ええ判ったわ……貴方の名前は? ……墓石に刻んであげるから……」
金髪に近い小麦色の髪を纏めている彼女は、本当に彼女によく似て来ている……。
青髪の男の子は悔しそうに黙ってしまっているが……もうお前は無力じゃないんだな、よくやってくれたよ……。
血の流れが止まらず段々意識が遠くなるのを感じる。
「私は8番とよばれていた、なまえ……は……いや……きみの髪はまるで小麦畑のようだ……そっちのきみは……まるであおいそらのようで……きれい……だ……まるであの……ああアゼ……」
……。
――
――
side 姉弟
目の前で一人の奴隷戦士が亡くなった。
そのおじさ……いやお爺さんかな? 彼は憎き私達の仇であるゴードンの命令に抗い奴の足に傷を付け、さらには詳しい能力を知らせてくれた……。
その意思の強さはまるで……。
「アリア姉さん、兵士達は怪我はあれど死者は居ないよ、盗賊の亡骸を穴に纏めて埋める作業を開始して貰ってる……奴隷兵達は街道脇に並べて埋めてあげるしかないね……せめて墓標代わりに石を置いてあげようか」
他の兵達の様子を見に行ってくれたこの子は私の弟だ。
復讐の手伝いをしてくれたのだけれど……それももう終わった……。
これから、この子の持つ〈悪意感知〉は御領主様に役立つのではないだろうか……帰ったら御領主様に推薦をしてみましょう。
「姉さんじゃなくてアリア隊長と呼びなさい! まったくいつまでたっても直らないんだから!」
「ごめんってばアリア姉さん! ……あ……あはは……えーとアリア隊長、この人最後に僕たちの髪が綺麗だって言っていたね」
もう……また姉さんって! 他の兵に示しがつかないから止めなさいっての!
……最後に髪を……私は今は戦闘用に纏めてある自分の髪の毛を触る。
私の母に似たその髪の毛は、日の光を浴びると金色に見えると、パパ……お父さんがよく言っていた。
お父さんはお母さんに同じような事を言って褒めては、二人してチュッチュチュッチュ、チュッチュチュッチュと……。
今思い出すと、恥ずかしいくらいの仲良し夫婦だったっけ……。
てかちょっとキスし過ぎじゃない? あれが夫婦の普通なんだと思っていたから、都会で恥をかいた事もあったんだからね?
まったくもう……ふぅ……復讐も終わったし、私も結婚相手でも探そうかしら……。
私はすでに20歳になったし、お母さんは15歳でお父さんと結婚したとか言ってたっけか……。
別に結婚を忌避していた訳ではない。
ただ世の中の男共が情けないから、良い相手が居なかったのだ。
お父さんみたく優しくて、お父さんみたく強くて、お父さんみたく面白くて、お父さんみたくカッコイイ、そんな男がいればなぁ私もなぁ……。
「アリア姉さん? どうしたの百面相しながら考え込んで」
またこいつは……リックには一度軍隊式訓練を施さないと駄目ね。
私の身内で特殊能力持ちだからと、私の中隊に所属させて貰ったけど。
……帰ったら地獄の新兵特訓に放り込むか、兵士を辞めるかを聞く事にしましょう。
「なんでもないわ、この人の墓石に8番じゃ可哀想だし何か名前をつけてあげましょう……そうね奴隷紋の命令に抗ってゴードンの足に傷を為し、私達に助言までくれた……勇敢で優しい……お父さんの様な……そうね、レオンと刻んでおいてあげましょう」
「わぉ……ファザコンの姉さんが、父さんの名前を付けるとか……大丈夫? 熱でもあるの?」
……うん、帰るまで待たないでいいわね。
私は手を前に出し、その手の平の上に火の玉を出して停滞させる。
領都の学校の魔法科で、下級貴族が混じっている中を次席で卒業したのは伊達ではない。
その鍛え上げた魔法制御力で、リックが死なない程度に威力を抑えていく。
「待ってアリア姉さん! それどうする気!?」
「勿論生意気な新兵のお仕置きに使うのよ、ってこら待ちなさーい!」
私の前から逃げ出したフレデリックを、火の玉を保持したまま追いかける。
ちなみにこんな風に魔法を保持したまま追いかけっこが出来る魔法師は、ベテランクラスじゃないと居ない。
私達姉弟の追いかけっこを、周りに居る私の部下の兵士達が仕事をしながら笑って見ている。
……私もリックも妹も、復讐を終えた事で、やっと彼らの様に自然と笑える日々が来るのだろうか……。
帰ったら休暇を取ってトトカ村にある両親の墓参りをしよう。
私はそう誓いながら、リックのお尻に向けて火の玉を放つ。
リザルト
〈財布〉〈水生成〉〈精神耐性〉〈槍術〉
〈魔力+8〉〈体力+2〉〈腕力+2〉〈脚力+1〉〈器用+1〉〈精神+2〉
称号〈下町の聖女〉 効果 治癒魔法効果+1
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